3つめの物語
第132話・これは、いつか見た夢、もしくはデジャヴー
──ザワジワザワザワ
ん? 誰かジワっているなぁ。
そんなこんなで、現在、俺はオタルの広場にいます。
大勢の市民とエルフの民と、山を越えてやってきた忍びの里の人々が一堂に集まっている。
そしてザワザワが静かになった時、俺は壇上でゆっくりと口を開く。
「はい、皆さんが静かになるまで5分掛かりました」
「ミサキさま‼︎ 今日は何があるのですか!」
「もう沈黙は終わりかよ‼︎」
うん、このネタはエルフには通用しないと。
そして忍びたちには有効だと。
あちこちの忍びがプッと吹き出しているが、まあ、それもお約束。
「それでは改めて。すでにご存知の通り、この山向こうに忍びの里ができました。今のところ里長代行は朔夜に任せていますが、人員配置その他は里の方で好きにしてください」
改めて、里長代行の朔夜が頭を下げている。
「ここからが本題。惑星アマノムラクモは、長い旅の終わりを迎えました‼︎」
──ブゥン
空を覆っていたバリアが解放され、青空が広がる。
今までは鈍色のバリアしか見えなかったから、これでようやく旅が終わったと理解してくれたようだ。
「現在の座標とかはまあ、各村と里にいる駐在サーバントから聞いてください。簡単に言いますと、ここは銀河系内太陽系、惑星アマノムラクモは第四惑星に位置しています」
──オオオオオ‼︎
うん、ざわめきというよりも歓喜の方が多いよなぁ。
「第三惑星・地球には、我々と同じように文明を持つ知的生命体が住んでいますが、この星に余計なことをしない限りはこっちも手を出すことはありません。そのあたりは、我々アマノムラクモのクルーに任せてください」
「ミサキさま‼︎ 移民とかは受け入れるのですか?」
「うん、そうだねぇ。いいところに気が付いたねぇ‼︎」
あ、滑った。
このネタも封印、と。
「まあ、ぶっちゃけると、地球のテクノロジーでは、アマノムラクモへの大規模移民なんて無理です。せいぜいが観測衛星を打ち出して、この星を監視しようとするでしょうが、それは全て破壊します」
当然。
せっかく、ようやく念願の、のんびりタイムが手に入ったんだよ?
それを邪魔する存在は、すべて排除だ。
それなら、わざわざ太陽系じゃなくてもっていう人もいるかもしれないが、そうじゃない、そうじゃないんだよ。
「慣れし故郷を放たれて……夢に楽土求めたり、か」
流浪の民。
シューベルト作曲、石倉小三郎という日本人が詞訳した曲。
もうかなり昔の人なので、著作権とかは消失しているんだけどさ。
なんかこう、この人の歌詞が、今になってずっしりと感じるんだよ。
ぶなの森の葉隠れに
照らしつつ
木の葉敷きてうついする
これぞ流浪の人の群れ
ニイルの水に浸されて
きららきらら輝けり
燃ゆる火を囲みつつ
強く猛き男やすらふ
酒を酌みて差しめぐる
歌い騒ぐそが中に
悩み払う
語り告げる
松明明く照り渡る
管絃の響き賑はしく
連れ立ちて舞ひ遊ぶ
既に歌ひ疲れてや
眠りを誘ふ夜の風
慣れし故郷を放たれて
夢に楽土求めたり
夜の姿かき失せぬ
ねぐら離れ鳥鳴けば
いづこ行くか流浪の民
「うん。そうだな。ここが俺のいる場所なんだから、俺が守らなくちゃな」
「ミサキさま、俺たちも守りますから安心してください」
「我らが土地にあだなす輩は、すみやかに滅する所存なりや」
「そうだなぁ。ちなみにイスカンダル、もしも地球の輩が連絡してきたり、この惑星の所有権を主張してきたら?」
「はっはっはっ。アクシアで地球を破壊しましょう」
「ダメだから。それで本音は?」
「宇宙国際法に照らし合わせます」
ダルメシアン星系にあった『宇宙国際法』。
これによると、惑星の所有権はそれを支配するものが有する。
ここでいう惑星を支配するものは、惑星に住む全ての先住民の代表協議により選出された者、もしくは実効支配している代表のことをいう。
つまり、惑星アマノムラクモの場合は、俺。
たとえ地球が『宇宙の資源はみんなのものだ』などと話してくるのなら、この宇宙国際法を突きつけてやる。
そしてフォースプロテクションで星全域を包み込んで、のんびりと暮らす。
以前は、海上にアマノムラクモを停泊させて『機動国家アマノムラクモ』を宣言していたが、今回はスケールがちがう。
うちの星と条約を結びたいのなら、それ相応の話をしようじゃないか。
「……ごほん。それでは、惑星アマノムラクモは今まで通り、これからも平和を第一に考えて」
──ゴゥゥゥゥゥゥッ
ん?
