第102話・偶然と必然と、また暗躍かぁ。

 降下艇に戻ってきたのはいいのだが。


 あの海底神殿に潜入して、水の鍵を目に入れる方法がわからない。

 あの扉を開けばいいと思うのだが、恐らく扉を開くとクトゥルフの封印が解除されるだろう。


「う〜ん。何かまだ、パズルの鍵が足りない。そもそも、クトゥルフを封じたのは誰なんだ? そこに鍵を隠した存在も分からないし、なによりも機動要塞アクシアと旧神の繋がりがわからない」

「一旦、アマノムラクモに戻ってオクタ・ワンたちにも相談した方が良いのではないですか? もしくは、火の鍵か大地の鍵を探すことを先にした方が」

「そうなるよなぁ。ハストゥールさんや、鍵を集める順番はあるの?」


 思わず問いかけてみる。

 分からないことは、聞いた方が早いからね。


『小さきものか。鍵を集める順番はない。ただし、集めるための難易度は存在する』

「そうなるよなぁ。一番難易度が低いのは?」

『大地の鍵であろう。あれは、地底世界シン=ヤンにあると伝えられているが』

「それはどこ?」

『ここではない何処か。ワープゲートの向こう側にあり、我らの世界とは触れられない場所。故に、アクシアを起動させることは不可能と伝えられていたが』

「まったく。随分と念入りだよなぁ」

『はっはっ。アクシアは目覚めさせてはならないからな。だからこそ、我ら旧神が管理をしている』


 ん?

 待て待て、アクシアってたしか、異世界転生ダーツで貰った景品だよな?

 機動要塞アクシア。

 それを管理するのは、転生者なはず。

 それにもかかわらず、なぜ、旧神と呼ばれているものたちが干渉しているのかが不明である。


「ハストゥールさん、機動要塞アクシアは、神が与えたチートアイテムだよな? それを管理するのは、与えられた人間じゃないのか?」

『小さきものよ。それは正解でもあり、また不正解でもある。与えられたものを管理するのは人間であるが、その人間を管理するのは旧神である我々である』

「……正当な所有者が存在していない現在は、旧神がそれを所有するものを見極めるということで正解?」


 恐らく、これが回答だと思う。

 それって、俺の機動戦艦アマノムラクモも、その流れの一つなんじゃないかって思えてきたんだが。


『正解だ。まあ、マーロゥの宝剣は、次代所有権を持つものが持つのではなく、次代所有権を得るための挑戦権の一つであると、伝えておこう』

「……それって、システムを理解しきれたら、マーロゥの宝剣でなくとも正解であるってことか?」

『正解だ。マーロゥの宝剣の役目を知るのならば、それはあの宝剣でなくとも構わない』

「……はぁ。まるですべてのピースが真っ白なパズルを与えられたような気分だよ」

『ふむ。答えは出ていたのか』


 はぁ?

 ハストゥールさんの言葉の意味が、良く分からないんだが。

 なんだよ、真っ白なパズルのピースって。

 それが答えだって?

 パズルのピース?

 マーロゥの宝剣?

 鍵は五つで、アクシアの鍵は一つで。

 え、あ? あれ?


「マジか‼︎」

『小さきものよ。人というものは、答えを得るためにはいくつもの情報を欲する』

「理解したよ。そっか、そういうことなら、鍵は全て揃える必要はない。マーロゥの宝剣を見れば、答えがわかる」

『正解だ。五つの鍵は、正き鍵のパーツであり、全てが揃って一つとなる。それがマーロゥの宝剣の最後の姿であり、【アクシアの鍵】である。故に、宝剣をしっかりと解析できるならば、必要な鍵は一つで問題はない』

