第96話・最初の試練、まあ、お約束

 ダルメシア星系。


 果てしない宇宙に浮かぶ、一つの世界。

 まあ、神様的には『住所区分』の一つであり、統括している創造神の名前でもあったりする。

 つまり、この、世界で一番偉い神さまが『ダルメシアン』と言う名前らしい。


「さてと、この辺りの座標とかの確認は、トラス・ワンに任せるわ。これからどうするか、そこが問題なんだけどね」

「アヴェンジャーの艦長から入手した情報から、超銀河兵器の捜索艦隊というものが存在します」

「それは、現在の座標から十四光年先に存在する、生物が生存できる惑星周辺に待機しています」

「彼らが求めているものは、超銀河兵器『グランドマーズ』。それを探すための鍵である『マーロゥの宝剣』を、求めていました」

「……ん? 超銀河兵器って、機動要塞アクシアじゃないの?」


 あれ?

 俺、どこで間違えた?

 情報が混雑しているぞ?


『ピッ……機動要塞アクシアは、グランドマーズの母艦にあたります。アクシアは巨大惑星型であり。自己増殖、自己修復、自己進化を行います』

「あ、なるほどなぁ。スターゲイザーみたいなものか」

『ピッ……我らがスターゲイザーと、ゴミのようなアクシアを同等に並べない方が。なおグランドマーズの形状は、巨大なピラミッド型機動要塞です』

「どうりで、角ばっているアマノムラクモを間違えるはずだよなぁ」


 アヤノコージの頭の中では、『超銀河兵器=角ばった機動要塞=アマノムラクモがそうじゃね?』って方式が成立しているらしい。

 まあ、その程度の認識でも構わないけど、邪魔をしてくれるなよ。


「マイロード、目的座標まで移動しますか?」

「そうだなぁ。普通なら、こっそりと移動して敵に見つからないように調査、そして機動要塞を入手するって言うのがお約束なんだよなぁ」

『ピッ……どこのお約束ですか?』

「ハリウッド映画。大抵は母艦は隠しておいて惑星にこっそりと侵入、敵基地に忍び込んで情報を得たところで敵に見つかり、なんとか逃げて次の情報のもとに向かうっていうのが、お約束な」

『ピッ……それで、今回の作戦は?』

「まあ、指定座標惑星の重力圏外にジャンプドライブで接近、敵艦隊を捕捉後にマーギア・リッターにより奇襲攻撃。速やかに敵艦隊に潜入して、情報を奪取だな」


 え?

 お約束?

 そんなの知らんよ、敵キャラみたいだけどさ、一番効率がいいんだよね。 


「と言うことなので、ジャンプドライブ起動。指定座標惑星の入力、ドライブアウトしたら速やかにフォースフィールドを展開。マーギア・リッター隊全機スタンバイ‼︎」

「了解です」

「速やかに作戦に入ります」

『ピッ……オペレーションコードは?』

「完全奇襲作戦だから。オペレーションコード・一ノ谷。作戦発令‼︎」


──グォングォン‼︎

 アマノムラクモの魔導ジェネレーターが唸り声を上げ始める。

 艦内全域がフォースフィールドで包まれ、対ショックモードに移行した。


………

……


 一方、住宅地では。


「ふむ。朝一番のジョギング、その最中のハンバーガー。実に健康的である」


 アヤノコージは暇を弄び、日課のトレーニングを続けていた。

 いつ、切り札であるアヤノコージに声がかかっても良いように、体は鍛えている。

 そしてジョギング後の、ハンバーガーワゴンでの朝食が堪らん。


「しかし、アヤノコージさんも暇ですね。何かやることはないんですか?」

「知らぬ。ミサキからの連絡はないからな」

「あの、うちらから連絡はできますよ? 何か仕事はないかって」

「仕事はあるさ。この私の持つ王家の剣がなければ、超銀河兵器の場所など分かるはずがない。この剣の束に収めてある空間座標、それを読み取ることができるのはグランドマザーという、我が母星の電脳頭脳だけだからな」


