第98話・拷問と尋問と、話し合いの境界線
はてさて。
相変わらず、見事に敵艦隊を無力化に成功。
あの神の機動艦隊でないかぎりは、アマノムラクモは敵なしというところなのだろうが、まだまだ油断は禁物。
なにぶん、俺たちの探しているのは機動戦艦アマノムラクモよりも強大な存在である『機動要塞』。
いくらなんでも、まともにやり合って勝てる気はしないんだな、これが。
「ヒルデガルド、敵艦隊の捕虜はどうなった?」
「はい、一番格納能力の高い八番艦を改造中です。そこに全ての捕虜を詰め込んで、アマノムラクモで曳航します」
「各艦のシステムからデータを抽出。終わった艦から随時、俺の|無限収納(クライン)に格納するわ」
『ピッ……使えそうな武装は、そのままアマノムラクモに移植してよろしいかと』
まあ、たしかにその手もある。
小型艇とかはアマノムラクモにも格納できるから、その辺りから順次回収して、アマノムラクモ仕様に改造してもらうことにしよう。
「現在の捕虜って、アマノムラクモの中だよな?」
「はい。しっかりと拘束術式の枷を組み込み、脳波波長を定期的に乱すようにしてありますので、超能力は使えません」
「……アレキサンダーさんの知識って、凄いわ。対エスパー戦略なら、アマノムラクモ以上だよな」
『ピッ……ムッ‼︎』
「いや、わざわざムッとしなくていいから」
なんで感情表現まで返事することやら。
まあ、捕虜やその他の対応はサーバントとオクタ・ワンに任せておくので、おれは指揮官クラスの尋問タイム。
ヒルデガルド達に任せると、今度はギザギザの床の上に正座させて、膝の上に石板を載せかねない。
科学的に行かないで、なんで古代の拷問なのか理解できないんだが。
………
……
…
「こう来たかぁ」
ロスヴァイゼに案内してもらい、捜索艦隊の司令官の待つ部屋に案内される。
そこに入って思ったのは、椅子に座らされて動揺している司令官。
部屋はそれほど大きくなく、ブラインドの降りた窓がある。
机の前後に椅子、そして小さなデスクライト。
まあ、俗に言う取り調べ室だよなぁ。
「さて、それじゃあ尋問を始めるか」
「待て、なんでお前は我々の言語を話せるんだ?」
いきなり俺が、帝国の一般言語で話したものだから、司令官も驚いている。
「勘違いなきように説明するが、この世界で俺にわからない言語はない。それじゃあ、まず最初の質問だが、機動要塞について、知っていることを話してもらおうか」
そう問いかけると、司令官は俺を見ながら呆然としている。
お前は、何を聞いたんだ?
そんな雰囲気が、俺に伝わって来るんだが。
「機動要塞とは?」
「超銀河兵器といえば、理解できるだろう?」
「それは、今、私が乗っているこの要塞のことじゃないのか?」
「これは機動要塞じゃなくてね。機動戦艦アマノムラクモという」
「そんな馬鹿なことがあるか、全長400マキオンを越える戦艦などあってたまるか‼︎」
「400マキオン? あ〜、4000mって事か。残念だけど、超銀河兵器は、これよりもさらに大きくて、まだまだ強い。それこそ、この戦艦が一撃で沈むぐらいにな」
俺の説明を理解したのか、司令官はうなずいている。
「そうか。一つだけ、質問をいいかな?」
「ん? 構わんが?」
「貴方は誰だ? この機動戦艦とやらの責任者と話をしたいのだが」
「俺か? 俺はミサキ・テンドウ。この機動戦艦アマノムラクモの艦長だが?」
──ダッ!
