第133話・第一種接近遭遇どころかさぁ

 騒然。


 ウィーンにある国連センターの一つ、【国連宇宙部】の大会議室では、突然姿を現した太陽系・新第四惑星候補の星のことで話し合いが進められていた。

 現在は、世界各地の天文台が撮影した映像がモニターに映し出されており、今後の対応について協議をする予定である。


 だが、その映像も距離が離れすぎているために鮮明ではなく、地球型惑星であること、青い色合いから大気が存在すること、そして海と陸地が確認できるという情報に終始留まっている。

 

 ちなみに【国連宇宙部】とは、『宇宙空間平和利用委員会とその小委員会の事務局を務め、宇宙空間の平和利用における国際協力を促進し、開発途上国が開発のために宇宙技術を利用できるように支援するための組織である』

 以上、Wikipediaより。


 当然ながら各国の代表及び各国宇宙研究機関としても、この星についての情報が欲しくて集まっているだけではない。

 地球型ということは、確実に資源が存在する。

 大気があるのなら、それこそ移住も可能である。

 基本的に宇宙の資源は誰のものでもないのだが、ことこの惑星については事情が異なる。

 それこそ細かく調査したのち、分割管理しても構わないのではないかという意見さえ出始めているのが実情である。


「流石にそちらの国も、突然発生した惑星の所有権を宣言することはありませんか」

「無茶を言うな。我々とて、それほど厚顔無恥ではない。むしろ、今回のケースならば、我々も協力を惜しまないつもりです」

「日本はどうですか? まだ有人宇宙飛行に成功していませんよね? いっそ月ではなく、この仮称・惑星Xにでも向かうというのは?」

「はっはっはっ。危険極まりない。ハリウッド映画でよくみるような悲劇を体験したくはありません」


 笑い話を交えつつ、話は淡々と進む。

 当然ながら、現時点ではこの惑星Xについては調査ありきという話で会議は終わった。

 その影では、どの国が一番に星に乗り込むのか、その利権を手に入れるのかという牽制が行われていることは、いうまでもない。


 このあとは代表たちも各国に戻り、自国の政府との協議となるのだが、そこでは一刻も早く惑星Xに観測衛星を送り出す必要があると判断。

 もっとも、突然現れた惑星の公転軌道やら自転公転速度、重力などの測定も行わなければならないので、実際に惑星Xの衛星軌道上に送り出すことなどは現時点では不可能。

 

 それよりもマスコミがこぞって惑星Xの件を報道してしまったので、世界中は新しい第四惑星の話で盛り上がっていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ピッ、ピッ、ピッ

 惑星アマノムラクモ、オタル沖合。

 海上に浮かぶ機動戦艦アマノムラクモの艦橋では、ミサキがのんびりとモニターを見ている。


「ドット絵かぁ。なんだこれは?」


 地球からアマノムラクモに向けて送られて来たメッセージ。

 それを受け取って解析すると、奇妙なドット絵が浮かび上がってくる。

 俺としては、パイオニアに搭載されたダビンチ絵のようなメッセージが来たのかと、ワクワクしていたんだがなぁ。


『ピッ…… 最新型のアレシボ・メッセージかと』

「なんだそれ?」

『ピッ……かつて、地球から2万5000光年先に存在す流浪の民【ヘルクレス座の球状星団 M13 】に向けて送信されたメッセージです』

「へぇ、どんな意味があるんだ?」

『ピッ……数字や元素記号をはじめ、様々なデータが網羅されています。現在の地球の人口なども記されていますよ』

「なるほどなぁ。こんなものを送って来たのか。あとは?」

「マイロード、こちらはコズミック・コールというものです」

「へえ。とりあえずモニターを分割して、一つ一つ映し出してくれる?」


──ピピピピッ

 次々と浮かび上がる文字配列。

 基本的には地球のことを記しているものやアレシボ・メッセージのようなデータばかりなのだが。


「……これは?」

「それはNASAが作ったメッセージを、オーストラリアの天文台から送信して来たものですね。しっかりと英語で『星間バーベキューにご招待します』って書いてありますが」


──ズルッ

 思わず椅子からずり落ちそうになるわ。

 宇宙へ向けたメッセージで、なんで英語?

 なんでバーベキューの招待状?


