第126話・暴君、名君、それとも
アマノムラクモの機動巡洋艦タヂカラオによる、フォースプロテクトバリア。
これにより惑星アルバは、衛星軌道上に張り巡らされたバリアにより包み込まれてしまった。
そして示威行動とも取れる機動要塞グランドマーズによる島一つの蒸発。
これだけで、アルバの世論は大きく傾いた。
「そもそも惑星アルバは、帝国の中でも選ばれたものしか居住を許されていない星なのです」
「へぇ、そりゃまたどうして?」
イスカンダルの講釈が始まる。
その間、アルバの様子がどうなっているか、トラス・ワンに解析を頼んでおく。
まあ、命乞いが来る可能性もあるんだが、ようは皇帝リヒャルドがどう連絡をしてくるのかが、勝負の要というところであろう。
「この惑星は環境が良いのです。それに帝国本星ゆえに守りも固く、ここを攻める存在などあり得ないというぐらいに、帝国の無敵艦隊の信頼も厚かったのです」
「うん、過去形だね。今現在は?」
『ピッ……地上の宇宙軍施設では、アマノムラクモへ向けてミサイルを打ち出す準備が進められています』
「へぇ、それってフォースプロテクトを貫通する?」
『ピッ……無理に決まっています。魔力中和フィールドでも搭載しない限りは、不可能です』
「うん、死亡フラグ立てたな。トラス・ワン、ミサイル発射システムをハッキング、こっちでコントロールを掌握」
まあ、撃たせて『なに、我が軍の切り札が効かないのか‼︎』よりも、『なに、システムが奪われただと‼︎』の方が優しいよね!
『……システム掌握。宇宙基地のシステムをハッキングした時点で、帝国軍の軍人およびその家族が、アマノムラクモに対して亡命を希望しましたが』
「断っていいよ。ただ、俺たちの目的は告げないけど、民間人に対して危害を与えることはないって伝えて」
『ピッ……無人島消失の時点で、津波および海洋資源に対する被害が出ておりますが』
「……まじか、まあ、そうなるよなぁ……うん、戦時中だから、敗戦国の帝国に補償させるか」
『ピッ……その帝国軍から通信です。速やかに降伏しろと、さもなくは帝国の切り札を出すと』
ここにきて、まだ強気だなぁ。
帝国の切り札ってなんだ?
まだそんなものがあるのか?
そう考えてイスカンダルをチラッと見たら、軽く頷いている。
「ミサキさまの心の中が見えます。全て殲滅しろ、ですね?」
「ちっがうから。なんでうちの子たちはさ、『アマノムラクモに逆らった存在は死ぬべし』って理論なの? そんな過激な子に育てた覚えはありません‼︎」
『ピッ……わかります。我々はミサキさまの心の中にある闇の集合体。お言葉は不要、全て破壊してみせます』
「オクタ・ワン、それはわざとだろ。それで本音は?」
『ピッ……アマノムラクモに逆らうものには一言。【辞世の句を詠め】です』
「あいぇぇぇ。って、まあ、基本理念がそれで、次があれだろ」
「はい。マイロードの心の赴くままに。故に、マイロードが望まないことは、私たちは行いません」
ナイスだヒルデガルド。
それよりも切り札ってなんだ?
