第99話・人外と神外の、仁義なき戦い
惑星トーチタスの海上。
俺たちの目的は、この海の底に眠る海底遺跡に封じられている鍵の回収。
それを四つ集めて、然るべき場所にマーロゥの宝剣とともに収めることで、機動戦艦アクシアが解放される。
うん、風の王とか水の王とか、かなり無茶振りされて困っているんですが。
そもそも、水の王と風の王が兄弟で仲が悪いって、あれしかないんですが、やだぁ、もう。
「さてと。冗談は置いておくとして、本当に問題だよなぁ」
「海底神殿に向かうためには、風の王の許可が必要で、無許可で近寄ると攻撃を受けるのですよね?」
「そこな。水の王は封じられているから、解放しないと鍵は手に入らない。そして風の王も、鍵を持っている。この場合の最適解は?」
『ピッ……みんな纏めて、ぬっ殺すですね』
「なんでぬっ殺なんだよ。そもそも、相手は風の王、無垢なる存在、ハストゥールだぞ、多分」
そして、海底神殿の水の王は、皆さん大好きクトゥルフでございますなぁ。
ほら、勝ち目ってあると思うかい?
「まあ、とりあえずはSANチェックですね。ミサキさまのSAN値は幾つですか?」
「知らねーわ。そもそもあると思ってないし、クトゥルフ神話は未修得だよ。Twitterとかで昔見かけて面白そうだったから、オンラインセッションして遊んだだけだわ」
『ピッ……これだからニワカはって言われるパターンですね?』
「うっさいわ。まあ、風の王と交渉してみるしかないか……」
艦橋の席で静かに目を閉じる。
海の上を揺蕩うものを感じるように、意識を拡散する。
錬金術師が行う瞑想の一つであり、世界と自分が一つに溶け込むように、己の魔力をゆっくりと広げていく。
すると、波紋のように広がる魔力の中で、巨大な固まりを感じ取ることができた。
それも二つ。
一つはその場から動くことなく、まるで鎖にとらわれてあるかのように微動だにしていない。
そしてもう一つは、海上を進む船の近くに流れていくと、乗組員達に警告を発していた。
「あ……帝国の特殊部隊の生き残りか。任務遂行のために、海底遺跡へと向かうところなんだな……」
やがて船上では、数名の兵士が銃を構え、機関砲の準備をしていた。
すでにやる気満々のようだな。
「風の王、そいつらに手出しするのか?」
『ん? 小さきものか。此奴らは警告を無視した。ゆえに、危険因子と看做して、排除しなくてはならない』
「うちで引き取るから、手を引いてくれるか? 目の前で殺されるのはあまり見たくないのでな」
『小さきものよ、かのものは、我が忠告を無視した。水の王の危険性を理解しようとしない、愚かな存在だ。それを許せと言うのか?』
「許す必要はないよ。風の王の代わりに、俺が処罰するだけだから。その代わり、頼みがあるんだが」
交渉というよりも、お願いだよな、こりゃ。
かーなーり押し付けがましい願いだけど、相手は人間よりも高次的存在だから、ワンチャンあるといいんだがなぁ。
『頼みか。まずは、愚か者達を処分してもらえるか?』
「了解。うちの機動兵器を出すから、待っててくれ」
そう告げてから、俺はヘルムヴィーケに指示を出す。
「ヘルムヴィーケ、マーギア・リッターで、奴らを捕縛して連れてきてくれるか?」
「かしこまりました。それでは早速」
軽く一礼してから、ヘルムヴィーケは降下船から出撃した。
わずか数十分の間に、敵小型艇をフォースフィールドで捕縛すると、俺たちの眼前に『ぶら下げて』持ってきた。
『マイロード、こんな感じでよろしいですか? 捕縛というか、お仕置きのようになってしまいましたが』
「甲板上空まで持ってきてくれるか? 許褚と甘寧は、小型艇から敵兵士を回収、拘束の枷を嵌めてから空き部屋にぶち込んでくれ」
「「御意」」
抱拳礼で頭を下げてから、二人は急ぎ甲板へと向かう。
そのあとは、フォースフィールドの隙間を縫うように小型艇に潜入すると、次々と兵士たちを拘束して戻ってきた。
『小さきものよ、随分と手際が良いな』
「プロですから。これでよろしいですか?」
『まあ、よかろう。本来ならば贄として欲するところではあるが』
「では、私の頼みを聞いてくれますか?」
『話は聞こう。可能か不可能かは、その後の話となる』
「了解です。それでは、風の王の鍵を貸して欲しいのですが」
『鍵か。小さきものも、アクシアを求めるのか。それを手に入れて、何をする?』
「ん〜。危険なものだったら、封印するか俺が改造して遊ぶぐらいかな。血迷ってもそれで世界征服とか、神に喧嘩を売るとかはないと思うから」
淡々と説明する。
まあ、神様がまた喧嘩を売ってくるのなら、機動要塞で全力で対応してやるけどさ。