「そこに法則性が存在するから」


 気のせいか、ハストゥールが頷いたような気がする。


「つまり、正解はもう、俺の手元にあるもので解析ができるってことか」

『アヤノコージの宝剣の力を感じる。そこに、我が鍵を収めたならば、答えは見つかるだろう』

「ありがとうよ。伝説で聞いたハストゥールなら、こんなに優しく答えを導いてくれるとは思えなかったけどね」

『ふむ。人の歴史の中において、我は、そう伝えられているとはな……人は、狂気の中において、真実に近づくこともできる。そういったものたちが、空間の歪みから零れ落ちた【我らの感情】を受け止め、伝えたのかもしれぬか』

「そういうことなんだろうな。まあ、これで終わりってことはないんだろう?」

『さあな。誰が答えに辿り着くことができるか、そののち、また会い見えることはあるだろう』


「そうだね。じゃあ、しばしの別れかもしれないから、またな」

『うむ』


 よし、答えが近くなってきた。

 それじゃあ、アマノムラクモに戻るとしますか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 二日ぶりのアマノムラクモ。

 特に変わったこともなく、艦橋に戻って報告を受けても、何も変化はない。


「鹵獲したすべての艦隊のデータは、アマノムラクモの第三魔導頭脳に収めてあります。そこから逐次、データを引き出す事ができるようにしてありますので」

「第三魔導頭脳?」

『ピッ……敵データ内に侵食攻撃可能なウィルスがあった場合を想定し、別稼働させた魔導頭脳を用意しました』

「なるほどね。そこですべての解析が終わってから、接続すると」

『ピッ……接続はしません。あくまでも、ライブラリとして独立稼働させているだけであります。逆に魔導頭脳としてのAIを搭載させない方が、安全です』


 つまりは、魔導頭脳という名前のライブラリか。

 それが安全なら、問題はないよな。


「そういうことですので、残存艦隊は全て解体可能ですが。どうしますか?」

「どうするか? うーん……とりあえず俺の|無限収納(クライン)にしまっておくよ。それよりも、こいつな」


──シュンッ

 |無限収納(クライン)から【風の鍵】と【王家の宝剣コピー】を取り出す。

 それに|解析(アナライズ)を行なって、それぞれの役割を確認してみると。


【風の鍵……四つに分たれた『封印解除コード』の一つ。四つを組み合わせることにより、解除コードは完成する】

【王家の宝剣コピー……アクシアを稼働させるための鍵。封印解除コードにより、アクシアを現実世界に解放することができる。また、稼働中のアクシアの制御のためにも必要である】


「よしきた、ガッテン‼︎」

「違います、ミサキさま、ガッテンの時はこう、手首をしっかりと回して」

「なんのポーズだよ‼︎ それよりも、ちょいとアヤノコージのところに行ってくるわ」

「はい。お気を付けて」


 とりあえず、オリジナルの宝剣のデータも確認したいからなぁ。

 あいつが宝剣を持っている理由も、初代がアクシアの所有者だったという理由だけなんだからな。

 早いところアクシアを回収して、帝国の持っている『神に近づくための知識』を破棄させないと。


………

……


「平和だなぁ」

「はい。アヤノコージさま。このまま戦乱も何もなく、平和な時間が続くと良いのですが」

「それは、夢だな。俺は帝国を滅ぼし、両親の仇を取らなくてはならない。そのためには、どうしてもこのアマノムラクモが必要なんだ」


 生活区画にある自宅で、アヤノコージはのんびりとしたティータイムを楽しんでいる。

 やらなくてはならないことは分かっている。

 だが、そのためにはこのアマノムラクモが必要である。

 無理を言って乗艦させてもらってはいるものの、まだその野望は忘れてはいない。

 

「ですが、それをどうやって手に入れるのですか?」

「そのためには、アレキサンダーの力が必要だ。どんなシステムにも強制的に接続し、干渉して乗っ取ることができる『支配の理力』が」


 その力のおかげで、マーロゥ王家は幾度となくピンチを乗り越えてきた。

 帝国によってマーロゥの故郷が滅ぼされた時は、その力を存分に発揮できなかったから。

 だが、今ならば、このアマノムラクモ艦内にあるのならば、それは容易く実行できる。

 

