第107話・種族と支配と、搾取されるエルフ

 うん。

 まさかいきなり、光学迷彩モードが看破されるとは思わなかったよ。

 それよりもさ、あの軍基地から逃げたやつは、一体何を調べていたんだろう。

 上空まで逃げたので、もう追いかけてくることはないかと思ったんだけどさ。



「……マジかぁ」

  

 夕闇が静かに降りてくる中、軍基地から無数の機動兵器が上昇してくる。

 飛行ユニット『フライングマシーン』に搭乗しているステラアーマーが、合計10機。

 真っ直ぐに俺に向かって飛んでくるのが、よくわかる。


『速やかに降伏しろ‼︎』


 そう叫ぶ声が聞こえてくるのと同時に、ステラアーマーが手にしたエネルギーライフルを撃ってくる。


──ドシュン‼︎

 豪快な音が響くと同時に、俺の至近距離をエネルギーの塊が飛んでいく。

 いや、俺が何かを盗んでいるのなら、普通は撃ってこないだろ? こいつら何を考えているんだ?

 それよりも、至近距離を掠めた瞬間、魔法の絨毯が煽りを受けてバランスが崩れる。


「ちっ。仕方ない、やるしかないか」


──キィィィィィン

 |無限収納(クライン)からカリヴァーンを召喚すると、すぐさまコクピットに乗り込む。

 オートでフォースフィールドを展開し、背部スラスターで空中で止まっているので、乗り込むのは容易い。


『き、貴様は昼間の未確認機‼︎ 稲穂の国は、ステラアーマーを手に入れたというのか‼︎』

『速やかに降伏しろ‼︎ さもなくば破壊する‼︎』


 外から聞こえる声は、やる気十分。

 しっかし、なんで俺が盗賊扱いされているのか、全く理解できないわ。


「断る‼︎ まず大前提として、俺は軍基地に忍び込んでなどいない‼︎」

『ふざけるな‼︎ 貴様が霊子光器を盗み出したのは明白だ‼︎』

「霊子光器? なんだそれは?」

『問答無用だ、全機、攻撃を開始しろ、霊子光器は破壊できないから、やつを仕留めてから回収しろ‼︎』


──チュドドドドドドド‼︎

 一斉に砲撃を開始するステラアーマー。

 だが、その全てがフォースフィールドによって阻まれ、カリヴァーンに届くことはない。


「カリヴァーン、敵攻撃の解析」

『高出力の熱線砲です。フォースフィールドがなくても、傷一つつくことはありません』

「それが、奴らの主兵装かよ。振り切って逃げ切れるか?」

『可能ではありますが、無力化して、こちらの力を示した方が良いかと』

「了解だ。コクピットの位置はわかるか?」

『全機、頭部にあります』

「おっけ。そんじゃ、仕掛けるわ」


 すぐさま機体を反転させると、真っ直ぐに先頭で追いかけてくる機体に向かって飛んでいく。

 慌てて連射してくる熱戦砲を無視しつつ、至近距離まで近寄ると、右抜手で胴部を貫く。


──ドジュゥゥゥゥゥ

 すぐさま右手を引き抜き、首を掴むと、力一杯握りつぶす。


「爆発するぞ、とっとと逃げろ‼︎」

『う、うわぁぁぁ』


 素早く頭頂部のハッチを開き、パイロットが飛び出す。

 背中に小型のジェットパックを背負っていたらしく、軽くジャンプしてから飛び上がり、近くにいた仲間の機体に回収されている。


「よっし、これでいい‼︎」


──シュンッ

 素早く|無限収納(クライン)を発動して、目前のステラアーマーとフライングマシーンを回収。

 突然、目の前で自分たちの機体が消滅したのを見ていたらしく、俺を追いかけていた全機が反転し、基地に向かって逃げていく。


「……やり過ぎじゃないよな。さて、少し離れた場所に一旦着地して、今後の対策を考えるか」

『了解です』


 そのまま都市部郊外、山の方に逃げていくと、そこに不時着して、一旦体を休める。

 カリヴァーンをステルスモードにしたまま、シートを倒して寝ることにする。

 何もわからないままだけど、もう、今日は休むっといったら、休むんだ‼︎



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 朝。

 コクピットの中とはいえ、環境的には悪くはない。


「オッス。何か変わったことはあったか?」

『おはようございます。カリヴァーンの周りを、エルフが取り囲んでいますが』

「……待て待て、ステルスモードは継続中だよな?」

『はい。それ故、意味が分からないのです。今でも、外から声が聞こえています』


 それならばと、外部スピーカーを作動させて、音を拾う。


『サーナイオン、我らが守り神、サーナイオンさま、どうか我々をお救いください』

『サーナイオンさま、お救いください』


 なんだ?

 サーナイオンって、なんだろう?

 とりあえず、直接話をしたいところなんだけどなぁ。


「回線を外に繋げて……俺になんのようだ?‼︎」


 まずは問いかける。


『おお、目覚めましたか、サーナイオンさま。どうか、我々をお救いください』

「まず、俺はサーナイオンではない。それよりも、姿を隠している俺が、どうしてわかるんだ?」

『お忘れですか、我らエルフの民は、魂を見ることができます……いくらお隠れになっても、そこにいるのなら、我々に見えないはずがありません』


 魂を見るって?

 マジかぁ。

 熱源感知よりも上等な手段だよな。

 それなら、隠れてある必要はないか。


──ブゥン

 ステルスモードを解除して姿を表すと、俺はコクピットハッチを開いて外に姿を表した。


「俺はミサキ。訳あって、この世界にやってきた|異邦人(フォーリナー)だ」

「おお、フォーリナーとは。そして、その魂……」


 さっきまでは立ったまま叫んでいたエルフたちが、いきなりその場で膝をついた。


「ま、待て待て、だから、俺はサーナイオンじゃないってば」

「神の御使いミサキ・テンドウさま。どうか我々をお救いください」

「神の御使い? それこそ違うわ」

「いえ、貴方様は、ラプラスなる神の力を授かっています。それこそが、御使いの証です」


 魂が見えるって、凄いわ。

 それよりも、なんで助けを求めていたのか、それが知りたい。


「助けてくれといったよな? それってどういう意味なんだ?」

「はい、話せば長いことながら。我々は、突然空からやってきたミナーク人に土地を奪われました」

「ミナーク人? それって、あの軍基地にいた人間か?」

「はい。実は……」


 そこからは、交互に自分たちが受けた被害を説明している。

 彼らミナーク人は、高度なテクノロジーを持った侵略者であるらしい。

 この惑星固有のエネルギーである『ステラフォース』を回収するために軍基地を設置し、地下からステラフォースを汲み上げているらしい。


 ステラフォースは、いわば『流れる力場』であり高出力エネルギーの塊らしい。

 それを使って作り上げたのが、最新型のステラアーマーであるらしく、この大陸を拠点として、あちこちに喧嘩を打っては支配を続けているらしい。


「そして、彼らはステラフォースの中から、星の魂とも言える器を発見しました」

「それが、霊子光器か?」


 そう問いかけると、代表が驚きの顔を示す。


「は、はい。より純粋なステラフォースの塊であり、星に生きる人々の魂が集まる場所と伝えられています……それを、彼らは奪い取ったのです」

「ふぅん。でも、それって昨日の夜に、基地から盗み出されたろ?」


 そう告げると、エルフたちが驚きの表情を見せる。


「そ、そうなのか?」

「ミサキさまが、取り返してくれたのですか?」

「ちっがうから。俺は何もしていないし、むしろ、盗み出された時間に近くにいたというだけで、疑われて追いかけられて、挙句に攻撃までされたから」


 全く、とんでもない話だよ。


「そ、そうなのですか」

「しかし、何者が盗み出したことやら」

「さあね。そのあたりは自分たちで調べてみたら? 俺が調べるには、土地勘も何もないからさ」


 そう説明すると、エルフたちは集まって話し合いを始める。

 そうして三十分後には、代表がカリヴァーンの近くにやってくる。


「どうやら我々は、大変な誤解をしていたようです。ですが、ミサキさまは我々の救世主になってくれるお方であると信じています」

「そこは分からんよ? 少なくとも、俺はあるものを探して、ここに来たんだからさ」

「あるものとは?」


 う〜ん。

 これを説明していいものか。


「この大陸にある遺跡に眠るものでさ。それを手に入れる必要があるんだよ」

「遺跡とは、ひょっとして古代神殿サーナイオンでは?」

「サーナイオン? さっきも俺をそう呼んでいたよな? それって何?」

「救世主サーナイオンの魂が眠る神殿です。あの忌々しい軍基地の地下に存在し、そこから奴らはステラフォースを汲み上げています」

「ビンゴかよ……」


 思わず頭をかく。

 大地の鍵のある場所は、ここで正解か。

 しっかし、参ったなぁ。

 あの地下っていうことは、潜り込まないとならないじゃないか。


「我々は、一旦村へ戻ります。もし、宜しければ、我らに加護を与えてください」

 

 それだけを告げて、エルフたちは頭を下げると何処かに戻っていく。

 さて、やらないとならないことは絞れてきたけど、どうすっかなぁ。


 

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