第103話・二つ目の鍵の探索、その裏では

 惑星ゴールド。

 かつてこの星には、マーロゥ王家による統治国家が存在していた。 

 初代星王である完顔阿骨打の代から数えて128代目、トキオーマ・マーロゥの時代に、悲劇は始まった。


 カザス・アルバ帝国皇帝であるリヒャルド・アルバは自らを『星帝』と名乗り、星系統一を宣言。

 反乱するものあらば、世界基準を遥かに超越したテクノロジーにより、星ごと破壊していった。

 そのテクノロジーをもたらしたものが、『|漂流物(ドリフト)』と呼ばれているオーパーツである。

 解析不能な棺桶型のそれは、本当に偶然、リヒャルトの外遊先の惑星で発見された。

 

 当時まだ10歳だったリヒャルトは発掘されたそれを見学していた際、棺桶から声が聞こえてきたのに気がついた。

 皇帝家の命令で、その棺桶はアルバ本星へと運び込まれ、当時最高のテクノロジーを駆使して解析を行なった。

 だが、その棺桶は開けることすら叶わず、内部にある『何か』の正体も掴めなかった。


 リヒャルトが15歳の誕生日を迎えた日。

 その夜、彼の寝室に来訪者が現れた。


「はじめまして。私はマルスと申します。世界を通り過ぎる漂流物であり、波長があったものに、叡智を授けるものでございます」


 マルスと名乗った不審者。

 そう判断して処分すればよかったものの、リヒャルトは彼の言葉に興味を惹かれた。

 この星系以外の『外の世界』。

 神と悪魔、科学と魔法。 

 マルスの語る言葉が真実であるかのように、彼は自らの手で魔法を発動し、超能力を発現した。


「私の力を必要とするのなら、あなたはアクシアを求めなさい。アクシアの鍵は、グランドアークが知っています」

「それは何処にある、アクシアとは、グランドアークとはなんだ?」

「アクシアは、いかなるものも破壊する超銀河兵器。神が与えた力の一端、グランドアークはその先兵であり、機動要塞である」

「ふむ。面白い。もっと俺に知識を寄越せ」

「しからば、こちらの図面を差し上げます。何年かかっても構いませんから、貴方が、それを作りなさい。それができたなら、私は、あなたに『神へと至る道』を指し示しましょう」