「さあ、ここからなら可能だろう‼︎」

「いえ、それは無理でございます」


 あっさりと、希望が尽きました。


「え、ちょっと待て。前にアレキサンダーは俺に説明してくれたよな? 自分の力の範囲内ならば、たとえ帝国本星にある電脳監視システム『マルス』であろうとも、支配下に置くことができるって」

「その通りです」

「それなら、このアマノムラクモ如き、簡単に支配できるのではないか?」

「それは無理でございます」

「何故だ、このアマノムラクモの電脳システムは、帝国のスーパー電脳頭脳を凌駕しているとでもいうのか?」

「そうなんじゃね?」


 ババーンとアヤノコージ宅の中庭に姿を表したミサキ。


「話は聞かせてもらった‼︎ つまり、帝国は滅びる‼︎」

「な、なんだって‼︎」

「まあ、アマノムラクモの力ならば、可能でしょうな。それでミサキさんは、本日はどのような御用件で?」


 すぐさまティーセットを一つ用意し、俺の前に置くアレキサンダー。

 さすがはスーパー執事だよなぁ。


「マーロゥの宝剣を一瞬だけ貸して欲しいんだが」

「断る。人に物事を頼む時は、頭を下げて……」


 そう告げたアヤノコージだが、ミサキは丁寧に頭を下げている。


「……お前は、嘘はつかないだろうからな。返せよ」

「サンキュー」


 そう告げてから、アヤノコージは俺に宝剣を貸してくれた。


(|解析(アナライズ)……うん、基本データは全てコピーと同じで、擬似人格だけが存在しないか)

『覗き見されているようで、気持ちが良いものではないな。なんの用事だ?』

(封印解除コードについて。と言えば、分かるだろう?)

『四つの鍵が必要だな。それ以外では、不可能であるが……一つでも手に入れることができたなら、俺は主人を変えなくてはならない』

(旧神の許可を得たものが、真の主人ってことか。お前、分体は作れるか?)


 ここでアヤノコージの宝剣と俺のコピーを入れ替えることなんて簡単だが、それじゃあアヤノコージとの約束を反故することになる。

 それは不味いので、俺の作ったコピーに擬似人格だけを写し取ることができないか、相談である。


『容易い。寧ろ、こっちに分体を置き、俺がコピーに移ることも容易い』

(それじゃあ、それで……俺の腰にコピーがあるだろう? そこに移ってくれるか?)

『待て、それは貴様が鍵を……』


 そう宝剣の意識が問いかけてきたので、俺は|無限収納(クライン)から風の鍵を取り出す。


──ビクッ

 ん? 一瞬だけど、アレキサンダーさんが焦った感じに見えたのだが。

 なんか、この鍵に見覚えがあるのかな?


『ま、紛れもなく風の鍵。ミサキさまに忠誠を……』


 そう呟いた瞬間に、意識体が分割し、本体が俺の宝剣に収まる。


「ありがとうな」

「礼には及ばん。それよりも、このアマノムラクモはこれからどうするつもりなんだ?」

「機動要塞アクシアを回収する」

「新しい機動要塞か。まあ、俺としては、帝国をぶっ潰し、両親の仇が当うてるのならそれで良い」

「そのための手助けはできないからな。まあ、帝国はぶっ潰すけど」

「それは好きにしろ。俺は午後のトレーニングの時間だから出かける。アレキサンダー、あとはたのむ」


 そう告げて、アヤノコージは出かけていった。


「ミサキさま、その鍵は?」

「風の鍵っていってね……」


 おっと、やべえ。

 先にアレキサンダーさんの|鑑定(アプレイズ)だな。


『ピッ……アレキサンダー・アクシア。機動要塞アクシアの生体電脳中枢であり、鍵の宝剣の本体。そしてマーロゥ王家の執事である。能力は全て封じられており、それを解放するには四つの鍵が必要』


──ブホッ‼︎

 紅茶吹き出したわ。

 あっれ? これ、どういうこと?