俺が説明するや否や、司令官が机の向こうから飛びかかって来る。
どこから出したのかわからない、金属製のようなナイフを片手に襲いかかってきたんだけど、俺の体に触れた瞬間、俺を貫通して壁に激突した。
──ドゴッ
「な、なんだ、これはどう言う事だ!」
「どうもこうも、何も準備なしであんたと一緒の部屋に入るはずないだろうが。あんたのいる部屋は、空間座標軸を0.1度だけ歪めた、位相空間だよ」
風景も質感も存在するが、そこには俺は存在しない。
オクタ・ワンが次元潜航システムを改良して作った、『ここにあって、そこにいない』空間である。
なお、司令官のいる部屋に待機しているサーバントたち、許褚と甘寧の二人は同じ部屋にいるので、当然、倒れている司令官を立ち上がらせて椅子に座らせている。
「な、なんだこの状態は、こんな技術は知らないぞ‼︎」
「まあ、知っていたら逆にびっくりするけどさ。それじゃあ、もう一度聞くけど、超銀河兵器について、教えてくれるか?」
「私は知らない」
「あっそ。トラス・ワン、敵艦隊から回収した超銀河兵器の解読文字、映してくれる?」
『……了解です』
オクタ・ワンに指示すると、俺の右手の壁にモニターが浮かび上がり、空間座標軸と壁画なようなものが、映し出された。
「これ、ここの壁画の文字配列、これってそこの惑星を指しているよね?」
「知らん」
「そっか。この数値の羅列と星を表す絵が、この星を指しているのは間違い無いんだけど、これを解析して調査に来たんじゃないのか」
「そこまで知っていて、なぜ問いかけた‼︎」
「ガセ情報だと、後が怖いからさ。それで、この星のどこに、超銀河兵器にまつわるものがあるの??」
そこまでは、帝国でも調べが終わっていないのは知っている。
でも、最新情報でない可能性があるので、問いかけてみたんだが。
「まだ、そこまでは解読が終わっていない」
「ふぅん……」
壁画に記されているのは、巨大なピラミッド。
おそらくは、それがアヤノコージの話していた超銀河兵器であり、機動戦艦グランドアークだと推測される。
その座標が星の縦軸と横軸だとすると、それは海上のど真ん中になる。
「まあ、星に降りて調査したらすぐわかる事だよ。帝国が現時点で知っている情報は、この惑星トーチタスに最初の鍵があること、それを起動させるためにはマーロゥの宝剣が必要な事。それ以外での起動には、危険が伴うこと……こんな感じだろう?」
「そこまで情報を引き出しておいて、まだ我々を愚弄する気か?」
「ちゃうちゃう。これ以上の情報がないか知りたかっただけたよ。まあ、今の雰囲気から察するに、海底遺跡か何かだろう?」
「まだそこまでの調査は終わっていない。近日中に惑星に降下して、調べる予定だった」
はあ、なるほどなぁ。
ここまでが現時点の調査の全てか。
つまり、ここからは未知の領域ということになる。
「うん、確認できたので、あとは彼を部屋に戻してくれるか?」
「待て、取引をしないか?」
前のめりになりながら、司令官が取引を持ちかけて来る。
はて、どんな取引なんだろ?
「取引?」
「ああ。我々が押さえているマーロゥ家の宝剣のデータを渡そう。その代わり、私を自由にしてくれるか?」
「自由って、何処かに放逐するって事か?」
「いや、私は帝国を捨てて、君たちの味方になろう。その代わり、超銀河兵器が手に入ったら、我々で帝国を滅ぼさないか?」
うわぁ。
この司令官は、寝返る気満々だな。
だが、断る。
そもそもマーロゥの宝剣って、アヤノコージが持っていて俺がコピーを持っているじゃないか。
口から出まかせも大概にしろってな。
「……うん、この司令官は嘘をついている。牢屋に戻しておいてくれるか?」
「何故だ、この私が嘘をついて……なに?」
俺は|無限収納(クライン)からマーロゥの宝剣を取り出して見せた。
すると、司令官の顔色がサーッと悪くなっていく。
「そ、それはマーロゥの宝剣……なぜ貴様が持っているんだ‼︎」
「さあね。少なくとも、しっかりとした鍵だったことは知っているよ。それに、その使い方もね」
「それさえあれば!!」
再び司令官が俺に向かって飛びかかって来るのだが、ス〜ッと通り抜けて再び壁に激突。
