第120話・救世主プログラムと、アクシアと
ルルイエにやってきて三日目。
未だにクトゥルフの出した謎解きの答えが見つからない。
そもそも、あの問題自体が分からん。
ちいさきもの
かよわきもの
かしこきもの
この三つが何か?
自分の名前を告げたが、それは正解だが正しくはない。
いや待って、正解ならそれでいいよね?
「回答を理解する必要がある。問題を理解し、それに適切な回答を理解して答えなくてはならないのか」
これは参った。
当てずっぽうの答えなど受け付けないという意味だからな。
考えるわぁ。
「頭の中からいろんな思考が溢れ出すわ。なんていったっけ、人間は考える葦である……あの意味を答えよみたいな感じだよ」
ええっと、この広大な宇宙の中では、人間は一本の細く弱い葦のようなものであるが、思考する力を持つために、宇宙よりも偉大である、だったかな。
もっと深い意味があったはずだけど、それは思い出せない。
小さきものは、大きなものに比べたら弱い。
かよわきものは、つよきものにはかなわない。
かしこきものは……ちがうな。
だが、それ故にかしこきものである。
「かしこきものは、なにか? それはこの広大な宇宙の中に存在する、小さな人間。知恵があるが故に、大きなものにも強きものにも対抗できる知恵を持つ?」
これが答えなら、自分の名前を告げた時点では正しくない。
それは『俺が答えだ』と言っているのであって、それ以外を否定するから。
人類?
いや、それは地球的な概念。
もっと宇宙にスケールを合わせて回答をする必要があるのなら。
「そうか、答えは『命』もしくは『魂』か」
超宇宙的解釈。
生命と答えても構わないが、かしこきものの定義がどこまでまかわからない。
本能だけで動くものもかしこきものなのか?
それらを含めた全て、つまり『生命』が答えなのか?
否。
生命の根幹たる『魂』こそが、答えではないのか?
「クトゥルフ‼︎ 答えは『魂』だ‼︎」
咄嗟に叫ぶ。
これで良いのかという問いじゃない。
これが答えなんだという絶対的な自信。
『かしこきものよ、鍵を受け取れ』
──ブゥン
目の前に水の鍵が浮かび上がる。
それを手にしてから、宝剣の鍵を取り出して重ねると、水の鍵は吸収され、宝剣の柄から四本の鍵が伸びている。
『かしこきものよ。最後の問題を与えよう。アクシアは、世界を滅ぼす最後のプログラム。何もかもを無に誘導する。また、アクシアは、世界の希望でもある。何もかもを生み出し、全てを再生する。この意味がわかるか?』
「それって……神の奇跡か?」
『いかにも。それ故に、アクシアはこう呼ばれている。『|救世主(メシア)プログラム』と』
「……二十四の伝承宝具の一つアクシア。いや、クトゥルフよ、アクシアとは、二十四の伝承宝具の一つではなく、全て等しく『アクシア』じゃないのか?」
『違うな。アクシアはあくまでも伝承宝具の一つに過ぎず。それを手にしたものは、『|救世主(メシア)プログラム』を使うことが許される』
それはまた、なんというチート。
二十四の伝承宝具って、一つ一つヤバい代物なんじゃないかよ。
そもそも、機動戦艦アマノムラクモだってさ、元々は世界を終焉に導く戦艦だよ?
