第106話・超科学と、魔導とニンジャ疑惑と

 さってと。


 惑星ヒューペルとでも、仮称しておこう。

 この惑星由来の『大地の鍵』を探さないとならないんだが、どこから手をつけて良いものかさっぱり分からん。

 という事なので、風の鍵に聞くことにしようと。


──スチャッ

 無限収納クラインから風の鍵と宝剣を取り出し、重ね合わせて見る。

 

──ブゥン

 すると、風の鍵がスッと消えて、折れてなくなった刀身の部分に青い鍵が発生する。


「ふぅん。これが『アクシアの鍵』か。さて、残りの鍵を探す手がかりは……」


 鍵から発生する波長とかがあるんじゃないかと予測して、センサーで解析する。

 うん、あったわ、波長。

 これをカリヴァーンのセンサーに登録して、似たような波長がないか調べてみる。


──ピッ…ピッ…ピッ…

 うん、少なくとも、今いる場所に反応はない。

 そういう事なら、このまま飛び続けて見るしかないかなぁ。


『鍵の波長が弱く、最大でも100mも届かないものと推測されます』

「マジかよ。飛び回っただけじゃダメなのか」

『解。超低空飛行を行なったとしても、距離50m以内に接近する必要あり。かなり骨の折れる作業となります』

「サンキュー、カリヴァーン。とりあえず、街でも探して遺跡とかの情報を聞きだしてみるわ」


 ここまで難しいとは予想外だったわ。

 まあ、低空飛行で陸地を探して見るしかないんだけどさ。

 ひょっとしたらという事で、俺が最初にやってきた場所、あの直下に街でもあるんじゃないかって予想したよ。

 だって、鍵のある場所が地底都市という事で、降りた先があそこだよ?

 可能性としては、あの真下に遺跡か街があってもおかしくないよな?


「それじゃあ、低空飛行で、いくとしますか」


──キィィィィィン

 魔導式ステルスモードなので、熱源センサやそれに近しいシステムでは感知できない。

 光学迷彩も発生しているから、視認も不可能。

 という事で、もう一度陸地まで飛んでくると、ここからは速度を落として鍵の探査も行う。


「……街道がある。しっかりと舗装されているし、街灯もある。まあ、ロボットがいる世界なんだから、テクノロジーも高そうだよなぁ」


 時折、道路上を車が走っているんだけど、タイヤがないんだよ。

 ホバーなのか反重力なのかわからないけど、とにかく浮かんで走っている。

 あの技術、良いなぁ。

 もうすこし細かく見渡して見るため、内陸に向かう道路の横を飛ぶ。

 すると、道路に沿ってチラホラと、街並みが広がり始めた。

 地球のような作りの建物があちこちに並んでいるんだけど、なんでいうか、コンクリート打ちっぱなしみたいな色彩。

 灰色の建物が立ち並んでいるし、どれもこれも形が一緒。3LDK2階立てって感じだよ。


「人の姿も見え始めて……エルフ?」


 思わずモニターにアップで映して見ると、たしかに耳がすこしだけ尖っている。

 そこにジャラジャラとアクセサリーを付けているのは、宗教的なものなのか?

 

「ま、まあ、これは紛れ込んだらバレる案件だわ……あ、普通の人みっけ‼︎」


 なんだ、普通の人もいるじゃないか。

 見た感じだと、軍服のようなものを着込んでいるんだが。


「カリヴァーン、これって、種族が違うんだよな?」

『予測不能。ただ、地球人型は軍服のようなものを身につけていますが、エルフ型に同じ服装の人は見当たりません』

「やっぱり? とりあえず街の中に入って見たいんだけどさ、安全だと思う?」

『情報が足りない状態で、人の姿で徘徊するのは危険と判断。まずは姿を消して、街の中で聞き込み調査を行うのがよろしいかと』

「ですよね〜」


 しゃーない。

 とりあえずは姿を消したいので、『透明化の指輪』を錬金術で作成。

 材料はミスリル銀だけなので、実に簡単。

 五分もあれば、術式を魔力結合によって焼き付けられるので、実に早い。


「……さて、物は試しに……」


 指輪を嵌めて、透明化を発動。


「カリヴァーン、俺の姿は見えるか?」

『映像的には不可能。赤外線は確認できますし、炭素排出も確認できます』

「体温と呼吸は消せないか。まあ、そうだよな……」


 これは、元になった術式が存在した魔法世界の法則性も関与している。

 その世界では、『呼気を感知する魔法』なんてものがなかったし、『体温を検知する魔法』も存在しない。

 つまり、そこに比重が置かれていなかったということ。

 魔法があって、それに対応する術式が存在するのが普通と考えると、それがない時点で新しく作り出さないとならないんだよ。

 しかし、今から新しい術式を作り出すとなると、到底時間が足りない。


「仕方がないか。今回は、これでいくとするか」


 カリヴァーンのモニターから、街の人たちの服装について観察し、無限収納クラインに収めてあるショッピングモールから似たような衣服を取り出して着替えると、いよいよ街に繰り出す。

