第130話・さあ、新天地に‼︎ まだかよ‼︎
俺たちが惑星アマノムラクモに戻ってきて、十日。
この間に、エルフたちにも話をしていた。
俺が、本来の故郷のある星系に帰ること
この星ごと移動するのだが、エルフたちはどうするのか。
希望者はダルメシアン星系に送ってやる事もできるという説明をしたのだが、すでに彼らの故郷は存在しない。
それならば、俺と一緒に地球圏に向かい、この惑星アマノムラクモを第二の故郷としたいという申し出があった。
「……まあ、それで良いのなら、俺としては構わないが。俺はなにもしないぞ?」
「それでも構いません。今のまま、年に一度の税金を納めますから、このまま、ここに居させてください」
「そっか。まあ、色々と騒がしくなるが、構わないな?」
「そうなのですか?」
ああ。
朔夜たち忍者の里も復興することが決定したからな。
場所は、エルフの里の向こう、山を挟んで反対側。
すでにサーバントたちが森を切り開いて準備を始めている。
そして死んだ一族の再生というとんでもない技を使うためには、それなりの代償が必要だからなぁ。
「計算では、神代の技術を捧げる必要があります。本来なら伝承宝具ぐらいは差し出せと、霊子光器は文句を言うかもしれませんが」
「イスカンダル、それなら俺が鹵獲した帝国の駆逐艦『アヴェンジャー』ならどうだ?」
あれは次元潜航可能な宇宙船であり、魔導機関を搭載している。
それならば別に構わないし、寧ろもっと良いものが作れるからなぁぁ。
「里の人数にもよりますが、その程度で構わないかと。本来ならば、もう必要がない『機動要塞グランドマーズ』を生贄に捧げたかったのですよ」
「そりゃ無理だわ」
あれはアヤノコージにくれてやる約束をしたからなぁ。
そういえば、アヤノコージたちはどうなったんだ?
のんびりとオタルで過ごしているっていう話は聞いたのだが。
あれからどんな話になったことやら。
………
……
…
「……アヤノコージ、そろそろ私たちの星に帰ろうか」
「この星は確かに平和ですけれど、私たちはあくまでも居候の身ですわ。早く星に戻り、故郷を再興しなくてはなりません」
早朝。
朝食を取ったあとで話があるというから、俺は居間に移って親父たちの話を聞いている。
この十日間は、本当に充実した日々だった。
身体の中の毒気が抜かれていくような、そんな時間の過ごし方をしていた。
「まあ、そうだな。星に戻ったら、まずは帝国を潰すための算段をしなくてはならないからなぁ」
「……超銀河兵器を探すのか?」
「いや、それはもうミサキが所有している。それを受け取る話にはなっているから、ここを旅立つときに話はするつもりだ」
「そうか……」
そう説明するんだが、どうも親父たちの歯切れが悪い。
「親父たちは、俺が帝国と戦う事に反対なのか?」
「反対だな。なにゆえに、戦地に赴く息子を応援しなくてはならないのだ?」
「私たちの星が滅んだのは、もう過去の歴史。これからは、復興のための未来を作り出さなくてはなりませんよ?」
「そのためにも、帝国を潰す必要があるんだろう? いつまた、あいつらが超銀河兵器を求めて襲いくるかわからないんだぞ‼︎」
ミサキがリヒャルド皇帝たちの知識を奪い、牙を抜いたということは聞いている。
けれど、まだ超銀河兵器が残っている。
必ず奴らは、これを奪いにやってくるに違いない。
それならば、帝国を滅ぼす必要があるだろう。
「それでも。機動要塞グランドマーズは、平和的利用が可能なんだよ。あれは兵器としてはそれほど強くはない。ただ、その力があるなら、帝国は私たちの星に近寄ることなどできない」
「そ、そんな事できるのかよ‼︎」
思わず立ち上がってしまったが、親父たちは静かに頷いている。
「グランドマーズは、人の思考を操作する。それ故に、私たちの星に対して敵意を剥き出してくるのなら、その敵意を全て奪い取ることぐらいは容易いのだよ?」
「そんなことができるのか‼︎」
「ああ。その力を使って敵意を消去したら、彼らが私たちの星に来る必要がなくなる。どうしてやって来たのかという理由すら、記憶から消去されるからね」
なんてこった。
ミサキが見せてくれたあの力は、島を一つ消滅させた破壊力は【おまけ】程度の能力だというのか。
確かに、ミサキは最後にグランドマーズの力を使って、彼らから記憶を奪い取った。
それが真実なら、もう恐れるものはないということか。
いや、それでも死んだ民の魂はどうなる?