『ピッ……雑誌の企画ですね。返信はどうしますか?』

「……今はまだ早いので、近い将来に、バーベキューを楽しみましょうって、ダルメシアン星系帝国言語で送り返してくれるか?」

『ピッ……洒落には洒落で返す。良いですね』

「しっかりと知的生命体がいるっていうことも伝えられるから良いだろう? まあ、解析できたら大したものだけどさ」


 そんなことは不可能。

 それこそ希代の天才科学者とか、そういう人材がポン、と姿を表さない限りはね。


「しっかし、地球の宇宙関係の科学者って、本当にチャレンジャーばかりだよなぁ。どう見ても普通じゃない惑星に、いろんなメッセージを送ってくるなんてさ」

『ピッ……相手が我々で良かったです。もしも侵略行為を行う交戦的な存在ならば、地球は危機に直面しますから』

「あ〜。ハリウッドの映画であったよなぁ。地球から送られたメッセージが敵対行為だって、いきなり侵略して来たやつ。バトルなんだっけ?」

『ピッ……バトルゴルシです』

「そんな名前だったか? ブリトー食べたくなるやつだぞ?」

『ピッ……バトル・ゴールドシップです』

「そっか。一度だけ劇場で見ただけだったからなぁ。まあ、その話はいいわ、俺たちが平和的な生命体でよかったよ」


 うん。

 どうせ今しばらくは、この星に観測衛星を送り出したりするんだろうからさ。

 その時は相手するよ。

 今はまあ、オタルの開発とかやることが多いからさ。

 

………

……


 オタルの裏側、竜の住む大陸。

 海峡を挟んで隣にある島が、アヤノコージの両親の流れ着いた島であるが、大きさは北海道ほどある。

 まあ、その話はさておくとして、竜大陸では、竜族が集まって会議を行っているところである。


 自然を好む竜族にとっても、普段の巨体で森を傷つけることは好ましくはない。

 幸いなことに彼らは『人型』に変化できる為、平時は人の姿で生活をしていることが多い。


 その彼らの住む村では、長老であるスターライトが腕を組んで空を見上げている。


「……この星がミサキ・テンドウのものであることは承知した。たしかに星の裏側から神代の力を感じていたのは事実。全ての村人に命じる、彼ら……彼女、どっち?」

「外見は女性ですが、魂の本質は男性です」

「うむ。|彼女(かれじょ)の統治する支配地域においては、人間に仇なしてはいけない。友好的にな、そう、本当に友好的に」


 神代の存在に逆らうなど、スターライトには考えられない。

 そもそも彼を含めた、この地に住まう竜族二十九人は、亜神に仕えていた存在。

 それが亜神から見捨てられ次元潮流に放逐されてしまった時から、彼らの長い旅が始まったのである。

 どうにかスターゲイザーまで辿り着いたのは、まさに奇跡だったのであろう。


「ミサキさまの件、たしかに承りました」

「この星の裏側に村があるのですの? 買い物とかもできますの?」

「酒だ、オラは酒が飲みたいぞ‼︎ 人間が作る酒は格別だからな」

「まあ待て、向かうのは構わんが、お前たちは金を持っているのか?」


──シーン

 この地の竜族は彼らだけ。

 それなら別に、貨幣文化など必要ない。

 欲しい時に取り、お互いに交換する。

 それで十分、賄って来た。

 だが、ここにきて貨幣が必要な事態がやって来たのである。


「金貨、作るか」

「待て待て、この星には鉱脈がないことを知っているだろう?」

「いや、あるにはあるのだが、浅い部分に僅かだけだからなぁ」


 中心核は機動要塞スターゲイザー。

 その周りにある大地の部分は、長い時間に次元潮流にのってやって来た。

 それが堆積し、大地を形成した。

 まあ、魔導頭脳ヴァン・ティアンが面白がって、熱を加えたり素性変換を行なったので、そこそこに鉱物は存在する。


「……スターライトのじいさま、それなら俺がとってこようか?」

「プラチナスよ、どこから持ってくる?」

「この音だよ、ここ最近になって聞こえてくる不快音。この出所には、おそらく文明がある。そこから奪ってくるさ」

「ミサキさまの土地でないのなら構わんが。たしかに、我々にも聞こえる不快音が止まるのなら、まさに一矢二魚竜。構わんから行ってこい‼︎」


──トン

 スターライトの許可をもらい、プラチナスが高くジャンプ。

 そこで白銀色の竜に姿を変えると、真っ直ぐ上空へと飛んでいった。



 

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