第125話・ガチで戦争をすると、こうなる
惑星カザス・アルバ。
カザス・アルバ帝国本星であり、皇帝リヒャルドの故郷。
このダルメシアン星系の叡智の集大成であるこの星は、現在、慌ただしい雰囲気に包まれている。
「マルス、本当にマーロゥの生き残りが来ると言うのか‼︎」
『はい。私の予知システムでは、あと八十六時間以内に、アヤノコージ・マーロゥが超銀河兵器を操り、この星に対して攻撃を開始するかと思われます』
惑星アルバ・電脳監視システム『マルス』。
アルバ帝国を必勝に導く予知システムを搭載した、異世界の叡智の結晶。
このダルメシアン星系に流れ着いたそれは『二十四の伝承宝具』の一つであり、この世界に存在する神具の在処をリヒャルドに伝えたのも、彼である。
その彼によって、帝国は神の力の一端を手に入れたものの、それを使いこなすだけの『神威』を持たない人間しか存在しない。
結果、『人間が神に近づく為に得た知識』は、惑星アルバにある巨大な遺跡『ビブ・エル』に収められ、マルスによって『優しく翻訳』されたものを与えられるだけであった。
神の世界に侵入する『次元潜航システム搭載型戦艦』も、その力の一つ。
ビブ・エルから抽出されたデータから作り出された『人間製機動戦艦シリーズ』であるのだが、それを作り出す為に、三つの惑星が侵略され、蹂躙された。
それでも完成したのは、機動戦艦とは似ても似つかないものであった。
「マルスよ、我が星がマーロゥごときが手に入れた超銀河兵器に負けるとでも言うのか、其方の改造したこのアルバは、超銀河兵器にも対抗しうる力を持っているのではなかったのか‼︎」
『はい。いつか、マーロゥが超銀河兵器を手に入れた時のために、このアルバは星にして最強の戦闘力を有した存在に作り替えました。ですが、何事にも例外はあるのです』
「例外とはなんだ‼︎」
『神が作りし伝承宝具。それを操る存在が、神であった場合……我が力は無力となります』
「神だと、相手は、マーロゥは神の力を手に入れたと言うのか‼︎」
リヒャルドは怒りに震える。
このダルメシアン星系は彼のものであり、未来永劫、彼の血を受け継ぐもののものでなくてはならない。
マルスが与えた叡智さえあれば、リヒャルドはやがて神にも辿り着くことができたであろう。
それが、たかが蟻のような存在に脅かされるとは、予想もしていない。
──ヴィーン、ヴィーン、ヴィーン
警報が鳴り響く。
「なんだ、何が起こった‼︎」
『惑星アルバの衛星軌道上にバリアが発生。星全体が強力なバリアに包まれました‼︎」
「バリアだと、マルスよ、これは其方の行った対策なのか? 星全体をバリアで包むとは、とんでもない力だな」
『違います。これが、マーロゥの力です。マーロゥの艦隊により、星が完全に包囲されたのです。リヒャルド、すぐに逃げる準備を。私では、あなたを守り切る自信がありません』
「な、な、な、なんだと、我に逃げろだと‼︎」
いくら叫んでも、マルスは返答を返さない。
今はそんなことよりも、この窮地をどう躱すことができるのか、それを計算しなくてはならなかった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
『ピッ……ミサキさま。二十四隻の機動巡洋艦タヂカラオにより、惑星アルバをフォースプロテクトによって包み込みました』
「ほう、やるなタヂカラオ。さすがはアクシアカスタマイズだなぁ」
アクシアで改装した帝国艦隊は、機動巡洋艦タヂカラオとしてアマノムラクモ艦隊に組み込まれた。
合計三十隻のタヂカラオ、そのうちの二十四隻により、惑星アルバをまるごとフォースプロテクトによって包み込んだのである。
何故かって?
そりゃあ、衛星軌道上から監視して、この星に存在する『神々のデータバンク』を探す為だよ。
『ピッ……イスカンダル、目的のものは存在しますか?』
「はい。十二番艦直下、惑星アルバ帝国王城地下に力を感じます……」
「流石だな。さて、そんじゃやります。グランドマーズ展開、何もない島を一つ消滅してくれる?」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げるイスカンダルが、正面モニターを睨む。
その瞬間、帝国王都近くの海上にある小さな無人島が、一瞬で『蒸発』した。
「な、な、な、なんだこれは‼︎」
ここでようやく、艦橋の隅にあるゲストシートに座っていたアヤノコージが反応した。
その横に座っているアレキサンダーは黙ってモニターを見ていたのだが、アヤノコージはアマノムラクモが作戦行動を開始した瞬間から、口をパクパクさせて呆然としていたのである。
自分の知るテクノロジーを遥かに上回る存在。
その一角から、改めてアマノムラクモの実力を目の当たりにしたのである。
「お、ようやく反応したのか。これがアマノムラクモの力の一端だけど、感想は?」
「あの帝国が、まるで赤子の手を捻るような状態じゃないか……」
そうとしか言いようがない。
このダルメシアン星系で無敵の存在だった、『帝国艦隊』が、わずか半日も立たないうちに無力化されていたのである。
本星軌道上に存在した帝国艦隊。
150隻を超える帝国の剣が、モニターの向こうで次々と蹂躙されていった。
マーギア・リッターによる接近。
外部装甲を破壊。
内部に突入した五人のサーバントが内部を制圧。
今もなお、帝国艦隊は無力化を続けている。
反撃しようにも、タヂカラオやアマノムラクモに対しての砲撃は全てフォースフィールドにより阻まれてしまう。
如何なる攻撃も、アマノムラクモには効果がなかった。
そして『超銀河兵器・グランドマーズ』が、無人化した敵艦隊を『見せしめ』の為に攻撃。
ピラミッド型の機動要塞から発する『霊子分解術式砲(ディスインテグレート)』により、全長300mの敵艦が、一瞬にして蒸発したのである。
「あ、あれが超銀河兵器か……」
「まあな。まあ、お前に使いこなすことは不可能だから、安心しろよ」
「そうなのか?」
まあ、あの主砲のエネルギーが魔力だから、お前が錬金術をしっかりと修められたなら、いつかはつかえるかもなぁ。
「あのグランドマーズの中枢システムは魔力依存だ。アヤノコージの魔力だと、明らかに出力が足りないし、あの砲撃はマスター登録した人間の魔力しか受け付けない。まあ、お前に渡すときは、その鍵で書き換えられるから」
「……十万を超える魔力が必要ということか」
「察しがいいね。んじゃ、そろそろ最後の仕上げと行きますか」
そんじゃ、お約束の降伏勧告。
『ピッ……イスカンダル、敵システムの掌握は?』
「今しがた、完了です」
「オッケー。外部通信回線接続、惑星アルバの通信網全てにダイレクトアクセス‼︎ 我は機動国家アマノムラクモ国主、ミサキ・テンドウだ。帝国皇帝……」
『ピッ……リヒャルドです』
「リヒャルドに告ぐ。速やかに降伏しろ、さもなくば、この星がこの星系から消えると思え‼︎ 繰り返す……」
さて、一時間だけ待つとしよう。
それで、どう動くか楽しみである。
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