第134話・予定調和? そんなはずがあるか‼︎

 白銀竜プラチナスは、惑星アマノムラクモの大気圏を突破、宇宙空間に飛び出した。


 生命体という点で考えるのなら、プラチナスは気圧の変化及び大気組成の変動、および消失、宇宙放射線などの環境変化により死亡してもおかしくはない。

 だが、彼らアマノムラクモに住まう竜族は一味違う。

 そもそもが、神々の作りし次元潮流を流離う生命体である。

 ある意味、神の眷属と言っても差し支えない彼らにとっては、『たかが宇宙空間』なのである。

 揚力は翼から発する魔力で十分であり、久しぶりの何もない宇宙をプラチナスは堪能したのち、不快音の元凶である地球目掛けて飛んでいった。


………

……


 いやぁ。

 平和だねぇ。

 久しぶりに温泉でゆっくりと羽を休められるよ。

 地球から何かが来るとしても、早くても一ヶ月以上は先だという計算になっているからなぁ。


「広い湯船に俺一人っていうのも、少し寂しいものではあるが……」


 今日の酒は、清酒『鎧袖一束』。

 酒の肴はいぶりがっこと焼き干しした鮎の白あえ。

 檜の桶に並べてお湯に浮かべると、もう、俺一人のためのスーパー晩酌タイム。

 何人たりとも、俺の邪魔はさせない‼︎


『ピッ……今日の酒の肴は、シェフサーバントの渾身の作です』

「そうだろうよ。こう、熱燗をぐいっと飲んでから、この肴を一口……もうダメだぁ、俺を好きにしろ‼︎」


 最高だ!


『ピッ……それでは。惑星アマノムラクモ裏側にある竜大陸、そこから一人の竜が宇宙に羽ばたきました』

「へぇ。竜って、いっぱいいるのか。なんで宇宙に? しかも死なないのか」

『ピッ……恐らくは神の眷属では。それで、竜は一直線に地球に向かって飛んで行きましたが』


──ブーッ‼︎

 思わず酒吹いたわ。

 なんで地球に向かったんだ?

 

「急ぎで竜を追いかけられるか?」

『ピッ……インターセプト隊を出撃させます。それでですね、ミサキさまにはお願いがありまして』

「竜を止めろってか?」

『ピッ……いえ、何故、竜がそのようなことをしたのか、その真意を確認して欲しいのですが』

「つまり、竜大陸に行ってこいと」

『ピッ……護衛にヒルデガルドを同行させますので』


──ザバァァァァ

 せっかくの温泉タイムが消滅したわ。

 風呂道具と酒の肴全てを|無限収納(クライン)に収めて、お出かけの準備をするとしますか。


「くっそ、くだらない理由だったら泣かせてやるからな」

『ピッ……よろしくお願いします』


 さて、久しぶりにカリヴァーンで出掛けるとしますか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 この日、パナマ天文台の研究員たちは、優先観測対象である『惑星X』から飛来する何かをキャッチした。

 そのデータはすぐにNASAをはじめとした関係機関に送られたのち、各国の観測所でも対象飛来物の確認を開始。

 その結果、研究員たちは頭を悩ませることになった。


──JAXA

 パナマ天文台からの報告を受けて、アストロノーツの|飯田知嗣(はんだしろつぐ)は管制室まで走ってきた。


 あと半年もすれば、日本初の有人月面着陸プロジェクトが終焉を迎える。

 この終焉とはすなわち、ゴールである月面への到達。

 すでに月周回軌道上には、国際月面調査ステーション『ゲートウェイ』の建造が急ピッチで行われている最中であり、十日に一度のペースで、民間宇宙開発企業などによる宇宙船で資材が送り出されている。



「おいおい、報告を聞いてやってきたんだが、その惑星Xからの飛来物ってなんだよ? 計画の変更が余儀なくされるとかないだろうな?」

「惑星Xの調査は別プロジェクトチームですから、問題はありません。ただ、この飛来物の加速と軌道を計算するとですね、ちょうど月の横をすり抜けて地球に飛来するのは間違いないようです」


 飯田の前のモニターには、飛来物の予測軌道と速度を示すデータが映し出されている。

 そしてシミュレーションによると、2%の確率で、ゲートウェイに接触する可能性が示されている。


「最悪だな。その飛来物の画像は出せるか?」

「銀色に光る何か、です。さすがに解像度が弱くてですね」

「NASAに連絡して、最新の映像を送ってもらえ」

「今やっています!」


 そんのやり取りの中、次々と天文台や日本各地の観測点からのデータが送られてくる。

 そして、その中の一つを見て、飯田は目頭を押さえてしまう。

 そしてすぐさまコントロールセンターの中央で同じように映像を見て顰めっ面をしている、プロジェクトリーダーの五反田チーフのもとに向かうと一言。


「なぁ五反田チーフ。これ、俺には動物に見えるんだが」


 映し出されたのは、翼を広げて飛んでくるドラゴンの姿。

 恐らくは映像のブレや処理ミスによるものと思われるのだが、明らかにファンタジー映画に出てくるドラゴンの姿が、そこには存在した。


「……五反田チーフ。あなたなりの答えが欲しいのだが」

「……月面着陸プロジェクトについては、この無確認飛来物が安全であるか、そして地球圏から離れていくことを確認した上で再開する。それまでは、無期限延期とする……そうとしか言えないだろうが」

