第124話・与える力、受け継ぐ力

 イスカンダルの提案。


 それは、アヤノコージ・マーロゥに【機動要塞グランドマーズ】を譲渡すること。

 まあ、そういってくると予想はしていた。

 

「さて。グランドマーズをアヤノコージに渡す理由は?」

「帝国本星のデータベースを破壊した後のことは、この星系のものに任せる。ただそれだけのことです」

「反対ですわ。アヤノコージの持つグランドマーズを、帝国が接収した場合の危険性を考えてますか?」

「ですから、マーロゥ家オンリーワンだった設定を、そのまま引き継がせるとよろしいかと」


 イスカンダルの案としては、アヤノコージの持つマーロゥの宝剣『単体』で、機動要塞グランドマーズの起動キーを形成してしまうこと。

 そんなことが可能なのかというと、グランドマーズの登録時に一旦回収し、カスタマイズしたのちにアヤノコージに返却すれば良いらしい。

 その程度のことならば、グランドマーズ中枢端末は理解してくれるし、イスカンダルが直接、グランドマーズに赴いて『わからせてくる』そうだ。


「可能なのか?」

「まあ、アマノムラクモ程度の魔導頭脳では、不可能でしょう」

『ピッ……その挑戦は受けてもよろしいですか?』

「以前、アクシアをゴミのようなものといってましたからなぁ。その、ゴミ程度の存在に対して、塵芥がどこまで出来るのか楽しみですが」

『ピッ……グヌヌ』


 なんで喧嘩していることやら。

 まあ、本気ではなく、お互いに戯れあっているようにしか感じないから、かまわないんだがな。


「それはそれとして、いつグランドマーズに向かうんだ?」

「アクシアの権限を利用します。そもそもグランドマーズは、アクシアの搭載端末の一つです。遠隔操作により改修は可能ですので、その時点で改造してしまいましょう」


 そこで宝剣の回収システムを組み込み、本来の鍵としての役割を再構築するそうだ。


「艦隊の改装作業と並行してよろしく。そんじゃ、俺はアヤノコージと話をつけてくるわ」

「よろしくお願いします。三時間もあれば、システムの再構築は終わらせます」


 そんじゃ、めんどいことはまとめて終わらせるとしますか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 先日。

 ミサキから錬金術の理について説明を受けた。

 まだ俺では錬金術に必要な魔力の練り込みが少ないらしく、まだまだ時間をかけなくてはならない。

 それなのに、集中できない。


「アレキサンダー、ミサキに連絡してくれ。親父たちが無事だと話していたことについての説明が欲しいと」

「難しいですなぁ。タバコ屋の梅宮さんは所用で出かけていますし、ハンバーガー屋のバーキンさんも今日は見かけていませんから」

「その二人しか、ミサキと連絡が取れないのかよ‼︎」

「はい。そのお二人が、連絡要員だそうです。他の街の人も連絡は取れるそうですが、取り次ぐなと言われているそうでして」


 なんだそれは。

 この街の中で、俺とアレキサンダーだけがミサキと連絡が取れないのかよ。

 あくまでも俺たちは客人であり、この街の住人ではないということか。


「くっそぉぉぉ。俺は知りたいんだよ、真実を」


──ピンポーン

 思わず叫んだとき、玄関のインターホンが鳴った。

 まさかミサキか?


