第94話・追撃と反撃と、街の復興‼︎
アヴェンジャーの調査が半ばを過ぎたころ。
──ピッピッ
アヴェンジャー艦橋で、長距離通信が届いた。
「……こちらアヴェンジャー」
『帝国宇宙軍第26方面師団、旗艦カタマランのアスタハッチだ。カラーマン准将に繋いでくれ』
「カラーマン准将は現在、敵の反撃を受けて負傷。その他、船体にも甚大な被害が発生し、軌道上へ一時退避中です」
『敵の反撃? 何があった?』
「未確認の敵です。円盤状の小型宇宙船ですが、一瞬でアヴェンジャー船体を貫通する攻撃を受けました」
『馬鹿な、アヴェンジャーの船体には伝説の金属ミスリルが使われているのだぞ? それを貫通したというのか』
「魔導ジェネレーターの損傷もあり、通信限界も近いかと」
『了解だ。神域に進めるのはアヴェンジャーしかないからな、修理が完了次第、一時撤退するように』
「了解です、カラーマン准将にそう伝えます。指定座標はありますか?」
『AAX29、CJK24、DT25。惑星カラマンシーに向かえ。軌道上にて待つ』
「了解です、ただちに」
──プッッ。
通信を切るジークルーネ。
その瞬間、艦橋内で喝采の声が響く。
「よっしゃぁ、敵艦隊の座標ゲットぉぉぉぉ」
「よくもまあ、あそこまで騙し切れたな」
「あらかじめ通信員からデータを回収して正解だったわ」
「さすがミサキさまだ‼︎」
「そこに痺れる憧れるぅぅぅぅ」
盛り上がる理由は簡単。
ここ最近、アヴェンジャー艦橋の通信システムに、定時に未知の波長からの通信が入っていた。
すぐさまミサキが通信員の元に向かい、『|知識継承(インプリンティング)』魔法をリバースさせて相手の記憶から通信についてのノウハウを回収。
それをジークルーネに再度、|知識継承(インプリンティング)ですり込んだのである。
これで通信を受け、相手の情報をゲットしたのである。
「いやぁ、これはまた見事なものだなぁ」
「よーし野郎共、とっとと解析を終わらせるぞ‼︎」
「ジークルーネさま、俺たちゃサーバントですから、性別なんてありゃしませんぜ」
「それもそうか‼︎」
豪快に笑う一同。
そしてすぐにミサキの元に通信を入れて状況報告を行うと、ジークルーネは再びシステム解析を続行した。
………
……
…
その頃のミサキは。
──ジーッ
「オーライオーライ‼︎」
街の中に聞こえる声。
大勢のサーバントたちが、街の復興を始めている。
木造だと、次に同じようなことがあったら大変だということで、今回は石造りの建物が建築され始めていた。
さすがに捕虜120名の食糧事情をどうにかする必要があるので、急遽、大型の地引網での漁も始まったらしい。
「オーエス、オーエス‼︎」
「アイオーエス、アイオーエス‼︎」
「ユーニックス、ユーニックス‼︎」
「トーロン、トーロン」
なんだよ、その掛け声。
二台の回転炉が設置され、それで網を引く。
当然ながら、炉を回しているのは、与えられた奴隷コスプレに身を包んだ帝国兵たち。
まだ彼らはいい。
先日から始まった、山脈地帯の採石業務に比べたら。
まるでマスクドヒーローと敵怪人がバトルでも始めそうな採石場で切り出した巨大な岩は、俺が用意した『超硬合金』で作った円筒状の金属の上を、滑るように動かす。
巨石の前後にロープを引っ掛けて、人力で引っ張る様は、一昔前のエジプトのピラミッド建築イメージにも見える。
彼らは逆らうことは許されていないが、日が暮れると食事を与えられ、風呂に入り、一杯のビールを片手に疲れを癒す。
そしてまた翌日、日が登ると仕事を始める。
安いながらも賃金は支払われ、先に復興した商店で買い物も許されている。
──ジーッ
「……なあ、このシステムを指示したのは誰だ?」
説明を聞いていくうちに、頭が痛くなっていく。
なんで、古代エジプト式の建築を始めているのかなぁ。
「これを提案したのは、オルトリンデですね。司令官クラスはいまだ反抗的で、すぐにでも救援部隊がやってくると信じているそうですが」
──ジーッ
そう説明しつつ、俺に報告書を渡してくるヒルデガルド。
そこには、帝国軍からの通信内容が記されており、どうやら次元潮流に乗ることができるのは、アヴェンジャー一隻だけらしい。
「しっかし、帝国のテクノロジーって化け物かよ? 神が作りし遺産を、コピーしてとはいえよく再現したものだよ」
「素材の限界でしょう。彼らだって、その理論の全てを理解したということではないそうです」
「それでもさ、この次元潮流の中に届く通信システムがあるのが怖いんだけどさ」
「しっかりとコピーして、アマノムラクモに組み込んでいる最中です。以後、アヴェンジャーへの通信は全て、アマノムラクモ艦橋で受ける手筈になっていますから」
「相変わらず、指示が早いことで。それで、さっきから俺をジーッと見ているマロ、何か用事か?」
物陰から、ずっと俺たちを追いかけて監視しているアヤノコージ。
言いたいことがあるんなら、言えよ。
「き、貴様は、あの巨大戦艦の艦長だな‼︎」
「違うな。機動戦艦だ‼︎」
「呼び方などどうでもいい。あの船を俺によこせ‼︎」
「アホか。なんで俺の家を、お前にくれてやらないとならないんだよ」
「俺は、マーロゥ王家の最後の人間として、超銀河兵器を手に入れる責務がある。それで、帝国に復讐するのだからな」
「あ、絶対にやらねぇ。そんなくだらない事で、命を散らせそうな奴にはな」
やっぱり復讐じゃないかよ。
気持ちはわかるよ?