「賢明な判断、ありがとうございました」


 未確認飛来物のゲートウェイ接触の可能性が消失しない限りは、危険すぎて人間を送り出すことなどできない。

 賢明な判断であるのと同時に、このことをどう公表するべきか頭を悩ませていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ゴゥゥゥゥゥゥ

 竜族の地球へ向けての突撃行為。 

 この真意を問いただすため、ミサキはカリヴァーンに乗って星の真裏にある竜大陸と称される大陸にやってきた。


「さて、竜族のみなさんは……どこにいることやら」

『2時の方角に距離12000。超高濃度の魔力反応があります』

「オーケィカリヴァーン。そっちに向けて加速開始」


──ガン‼︎

 音速を突破し、わずかな時間で到達。

 というか通り越したので減速して旋回、今度はゆっくりと向かうのだが。


──ファサッ

 銀色の巨大な竜が地表から舞い上がってくる。


『我は神竜スターライト。そこの化け物よ、無駄な抵抗はやめて大人しくしろ』


 お、話が分かりそうな……随分と一方的な物言いだなおい。

 すぐに外部スピーカーを起動させると、マイクに向かって話をすることにしたよ。


「俺はミサキ・テンドウだ。先日もうちのオタルにあんたらの仲間がやってきたのだが、俺の話は聞いていない……ってあれ?」


──スッ

 空中で綺麗な土下座をするスターライト。

 そしてよく見ると、俺の眼下の草原地帯でも、大勢の人たちが土下座を行なっていた。


「……なあ、目の前のあんた、俺の話を聞いていたのか?」

『こ、これはこれは、ミサキさまにおかれましてはご機嫌麗しゅう』

「いや、まあ、今のご機嫌は少しだけ麗しくない。ちょいと話をしたいんだが、どうすればいい?」


 そう問いかけてみたら、足元の草原に着地する様にと説明してくれたよ。

 草原の人たちも手旗信号でカリヴァーンの誘導を開始しているから、今は素直に従うことにしたよ。


──プシュゥゥゥゥゥ……ゴン

 コクピットハッチを開いて外を見る。

 簡素な毛皮を身に纏った人々が待っていたので、軽く手をあげてみる。


──オオオオオ‼︎

 お、反応がいいんだが。


「済まないが、この辺りの風習その他をよく知らない。誘導を頼みたいのだが」

「では、そのカラクリ武者から降りてもらえますか?」

「カラクリ武者じゃないんだが。まあ、いいわ」


 カリヴァーンを遠隔操作して右手に飛び乗ると、そのまま降着姿勢を取らせて地面に着地。


──シュンッ

 すぐさまカリヴァーンを|無限収納(クライン)に納めてから、集会所のような場所に案内されましたとさ。


………

……


 うん。

 この人たちって竜族が変身した姿なんだってさ。

 俺の目の前には、壮年男性のスターライトさんが立っていて、細かい説明をしてくれてんだよ。

 ちなみにオタルに来たのは中堅の竜で、風の竜だったよな。確か名前はストライカーだったはず。

 奴から色々と話を聞いて、かなり俺たちに興味を持ったらしい。


「ええっと、つまり、あんたらがオタルで買い物をしたいけどお金がないので、それ調達するために地球にプラチナスっていうドラゴンが飛んでいったと?

「まあ、概ねそのような感じです」

「不快音かぁ。確かにそれが一日中聞こえていたら、そりゃあ腹も立つだろうさ。その文句を言いにいくついでに、金目のものを奪ってくるということか?」

「賠償は必要でしょう」

「まあ、そうだな。不快音をやめさせて、ついでに賠償を求めるのか……理屈は合っているが、その賠償は何を求めるんだ?」


 そこが大事。

 金目のものを漁るのか、それとも他の何かなのか?


「まあ、あの星の文明には滅んでもらう程度で。そうすれば、星の全ては我々のものですから」

「却下だ‼︎ 先に伝えておくぞ、あの星は俺の故郷だ‼︎」


──ドタドタドタドタ

 いきなり竜族一同が大慌て状態。

 右往左往とはこのことかと言わんばかりに、オロオロし始めたんだが。


「アラート‼︎ 速度に自信のある奴は、急いでプラチナスを止めろ‼︎ いいか、あやつを殺しても構わん、やつがミサキさまの故郷を攻撃した瞬間に、我ら竜族は殺されて鱗をオークションで売り飛ばされると知れ‼︎」


 真っ青な顔でドラゴンたちが外に飛び出し、次々と巨大なドラゴンに変身して飛んでいく。

 いや、通信とかで連絡してくれれば。


「あ、あのな、通信機とか….あるわけないよなぁ」

「我らには竜魔法がありますし、そもそも通信など遠距離でのコミュケーションは不要です」

「お、心の中で通じ合うとか、念話で会話ができるとか?」

「いえいえ、困った時はサーチアンドデストロイ。目に見えたものは全て破壊すればいいのです」

「この阿呆がぁぁぉぉぁ」


 この場は俺の横で話を聞いていたヒルデガルドに任せることにして、俺も急いで外に飛び出すと、カリヴァーンを召喚して宇宙に向かったよ。

 インターセプト隊の加速力よりもカリヴァーンの方が上。

 まあ、なんとかプラチナスとやらにインターセプト隊が追いつくことも祈っておこう。

 

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