『小さきものは、世界を手に入れるとかは考えないのか?』
「ぶっちゃけると、管理が面倒くさいし、今更世界の王様なんてガラじゃない。俺は、のんびり生きるために、全力で頑張っているだけだからな」
『フッ……』
お、ハストゥールの覇気が収まった気がする。
『本当に、小さきものは面白いなぁ。よかろう、これは我の鍵だ。持っていくが良い』
──キィィィィィン
突然、俺の目の前に金色の鍵が浮かび上がった。
飾りっ気のない、南蛮錠のカギのような形だが、先にはカギ特有の歯が存在しない。
それを受け取ると、俺の魔力を吸収して歯が形成された。
「これを、俺が持っていっていいのか?」
『鍵など、いくらでも作れる。我の管理していた鍵は、『所有者の魔力を鍵に変化させる』鍵でしかないからな』
「はぁ。それじゃあ、ありがたく貰っていくよ。それで、海底神殿の鍵のことなんだが」
『小さきものが、海底神殿に向かうことを許そう。我が兄弟は封じられて眠りについている。それを起こさない限りは、好きに捜索するが良い』
つまり、クトゥルフさんと一緒に、水の鍵が封じられているということはないのか。
セーフ‼︎
あぶなかったわぁ。
あんな、口からうどん吹き出しているような姿の旧神相手に、戦いたくはないわ。
しかし、この世界の神様なのかなぁ?
「あの、一つ聞いて構いませんか?」
『小さきものよ。我らは、汝が考えたものではない。全ての神の始源カルリマコスから生まれた、旧き神。ゆえに、汝の持つ、神滅なる力は我らには通用しない』
「いや、そこまでは考えていないから。神滅なる力ってあれだよね、カリヴァーンの神の左手悪魔の右手だよね?」
『いかにも。神と魔の力の融合。対象を霊子分解する究極の技。如何な存在も、その姿を止めることが禁じられる、いわば必殺技』
うん。
お腹いっぱいです。
それでも、鍵をありがとう。
明日には海底神殿の調査ができるよ。
『礼は不要なり』
「そっか、でもありがとう」
よし、ハストゥールとは分かり合えた。
……俺のSAN値がピンチな気がしてきたが。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……アレキサンダー、艦内が忙しないように思えるのだが、我の出番はまだか?」
「アヤノコージ様の出番は、当面はないかと予測できます。今はまだ、体力をつけて、世界を知ることが必要かと思われます」
「我は、そういうのは苦手なのだが」
「マーロゥ王家を再興するためには、より多くの知識が必要ですぞ。いくら王家の秘宝である『超銀河兵器』を手に入れたとしても、それは何人も逆らうことのできない暴君に成り果てるだけです」
ミサキ達が惑星トーチタスに降下した日。
アヤノコージはいつもの日課のランニングを終えて、自宅で待つアレキサンダーと話をしていた。
いくらミサキが超銀河兵器を求めていたとしても、それを開くための鍵の一つである『王家の宝剣』をアヤノコージが所持している限り、手に入れることはできない。
それどころか、ミサキがそれを借り受けに来るタイミングで、アヤノコージが超銀河兵器を手に入れようと画策もしている。
「恩には礼を尽くさなくてはなりません。ミサキさんは、行き場を失ったアヤノコージさまを助けてくれたのですぞ?」
「そ、そんな事は分かっている。ただ、謝礼の仕方を知らぬだけだ。礼として爵位を授けるか、もしくは領地をとも思ったのだが」
「それは、上からのお考えですし、そもそもミサキさんはマーロゥ王家の家臣でもなんでもありません。相手は一国一城の主であり、機動戦艦アマノムラクモの主人です」
淡々と説明するアレキサンダー。
彼の話に対しては、アヤノコージも真剣な顔で話を聞いている。
「分かっておる。だからこそ、難しいのだ。相手が一国の王だとして、我とミサキのどちらの国が上なのか、はっきりとさせないとならないだろう?」
「現時点では、ミサキさんの方が上ですな。あの方は、星の王でもありますから」
「……早く帰りたいものだ。そして、なんとしても殺された父や母の仇を討たねばならぬからな」
まあ、その心意気は良いのです。
ですが、私の知る情報では、先王さまと王妃さまは、帝国軍に囚われてからのち、流刑に処されています。
帝国は非情な国、使い道のない王家の血など、すぐに断ち切ってしまいます。
お二人も、私とアヤノコージさまが移民船で受けた仕打ちのように、ジャンプドライブ中に流刑にされてしまいました。
ああ、お二人とも無事でいられますように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます