第129話・引っ越し準備のその前に

 惑星アマノムラクモに戻ってきてから。


 アヤノコージは両親と会うためにオタルに向かい、俺はラプラスに拉致されて機動要塞ラグナロクへ。

 そこの管制室というか艦橋というか、はたまた応接間と呼ぶべきか難しい部屋で、ラプラスから爆弾宣言を受けた。


「よく聞きなさい。スターゲイザーの存在する空間は閉じられる‼︎」

「なんだってぇぇぇぇ‼︎」

「キバヤシか。まあ、それは置いておくとして。実は、二十四神会議によって、この空間の修復作業が確定したのだよ」

「修復作業?」


 そこからの話は実に明快。

 神々のみが使うことの許されている次元潮流は、実は全ての神界を流れる大きな川のようなものらしい。

 現実世界から次元潮流に向かうのが、俗に言う『次元潜航』。

 アマノムラクモが普段から何気なく行っているのがこれであり、実は、この次元潮流のあちこちに澱みが発生していることで問題が起きている。

 

 地球の『アトランティス大陸』のように、次元潮流の中に別空間を作り出し、島一つを隔離するようなことは、普通なら不可能。

 それを成し遂げた古代アトランティス人の栄誉を認め、神々もアトランティスが次元潮流に留まることを許している。


「うむ。このスターゲイザーのある場所が異質すぎてなぁ」

「異質?」

「じつはな、この場所はいくつもの神界の頂点に存在するもので、どの世界も所有権を宣言している場所でなぁ……」

「はぁ、もっと簡単に説明してくれますか?」

「そうだなぁ。お主にわかりやすく説明するとだな、『柳生の三県境』と言えば理解できるか?」


 あ、理解したわ。

 つまり、この場所は『栃木・群馬・埼玉の三県境』と同じか。

 何処も所有権を宣言しなければ何も問題は起こらない。

 けれど、どこの神様も所有権を譲らないため、この空間は閉鎖され、綺麗に分割されることになったらしい。

 

「でもさ、神様の視線から見たら、スターゲイザーのある場所って本当に小さなものでしょ? なんでそこまで意固地になるの?」

「まあ、お主にわかりやすく説明すると、富士山はどの県が『ごめんなさい、そこは触れないで理解したから』ということじゃよ」


 危ねぇなぁ。

 それは踏み込んだらダメな話じゃないかよ。

 きのこたけのこ戦争よりも根が深いんだぞ?


「他にもいくつか例を用意しておいたのだが、残念だなぁ」

「例?」

「お主の世界の料理に肉じゃがというものがあるだろう?」

「もういい、本当に勘弁して。結論を出さないと怒られる案件で、結論を出したら逆サイドからもクレームが来て話が終わらなくなる案件だから」

「そうだろ? という事なので、スターゲイザーのある空間は無かったことにする」

「うわぁ……うちはとばっちりじゃねーかよ」

「まあ、これが悪い話だ」


 最悪ぶっ超えて、地獄だわ。

 それでなくても、色々とやらかしそうだからここに逃げてきたんだよ?

 今更、何処に行けっていうんだよ。


「それじゃあ次はいい話。君が住んでいた世界の創造神と話をつけたので。地球圏に戻ることを許可するよ」

「……はぁ。アトランティスにある終末時計が進みませんか?」

「あれ、取っ払ったし。君がその創造神の世界に過干渉してもノンペナルティにしておいたから」

「え、つまり、太陽系に新しい惑星として、惑星アマノムラクモを出現させていいのか?」

「勿論さ。怪獣モチロンさ」


 よっしゃぁぁぁぁ。

 俺、地球に返り咲き。

 いや、日本人というか、あの街並みから離れていると寂しいものでさ。

 でも、創造神がよく許してくれたなぁ。


「許すもなにも、あそこの創造神は左遷したし、代わりに私が管理することになったから(ボソッ)」

「ん、今何かおっしゃいましたか?」

「いや、なにも。すでに地球圏の統合管理神はわからせておいたから安心して太陽系に帰るといいさ」

「そうかぁ。そろそろ|無限収納(クライン)の中の調味料が心許なかったんだよ。外国資本だからさ、日本の調味料が少なくてなぁ」


 これで無事に帰還できる。

 ええっと、スターゲイザーで移動ということは、表面をドーム状に覆ってからだよな。

 そうしないと、地表面が剥き出しのまま次元潜航するから天変地異どころか全滅だわ。

 なにも救えませんでした、バッドエンドだわ。


「あっはっは。スターゲイザーにアクシア中枢を収納して、システムをリンク。それから移動すればいいよ。太陽系に到達したらステルスモードでスターゲイザーを位相空間から排出してから、またアクシアには多次元階層に移動して貰うといいよ」