俺の演説の最中に、頭上を何かが飛んでいったんだが。
「う、うわ、うわわ」
「に、逃げろ、ドラゴンだ、ドラゴンがやって来たぞ‼︎」
「全員避難、魔法兵団は街を結界で守れ‼︎」
エルフたちが大混乱のなか、走り出す。
ふと上空を見上げると、たしかにドラゴンが飛んでいった。
「へぇ。ドラゴンかぁ……ヴァン・ティアン、事情を説明してくれるよな?」
思わず通信でスターゲイザー中枢に連絡してみる。
『ビビッ……あれは、ほぼ真裏の大陸に住む竜種です。次元潮流を彷徨い、ここに辿り着いた生命体の一つですな』
「お〜、そうかそうか。何故、そんな危険な存在を教えなかった?」
『ビビッ……危険なんてありませんよ。話をすればわかる存在です』
「あ、知性はあるのか。そんじゃ手を振ってみるわ」
──ブンブン
上空を飛ぶドラゴンに手を振る。
すると、ドラゴンも大きく旋回してから、オタルにどんどん近づいてくる。
全長五メートル、いやもっと大きい。
十メートル、二十メートル。
光の尾をたなびかせて飛んでくる様子は、まるで彗星。
彗星かなぁ。
いや、違うな。
彗星ならもっとこう、パーって光るよなぁ。
『ピッ……スイカバーをご用意しますか?』
「なんでスイカバー? あ、西瓜バーな、アイスクリームな。いらねぇから」
そんなやり取りをしていると、ドラゴンは上空でホバリング状態。
翼を広げてゆっくりと羽ばたいているんだが、風は起こらない。
翼から魔力を放出して浮かんでいるようだ。
『そこの小さきものよ、この偉大なる我に……いや、この私に……いや、この矮小なる私に、何が御用でしょうか?』
おお、尊大な態度がだんだん小さくなり、最後は地表に着地して頭を下げているんだが。
「俺はミサキ・テンドウだ。この惑星アマノムラクモの支配者? 管理人とかそんな感じだが。お前は名前は?」
「はっ、この星を統べる竜王の、いや、竜大陸に無断で住み着いて我が物顔でぶいぶい言わせている神竜スターライトの僕、四大竜王を勝手に名乗っている風の竜でございます。ミサキさまにはごきげん麗しく」
「あ〜。俺たちよりも先に住んでいたんだろ? 済まないが、そのスターライトに話を通しておいてくれないか? こっちの大陸には人間やエルフが住んでいるから、手を出すなよって」
「ヘッヘッヘっ。かしこまりました。しっかりと申しつけておきますので」
えらい卑屈になったな。
まあ、その姿勢だと体が辛そうだからなぁ。
「普通にして構わないよ。別に俺の前だからって頭を下げて土下座になる必要はないんだからさ」
「そうですか。それでは失礼して」
腰を伸ばして二足で立つ。
うん、本物のドラゴンって格好いいんだな。
そんなことを考えていると、エルフの騎士や魔法兵団が駆けつけてくる。
「ミサキさまお下がりください‼︎」
「いや、こいつとは話がついた。風の竜、名前はなんでいうんだ?」
「
「だってさ。エルフの民に連絡してくれるか? 彼はこの大陸の人間には手を出さないって約束してくれたから、お前たちも手を出さないように」
「ほ、本当ですか?」
「ドラゴンですよ?」
そう呟くものもいるが、エルフたちに向かってストライカーは軽く頭を下げる。
「ミサキ殿の民だな。我はストライカー、古の盟約により、ミサキ殿の民には手を出さないことを約束しよう」
「古の盟約って、今話した約束か?」
「はい。ここから始まる古の盟約です」
「歴史、新しすぎるから。ということなので、ストライカーもこの街に来る時は外に着地するように。お前の体は大きすぎるから、オタルを歩き回られると建物が壊れるからさ」
「か、かしこまった。では、急ぎ竜王にこのことを伝えてくるので、さらば‼︎」
──フワッ
翼を広げたと思ったら、いきなり青空に飛び上がった。
そしてオタルの上空を数度、旋回してから、一直線に海の向こうへと飛んでいった。
「早いわ。カリヴァーンよりも早いぞ、あれは」
「しかし、さすがはミサキさまだ。ついにドラゴンまで手懐けるとは」
「手懐けてねーし。友達だし。ほらほら、もう演説も何かも終わり、片付けを始めるぞ‼︎」
ぱんぱんと手を叩いて、今日の集まりはおしまい。
最後の最後にドラゴンの乱入もあったけどさ、これはこれで楽しいことが起こりそうだよな。
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