第128話・無限に広がる大宇宙、実は……。

 この広大な宇宙を作り出したのは、一人の創造神。


 彼は始源神とも呼ばれているが、最初はたった一人、異なる世界からやってきた意識の集合体。

 彼は、自身の作り出した宇宙を管理するために、二十四の従属神を作り出した。

 それが『始源の統合管理神』と呼ばれる24神。

 俺に加護を授けてくれたラプラスも、その中の一人。

 彼女が管理する世界では、彼女の呼び名は『創造神』であるが、24神としての役割は『運命の女神』。

 その眷属である俺は、実は、創造神に近い力を持っていてもおかしくないらしい。

 なんで、らしいなのか。


 だって、俺、もってないし。


「……あの、ミサキさま。そろそろ長考をお止めになったほうがよろしいかと」

「マイロード、アヤノコージが睨みつけていますが、処してよろしいですか?」

「待った‼︎ その程度で処してどうする。ちょっと考えていてんだよ、今後のこととか、これからのこととか」

『ピッ……過去を捨てた女ですね、わかります。ついでにチ◯コもお捨てになるとは、なかなか判断が早い‼︎』

「捨ててねーから。なくなっただけだし、尊厳は捨ててねーからな」


 そうノリツッコミしていると、艦橋で腕を組んでイライラしているアヤノコージが、ますますキレそうになる。


「なあ、俺はいつまでミサキの茶番に付き合う必要があるんだ?」

「別に付き合う必要はないけどさ。まあ、一旦スターゲイザーに戻る。そこでお前の両親と再会して、今後の事を話し合うんだな」

「超銀河兵器は、すぐに寄越さないのか‼︎」

「今渡したら、無力化している帝国を滅ぼすのが目に見えているからさあ」

「当然だ、奴は、俺の故郷を滅ぼしてんだぞ、だったら俺もあいつの全てを奪う‼︎」


 ほらね。

 憎しみの連鎖が始まっているよ。


「まあ、落ち着いて考えろって。たしかに帝国は、お前の故郷を滅ぼしたさ。でも、だからと言って、お前も帝国に住む『罪なき民』を蹂躙するのか? 奴の罪は確かにでかいさ。けど、お前まで同じ道を歩むのか?」

「奴が苦しむのなら、そのためなら」


──ボゴッ、バギッ、グシャッ

 あ、先手を越された。

 ここは俺が平手打ちでスパァァァァァンと決めて、説教かますパターンなのに。

 ヒルデガルドとイスカンダルとヘルムヴィーケとオルトリンデとロスヴァイゼによって、タコ殴りになっていますなぁ。


 うん、止めない。


「確かにフビャミサキのゲヒャウ『呼び捨てをやめなさい』わかったミサキさまがグヒョォォ言いたい待て待てそこはやめろ、子孫繁栄装置が音を立てて崩れハウッ」


 あ、アヤノコージが気絶した。

 偶然かもしれないが、ロスヴァイゼの一発が入ったか。

 超低空飛行のシャイニングウィザードが股間を掠めたんだね、正確には袋だけを蹴り飛ばしたんだね。

 

「あわあわあわわ、口から泡吹いているぞ、メディカルポットに放り込め‼︎」

「こんなもの去勢して仕舞えばよろしいかと」

「その方が、凶暴性が抑えられます」

「アクシアで人格を全て作り替えるというのも、ありですなぁ」

「もっと優しくしてやれよ!」


 そのままズルズルと引きずられるように、艦橋を後にするアヤノコージ。

 まあ、アレキサンダーも付いているから大丈夫だろうさ。


『ピッ……この後のスケジュールは?』

「次元潜航開始、目標、惑星アマノムラクモ・オタル。今のうちにアヤノコージの両親もオタルに連れてきてあげてくれ」

「イエス、マイロード。すぐに手配しておきます」


 さて、グッバイ旧神たち。

 そしてダルメシアン星系。

 これでようやく、静かな時間が帰ってくるよ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「こ、こんなところに街があるなんて」

