第127話・伝承宝具vs魔導の忍者

──ズバズバァァァッ。


 人工軍神マルスと魔導忍者・朔夜の戦いは苛烈を極めている。

 明らかに実力ではマルスが上、にも関わらず、朔夜は朧月を自在に操り、互角の勝負に持ち込んでいたのである。

 だが、時間が経つにつれて、朧月が僅かずつ押され始めた。


『ぬぅっ、たかが伝承宝具の癖に小賢しい』

「その巨大な図体では、我が速度に追いつけるはずがなかろうが‼︎」


──ギン‼︎

 さらに軍神マルスが加速、およそ人の目で捉えることができない速度で動き始めると、棒立ち状態に見える朧月の四肢を次々と切断。


──ドゴォォォォォッ

 音を立てて地面に転がる朧月。


『ピッ……二十四連撃からの、あれは【銀河流星破壊斬】ですね』

『……あの切り返し、あの速度。華奢に見える体であるが、アマノムラクモレベルの出力です』

『だが、伝承宝具としては二流。本当の一流の存在を、彼は知りませんから』

『フッ……あのような速度、マイロードなら箸で摘めます』

『あれが見えているのかよ、俺にはわからなかったぞ‼︎ それと必要以上に俺を持ち上げるな』

『『『『ご謙遜を』』』」


 全く。

 本当に見えなかったって。

 改めてモニターを確認するが、どう見ても朔夜の敗北だよなぁ。


「……素直に敗北を認めよ」

『断るでござるなぁ。では、本気を出すでござるよ』


──プシュッ

 朧月のコクピットハッチが開く。

 そこには、黄金に輝く忍び装束を身に纏った朔夜がいた。

 ツッコミどころ満載なんだけどさ、ここはじっと我慢。


『ほう。霊子光器端末を身に纏ったか。では、それは我が貰い受けよう』

「それは無理でござるなぁ」


 カンラカンラと笑う朔夜。

 その瞬間、軍神マルスは膝をついた。

 顔から、いや、全身から汗を吹き出し、その場にひざまづいたのである。


『き、貴様、何をした?』

「何もしていないでござるが。強いていうなら神威をぶつけただけでござるよ」


──スッ

 右手には、黄金に光る手裏剣。

 これこそが朔夜の新たなる切り札の一つ『神威手裏剣』。

 霊子光器が生み出した神威を、朔夜の意思により凝結。手裏剣として形を作り出したのである。

 しかも、神威であるが故に、普通の人間には見ることができない。

 まあ、見ることができるものにしてみると、金色に光る派手な手裏剣なので、忍びとは一体とツッコミを入れたくなるレベルである。

 そして、軍神マルスには見えているのだが、不意を突かれたために見ることができなかった。

 両手両足の腱に当たる部分が切断され、マルスは身動きが取れなくなっている。

 だが、少しずつ再生を始めたのか、全身のあちこちが光り始めている。


『奇妙な技を……』

「では、選択肢を選ぶでござる。ここで拙者に殺されるか、それともミサキさまの僕となるか。ちなみに拙者に殺されても、アクシアで再生して改造するので、ミサキさまの配下になるのは決定でござるが」

『騎士としての死すら、選ばせぬというのか』

「其方も伝承宝具ならば、人に仕えるのが当然至極。ミサキさまは神の眷属なので、それよりもランクは上でござる」


 そう説明してから、朔夜は俺が聞いても恥ずかしくなるレベルで、俺のことを褒めちぎる。

 さらには外部通信を使ってオクタ・ワンとヒルデガルドまでもが参加して、マルスの説得を開始した。


 やめてぇぇぇ。

 俺のHPは√1なのよぉぉぉぉ。


………

……


 モニターの向こうで始まった、公開俺さま晒し大会は捨て置く。

 あの状況に持ち込んだなら、アマノムラクモの勝利は確定だろう。

 

「ミサキさま、王都郊外の宇宙船発着場から、大型戦艦が上昇。フォースプロテクションに向かって砲撃を開始しています」

「へぇ。あれってイスカンダルにはわかるか?」

「はい。リヒャルド皇帝専用艦です。どうやら逃げるようですが……あの中に、『ビブ・エル』の反応を確認しました」

「え? マルスの足元じゃなく?」


 そう思って画面の向こう、説得されているマルスを見る。

 すると一瞬だけ、アマノムラクモの方をチラッと見て笑っている顔が見えた。


「あの人工軍神、謀ったなぁぁぁぁ」

「いや、さすがは伝承宝具。見事なものです」

『……敵艦の砲撃がフォースプロテクションに直撃‼︎』

「被害は?」

『……デビューしたお笑い芸人が、前座で舞台に上がった時の観客の冷たい反応程度です』

「……この場合、芸人にとっては致命傷なんだが」

『……お笑い界の歴史としては、本当に微々たるものです』

「わかりずらいから!」


 モニターには、艦首を回頭して右舷兵装を一斉掃射する光景が見えている。

 まあ、効かないんだよ。

 

