第97話・エスパーと魔法使いの線引き

 まさかの敵潜入。


 いや、 古今東西、俺がアマノムラクモを貰ってから、はじめて敵の潜入を許してしまったわ。

 外部から取り付いて乗り込まれたのなら、まだ納得できる案件なんだけどさ、まさかテレポーターが敵にいたとは予想外だったよ。


『ピッ……敵潜入は停止した模様ですが、未だ内部の敵については捕獲できていません』

「いや、それってすごくない? うちのサーバントたちの攻撃を躱しまくっているんだよ?」

『ピッ……さらなる追加データと実践経験が必要かと』

「このまえ捕獲した帝国兵の戦闘データは、もう組み込んであるんだろ?」

『ピッ……当然です。今のサーバントなら、北極海の巨大なシロクマも、絶滅危惧種のタイガーも、ウォンバットも殺せます』

「それでいて、逃げてるのか。そして、今の例には突っ込まないからな」


 実際にどの程度かと言うと、単体でアメリカ特殊部隊一個師団と互角に渡り合うことぐらいは、造作もないらしい。

 オクタ・ワン曰く、人間サイズのマーギア・リッターというところらしい。


「しっかし、対テレポート対策も行いたいんだが、超能力ってなんだろう?」

「マイロード、超能力は、人間の体内にある保有魔力のみで発動する、簡易型魔術です」

「へ?」

「発動に必要なESP素、これは脳内で生み出される一種の麻薬物質なのですが、これを媒体に、意思のみによる無詠唱で発動するのが超能力です」

「へぇ〜。フォースフィールドを突破した方法は?」

「魔力波長とESP波長の差でしょう。ここの調整を行えば、テレポーターはアマノムラクモに向かってテレポートすると、表面のフォースフィールドに貼り付きます」

『ピッ……ハエ取り紙のように』

「うわぁ、台無しだな」


 さらにヘルムヴィーケが説明してくれたんだが、例えば|発火能力者(ファイアスターター)は炎系魔術師、|念力系超能力者(フォースマスター)は無属性魔術師と、大体は分類することができるらしい。

 あ〜。

 超能力者のありがたみが消えていくわ。


「それで、未だに奴らを捕まえられない原因は?」

「データ収集のために走らせています。私たちにとっても、超能力者との戦闘データは必要です」

「あいつらの持ち込んだ爆弾程度で吹き飛ぶのは、せいぜいアヤノコージだけです」

「あ、アヤノコージだけって……アレキサンダーさんは?」

「あの方は、爆弾程度では死なないでしょうね」

「マジか?」


 いや、あのアヤノコージの側近にして執事だからなぁ。並大抵の人間じゃ、務まらないと思うが。

 彼って、俺たち人間種と同じ外見なんだよね。アヤノコージたちのように、額にツノが生えている種族じゃないんだわ。


「敵テレポーター、居住区にランダムテレポートしました」

「アマノムラクモの絶対座標をずらしても、まだ飛べるのかよ」

『ピッ……潜入後は、自身の存在位置から座標を計算できるようです。いやぁ、これはなかなか興味に尽きない』

「だ、大丈夫なのか? 近くのサーバントは?」

「今、付近のバーキンとタバコ屋の梅宮さんが駆けつけている最中です」

「ふぅむ。無事を祈るか」


………

……


 さて。

 タバコ屋の梅宮さん曰く、ジャンプドライブが終わって戦闘状態に突入したと申しておりましたが。

 我がマーロゥ家跡取りにして絶対王であらせられるアヤノコージさまは、どこに行ったのやら。


 軽く付近を散策してみますが、まだそれらしい気配も感じませんな。


──ブゥン

 ん?

 目の前にテレポートしてくる存在?

 そのコンバットスーツは、帝国宇宙軍の特殊戦略部隊ですか。

 まさか、こんな所でお目に掛かれるとは、予想もしていませんでしたが、どうしたものか。


『貴様は人間だな‼︎ ここのコントロールシステムまで案内しろ‼︎』

「ふむ。声の波長から、第26太陽系のマントル種の人間でしたか」

『なんだと、きさまは俺たちの種族を知っていたのか』

「ええ、よくご存知ですよ。一万分の一の確率で生まれる戦闘エスパー種族、今の帝国軍のエリート部隊の花形ですからね」

『ほう、そこまで知っているのなら話は早い。この宇宙船はなんだ?』

「なんだと問われましても。私にとっても、この機動戦艦アマノムラクモは不可解な存在であるとしか、答えようがないのですが」


 ふむふむ、テレパスで私との会話を送信しているようですか。

 武器を持たず、専用スーツのみで敵艦内にテレポートで潜入、内部からシステムを掌握するという戦術は、見事なものですな。


『機動戦艦だと? これはあれか、超銀河兵器なのか?』

「いやいや、そんなバカな」

『そうだろうな。この船からは、あれを感じない』

「あれ……ああ、事象変換ドライバーの事ですか。あんな伝説でしかないものなど、この機動戦艦には搭載してありませんよ」

『……なぜ、正式な名前まで知っているんだ?』

「それについては、お答えできません。と言うことですので、貴方にもここらでギブアップしてもらいますか」

『ふん、俺様を捕まえられるならな』


──シュン

 お、テレポートですか?

