第105話・ようこそ、地底世界Xinaianへ。ちっがうから‼︎

 惑星アーシュトン、極冠部。


 そこにぽっかりと開いた大空洞に、俺とロスヴァイゼ、呂布の乗ったマーギア・リッターは、ゆっくりと降下を始める。

 

「降下速度に変化なし。オクタ・ワン、アマノムラクモからの観測データを送ってくれるか?」

『ピッ……了解です』


──ブワン

 カリヴァーンのコクピット内に展開したデータ。

 流石に惑星一つを透過して見るなんてことはできないけれど、ある程度の内部構造については表示されている。


「……なぁ、これって超音波断層撮影? それとも別の何かか?」

『ピッ……アマノムラクモ搭載の『千里眼センサー』ですが。魔導による術式センサーとお考えください』

「これだから、魔法ってやつは……と、錬金術師の俺のセリフじゃないよな。さてと」

 

 あと1800m、真っ直ぐに降下した先にある地下都市群。そこから先の調査が、これからの課題なんだよなぁ。

 幸いなことに、カリヴァーンのバックウェポンシステムについては、今回は調査用設備がメインである。

 これをうまく駆使しつつ、目標である大地の鍵を入手しなくてはならない。


『ミサキさま、水です』

「水? まさかだろ?」

『ピッ……アマノムラクモからは水の存在は確認できていません』


 ロスヴァイゼの報告を受けて、目視カメラを地底へ向ける。すると、あと120mの位置に水面がみえているじゃないか。


「あ〜。解析開始……水だな」


 カリヴァーンのセンサーにも水が映っている。

 成分分析はまだできないが、俺の目が、|解析(アナライズ)スキルが『水』と表示しているなぁ。


「オクタ・ワン、しっかりと水だが」

『ピッ……え? 再解析……いえ、そこには水は存在しません』

「マジかよ。各機警戒体制に移行」

『『了解です』』


 そのまま静かに水面まで降りる。

 うん、反応なし、スキルによる解析も問題なし。

 水だな。

 でも、怖いから呂布に先に行ってもらう。


「呂布、先行してくれるか?」

『親方様の命令ならば』


──ゴゥゥゥゥゥゥ

 呂布の乗るマーギア・リッターが水面から沈んでいく。だが、水面が波立つことも、波紋が浮かぶこともない。


「呂布、様子はどうだ?」

『いえ、特に何も感じません。抵抗もありませんし、なんというかその、質量を伴った幻影という感じ……いや、触れることもないので、ただの虚像でしょう』

「ふぅん……まあ、それなら俺もいくわ」


 ゆっくりとカリヴァーンを水面に近づける。

 そして沈めていくが、やはり反応がない。


「……何も感じないなぁ……オクタ・ワン、そっちから何か見えるか?」

『ピッ……アラート‼︎ ミサキさま、すぐに浮上してください、アマノムラクモのセンサーからカリヴァーンが消失しました』

「え? ってなんだぁぁぁぁぁ」


──ガグン

 突然、カリヴァーンが落下を始める。

 それまでの重力ではない、普通の1G重力に引かれたかのように。

 しかも、正面モニターに写っているのは、暗い岩盤ではなく澄み切った青空。


「緊急制動、魔導スラスター全開だ‼︎」


──ゴゥゥゥゥゥゥ

 機体制御を行いつつ、カリヴァーンはその場でホバリングする。

 そして、周囲をゆっくりと見渡して、ミサキは絶句する。


 果てしない青空が広がる惑星。

 高度にして15000メートルに、カリヴァーンはたった一機で浮かんでいた。


「……オクタ・ワン、俺の声が聞こえるか?」

『ピッ……次元通信システムが稼働しています。ミサキさま、カリヴァーンの絶対座標を送ってください』

「絶対座標、ああ、ちょいと待ってくれ」


 三次元ダルメシア星系図を元に、アマノムラクモが振り割った座標軸が、絶対座標。

 カリヴァーンの持つディメンジョンコンパスにより、今の場所を瞬時に表示するのだが、出てきた文字配列は一言だけ。


 アンノウン


「……わり。オクタ・ワン、俺がいるところはダルメシア星系じゃないないわ。どうする?」

『ピッ……まず、ミサキさま自身の安全は確認できますか?』

「カリヴァーンのセンサーはオールグリーン。大気成分は地球型、俺が外に出ても問題はない。機体のロスもなし、魔素が薄いから、魔法の行使については、やや難ありってところか」


