第137話・黒幕、いいえ調停者です
神竜プラチナスは、衛星軌道上から次の目標を探している。
彼のいる高度は国際宇宙ステーションよりも遠い。
それ故に、地球上のいかなる兵器も到達しない。
NASAおよびアメリカ国防総省は、アメリカ国民に対してデフコン5を発令。
衛星軌道上からの未知の砲撃、それによる施設の蒸発。
次弾がいつ発射されるかわからないままに、アメリカ国防長官は緊急記者会見を行い、国民に対して冷静に対応すること、全ての軍事力による解決を行うと宣言。
そして、この緊急事態宣言はアメリカだけにとどまらない。
いつ、その矛先が自国に向くのか、その恐怖がどの国にも侵食していく。
「ん……上からではなく、地表から横一線の方が必要魔素が抑えられるなぁ」
ゆっくりと翼を羽ばたかせ、プラチナスは降下を開始。
それに伴いアメリカ空軍、海兵隊、海軍も行動を開始、プラチナスの迎撃作戦が展開した。
大気圏内に飛来したプラチナスを、アメリカが誇る最新鋭戦闘機が次々と攻撃を開始するが、いかなる攻撃もプラチナスの体を貫くことはできない。
海上から放たれる対空ミサイルも、そして最後の切り札としてF-35 ライトニング IIに搭載されたAIM-260 統合先進戦術ミサイルを持ってしても、プラチナスにはかすり傷ひとつつけることができなかった。
──ドゴォォォォォッ
爆心地であるゴールドストーン深宇宙通信施設跡に着陸するプラチナス。
そこに目掛けて、一斉に砲撃が開始されるが、プラチナスはマナシールドを展開し、その中で思案を始める。
何処にブレスを撃つべきか。
この矮小なる人類の住まう世界に、どのような鉄槌を撃ち込むべきか。
「人が多い都市じゃあないな。この世界の、この大陸の中枢から破壊する。政治、経済、それらを指揮する政府。うーん。ゾクゾクしてきますなぁ」
神竜族は、人の文化を知っている。
人型になり、幾つもの星で生活をしてきたこともある。
仕えていた神の命令で、政府を混乱に陥れることもしばしばだった。
それ故に、何処をどう破壊すれば効率よく『人の生き甲斐を破壊できるか』と言うことを熟知している。
「よし、この方角。距離はかなりあるが、まずはこの辺りの都市の中枢を破壊することにしよう」
南西の方角を向き、翼を広げる。
地球圏の大気に含まれている魔素量は微小なため、宇宙空間から攻撃した時のようなスターバーストは使えない。
それでも、直線上に吐き出すレーザーブレスならば、ロスアンゼルスへ直撃させる事ぐらいは難しくはない。
──キィィィィィン
翼が輝きを増し、プラチナスの体が輝く。
それに合わせてアメリカ軍もさらに攻撃を繰り返すのだが、依然としてバリアを突破することができない。
「それじゃあ、グッバイ、何処かの知的生命体‼︎」
思いっきり首を後ろに降り、そこからの反動で身体と頭を一直線にすると、口の前方に三つな魔法陣が展開した。
そこに向かって勢いよく魔力を放出した瞬間‼︎
──ドッゴォォォォォォン
突然、プラチナスの頭上からカリヴァーンが姿を表したかと思うと、今にもブレスを発しそうな頭目掛けて両手を組んでの渾身の一撃!
『このどあほぅがぁぁぁぁ、このクレーターはなんだ、やったのか‼︎』
外部スピーカーで叫ぶミサキ。
万が一のことがあっては大変と、帝国語でプラチナスに向かって叫んでいるのだが。
そのプラチナスは頭を軽く振ってから、カリヴァーンに向かって鋭く睨みつける。
「なんだぁ、貴様は俺を誰だと思っているんだ‼︎」
『手前こそ、俺を誰だと思っていやがる、この場で三枚に下ろして塩引きドラゴンにしてやろうか‼︎』
──ヴン‼︎
|悪魔の右手(デモンズライト)を全開にし、さらに拳から破壊の魔力を剣のように放出。
その瞬間、プラチナスは理解した。
目の前の機動兵器が何者なのか。
その機体からもわかる、神威を伴った魔力を。
「あ、あ、あの、ミサキさま?」
『そうだともよ、そしてここが、この星が、私の故郷だが。死ぬ前に言い訳だけは聞いてやる‼︎』
「し、死ぬの!俺、死ぬの?」
『何故こんな事をしたか、その理由を説明してもらおうか‼︎』
「そ、それはですね、星にいた時からずっと頭の中に不協和音が、不快な音が響いたのです。その原因がこの星なので、ここを破壊して資源を奪ってから、ミサキさまの国で豪遊しようかと‼︎」
『ギルティ‼︎』
──ズシーンズシーン
一歩、また一歩と前に進む。
殺す気はなく、気絶させて持ち帰ったのち、裁判なり何なりで処分を決めようと思った。
すると、いつのまにかミサキとプラチナスの周りに、アメリカ軍が展開している。
『す、速やかに武器を捨てて……』
降伏しろ。
そう叫びたい気持ちがわかるほどに、マイクを通じて聞こえてきたアメリカ軍人の声が震えている。