「インターセプト隊、出撃。目標は敵旗艦、無力化して地面に引き摺り下ろし、中に搭載されているデータベースを奪取してくれるか?」

『了解です。野郎共、今こそ特訓の成果を見せるときだ‼︎』

『『『『『ウォォォォ‼︎』』』』』


 モニターに映っている夏侯惇の背後では、テンションマックスのインターセプト隊が雄叫びをあげている。

 いやぁ、何が君たちを鼓舞しているのか、よくわからないんだが。

 ここ一番でのインターセプト隊の信頼度は高いからなぁ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 敵旗艦攻略戦から六時間後。

 地表では、解体された敵旗艦と、囚われたリヒャルド皇帝の姿がある。

 さらに部下たちも無力化され、解体中の艦隊外に作られた仮設テントの中に閉じ込められている。


「……マルスよ、よもや貴様まで破れるとはな」

「リヒャルド陛下。上には上がいる、それだけなのです」


 豪華な作りのテントの中に、『術式拘束』されたマルスとリヒャルドが閉じ込められている。

 あれはアクシアが作り出した拘束具だから、絶対に外れない。

 それなら一安心と、俺とアヤノコージが皇帝と謁見するのだが、まあ、謁見というよりも面会だよなぁ。


──バサッ

 テントを開いて中に入ると、椅子に座っているリヒャルドとマルスの姿がある。


「貴様が……貴様が、我が母星を蹂躙したのだなぁ」


──ダッ‼︎

 いきなり走り出すアヤノコージの手を掴もうとして、わざと掴まない。

 そのかわり腰に下げている宝剣は回収。


 すかさず拳を握ってリヒャルドの顔目掛けて拳を叩き込んでいるが、リヒャルドは動じることなくアヤノコージを見据えている。


「我は王として、このダルメシアン星系を治める主君として、危険なものを排除したまでだ。貴様のその腰の……そちらの女性の手の宝剣は、この銀河の秩序を奪う」

「何が秩序だ、そのために、星の人々の命を奪っていいというのか‼︎」

「大義の前には小さきこと。我が神となれば、彼らもまた蘇る。マルスが申していたからな」


 そう言われて、アヤノコージはマルスを見る。

 だが、マルスは頭を左右に振るだけ。


「それはアクシアがあればこそ。それも、霊子光器とアクシア、この二つが揃わない限り不可能です」

「だそうだ。その二つを揃えることができるっていうのか‼︎」

「そのためにも、我は神となる……あの上空に浮かぶ超銀河兵器があれば、我は神になることが可能なのだ‼︎」


 そう言われて、アヤノコージは俺の方を見る。

 こっち見るな‼︎


「ミサキ、それは本当か?」

「あ〜、誤解を解くために解説するが。リヒャルドとやら、あれは俺の船で機動戦艦アマノムラクモだ。超銀河兵器じゃねーからな」

「なん……だと? それならば、超銀河兵器は、さらに巨大なものなのか?」

「宇宙空間で、うちの船の横にあったピラミッドが、超銀河兵器の機動要塞グランドマーズだな。そんでもって、アクシアも霊子光器も俺が接収して契約したからな」

『ピッ……敵艦及び地下施設から『ビブ・エル』の回収完了。アマノムラクモに搭載しました』


 うん、これで任務完了一歩手前。

 あとは記憶を消すだけかぁ。


「さてと。そんじゃあ、俺の仕事は間も無くおしまいだ。イスカンダル、グランドアークの『強制消去術式』を作動準備。俺とアヤノコージが戻った時点で、この惑星の民から、神々の兵器に関する記憶を消してくれ」


 俺が叫ぶと同時に、リヒャルドが立ち上がる‼︎


「貴様ぁ、この叡智をけすというのか、神々に至るまでの道を‼︎」

「まあね。一旦は消去する。マルスは俺についてこないので、それらを消してここに放置する。どうせバックアップはあるんだろうけどさ」

「…。そんなものはない。宝具としての知識は残っても、この拘束術式により、外に告げることはできなくなっているからな」

「それでも戦闘力は残しているんだからな。お前が俺じゃなくリヒャルドを選んだ時点で、俺はお前をつれて行くことを諦めたのだから」


 そう説明してから、俺はテントを後にする。

 戻ってアヤノコージをズルズルと引きずって、もう一度後にする。


「なぜだ、どうして奴を殺さないんだ‼︎」

「それは俺の仕事じゃないからな」

「それなら俺が仕留める、宝剣を返せ」

「これはまだ、俺の戦争だからな。お前が仕掛けたいのなら、後からやればいいさ」


 そう説明してから、迎えに来た降下艇に乗ってアマノムラクモに帰還。

 その直後、機動要塞グランドアークが稼働し、惑星に住むすべての人々の記憶から、神々の技術に関するものが全て消滅した。

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