 自慢げにワゴンの店員に告げながら、ハンバーガーを食べる。


「美味かったぞ、幾らだ?」

「2ドルですね」

「そこは、『とんでもない、お代は結構です』じゃないのか?」

「とんでもない。しっかりと代価は頂かないと」

「まあ良い、釣りはいらん」

「しっかり2ドルだけですけどね」


──ブゥーンブゥーン

 そんな話をしていると、突然艦内に警報が鳴る。


「こ、これはなんだ?」

「あー、亜空間ジャンプに入るんですよ」

「そ、それは危険だな。急いで保護カプセルに入らないとならないな。カプセルはどこだ?」

「え? そんなの必要ないですよ。ジャンプドライブに入るので、蓋をしていない飲み物や食べ物は、すぐに冷蔵庫にしまいなさいって言うことですから」

「……はぁ?」


 アヤノコージにとって、ジャンプドライブ突入時が最も危険であるという認識がある。

 位相空間への突入時、生身の人体にはさまざまな影響が出ることがある。

 そのため、ジャンプインとジャンプアウトでは、専用スーツを着用するのが常識であるのだが、アマノムラクモでは必要はない。

 ジャンプイン及びジャンプアウト時、船体を保護するためにフォースフィールドの強度が上がるので、一時的に人工重力発生装置が停止する。

 そのため、一分間の無重力状態が発生する……という設定をオクタ・ワンが行ったので、艦内に微妙に緊張感が流れるようになっている。


 当然、ジャンプドライブ程度で出力が低下するはずなどなく、ミサキに雰囲気を楽しんでもらうための娯楽的要素であるのだが、ミサキはそんなことは知らない。


「お、始まりますなぁ」


 ハンバーガーショップの店員が、我が家の扉を閉める。

 そして地面にフックで固定するタイミングで、アヤノコージと店員の体がフワリと、夜空へ。

 照明も落ちたので夜空に見えてしまうが、体感時間はしっかりと朝である。


 一分ほどのジャンプドライブ体験のち、アヤノコージと店員も地面に着地、夜空のディスプレイも朝に切り替わる。


「……なあ、なんで一瞬だけ夜空なんだ?」

「さぁ?」

「重力制御装置に余剰エネルギーを回せば、無重力にならないよな?」

「さぁ?」

「ここのシステム制御はおかしくないか? 優先する部分を間違っていないか? なんで重力を切ってまで、夜空にするんだ? バリアシステムがあるのに、なんで安全性に揺らぎを持たせているんだ?」

「さあ?」

「このシステムは誰が設定したんだ?」

「オクタ・ワンじゃないですかね。それと、優先順位はミサキさまです。そのためのシステムであり、そのための安全性です」


 キッパリと言い切る店員に、アヤノコージは頭が痛くなってくる。


「そ、それで、ジャンプドライブといったよな? どこに到着したんだ?」

「あ〜、確認してみますわ。もしもし‼︎」


 懐からスマホを取り出して、艦橋に連絡する店員。

 その傍らでは、アヤノコージがフライドポテトを受け取って、食べていた。


………

……


「ミサキさま‼︎ 居住区のバーキンから連絡です」

「バーキンって誰だっけ?」

「ワゴンのハンバーガーショップです」

「……なんで?」

「彼はアヤノコージ管轄ですから」

「ダイレクト通信に切り替えて。もしもーし‼︎」


 なんだろ?

 ジャンプドライブ中にアヤノコージに事故でもあったのか?


『はい、バーキンです。アヤノコージさんが、今どこに着いたのか知りたいそうですが』

「えーっと、ここどこだっけ?」

「ダルメシアン星系最縁部、カザミ太陽系群の惑星トーチタス軌道上です」

「だってさ。惑星トーチタスだから、間も無く戦闘に突入するので。少し揺れるから」

『なるほど、って、はい、お待ち下さミサキ、なぜトーチタス上空にいるんだよ‼︎』


 あ、アヤノコージがスマホを借りたな。


「何故って、ここに機動要塞調査艦隊がいるから。情報を得るためには必要だろう?」

『お、お前は馬鹿なのか‼︎ 機動要塞調査艦隊は、帝国のエリート艦隊だぞ? そんなのを相手に無事でいられると思っているのか‼︎』

「まあ、無傷ってことは無理だろうから、なんとか頑張ってみるよ。戦闘突入なので通信切るわ」


──プッッ

 バーキンがいるのなら、アヤノコージは安全だな。

 さて、戦況を確認するか。


「ミサキさま、先程から敵の帝国艦隊より通信が届いています」

「ダイレクト通信。切り替えて」

「了解です」


──ブゥン

 お、正面モニターに相手の映像も浮かび上がった。

 服装は人間のようだし、ツノが生えている程度の差異しかないのか。


『我々は帝国軍特殊調査艦隊である。未確認艦に告げる、速やかに降伏せよ』

「こ、と、わ、る。我々はアマノムラクモ。機動国家アマノムラクモだ。これより貴艦隊に対して宣戦布告を行う。降伏するのなら、命は取らないが如何に!」


 降伏勧告に降伏勧告を返す。

 質問に質問を返したらダメだけどさ、しっかりと断ってからの勧告だから問題ない。

 敵は400m級宇宙船十二隻か。

 まあ、どうにかできるとオクタ・ワンが弾き出しているからなぁ。


『よかろう。貴様の船が機動要塞の可能性もあるのでな。では、早めの降伏を期待する』


──プッッ

 通信が途切れた。

 そして敵艦隊がアマノムラクモを包囲するように上下左右に展開を始めた。


「オクタ・ワン及びトラス・ワンに勅命、敵艦隊への攻撃は可能な限り被害者を出さないように」

『ピッ……ハリウッド的に?』

「意味がわからんが、それでいい」

『ピッ……了解です。チャック・ノリス的に可及的かつ速やかに、敵艦隊を無力化します』


 その言葉と同時に、一斉にマーギア・リッターが出撃する。

 敵艦隊からは砲撃のみだが、うまく仲間同士を攻撃しないように、射線を変えて打ち込んでくる。

 このパターンは戦闘機とかも飛んできて良いと思うのだが、それらしいものは飛んでこないし敵の機動兵器も出現しない。 


「……敵主砲、直撃します‼︎」


──ドゴォォォォォッ

 あ、音はしないんだよなぁ。

 敵艦隊の攻撃は、全てフォースフィールドによって遮られている。

 うん、アヴェンジャーから得た火力データを算出したらしく、対応が素早い。

 それよりも、敵の戦闘機とか、本当に飛んでこないんだよなぁ。


──ビーッ‼︎

『ピッ……アラート‼︎ 艦内に侵入者あり。サーバント隊は第25ブロックへ』

「はぁ? どこから入ってきた?」

『ピッ……座標指定ショートテレポートかと』

「エスパー?」


 画面が切り替わり、宇宙服を着た男が廊下を走っている。

 しかも、そいつを取り押さえようと駆けつけたサーバントたちを攻撃して、反撃されて、ビビって反対側に逃げ出した。


「……まあ、そうなるよなぁ。しっかし、エスパーだとすると、テレポートアタックが怖いなぁ」

『ピッ……敵艦三隻にマーギア・リッターが接触。外装甲を破壊して侵入を開始しました』

「あっちがギブアップするのが早いか、こっちがエスパーに蹂躙されるか、勝負か」

『……敵テレポート兵、新たに四人確認。艦内を破壊すべく攻撃を開始していますが、ダメージが入らないので逃げまくっています』

「急いでそいつらを捕縛してくれ。座標指定テレポートの対応は?」

『ピッ……次元潜航モードに切り替えます。相対座標を0.1だけずらしますので、テレポートは不可能となります』

「つまり?」

『ピッ……おおっと、壁の中』

「怖すぎるわ‼︎」

 

 そんな話をしていると、あちこちから艦内の敵兵士を捕縛したと言う連絡が届く。

 それと同時に、モニターの向こうでは、外装甲が引き剥がされていく敵艦隊の姿も見えていた。


 あ〜。

 やっぱり、こうなったかぁ。

 こうなると、余計な指示は出さないで、黙ってみているしかないよなぁ。


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