 カリヴァーンの背部バックウェポンシステムを展開し、周辺環境を全てサーチした。

 そして解析が終わったデータから、次々とアマノムラクモに送信しているので、あとはオクタ・ワンが解析を行ってくれるだろう。


「……しっかし、これはまた参ったなあ。全く見知らぬ星系の、これまた知らない星で。知的生命体でもあれば助かるんだけどさ」

『システムアラート‼︎』


 突然、カリヴァーンのコクピット内にアラート音が響く。

 そしてモニターに浮かび上がったのは、大型飛行艇とその上に四つん這いになって搭載されている人型兵器。

 それが三セット、カリヴァーンに向かって飛んできている。


「うわぁ……あれって、ほら、Zガン◯ムの、ほら、なんで言ったっけ‼︎」

 

 喉まで出ているのに、名前が出てこない。

 いや、つい興奮してしまって、焦っているだけだよ。


『外部スピーカーに切り替えます』

『そこの未確認機に次ぐ。所属と領空侵犯した理由を告げよ』


 うん、相変わらず自動翻訳スキルはいい仕事するわ。

 腕を組んで考えているうちに、三機の人型兵器はカリヴァーンの横を通過して、再び大きく旋回して飛んでくる。

 やがてカリヴァーンを中心に、大きな円を描くように飛び始めたじゃないか。


「さて、どんな言い訳も聞かないよなぁ。オクタ・ワン、俺の帰還方法は……わからないよなぁ」

『ピッ……イスカンダルです。ミサキさまの、現在いる場所は、恐らくはフォーリァ星系の惑星かと思われます』

「お、イスカンダルか。それで?」

『座標的にはフォーリァ星系の惑星かと思われますが、ミサキさまがいらっしゃる場所が、大地の鍵の封印先であるヒューペルという大陸かと思われます。大地の鍵を入手できれば、また元の世界に戻れるかと推測されます』

「そうきたか。わかった、こっちはこっちで色々と試して見るから、イスカンダルはヒルデガルドたちと協力して、惑星の地下都市群を調査してくれ」

『かしこまりました』


 よし、大地の鍵だな、それがある場所を探せばいいんだな。

 そうと決まれば、こんな場所に長居は無用。

 外部スピーカーに切り替えて、俺は堂々と叫んだよ。


「俺は機動国家アマノムラクモ代表のミサキ・テンドウだ。事故に巻き込まれて、空間跳躍をしてしまったらしい。すぐに領空から出るので、安心してくれ」

『……速やかに武装解除して投降しろ』


 はぁ?

 こっちは出ていくって言っているのに、いきなり投降しろだぁ?

 何があったのか知らんが、そんな話になるはずがないだろうが。


「カリヴァーン、ステルスモードで上昇開始。そのまま海があると思われる方角に進んでくれ」


──BROOOOOOM‼︎

 まあ、オートクルージングで移動先を説明したんだけど、カリヴァーンのステルスモードが始動した瞬間に、謎の人型兵器が手に持っていたらしいマシンガンを乱射してきたわ。

 でも残念、そこに、私はいません。

 撃たれてなんか、いません。


「勝手にやってろ。一旦海上に出る。それから、今後のことを考えるとしますか」


 はてさて。

 まさかのひとりぼっちだよ。

 これはまた、頭が痛くなる案件だよなぁ。

 

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