「私たちが住んでいた密林とは大違いですわね」


 隠密サーバントの一人、サイゾウによってマーロゥの両親はオタルにやってきた。

 あらかじめ、帝国奴隷の隷属術式に『マーロゥ家に対する敵対行為を禁じる』という条文を追加したので、オタルに住む帝国兵士は手出しできない。

 それでも、両親を見る帝国兵士の視線は冷たかった。

 自分たちがこんな境遇になったのも、元はと言えば帝国皇帝であるリヒャルドの命令によるものなのだが、彼らにしてみると、とっとと宝剣を差し出さなかったマーロゥ家の所為なのだろう。


「……さあ、ここは空気が悪いですから、こちらへどうぞ」

「そうなのですか? 潮騒が心地よく、多くの人々が笑顔で生活しているではありませんか」


 王妃は笑顔で呟く。

 そう。

 彼女には、奴隷など見えていない。

 奴隷という存在は、彼女にとっては思考の枠から外される立場なのである。

 ゆえに、彼らがどれだけ侮蔑の目を向けようと、涼風のごとく流してしまう。

 その一方、元国王はというと。

 

「そ、そうですな、サイゾウ殿のおっしゃる通りですな‼︎」


 帝国兵士の冷たい視線、侮蔑の声を一身に受けて、ガクガクと震えている。

 彼は王妃ほどずれてはいない。

 寧ろ、全ての言葉を親身に受け、国を守ってきたのである。


「それでは、こちらへ……あと数刻で、ミサキさまもご帰還します故」

「そうなのですか。とても楽しみですわ」

「あ、ああ、そうだな……」


 やがて迎賓館が見えてくると、元国王は王妃の手を引いて走り出す。

 いつ、殺されてもおかしくない。

 もっと安全な場所に逃げたい。

 そう心の中で叫びつつ、迎賓館の中に逃げ延びた。


「やれやれ。奴隷たちが手を出すことはないというのに……」


 頭を軽く掻きつつ、サイゾウも迎賓館の中に入っていった。


………

……


──ゴゥゥゥゥゥゥ

 機動戦艦アマノムラクモが、ゆっくりとオタル沖合に着水する。


「さて、そんじゃオタルに行きますか。ここの留守は任せるから」

「了解です。アヤノコージは意識を取り戻したので、アレキサンダーがホバーボートまで案内しています」

「そのまま両親がいるところまで連れて行ってあげてくれるか? ええっと、何処だっけ?」

『ピッ……オタル迎賓館です。ミサキさまは、これから呼び出しがありますので、そちらへ』

「呼び出し? 誰?」

『私だよ〜‼︎』


 突然、アマノムラクモの回線に割り込むラプラス。

 モニターの向こうでは、バスローブを身に纏った姿で椅子に座り、猫を膝に乗せて撫でている。


「何処のラスボスだよ‼︎」

『いやいや、今回のお仕事、ご苦労様。それでさ、ご褒美をと思ったんだけど……』

「アクシアとスターゲイザーを貰ったから、別にこれ以上は欲しくないんだけど」

『まあまあ、そんなこと言わないでさ。強制連行するから、アマノムラクモたちはお留守番よろしく』


──ニュゥッ

 俺の背後の空間から手が伸びてくると、それに襟首を掴まれて位相空間に引き摺り込まれる。

 そして気がつくと、俺の目の前には、椅子に座って猫を撫でつつ、ワイン片手にニヤニヤと笑っているラプラスがいる。


「……機動要塞ラグナロクのなかかよ」

「ご名答。それじゃあ、いい話と悪い話、どっちから聞きたい?」

「悪い話もワンセットかよ。それじゃあ悪い話から頼むわ」

「ミサキくんは、大好きなオカズは最後に取っておくタイプなんだね?」

「まあね。野菜と肉があれば、先に野菜を全て食べてから、のんびりと肉を食うタイプだからさ」

「プププ、肉食系女子」

「中身は男だけどな。それよりも、とっとと悪い話をしてくれるか?」


 もう、ラプラス相手にするのは疲れるわ。


「それじゃあ、悪い話を。今現在、スターゲイザーが停泊している空間が閉じる。数日中に脱出してくれたまえ‼︎」


 ん?

 なんだって?

 空間が閉じる?

 脱出しろ?


「……あほかぁぁぁぁぁ‼︎」


 思わず絶叫したわ。

 そりゃあ悪い話すぎるわ。

 どうして、とか聞きたいんだけど、ラプラスも聞いて欲しそうにワクワクしているから聞かない。

 さて、良い話を聞くべきか、ラプラスに突っ込むべきか。

 

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