彼らの苦痛を、悲劇を忘れろというのか?
「それでも、俺たちの憎しみは消えないんだ……」
「そうだなぁ。まだアヤノコージは若い。王となるものは、清濁併せ持つ必要がある。聖人君子な国王などは存在しない……ただ、民の為に、なすべき事をしなくてはならない」
「その民が、帝国に復讐を求めたのなら?」
「それはお前が判断すれば良い。ただ、今の自分の気持ちだけで、星の民を戦争に巻き込むことは認めない」
星の王である俺が、決定権を持つのに?
俺がやると決めたなら、民はついて来れば良いのに?
「アヤノコージ。国王とは、民を統べるものではない。民を守るのが王だ。私たちの血筋は、代々、星の民を守る為に国の上に立っていただけなんだよ?」
「国民は、国王の奴隷ではないのよ。そんな事をすると、必ず自分の身に災いが降りかかるわ。クーデターやテロのような形でね」
親父とお袋が、諭すようにつぶやく。
そうだ、その通りだよ。
親父たちが俺を流してくれた時。
俺が脱出船を取り仕切ろうとして、結果、俺は放逐された。
あれが、小さいながらも国民の総意なんだよな。
「同じ過ち……か。わかった、まずは星に戻って復興することから考える。そのあとで帝国をどうするか、それはその時に考える」
結論は出た。
まずは帰る。
そこからだ。
「これで、お前とは二度と会えなくなるのだなぁ」
「星に戻っても、元気にするのですよ?」
「ああ……って、ちょっと待った、親父たちも戻るんだろう?」
「「どうして?」」
え?
なに?
俺一人で戻って、星を復興しろっていうのか?
まさかとは思うが、親父たちはこの惑星アマノムラクモに残る気なのか?
「私たちは、この星に残るよ」
「先ほどまでは、一緒に帰る気でしたけれど……あなたの成長ぶりが窺えたので、もう満足ですわ」
「……アレキサンダー、ミサキに連絡を頼む。親父たちがこの星に残りたいと言っているのだが、そんなことは俺が許さん。ダルメシアン星系に戻るための宇宙船、三人分の席の手配を頼むと」
──パチン
指を鳴らして指示をする。
それでアレキサンダーはすぐに動き始める。
「さあ、親父たちにも復興の手助けはしてもらいますからね。こんな辺境惑星で、のんびりと引退なんて俺が許すはずがないでしょうが。これは国王命令ですからね」
「アヤノコージ、この私にそんな口を‼︎」
「父上、母上。私は目が覚めましたよ。帝国を相手するよりも先に、星を復興しなくてはなりません。その為には、やはり親父たちの力は必要ですからね」
──ダッ‼︎
いきなり立ち上がって逃げる親父。
だが、俺が逃すと思うか‼︎
「サーバント、力を貸せ‼︎ 親父を拘束しろ‼︎」
「高くつきますよ?」
そう告げてすぐに、ミサキのサーバントが親父の後を追いかける。
すでにお袋は観念したらしく、その場に座って手を振って……。
「詰めが甘いですわよ」
「そうですか? まあ、細かい話は後にしましょう。帰還の手続きが終わるまでは、この屋敷に拘束させてもらいますから」
「構いませんわ。でも、お父さんを捕まえられるかしら?」
なんだよ、その含んだ言い方は。
何か企んでいるのかよ。
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