俺だってスターゲイザー中枢のヴァン・ティアンから全てを聞いたからね。
俺がやることは、帝国が超銀河兵器『機動要塞アクシア』を手に入れる前に、回収もしくは破壊すること、そして帝国の持つデータベースから、神のテクノロジーを消滅させること。
そのためには、アマノムラクモは必要なんだよ?
「それなら、あの船だ‼︎ 帝国がここまで乗ってきた船、あれと乗組員と食料を要求する」
「全て断る。あの船は存在してはいけないから、俺が消す。うちのメンバーを乗組員としてお前に貸し出す気はない。捕縛した帝国兵は、うちの戦力として使う。食料は買え‼︎ 以上だ‼︎」
「なぜだ、俺はマーロゥ王家の最後の後継者だ、その俺の命令だぞ」
「あたしゃ機動国家アマノムラクモ、そして惑星アマノムラクモの女王だ‼︎ そろそろ考え方を改めないと、本当に次元潮流に放り出すからな」
ここまで話して、理解できないのなら知らんわ。
存在しなくなった権力に固執する様なら、おしまいだよ。
「お、俺は諦めないからな‼︎」
それだけを叫んで、アヤノコージは立ち去る。
気持ちはわかるけどさ。
せめて、俺も連れて行けぐらいは言って欲しかったよ。
それならまだ、一考の余地があったんだからさ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
アマノムラクモ艦内、元生活区画第一階層。
新しいアマノムラクモは、この一層だけを再開発してある。
万が一の時は、エルフの皆さんを避難させるために。
その一角にある建物では、アヴェンジャー艦長の
カラーマン准将が、取調べを受けているところであった。
椅子に座らされ、両手両足は拘束されている。
その部屋で、ヘルムヴィーケが、にこにこと笑顔で話しかけているところである。
「さぁ、帝国のことについて、全て語ってもらいましょうか」
「何も語る気はない」
「あのマーロゥ王家の遺産について、全て語ってもらいましょうか」
「断る」
「マーロゥ王家の遺産である『超銀河兵器』について、全て語ってもらいましょうか」
「知らん‼︎」
──ピッ
カラーマン准将に取り付けられたセンサーが反応した。
「あら、反応がありましたわ。カラーマン准将はご存知でしたか」
「仮に知っていたとしても、帝国に仇なす存在に教えるか‼︎」
「違いますわね。貴方たち帝国が、アマノムラクモに仇を成したから、こうして取り調べられているのですわ……まあ、折角ですから選択肢を差し上げますわ……ロボトミー手術をして、ただ言われたことに対して返事しかできない存在になりますか? それともしっかりと話をして、このアマノムラクモの住民として生きますか?」
──ゴクッ
思わず息を呑むカラーマン。
まさか、捕虜尋問のためとはいえ、そんなことをするはずがない。
そう信じているものの、動悸がおさまらない。
この女は、必ずやる。
そうして、俺から記憶を奪い取るだろう。
だが、帝国を裏切ることはできない。
俺が、自分で話すことなどない。
「……好きにすればいい」
「そうですの? では、遠慮なく」
──プスッ
注射器を取り出して麻酔を打つ。
やがて、カラーマンの意識が、どんどんと微睡んでいった。
………
……
…
──ガバッ‼︎
意識が戻った。
あれからどれぐらいの時間、俺は意識がなくなっていたのだろう。
思わず髪をかき上げようとしたが、腕が届かない。
何故だ?