地上施設を衛星軌道から一撃で破壊するドラゴン
それを拳の一撃で止める巨大人型機動兵器。
これが映画の撮影であり、最新のロボトロニクスやアニマトロニクスだと言うのなら、まだ救いはあったであろう。
『はぁ。悪いけど、こっちの事情もあるからさ。急いで帰らないと、こいつの仲間が群れをなしてくるから』
──グイッ
プラチナスの首根っこを掴むと、ミサキはカリヴァーンの背部魔導スラスターを展開。真っ直ぐに上昇を開始した。
『……なあ、このクレーターってよ、何か建物とかあったのか? 綺麗に蒸発しているんだけど』
「と、当然。我々に向けた不協和音を発する施設があったので、上空から溶かしてやっフベフベ、折れる、折れるぅぅぅ」
──ミシッ
カリヴァーンの腕の力が強くなる。
『つまり、ここの人間を殺したんだな、こ、ろ、し、た、ん、だ、な』
「い、いや、言い訳をさせてください、あの向こうに向かって走っている車両、そこにも人間がいます、奴らはそこの施設から逃げたんですよ、これ本当‼︎」
『……まあいい。どうせニュースで流れるだろうから、それを見てからお前の処分を決定する……』
あとは一気に加速開始、大気圏を突破してからは真っ直ぐに惑星アマノムラクモへと戻っていくことにした。
なお、道中でインターセプト隊と、神竜族の御一行とも合流したので、プラチナスは彼らに身柄を渡すことにした。
まあ、それでプラチナスもホッとしたようだが、まだお前の罪を赦したわけじゃないからな。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
未曾有の大被害。
偶然の産物なのか、宇宙から飛来した未確認生命体、通称『ドラゴン』の被害はカリフォルニア州のゴールドストーン深宇宙通信施設およびその周辺のみで留められた。
それでも、緊急避難をした職員の数と通信施設に詰めていた職員との間に差異があり、行方不明者二十四人という被害者が発生した。
さらにプラチナスの存在はアメリカ軍のプライド、兵器開発メーカーのプライドを片っ端からへし折っていた。
アメリカ軍が誇る最新鋭兵器の数々が、まるで玩具のような扱いで終わってしまったのである。
撮影映像などは各国の研究期間でも解析が進められ、中でもミサキの搭乗していた機動兵器の存在は、軍関係者だけでなく映像関係者、さらには一部マニアたちにも夢を与えてしまっていた。
そんなことなど微塵にも感じず、アマノムラクモでは地球から送られてくる数々の電波をカットするためのフォースプロテクションが張り巡らされることとなった。
「はぁ。この空って、少し虹色がかってて嫌なんだよなぁ」
『ピッ……竜大陸の神竜族の為です。彼らも我がアマノムラクモの国民なのですから』
「はいはい。神竜族の方の会議は終わったのか?」
「まだのようです。さすがに神竜族としても、この星を立ち去るわけにはいかないので厳重なる処分を行うとかで」
アマノムラクモ艦橋にて、ミサキはオクタ・ワンやヒルデガルドらから届けられている書類を精査しているところである。
特にアマノムラクモのメンテナンス状態はかなり深刻であり、帝国との戦闘ではなく次元潮流を長期間移動した際のつけが溜まりまくっていた。
「アマノムラクモのメンテナンスですが、資源が乏しく、今しばらくは機動戦艦としての役割を担うことはできないとのことです」
「まあ、しゃーない。オクタ・ワンとトラス・ワンには、そっちのメンテナンスに全力を傾けて貰えばいいよ。それよりも地球の情報は入手した?」
「流石に距離が離れすぎていますので、地球圏の電波をジャックすることはできません」
さすがにこの距離で電波ジャックできるほど甘い距離じゃない。かといって、地球の情報を入手しないことには、今後の対応にも問題が発生する。
「アマノムラクモと地球の中継点のようなものが欲しいよなぁ」
「適切な位置には、アモール小惑星群がありますが」
「そこじゃ本末転倒なんだよなぁ」
このアモール小惑星群。
火星と地球を結ぶ距離の中間帯、つまりアマノムラクモと同距離上に存在する小惑星群である。
アマノムラクモを固定する際には、この小惑星群からの影響も計算に入れられている。
当然ながら、同軸距離のため、ここに中継点を作るのは不可能。
「あとはそうですね。観測衛星のようなものを定点配置するのが適切かと」
「やっぱりそうなるかぁ。ファクトリーで作れるものなの?」
「魔石をいくつか頂けるなら。あと仕上げの魔導ジェネレーターは、ミサキさまにお願いしなくてはなりません」
「ですよね〜」
まあ、少しでも情報が欲しいところだから、俺も本気で観測衛星を開発するとしますか。
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