「それじゃあ、牢屋にゴーしておいて。アマノムラクモは三時間後に降下準備を」
『ピッ……敵艦隊のデータ収集に、あと三日です』
「そっか。それじゃあ……ヒルデガルド、降下艇の準備を頼めるか? カリバーンを搭載しておいてくれると助かる」
「了解です」
「オクタ・ワン、アマノムラクモは現在の空間座標に固定、俺の指示があるまで、ヒルデガルドたちと待機していてくれ」
『ピッ……了解です』
『……かしこまりました』
「イエス、マイロード」
これで上での指示は良し。
この数時間後、俺は護衛のサーバントとヘルムヴィーケと共に、惑星トーチタスの大気圏内へと降下を開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「さて。あの小娘がどう動くか、楽しみだ……」
機動要塞捜索艦隊の司令官、リチウム・バーナッシュは、牢屋の中で笑っている。
彼が、あそこまでの情報を得ておきながら、何故、惑星にある遺跡へと向かわなかったのか。
それは、実に簡単な話である。
惑星トーチタスの守護獣
それが海底遺跡の周辺を飛来しているため、近寄ることができなかったのである。
帝国が誇る特殊部隊のいかなる兵装も、守護獣の前では全く歯が立たない。
帝国の中では、その守護獣をどうにか排除できないか、頭を悩ませていた。
守護獣は、海底遺跡の近くに巣を作り、そこで生活をしている。
決して地元の住民に手を出すことなく、ただし、海底遺跡に手を出すものは容赦なく殺した。
全長100mの巨大生物、青空を飛ぶ翼と頭部に伸びた三本の角。
巨大な爬虫類を彷彿する体躯。
その守護獣は、星に住む人々からは『ガーディアンドラゴン』と呼ばれ、恐れられていた。
………
……
…
「まもなく海上です。降下軌道の関係で、海底遺跡からかなり離れていますけれど、よろしいのですか?」
アマノムラクモから降下したミサキ達は、態と海底遺跡から離れた場所の海上に着地した。
旗艦からのサルベージデータでは、海底遺跡の周辺には守護獣が存在することは分かっている。
隠し事もなく、真っ正直に報告していた司令官の几帳面さが、結果としてミサキ達の安全も約束してくれているなど、誰が考えたであろう。
「構わんかまわん。正確に言うと、これ以上の接近は危険なんだよ……」
『そうだな、小さきものよ……』
魂を揺さぶる声が響く。
「……ちょい待ち、あんたが守護獣か?」
まだ周りには何も見えていない。
それどころか、外部音声出力でもない。
普通に降下船のコクピットでの会話であるにも関わらず、守護獣はミサキ達の声を聞き、そして忠告した。
『そうとも言う。星のもの達はガーディアンドラゴンと呼ぶが、我はドラゴン種ではない』
「へぇ。帝国艦隊のデータバンクでは、あんたはドラゴンなんだけどさ」
『ちがうな。我は風の王。意思を持つ風。海底に眠るものを監視するものなり』
え?
監視?
いや待って、眠るものって、なんか眠っているの?
『いかにも。そなたらは、アクシアを求めるのであろう、ならば、五つの鍵を開かねばならぬ』
「その鍵の一つが、海底にあるんだろう?」
『ああ。水の鍵は、我が兄弟であり、憎きものが持っている……』
「水の鍵ねぇ……察するに、4大元素の鍵と
マーロゥの宝剣が必要って事か?」
『小さきものよ、汝は賢い。ゆえに、我は汝を滅ぼすことはないだろう』
「あんたが風の王ってことは、風の鍵はあんたが持っている、そして海底の兄弟が水の……」
──ザワッ
そこまで説明して、寒気を感じる。
いや、これって、ひょっとしてあれか?
触れたら不味くないか?
『察したか……ならば、何もせず、この場を離れるが良い』
「そうなんだけどねぇ..…少し、考えさせてくれるかな?」
『.…時は有限なれど、汝は無限の命を持つ神の眷属。好きにすれば良い』
そこで、意思が途絶える。
ふと周りを見渡しても、サーバントたちは何が起こったのか理解できていない。
つまり、あの声は俺にしか届いていないって言うことだよなぁ。
はあ。
またこんなの相手にやり合わないとならないのか?
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