 アレキサンダーさんを鑑定していなかったのは、俺のミスなんだけどさ。

 こんな重要な情報を、どうして今まで確認しなかったんだよ。

 これを知っていたら、無駄足を……いや、風の鍵を始めとした、鍵の話はハストゥールに出会えなかったら知らなかったからいいのか。


「ミサキさま。まさかとは思いですが、|鑑定(アプレイズ)を使用できるのですか?」

「まあね。アヤノコージと会ったときには、普通の執事かと思っていたよ、アレキサンダー・アクシア。こいつに入っている意識体自体が、あんたのコピーなのかよ」


 テーブルの上に、コピーの宝剣を置く。

 その俺の行動で、アレキサンダーは何かを確信したらしい。


「いいえ。それは支配の宝剣であり、アクシアの鍵でもあります。神が作りし二十四の伝承宝具の一つであり、私の本体と並ぶ、マーロゥ王家の秘宝です」

「それが、なんでアクシアの起動鍵なんだ?」

「アクシアもまた、二十四の伝承宝具。偶然ですが、我が主人は、それを二つとも引き当てたようで」


 話によると、初代マーロゥ王家の完顔阿骨打は、アクシアを起動する際の鍵を設定するときに、支配の宝剣を指定したらしい。

 そこで宝剣とアクシアが結びつき、さらに一族にのみアクシアを残したいという理由で、支配の宝剣の持つ【魂の器】に代々の魂を封印し、必要に応じて魂を解放していたらしい。


 アクシアのセーフティシステムにより、『完顔阿骨打』以外の支配を認めないという安全装置が働き、初代崩御後にアクシアは次元の彼方に沈んでいき、旧神プロテクトが働いたと。

 ここで矛盾が発生。

 支配の宝剣に封じられている【初代・完顔阿骨打】の魂にアクシアは反応する。

 それ故、旧神プロテクトを解除すれば、支配の宝剣がアクシアの鍵となり、宝剣を持つものがアクシアを支配できるのだが。

 旧神プロテクトは、鍵を持つものにアクシアの支配権を譲渡する。


 この二つの矛盾が発生し、現在まで所有者は存在せず、旧神プロテクトを解除する鍵と、支配の宝剣を持つものがアクシアの支配者となることになった。

 そして、鍵を得るものが存在しないまま、現在まで時代が流れたのである。


「なるほどなぁ。そういうことなのか」

「はい。今までの説明でご理解できたかと思いますが、私がアクシアです。但し、本体は位相空間に存在しております。それを引き出すためには、マーロゥ王家の宝剣を用いなくてはなりません」

「それって、アヤノコージに鍵を渡しても可能なのか?」

「いえ。風の鍵の支配者はミサキさまですから」

「そして、さっき宝剣を俺が受け取った時点で、二つが揃ったので俺がアクシアの所有者になったのか」

「はい。支配の宝剣は、あくまでも【魂の器】を使う意識体の体でしかありません。故に、今の本体は、ミサキさまの腰に下げられている宝剣コピーです」


 参った。

 労せずして、全て揃った。

 

「ちなみに、俺が二つとも持っている時点で、アレキサンダーは俺の支配下なのか?」

「はい。それが二十四の伝承宝具の使命です」

「それなら尋ねるが、今まで通りに、アヤノコージに仕える分体は作れるか?」

「支配の宝剣のように、分体を作ることはできませんが、意識のコピーを作り出すことはできます」

「それなら、新しい器を用意するから、そこに分体を収めて、今まで通りにアヤノコージに仕えてやってくれ」

「かしこまりました」

「口調は今まで通りにな。そんじゃ、分体用のホムンクルスを作ってくるわ」


 さて、やることの方向性が切り替わったんだが、実質的にはまだ鍵を集める必要はあるんだろうなぁ。

 帝国の奴らが他の鍵を手に入れた後で、俺から宝剣を奪い取ったら、支配権は切り替えられるからな。

 はい、俺の宝剣は|無限収納(クライン)に収納して、鍵がもう少し揃ってから、取り出すことにしよう。

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