第104話・二つ目の鍵は、とんでもない場所に

──ピッピッピッ

 機動戦艦アマノムラクモ内、ミサキのラボ。

 ここには、以前ミサキが開発した、【高速細胞増殖装置】がある。

 歴史からも消滅した『第三帝国の反乱』時、アドミラル・グラーフ・シュペーの魔導ジェネレーターの燃料として扱われていた人間の脳を再生するために作ったものである。

 歴史の修復により、装置自体が無かったことにされていたのだが、それを新しく作り直し、アレキサンダーの身体を再生しているところである。


「……なんか、前のより早くね?」

『ピッ……帝国のテクノロジーと、機動要塞スターブラスト内のデータベースを参考に改良した最新型です。二十四時間もあれば、人間一人ぐらいは再生可能ですが』

「うわ……そりゃまた、とんでもないわ。でも、魂の再生は無理だろう?」

『ピッ……魂の構築は不可能。よって、死者蘇生は不可能です』


 流石に、それは無理だよ。

 そもそも、人間が触れちゃいけない領域だよ。


──チーン

 お、小気味良いベルの音。

 って、電子レンジかよ‼︎


──ゴボゴボゴボ

 カプセル内の人工羊水が排出され、扉が開く。

 そこからは、アレキサンダーの細胞から増殖したスペアボディがゆっくりと起き上がった。

 このままでは、からっぽの肉塊と何ら変わりはないので、ここにアレキサンダーの意識分体を注入。

 予め、アレキサンダーからは意識分体を預かってきているからね。


──シュンッ

 |無限収納(クライン)から意識分体の封じられている魔晶石を取り出し、目の前のアレキサンダー二号に手渡す。

 すると魔晶石がゆっくりと溶け出し、二号の体内に吸収される。


──パチッ

 やがて意識分体の定着が完了すると、二号は目を覚ました。


「おはようございます……ふむ、クローニングによる再生とは、なかなかのオーバーテクノロジーですな」

「まあな。この辺りのノウハウは錬金術にあるからさ。そんじゃあ、あとはうまいタイミングで本体と入れ替わってくれる?」

「はっはっはっ。かしこまりました。それでは、着替えて出かけることにしましょう」


 二人も同じのがいるとわやくちゃになりそうなので、本体の方は後で外見を変更、名前もイスカンダルにすることで話は決まっている。


「それじゃあ、あとは上手く頼むわ、アレク」

「かしこまりました」


 アレクは素早く着替えて、ラボから出ていく。

 これで、ようやく二つ目の鍵を探しに向かうことができる。


………

……


 艦橋に戻り、宝剣と風の鍵の解析を続けたいところだけど、ここはやはり全知全能のオクタ・ワンからの報告を聞くことにしよう。


「オクタ・ワン、鍵の解析はどうなった?」

『ピッ…… ジャックナイフ式4の字固めを決められた気分です』

「脱出不可能か……って、分かるかぁ‼︎」

『ピッ……かなりのミスリードを促す仕組みになっていました。鍵の名前から『四元素』にヒントがあると考えた人は、解析後の指定座標に向かい、そこで発生するマイクロブラックホールに吸い込まれてしまいますね』

「うわ、マジか。それって、別のヒントがあるのか?」


 淡々と説明を聞くんだが、『風の鍵=風』と解析した時点でアウトらしい。


 風の鍵=黄金と牛=アルデバラン=12分の1


 この法則がわからない限りは、アクシアには到達できない。

 でも、その法則性って、この世界の人間が理解できるのか不明。

 それ故に、鍵の解析ではなく、鍵の収集を第一と考えなくてはならないそうだ。

 

