第121話贖罪と平穏のキャパシティ

 凄惨。


 目の前の光景は、その一言に尽きる。

 朧月とカリヴァーンの戦闘は、一進一退の攻防を繰り返していた。

 朧月は霊子光器、カリヴァーンはアクシアの鍵と、お互いに自己再生能力を持つ機体同士。

 傷つくたびに自己修復が始まり、お互いに手詰まり状態が続いていた。

 しかし、果て無く続く戦いかと思いきや、徐々に朧月の動きが鈍り始める。


『動け……まだだ、まだ終わりじゃない‼︎』


 肉体の九割を霊子光器化した朔夜が、尚も朧月を立ち上がらせて、一歩ずつ前に出る。

 こうなることは予想していたし、だからといって手加減なんてできない。

 油断したらこっちが危険だし、なによりも、霊子光器による侵食が始まった時点で、朔夜の命は尽きている。

 今の朔夜は、霊子光器に繋がれた傀儡そのもの。

 もう、本能だけで動いているようなものである。


 一撃でとどめを刺そうにも、迂闊な火力ではルルイエを破壊してしまう。


「くっそ、滅殺が使えたらどんなに楽なことか」

『では、ワンハンド滅殺でいきましょう』

「え、ワンハンドで滅殺を?」


 カリヴァーンの右掌底。

 それを打ち込む際に、手のひらの中心に|神の左手(ゴットレフト)の魔力を集める。

 それで頭部を掴み、朔夜を魔力コードで覆い尽くしてから、他の部分を|悪魔の右手(デモンズライト)で粉砕する。

 こうする事で、朔夜にダメージが入らない状態で朧月を吹き飛ばすことができる。

 そこから先なんて、まさに神任せ運任せ。


『……という手順です』

「成功確率は?」

『バージョンアップした私なら、120%制御可能』

「よっしゃあ、ワンハンド・滅殺モード」


──ゴウゥゥゥ

 右掌を上に向けると、そこに白い炎が発生する。

 その周りを赤い炎が包み始めると、中心が空洞状態に広がって行く。


『ま、ダダ……マダ、オワリジャ……』


 ガシャンガシャンと、朧月が歩み寄ってくる。

 一歩、また一歩と大地を踏みしめるたびに、外部装甲が、腕が、一つ一つ崩れては落ちて行く。

 その都度損傷部位が白く光るものの、すでに再生能力は途切れている。

 つまり、そういうこと。


「終わりだわ。お前の気持ちは理解できる、だが、お前はやり方を間違っていたよ」


──ゴシュゥゥゥ

 カリヴァーンの掌底が、朧月の顔面を捉える。

 そのままガッチリと顔面を掴むと、勢いよく後方に向かって腕を振り抜く‼︎


──ブチブチブチィィィ

 朧月の頭と首が分断され、金色の細胞組織のようなものが切断面でブチブチと千切れていく。


「またな……神威滅殺‼︎」


──ドッゴォォォォ

 右手で掴んでいた頭部を左手に移し、右手で朧月の体目掛けて全力の掌底‼︎


 その瞬間、朧月が光のように散り始めた。


『コクピット内、朔夜の生体反応の消滅を確認』

「了解……そんじゃ、悪の親玉を引き離しますか」


………

……


 朧月の頭部コクピット。

 その中には、朔夜の姿はない。

 シートの上に転がっている伝承宝具『霊子光器』以外は。


「まあ、触れる程度なら問題はないし、これは有効活用させて貰うとするか」


 ポンポンと霊子光器を叩く。


『……貴殿が、新しい主人か?』

「ほらな。お前は霊子光器だな?」

『いかにも。正式名称は【因果変換器】という。あらゆる因果を変換することができる』

「そっかそっか。つまり、俺の後輩に当たるわけだな? ラプラスの加護を持つ亜神の俺のな」

『……何を求める?』

「そうだなぁ。起こった不幸を無かったことに、っていうのはどうだ?」

『何を代償とする?』

「へぇ……俺に代償を求めるのかよ。そんじゃ、お前はアクシアの中に吸収決定な」


──ブルッ

 すると、霊子光器が震えた。


『解決策を提示しよう。全てを巻き戻すには、ラプラス本人の力が必要だ。だからこそ、我はアクシアと一つになり、アクシアの力で可能な限りの因果の修復を行う、これでどうだ?』

「吸収したら一つになるだろうが?」

『違う、吸収とはすなわち、我が無となる。そうではない、アクシアの端末の一つとなる』

「ふぅん。まあ、俺の望みはさっき伝えた。できるかできないか、ハウマッチ?」

『よかろう』


 話はこれで終わり。

 アクシアの鍵を取り出して、霊子光器に突き刺す。

 あとはゆっくりと右回りに回すと、霊子光器はアクシアの中に収められた。

 鍵を持っているからわかる、アクシアの中のシステムの一つとして霊子光器が組み込まれたのである。


「ふぅ。クトゥルフさんや、騒がしくしてすまなかったな」

『かしこきものよ、もう少し全力で戦ってくれれば、この我の封印は解けたものを』

「怖っ‼︎ そんなことはしないさ。そんじゃ、あとは帰るだけなんだけど、あの扉って、あんたを封じるためのものだよな? エルダーサインだよな?」

『かしこきものよ、その通りだ。扉が一つでも開放されたなら、我の封印は解ける。さあ、どうやって出る?』


 そんなの簡単だよ。


「来た時と同じだよ。あの扉は例外だろうさ。それに、転移してくれるんだろ? 他の旧神ができたように」

『ほんとうにかしこきものよ。脱帽する』

「帽子、被っていたのか……そんじゃ、頼みますわ」


 すぐさまカリヴァーンに搭乗して合図を送る。

 すると、周りの景色が溶けていき、気がつくと青空を落下していた。


「ここの神様たちは、こんなのばっかり好きなのか? スラスター全開‼︎」


──ガキン、ゴゥゥゥゥ

 背部スラスターが開き、空中で停止する。


『ピッ……ミサキさまの反応を確認。アマノムラクモは衛星軌道上で待機しています』

「了解だ、これで条件は全て揃った。いよいよ帝国に殴り込みだな‼︎」

『ピッ……これまで鹵獲した、全ての宇宙船で宇宙艦隊を組めます。それで帝国本星を衛星軌道上から砲撃しましょう』

「……怖いから。データバンクさえ破壊すれば良いから」

『ピッ……ご安心ください。ミサキさまのお手を煩わせることはありません。ミサキさまは艦橋天井のシミの数を数えていてくれれば』

「掃除しろ、このアホ頭脳がぁぁぁぁ」


 ふう。

 このやりとりも久しぶりだわ。

 そんじゃ、アマノムラクモに帰るとしますか。

 

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