 でも、無駄ですね。


──ゴギッ

 私の真後ろに回り込んで、殺そうとしたところまではいい判断です。

 ですが、貴方は間違った判断もしています。


『な、なんだと……どうして俺のテレポートに干渉できる?』

「私は、対エスパー戦術も学んでいます。そうでなければ、マーロゥさまの星が貴方たちに襲撃された際、多くの国民を流さないでしょう?」


 久しぶりの空間干渉。

 テレポートといえども万能ではありませんからね。

 このように、転移座標先が分かっていれば、実体化のタイミングで捉えることもできますので。


「アレキサンダー殿、敵の捕縛、感謝します‼︎」

「おや、これはこれは、戦闘用サーバントの趙雲殿ではないですか。これがテレポートしてきた賊です。ESP封じを行わないと、逃げられますよ?」

「え、それはどうやって?」

「まあ、まずは気絶させておきましょう」


──バジッ

 私はテレポーターの首を掴み、生体電流を発して麻痺させました。

 この程度は初心者レベルなので、アヤノコージさまにも体得して欲しいのですが。

 どうも、私の話を真面目に聞いてくれないことがありまして、困ってしまいます。

 さて、アマノムラクモの方々にも分かりやすいように、メモでテレポーターをはじめとする、超能力者対策を教えて差し上げますか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「……え?」


 艦橋で居住区内を確認していたら、アレキサンダーさんがテレポーターと対峙していたよ。

 しかも、何か話をしているようだけど、すぐに戦闘になって……敵テレポーターをあっさりと捕獲していたわ。


「あれって、どう言うこと? オクタ・ワン、説明できるか?」

『ピッ……転移術式で移動する対象の転移先を、なんらかの方法で確認。その後の実体化のタイミングで敵を捕縛、生体電流によるショックで気絶させたというところでしょう』

「それって、できるものなの?」

「マイロード、無詠唱による転移術式は、相手に転移先を知らせずに行うので不可能です」

「そうだよね? 俺、おかしくないよな? アレキサンダーさんって、かなり凄腕の執事なんだなぁ」

『ピッ……アレキサンダーが渡したメモの解析を始めます。捕獲したいテレポーターには、拘束術式を組み込んだ枷を嵌めて、牢屋に閉じ込めておきます』

「頼むわ。残りのエスパーも早いところ、捕獲してくれると助かるわ。いつ、ここに飛んでくるかと思うとヒヤヒヤするからさ」

「了解です。艦内各位に通達、訓練モードは完了して、速やかに敵を捕縛してください」


 ヒルデガルドが指示を飛ばしてから五分後。

 潜入した全てのテレポーターが捕縛され、拘束術式の枷を嵌められて牢屋へ没シュート。


「まあ、こんなものだよな。それよりもトラス・ワン、敵艦隊の様子を見せて……うわぁ」


 モニターが切り替わる。

 そこに映し出されてあるのは、バッキバキに分解されまくっている敵宇宙船。

 絶妙な手加減で動力部を避けつつ、見事に破壊を繰り返していた。


 すでに周辺の宙域には緊急避難用の小型艇が浮かんでおり、惑星に向かって逃げている姿も見える。


『……敵艦隊のうち、八隻まではシステムまで掌握。逃げるものには手を出さず、抵抗するものはまあ、捕縛してダクトテープで固定して宇宙空間に放り出してあります』

「ダクトテープ最強かよ。いや、生身じゃないよな?」

『……敵艦内では宇宙服着用の義務でもあるのでしょう。皆、宇宙服を着ていたのでご安心ください』

「それは良かった」

『ピッ……ミサキさま、地球では、宇宙空間においての特殊訓練があると聞いていますが。生身でスペースコロニーを走り回ったり、穴の空いたコロニー内部で人生ゲームを楽しんだり』

「あ、私も聞いたことがあります。確か、大気圏突入はラップを巻いて、座布団で降下すると」


 そんなの知らんわ‼︎

 とうとう俺の知らないネタまで仕入れてきやがったか。


「まあ、その辺りはパスだ、俺も知らん。残りの四隻の捕縛は可能か?」

「内部の抵抗が激しいところに、戦闘空域から離脱しようとしているので中々進んでいません」

『ピッ……一発、ぶちかましますか?』

「何をだよ?」

「逃走を図っている艦隊は四隻で、指揮系統を持っている旗艦及びその護衛艦と思われます」

「よし、絶対に逃すな。ジャンプドライブを使われないように」

「マイロード、現在の位置では惑星の干渉を受けるため、ジャンプドライブは使えません」

「あ、そうなの? でもアマノムラクモは出来たよね?」


 つまり、アマノムラクモが敵艦隊の前にジャンプドライブで出現したため、思いっきり怪しまれたそうで。

 帝国のテクノロジーでは、惑星から一定距離でのジャンプドライブは不可能らしく、最低でも地球⇆月程度の距離がないと危険なため、行われないそうだ。


「はぁ、成る程。そりゃあ怪しまれて降伏勧告も受けるわ」

「マイロード。マーギア・リッター隊、敵旗艦に取りつきました。これより破壊活動を開始するそうです」

「やっちまえ‼︎」


 俺の指示により、マーギア・リッター隊が敵艦隊の旗艦の解体を開始。

 外装甲を引き剥がし、船体表面を覆うバリアシステムを停止。戦闘用サーバントが突入して内部を完全に掌握。

 ここまで来ると勝利確定なので、あとは全てオクタ・ワンに任せる。


 実に戦闘開始から八時間二十六分で、敵の機動要塞捜索艦隊は無力化し、旗艦艦長以下六十名の捕虜を捕らえることに成功した。

 まあ、小型艇で惑星に逃げた奴らは見逃しているし、ダクトテープでぐるぐる巻きにされて宇宙空間に放り出された奴らも、仲間が回収していったからよし。


 こうして、ダルメシアン星系での初陣を、勝利によって収めることができた。

 課題はあったけどね。

 

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