「そういえば、アクシアの大きさって見たことないんだよなぁ。イスカンダルが全てうまくやってくれているからさ」

「アクシア本体は、木星よりも少し大きい程度だよ。普段は君がいうイスカンダルの体内に格納されているからね」


 マジかよ。

 そりゃあ帝国が必死に探しても見つからないはずだわ。アクシアの鍵の真横に鍵穴があったっていうオチだからな。


 これで無事に地球圏に帰れることが確定したのだが。

 でも、何か問題を忘れているような気がするなぁ。

 あれ、俺が地球圏から逃げた理由って、歴史を巻き戻したから……じゃねーよ。


「ちょ、ちょいまち思い出した。俺が向こうに戻ったら、もう一人の俺と合わせて対消滅するだろうが」


 そうだよ、魂の分割再生が何たらかんたらって説明もあったじゃないか。

 一つの世界に、同じ魂は二つ存在してはいけないってあれ。

 神の再現事項に引っ掛かるらしくて、オクタ・ワンでも説明不可能だったやつ。


「あ、それなら解決済み。こうなることを予測して、君にスターゲイザーの全権をインストールする時に、新しく作り替えたから。トランスファーもできるって、説明してあったよね?」

「き、聞いてねーよ‼︎」

「あれ、おっかしいなぁ。まあ、そんな瑣末なことはいいや。これで全てが終わりだから、あとはよろしくやってね」

「ありがとう。残りの余生がどれぐらいか知らないけど、死ぬまで楽しく生きるよ」


 ふう。

 本当に帰れるんだ。


「あっはっは。|君が死ぬはず(がんばってね)|ないじゃない(みまもってるよ)。|魂の質は(だいじょうぶだよ)|亜神に見せて(わたしはちかくに)いるけど、|実質神のような(なにもかんしょう)|ものなんだからさ(できないけどね)。|なにもできない(それじゃあ)|錬金術の神様(またどこかで)|先代からも許可を(あえることをいのるよ)|貰ったからさ(グッバイ)。じゃあね、ミサキ・|トリスメギストス(テンドウさん)」


──スッ

 あ、神威を感じなくなったし、目の前がアマノムラクモの艦橋に変化した。

 いやあ、最後に何か言っていたような気がするんだけどさ、よく聞き取れなかったわ。

 なんというか、別れの言葉だったような気がするんだけどさ、声が震えていたような。


「あ〜別れに感極まったかぁ。それじゃあ、とっととアヤノコージたちを放出して帰りますか。イスカンダルはスターゲイザー中枢に向かってくれるか?」

「かしこまりました。中枢システムと同期し、私の能力でスターゲイザーを位相空間に移します。それを維持したまま次元潮流に移動し、ミサキさまの故郷へと帰るのですね」

「その通り‼︎」


 そこからは動きが早い。

 イスカンダルがスターゲイザーとリンクすれば、アクシアの能力でスターゲイザー全体を守るシールドを展開できるようになる。

 う〜む、神の遺産、伝承宝具がいまいち理解できないのだが、それをいうとアマノムラクモもだろうと突っ込まれるだろうから、言わない。


 あとはイスカンダルに任せて、こっちはオタルでみんなに話を通すとしようか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 アマノムラクモの上陸艇から飛び降りて、俺は親父たちの住む迎賓館へとやってきた。


「ハァハァハァハァ……」


 息も絶え絶えだが、死んだと思っていた両親との再会だ、体の疲れなど知ったことか。

 そして門を越えて玄関に入ろうとした時、庭の方から楽しそうな声が聞こえてくる。


「庭か……」


 さっきまでは会いたかった。

 だが、本当に生きているのか?

 偽物でも用意したんじゃないのかという懐疑心が、俺の心の中に湧き上がる。

 いや、ミサキはこんなことで冗談を言うほど外道じゃない。

 勇気を出して前に出よう。


──ザッ

 堂々と胸を張って。

 今や俺は、マーロゥ王家の代表だ。

 正式に戴冠式を行なったのちには、しっかりと星を再興しなくてはならないのだからな。


「……アヤノコージ、無事だったか」

「アヤノン、貴方もここに流れてきたのね……ああ、顔を見せて頂戴‼︎」


 椅子から立ち上がり、母上が駆けてくる。

 うん、本物だ。

 死んだと思っていた父と母。

 よかった、本当によかった。


「あら……アヤノン、泣いているの?」

「……そんな筈はありませんよ。父上も母上もご健在で何よりです」

「お前もな……なにがあったんだ? 以前のお前とは違う、なんというか……」


 成長したな? だろう。

 俺も男だ。

 成長ぐらいはするさ。


「笑えるようになったんだなぁ」

「……そうきますか。まあ、こちらも色々とありましたから。今は再会を喜ぶこと……に……」


 駄目だ。

 涙があふれてくる。

 言葉も出ない。

 俺は王だ、こんなところで……。


──ガクッ

 全身から力が抜ける。

 膝から落ちた。


「よかった……グズッ……本当に良かった……」

「まあ、だいじょうぶだよ、もう大丈夫だ。さあ、お前にも色々あったんだろう? 私たちも色々あったんだよ」

「こちらにいらっしゃい。時間はいくらでもあるわ。さあ、ゆっくりとお話ししましょう」


 うん。

 色々とありすぎて、現実に思考が追いつかなかったんだよ。

 これで終わりだよ。

 帝国も復讐も、どうでも良い。

 今は、話をしよう。

 久しぶりの再会を、楽しむことにしよう。

 

 

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