 カリヴァーンは町外れに待機してもらおうと思ったけれど、万が一にも見つかるとまずいので、俺の無限収納クラインに収納。

 いや、マジでチートスキルだよなぁ。


「さて、それじゃあ行ってきますか」


 コソコソと隠れる事なく、堂々と街の中に入っていく。

 果たして、どんな情報が得られることやら。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 街道沿いにまっすぐに、中心街へと向かう。

 途中にある店を見つけると、中に入って軽く見渡し、次の店へ。

 文化レベルを確認するためなんだけどさ、本当に此処は地球なんじゃないかって思えてくるよ。

 確か、地球の科学者の一人が話していたよね。


 生物の進化は、環境に応じて変化する。

 もしも他の惑星に地球と同じ環境があったとしたら、早かれ遅かれその星は地球のようになる。


 それを体現するかのように、この星って地球型なんだよなぁ。

 そして、あちこちを見て回った結果、辿り着いたのがここ。


 街の中心部に存在する軍施設。

 このヒューペル大陸を統治している、ライザード連邦という国家に所属している統合軍。

 カリヴァーンの周りを周回起動していた人型兵器は『量子機動甲冑ステラモジュール』、通称ステラアーマーという兵器らしい。

 人が乗って操縦する兵器らしいんだが、訓練されたエリートしか乗ることが許されていないらしい。

 一般兵は、下半身が装輪装甲車のような車両になっている半人型兵器『ステラユニット』という兵器に乗っているとか。


 それでもって、隣国、つまり隣の大陸である『稲穂之国』と戦争状態だとか。

 全く、そういうのは勝手にやってて構わないからな。俺は、大地の鍵を探しているだけなんだからな。


──ヴィーン、ヴィーン‼︎

『非常事態、繰り返す、非常事態。何者かが軍施設内に侵入、見つけ次第射殺せよ、繰り返す、見つけ次第、射殺せよ‼︎』


 なんて物騒な。

 俺はまだ軍施設の外だから、関係ないよね。

 一体、どこの何奴が参入したのやら。


──ウィーン、ウィーン、ウィーン

 基地施設内に警報が鳴り響き、次々と装輪装甲車が飛び出してくる。

 それ程までに、侵入者が恐ろしいのか、あるいは何かが盗まれたとか。


「おい、いたぞ、そこの壁だ‼︎」

「光学迷彩を使っているようだが、熱源探知機の対策をしていないとは間抜けなやつめ」

「さあ、速やかに盗み出したものを提出するのなら、大罪には問わない。速やかに両手を上げて、降参するんだな」


 ふむ。

 いつのまにか車に囲まれているわ、サーチライトで照らされているわ、明らかに俺に向かって話しているわ。

 スリーランホームランだな。

 って、熱源探知機だと?


「そこの女、抵抗するのなら射殺する‼︎」

「待った待った、俺が見えているのか?」

「見えているのかだと? 熱源センサーがあるのを知らなかったなどとは、言わせないぞ」

「どうせ稲穂之国のスパイだろうが。全て話してもらうから、覚悟するんだな」


 うわぁ、最悪だな。

 それじゃあ、速やかに逃げるとしますか。


「悪いけどさ、長居したくなくてね……フォースフィールド展開。転移準備っ」


──ブゥン

 俺の周りに半円状のバリアが発生する。

 そのタイミングで、俺を囲んでいた兵士たちがライフルを向けて、一斉に撃ってきた‼︎


──ドムドマドムドムッ

 俺の頭部、胸部、腹部、両足を的確に狙ってきているんだけど、残念、全てフォースフィールドで停止する。


「き、貴様は、稲穂のニンジャか‼︎」

「……黙秘権を行使するでござるよ、ニンニン」


 ノリノリで返事をしたら、無限収納クラインから魔法の絨毯を引っ張り出す。

 それをブワサッと広げて飛び乗ると、一気に高度を上げて逃げの態勢待った無し‼︎


 眼下から発砲音が聞こえてくるんだが、全てフォースフィールドで停止。


「熱源でバレるとはなぁ。一旦、街の外に逃げるとしますか」


 まだ何か騒いでいるようだけど、俺は高速で魔法の絨毯を操作すると、一旦、街の郊外に逃げることにした。

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