「アヤノコージさま。ミサキさまがいらっしゃいましたが、どうしますか?」

「応接間に通せ、お茶の準備だ。俺は応接まで待つ」


 ようやく来たか。

 それじゃあ、ミサキの知る真実を全て教えてもらおうか。


………

……


「随分と落ち着いた調度品だな」

「最初から据え付けてあった物だ。あまり無駄遣いはできないからな」


 アヤノコージ邸の応接間に案内された。

 まあ、ここまで手が込んでいる内装だとは思わなかったよ。

 最近、というかここにくる時は、いつもベランダか中庭のテーブルで話をしていたからなぁ。


「それで、今日は何の用事だ?」

「まあ、そろそろそっちも聞きたいことがあるんじゃないかと思ってさ」

「それなら話は早い。俺の両親はどこにいる? 無事なんだろ?」


 ほら来た。

 ここまでは予想通りだよ。


「ん? 惑星アマノムラクモの裏側の大陸だってさ。オタルに残っているうちの諜報員が見つけ出したんだとよ」

「そ、そうか、母上も父上も無事なんだな。今はオタルか……」

「いや、まだ星の裏側。何もないところだけどさ、定期的に行商に行っているから、普通に生活しているよ?」


 そう説明すると、アヤノコージが何かを聞きたそうにして、止めた。


「そうか。オタルには帝国兵がいるから、まだ安全でないと判断したのか」

「まあ、そうらしいよ。いくら帝国兵が隷属されているとはいえ、彼らに対する命令は『アマノムラクモ関係者に対して反抗しない』だからさ。マーロゥ王家には手出しできるんだよ」

「そこまでの配慮、感謝する」

「まあ、いいってことよ。これで全てが終わったら、親子共々星に帰れるだろう?」


 アレキサンダーに差し出された紅茶を一口飲む。

 うん、さすがは執事、いい仕事をしている。

 香りが一層引き立つように、温度までしっかりと管理しているなぁ。


「全てが終わったら、か。単刀直入に聞くが、超銀河兵器を発見したのか?」


──ゴクッ

「発見した」


 アヤノコージが息を呑む瞬間に言ってやったわ。

 息を呑んで待つなんてことはさせないよ。

  

「あ、あっさりか……ならば、それを俺に差し出すことはできるか?」

「なんで? もう両親の仇は伐つ必要がないよな? 生きているんだからさ」

「我が故郷、マーロゥ本星は、彼らの無慈悲な侵略で大打撃を受けたんだぞ、それを甘んじて受け入れろと? 罪なき民が大勢殺されたんだぞ、それを運命として受け入れろと‼︎」


 アヤノコージの拳に力が入る。

 ふぅ。

 結局は復讐のための道具かよ。

 まあ、俺の目的が終わった後なら、好きにすればいいさ。


「超銀河兵器は、アヤノコージにくれてやる。但し、俺のやるべきことが終わってからだ」

「やるべきこと? それはなんだ?」

「詳しくは説明できない。ただ、そんなに遠い話じゃない。だから、お前はここで俺が全てを成すまで待つか、それとも両親の元に戻るか、どっちかを選べ」


 まあ、ここにいても何もやることはない。

 それでも、ここにいるというのなら構わない。


「ミサキのやるべきことが終わるまで、どれぐらいかかる?」

「最低はひと月。もう少しかかる可能性もあるが、一年も必要ない予定だ」


 まあ、半年以内には終わる計算だと、アマノムラクモ評議会はいうが。

 実際のところ、電撃作戦で終わらす予定だからね。


「俺はここに残る。可能なら、そのやるべきことを見届けたい」


 ふぅん。

 ただ残るのではなく、見届けると。

 ひょっとして、俺が何をするのかわかっているのか?


「どこまで知っている?」

「俺は何も知らない。ミサキが何かを成すためにここにいることも、俺を助けた訳も。けれど、ミサキは帝国に何かをしようとしている……この宝剣が、そう伝えてくれる」


──グッ

 腰に下げている宝剣を握りしめて突き出す。

 なるほどなぁ、そういう能力もあるのか。


「ふぅ。アレキサンダーと同行しているときに限り、アマノムラクモ艦内を自由にして構わない。ただし、監視にうちのサーバントを一人つける。エレベーター前に待機させるから」

「ならば、アマノムラクモの艦橋にも案内して欲しい。最後は、そこで俺自身の目で見届けたい」

「おいおい、いくらなんでも……」


 それは無理だ。

 そう話したかったんだが、いつになく真剣な目つきで俺を見ている。

 ふう、ここまで真剣なら、断る必要もないか。


「アマノムラクモに対しての敵対意思を見せたら殺す。それでいいなら、艦橋までのエリアの入室を認める」

「約束する。この宝剣に賭けて」


 まあ、しゃーないか。

 それじゃあ、帝国最後の一ヶ月までを、のんびりと堪能してもらうとしますか。

 

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