「……それで、分かったことは?」

「次の鍵の座標。風の鍵から導かれたのは、大地の鍵の封じられている場所です」

「へぇ、それって何処?」


──プゥン

 モニターに立体星系図が浮かび上がる。

 その一箇所が仄かに点滅している。


「マイロード。次の目的座標はここ、この惑星地下に存在する、地下都市群と予測されます」

「名前は?」

「墳丘。もしくは、地底世界クン=ヤン」

「……大地の鍵で、その名前かぁ」


 頭に指を当てて、記憶を揺り起こす。

 さすがにクトゥルフ神話については、専門ではない。

 ハストゥールとかクトゥルフは漫画やアニメで見たことがあるので知っているけど、大地の旧神なんて覚えてもいない。


「う〜、分からん。ハストゥールみたいな名前があったよね? 大地の旧神も」

「ツァトゥグァと記録されていますが、私どもも詳細は分かりません」

「そうだよなぁ、その辺りのデータは、持ってきていないよなぁ」

『ピッ……ミサキさまのお好きな漫画でしたら、以前調べてありますが。その中にも、ツァトゥグァに関するものはありません』


 これは思わぬ失態。

 いや、そもそも、なんでここで神話世界の物語がでてくるのか、理解に苦しむところでもあるんだよ?

 俺が体験したことを地球に戻った時、本にして出版しても受けないからね。

 こんなとんでも体験なんて。


「まあ、後は野となれ山となれ。座標軸セット。目標『惑星アーシュトン』重力圏外で」

『ピッ……了解です。ジャンプドライブ作動準備。艦内のセーフティシステム作動。あと15分で、アマノムラクモはジャンプドライブに入ります』


──グォングォン‼︎

 アマノムラクモの魔導ジェネレーターが唸り声を上げ始める。

 艦内全域がフォースフィールドで包まれ、対ショックモードに移行した。

 しかし、このやりとりも、だんだんと見慣れてくる。

 そして15分後には、きっちりとアマノムラクモはジャンプドライブを開始した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 惑星アーシュトン。

 重力は地球型の八分の一、大気組成は75%が二酸化炭素、10%が窒素、11%の酸素、残りが魔素と、その他アルゴンでだったり、炭素だったり、ラジバンダリ。


 文明は存在しない、普通の惑星。

 まあ、惑星の定義を説明しろとか突っ込まれそうだけど、そんなの俺は知らないからパス。

 

「……文明も何もない。ここの地下に、都市があるのか?」

「はい。センサーによりますと、極冠のあたりに大規模クレーターが存在します。その下にあると解析されていますが」

「そんじゃ、行ってくる」

『ピッ……お待ちください。まだ、星の安全性は確認できていません』

「護衛に二人。カリヴァーンで出る。あとは?」

『ピッ……それでしたら』

「オクタ・ワンは甘すぎます。ミサキさまの安全を考えるのでしたら、最低でも十人は護衛が必要です」

『ピッ……ヒルデガルドは過保護です』

「待て待て、そこで喧嘩しない。万が一ように、次元突破型通信機も装着しておいてくれるか? あと観測用バックウェポンも」


 前回の海底神殿調査の時に、積み忘れていたシステム一式。

 今回は万全を期すために、しっかりと積み込んでいく。


「了解です。二時間いただきます」

「よろしく。あとは……イスカンダルにも、アマノムラクモノのAランク以下の区画の出入りを許可したから」


 これで艦橋にも出入り可能。

 ちなみにSランクは俺以外立ち入り禁止。

 ここはオクタ・ワンとトラス・ワンの魔導頭脳が収められている閉鎖区画ね。


「了解です」

『ピッ……権限は?』

「A。ワルキューレの下に着くように説明してあるけど、同ライン。最重要決定権はなし」


 艦橋要員のサーバントと同じ権限。

 それでいて、ワルキューレとも互角の立場。

 オクタ・ワン、トラス・ワン、ヒルデガルドの持つ最重要決定権はないから、まずは安心。


「了解です」

「それじゃあ、あとはよろしく。スタンバイできたら、声を掛けてくれ。俺は温泉に行ってくる」


 しばらくゆっくりできなかったから。

 先に体を清めてから、調査に向かうとしましょうか。

 だから、長風呂禁止の晩酌禁止。

 身を引き締めて、行ってきますか‼︎


 


 

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