 その日から、リヒャルトは星系中を飛び回った。

 魔導と科学を極めようと、その二つを合わせたものを作り出そうと。

 そうして作り出したのが、棺桶を核とした『電脳監視システム・マルス』である。


『やあ、何年ぶりかな?』

「ふふふ。もう三十年にもなる。久しぶりだな、叡智よ。」『それでは、アクシアへと向かう道標を授けましょう……』


 そうしてマルスは、リヒャルトに叡智の一端を授けた。

 超銀河兵器の存在、その鍵となるマーロゥの宝剣。

 それを得るために、リヒャルトは戦争を開始した。

 逆らうものには無慈悲な鉄槌を、従うものには慈悲を。

 そうして星系中を飛び回り、ようやくマーロゥの宝剣を手にいれる直前、それを携えたマーロゥ最後の血は逃げ延びた。

 そこから、リヒャルトは全ての帝国軍に命じた。


 マーロゥの宝剣を手に入れろと。

 たとえマーロゥの血が途絶えようとも、構わないと。

 それと同時に、超銀河兵器の探索も始める。

 マルスから教えてもらった『古の波長』、そこに秘密が隠されていると。 



「……冗談ではないのか? あの艦隊は帝国屈指の技術を組み込んだ最新鋭艦隊なのだぞ?」


 部下たちの報告を受けて、リヒャルトは苛立ちを隠せない。

 マルスの語る情報、それを調査するために派遣した船団が、何者かによって全滅した。

 しかも、宝剣が発するパルスを追跡するシステムを組み込んだ異次元調査艦も消息不明。

 ここにきて、マルスの語る道筋に翳りが出始めている。


「はっ、報告では、超大型の戦艦による攻撃を受けたとか」

「……敵艦隊の規模は?」

「一隻だけです。ですが、その船は帝国のいかなる兵器も受け付けず、さらに巨大な人型兵器を有しております」

「常識がないにも程がある‼︎ 巨大な人型兵器だと? そのような理不尽な兵器など、どの勢力が作ったというのだ‼︎」


 リヒャルトにとって兵器とは、単純かつ効率が良いものでなくてはならない。

 それを、人型にする必要が何処にあるのかと、頭を掻き上げながら吐き捨ててしまう。


「自由連合もしくは、反帝国サイドかと思われましたが……」

「どちらにも、それらしい情報がないというのだな。無人機として人型にするなどと、ふざけた仕様をどの勢力が作るのだ」

「恐れながら陛下……有人機との報告が」


──ダン‼︎

 流石にリヒャルトの思考を超えた。

 人が乗る人型兵器。

 雑誌や娯楽映画でさえ、今はそのような非科学的なものを扱ったものはない。

 それが、実戦導入されているなどと、誰が信じるというのだろう。


「……引き続き、調査を行え。もしも、その非常識な兵器が実在するというのなら、確実に回収しろ」


 それ以上は、何も告げない。

 リヒャルトとしても、非現実な報告をしっかりと受け止めなくてはならないから。



………

……


「……ということで、私と妻は、帝国の手によって流刑に処されてしまったのです」

「次期王位に着くべき息子は、無事に逃げたと思いますが……ああ、私の大切なアヤノコージ、無事なら良いのですが」


 トキオーマ・マーロゥとその妻マリンダ・マーロゥは、旅の吟遊詩人チョウコウと話をしているところであった。

 トキオーマとマリンダも、アヤノコージと同じように帝国の手によって、ワープドライブの本流へと追放刑を受けてしまった。

 そしてあわやというところで、偶然、この星に不時着し、難を逃れることができたのである。


「なるほどなぁ。私はそのアヤノコージという方が何処にいるのか知りません。ですが、おそらくは無事ではないかと思われます」

「そうなら良いのだがな。しかし、こんな何もない辺鄙な惑星までやってくるとは、あなたもかなりの好き者なのですな」


 吟遊詩人にそう話しかけるトキオーマ。

 彼らが不時着して三日後に、星々を渡る吟遊詩人チョウコウが小型船でトキオーマの元にやってきた。

 そしてトキオーマの持っていた宝石と食料などの生活必需品を交換し、彼らの命を救ったのである。


「私は、旅をするのが大好きなのですよ。それでは、また十日後に来ますので」

「ええ、よろしくお願いします。この星は、争いも何もなくいい星です。できるなら、ここで私たちは骨を埋めたいと思っていますから」

「またまた、ご冗談を。今はそうかもしれませんが、贅沢を覚えてしまったら、なかなか抜けることはできませんよ?」


 笑いながらチョウコウが告げると、トキオーマも違いないと相槌を打つ。

 そして、チョウコウは小型船に乗って上昇を開始すると、惑星の裏側にあるオタルに向かって移動を開始。

 その四時間後には、無事にオタルに作られた空港まで到着した。


「しっかし、ヴァン・ティアンさんから報告を聞いた時は、驚いたなぁ……」


 チョウコウ。

 正式名称は張郃。

 ミサキ配下である隠密調査サーバントは、ヴァン・ティアンから『謎の飛来物』に関する連絡を受けた。

 そしてその調査のために惑星の裏に向かった時、脱出ポットから出てきたトキオーマ夫妻と出会ったのである。

 夫妻から細かい情報が聞き出せると考えた張郃は、星々を渡る吟遊詩人というとんでも設定で夫妻に近づき、世間話を聞くふりをしつつ情報を集めていたのである。

 

『ビビビッ……必要最低限の接触が宜しいかと。私の監視端末が、夫妻の近くで警備を行なっていますので』

「了解です。しっかし、マーロゥ王家って、なかなか強運の持ち主なんですね……ここに辿り着いたのも、おそらくは運命なんでしょうね」

『ビビビッ……わたしには運命論は理解できません』

「まあ、そうでしょう。ミサキさまに関係した人たちは、必ず大きな運命の唸りに乗ってしまいますからなぁ」


 そう呟きながら、張郃はヴァン・ティアンと他愛無い話を続けていた。

 次の指示は10日後、また予備の食料を運ばなくてはならないから。

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