──ゴゴゴゴゴ
帝国王都郊外から煙が立ち上る。
いくつもの巨大施設が連なっていた地区が崩壊し、何かが姿を表したらしい。
「オクタ・ワン、状況報告」
『ピッ……高エネルギー反応。神威を感じる存在が現れました……って、ゲェェェェ、あれは二十四の伝承宝具の一つ、『思考する暴君・人工軍神マルス』です」
「うん、解説ありがとう。本気で危険なら、とっくに対処行動しているよね」
『ピッ……お褒めに預かり恐悦至極』
拡大したモニターには、身長二メートルほどの騎士が立っている。
中世風のフルプレートアーマーに、巨大なシールドとエネルギーソードという出立ちの騎士が、エネルギーソードを一振りするごとに、付近の建物が次々と破壊されていく。
まるで、これから起こるであろう戦闘の邪魔にならないようにと。
『ピッ……回線に割り込まれました』
「はいはい、回線オープン」
まさかアマノムラクモの回線に潜り込めるとは驚きだが、敢えて驚く素振りもせずに頷いておこう。
そのまま回線が開いたとき、静かな声が聞こえてくる。
男性とも女性ともおぼつかない、中性的な声。
なんというか、聞いているものの頭の中にある様々なイメージから、神々しい雰囲気が抽出された感じ。
『我は人工軍神マルス。旗艦隊に対して一騎討ちを望む』
「断る‼︎』
『……怖気づいたか‼︎』
「何が悲しくて、一騎討ちで決着をつけないとならないんだよ。どうせあれだろ、一騎討ちの勝者が何もかも総取りなんだろ‼︎」
『当然です。勝者は全てを得、敗者はすべてを失う。私が勝ったならば、貴様の伝承宝具を寄越すのだ』
うん。
これってあれだよね。
お約束のパターンならば、『上等だ、やってやるよ』って啖呵を切って、奴の目の前に降りていくパターンだよな。
そんなの知るか。
お約束は破られる為にある。
「断る。断固として断るし、俺は一方的にお前を蹂躙する。お前から神威を感じるから、お前が神々の遺産のデータバンクだろ」
『違うな。神々の遺産のデータバンクは【ビブ・エル】だ。この地下にある。それを破壊したければ、俺と勝負だ』
うん。
解説、乙。
ありがとう、お前の足元なんだな。
「オクタ・ワン、奴の足元地下に施設があるか?」
『ピッ……あります。シェルターの役割もしていますから、そこに逃げた人たちもいるようです』
「いや待って、そこって重要拠点だよね? なんでそこに人が逃げているんだよ」
「ミサキさま。恐らくですが、マルスが引き込んだ可能性があります。そこに人がいるということで、攻撃を躊躇させているかと」
『ピッ……可能性大です。どうしますか? 衛星軌道上のタヂカラオの一斉攻撃で、大陸ごと吹き飛ばすという選択肢もありますが』
「なんで殲滅モードなんだよ……何か手がないものか」
これは参った。
相手は人間の心理をよくわかっている。
というか、ここに至るまでの俺の行動パターンを解析したんだろうなぁ。
「ミサキさま。こちらも切り札を用意してありますが、使用許可を貰えますか?」
イスカンダル、一体どんな切り札があるんだよ。
「それって?」
「はい。ミサキさまが破壊したり回収したものから、使用可能な部分を使って再生したものがあります」
「ふぅん。じゃあ、それ行ってみよ。イスカンダルが自信を持ってお勧めできるものなんだろう?」
嫌な予感はするんだが。
ここは背に腹は変えられない。
「了解です。アクシアから転送します」
ニッコリと微笑むイスカンダル。
そしてモニター上では、人工軍神マルスの前方200mほどに、魔法陣が形成されると、それは姿を表した。
「我……盟約の元に、ミサキ・テンドウさまに忠誠を誓う。我が名は『朔夜』、我が一族の再生を約束されたミサキさまの為に、己が魂が冥府魔道より黄泉がえったものなり‼︎」
魔法陣から姿を表したのは、新型マーギア・リッター『朧月』。
パイロットは朔夜って、えええええ?
なじぇ?
「イスカンダル‼︎」
「はい。霊子光器を用いて朔夜を再生しました。そして、ミサキさまに忠誠を誓うならば、新たな土地にて一族の再生を約束したのです」
「それで再生したのかよ。でもよ、一族すべてを再生するだけのものがあるのか? それこそ二十四の伝承宝具クラスじゃないと……」
モニター上には、朧月を睨み合いをしている人工軍神マルスの姿がある。
「……な〜る。朔夜、そいつを捕まえろ、コアだけあれば破壊して構わない。そいつが、お前の一族再生の鍵だ‼︎」
『委細承知‼︎ 人工軍神マルス、貴様の罪の数を数えろ‼︎』
素早く走り出すと、軍神マルスに向かって忍者刀を振り下ろす朧月。
だが、その一撃をマルスはどうにかエネルギーソードで受け凌いでいた。
身長二メートルの人工軍神マルスが、身長十五メートルの朧月の一撃を。
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