俺はどうなっているんだ?
ベッドに横になっている体を起こして、手を見る。
──キュイン‼︎
小型マニュピレーター?
え? なんだこれは?
慌てて立ち上がり、頭を下げて体を見る。
銀色の円筒型の体、足も金属製のマニュピレーターになっている。
おれは、俺はどうなったんだ?
何が起こった?
部屋の中を歩き回ると、鏡がある。
恐る恐るそこに近寄り、鏡に写っている自分の姿を確認して、俺は膝から崩れ落ちた。
──キュイン
膝可動部のアクチュエーターの音が聞こえる。
このきんぞくのからだはなんだ?
ドラム缶に手足と目玉だけがある、この体はなんだ‼︎
叫びたくても、声が出ないのじゃないか?
「ぬぁーんどぅあ、このくぅあらだぁわぁ」
野太い声。
これが、俺の声なのか?
「どぅーぬぅあっているんだぁ? うぉぉい、誰かぁいないかぁぁ」
そうだ、俺の副官たち、彼らはどうなったんだ?
「ファーグゥダァ、いぬぅあいのくぅぁ‼︎」
誰も、声も返ってこない。
俺が話をしなかったから、ロボトミーとか言っていたよな。
これが、その代償なのかよ……。
………
……
…
「うわ、えげつないわ」
ヘルムヴィーケからの報告を受けて、俺はラボにやってきた。
そこでは、監視用ベッドに横になっているカラーマンの姿がある。
俺が頼まれて作った『遠隔思考誘導装置』が、頭に装着されている。
あれってさ、離れた子機を脳波コントロールで操るためのもので、それを改良してこんなものに作り替えたのかよ。
「はい。今の彼の思考は、離れた隔離室にある『試作型作業用サーバント』に送り出されています。彼の本体はここにありますし、目覚めたら元に戻ります。でも、夢と思うでしょう」
「はぁ、その作業用サーバントって?」
「ええっと、ミサキさまの好きだった漫画に出てきたクラスメイトの姿で、こちらです」
──ピッ
モニターに映し出されているのは、ドラム缶に手足をつけたやつ。
あー、○カ沢かぁ。
「……いい意味で、うちのワルキューレたちがアホなのは理解した。それで、どうするつもりだ?」
「目覚める前に、思考誘導装置も外します。彼は目覚めたら安堵するでしょう。でも、眠りについたら、またあのロボになります。何日で彼が壊れるか、楽しみではありませんか?」
「怖すぎるわ‼︎」
「まあ、そうなる前に全て話してくれますから、ご安心ください」
「……その自信は、どこからくるんだよ?」
「以前、地球の『第三帝国兵士』で実験済みです」
「……やり過ぎないように、ちゃんと話をしてくれたら、アフターケアも頼むわ」
「了解です」
いや、マジで怖いんだけど。
他のことにはあまり関心がないくせに、アマノムラクモのこととなるとリミッターを自分でカットするからなぁ。
他の捕虜たちが無事なのを祈るとしよう。
なお、カラーマン准将は三日後に心が完全にへし折れ、全て白状したらしい。
その後の手厚い治療により、オタルの再開発チームに組み込まれたという。
………
……
…
「アクシアを探しに向かいたいところだが。ヴァン・ティアン、留守を任せたとして、どこまで防衛可能だ?」
そろそろ情報がまとまってきた。
あとは実際に、あの星系に向かうだけなんだけど、スターゲイザーを留守にしておくのは不安である。
『ビビッ……緊急時用に、地表区画を格納できるように改造を開始してあります。七日後には、エルフの里およびその周辺は全て内部格納可能となります』
「……規模がでかいわ‼︎」
『ビビッ……アマノムラクモ型フォースフィールドシステムは完成してありますので、これで防衛も可能です』
「最悪の事態は、フォースフィールドでスターゲイザー全周を覆って、次元潜航できるか?」
『ビビッ……現在は可能です』
「それで良い。そんじゃ留守は任せるわ」
これで、エルフの民は問題ない。
すぐにでも向かいたいところだけど、アヤノコージの審判の日が明日なので、それまでは待つ。
約束の一ヶ月、俺の目から見た感想は『保留』。
猶予期間延長ではなく、結論を出すには早すぎるっていう意味で保留な。
さて、明日のアヤノコージは、どう出るのか。
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