それって神の力じゃないかよ。
そんなの、人間が使いこなせるはずない……。
「あ〜。なるほど納得。だから俺なのか」
『かしこきものよ、理解したか』
「おかげさまで。あとは、アクシアはどこにあるのか、それを探すだけだな?」
『かしこきものよ……アクシアは、君の手の中にある』
「ん?」
ふと手を見る。
そこにあるのはアクシアの鍵。
「アクシアは、位相空間の向こうにある。つまり、距離も時間も関係なく……鍵をもつもののそばに存在する?」
『かしこきものよ。鍵を使いなさい』
──ゴクッ
そういうことか、そうだよな。
アヤノコージの近くにアレキサンダーがいたんだから、そういうことなんだよ。
鍵の元に、アクシアはある。
ただ、それを手に入れるための手順が大切。
そして、神威を持つもので無くては、鍵は答えを示さない。
神々が作りし二十四の伝承宝具は、神が使う道具であるから。
「それじゃあ、早速むかうとしますか」
「それは不可能‼︎」
──シュシュシュシュンッ
突然、空間から声が響いたかと思うと、手裏剣が大量に飛んでくる‼︎
「|神の左手(ゴットレフト)っ‼︎」
左手に魔力を集めて力一杯振り回し、手裏剣を全て弾き飛ばすと、突然目の前に魔法陣が発生する。
「まさかだろ?」
「そのまさかでござるよ。ミサキ・テンドウ‼︎ 貴様の持つ鍵を貰い受ける‼︎」
──シュンッ
速攻でアクシアの鍵を|無限収納(クライン)に収めると、姿を表した月影に向かって構える。
「よくもまあ、ここまで来たものだな、月影よ」
「その名前は捨てた……今の名は、朔夜だ」
「捨てたって……忍者が名前を捨てるのか? それって、抜け忍ってことかよ」
「否。拙者を謀った帝も、里長も、既にこの世にはいない。里に残った僅かな同胞と、死した同胞のために、拙者は悪鬼羅刹となった‼︎」
──シュゥゥゥゥ
右手を突き出し、その中に忍者刀を生み出す朔夜。
取り出したんじゃなく、目の前で作りやがった。
ただ、その瞬間に奴の左胸元が輝いていたんだが。
(|解析(アナライズ)……そういうことか)
鑑定結果。
朔夜の左胸から左肩、腹部にかけて『霊子光器』の侵食を確認した。
神威を糧に奇跡を生み出す伝承宝具は、神威を持たない昨夜の体を糧として、奴の願いを叶え続けていたのか。
「朔夜、それ以上霊子光器の力を使うな、自分の体が侵食されているのに気が付いていないわけじゃないんだろう‼︎」
「無論、委細承知‼︎ だが、己の魂を賭けてでも、同胞を助けなくてはならない‼︎」
「そして自分が死んだら、何も助けられないことに気がついていないのかよ‼︎」
「霊子光器と一つになった拙者を、誰も止めることなどできぬ、拙者は無敵なのだ‼︎」
「死亡フラグ満載かよ」
「うるさいうるさい‼︎」
口元から、涙腺から、そして身体中から薄らと血が流れ始めている。
もう、朔夜の体が限界なのだろう。
──キィィィィィン
朔夜がバックステップで後方にジャンプすると、その後ろに朧月が姿を表す。
そこに吸い込まれるように同化すると、朧月が忍者刀を引き抜いた。
「くっそ、どこまでも忍者な奴だな‼︎」
──ブゥン
|無限収納(クライン)からカリヴァーンを召喚し、俺自身も素早く搭乗する。
だが、|無限収納(クライン)の中ではカリヴァーンは修復できないので、外装甲のないフレームのみの姿である。
そのフレームもあちこちに亀裂が走り、一部部品も存在しない。
『笑止、そのような神器で朧月に戦いを挑むとは』
「こちとら神レベルの錬金術師だ、道具が揃えば、なんでも作れるよ‼︎」
すかさず|無限収納(クライン)からアクシアの鍵を取り出すと、それをカリヴァーンコクピット内の機動制御球に向かって突き刺す‼︎
「アクシア! カリヴァーンの再生を頼む」
──シャキーン‼︎
叫びつつ鍵を回す。
アクシアの鍵は物理的な鍵ではない。
要は霊子の塊。
時間も空間も超越し、アクシアの力が鍵から注がれる。
──シュゥゥゥゥ
一瞬でカリヴァーンが修復する。
そして鍵を再び|無限収納(クライン)に戻すと、正面の朧月に向かって身構えた。
「相手をしてやるよ。全力でかかってこいやぁ‼︎」
一刻も早く、朔夜の身体から霊子光器を分離しないとならない。
それで無くては、また同じ悲劇を繰り返しそうな予感がするから。
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