第93話・神に触れるもの、怒りを買うもの
うーん。
実に快適な眠りだった。
機動要塞スターゲイザー中枢で、支配権を得てコントロールシステムを魂レベルで刻み込まれたのは良い。
おかげで、このとんでも兵器についての詳細までしっかりと理解したよ。
「……実に爽快。ロスヴァイゼはいるかな?」
「はい、ミサキさま。マイロードの剣は、此処にいますです」
「待たせてすまないね。何か変わったことはあった?」
「はい、帝国艦隊の先兵が、惑星アマノムラクモに降下、アマノムラクモ本艦およびオタルに対して奇襲攻撃を行いました」
「……被害状況を報告…いや、スターゲイザーの魔導頭脳、状況の報告を」
『ビビッ……ミサキさま、私にも名前を』
「このタイミングでねだるのかよ……命名、ヴァン・ティアンでいいか?」
『ビビッ……拝命。映像に出します』
全天周型スクリーンに広がる映像。
スターゲイザーの衛星機動監視システムからも立体映像として撮影されていたらしく、死角のないレベルでの報告が始まった。
『ビビッ……敵、帝国軍デストロイヤー級駆逐艦アヴェンジャーは、ほぼ無傷で鹵獲。インターセプト隊によるフォースフィールドネットにより固定されたところに、マーギア・リッター隊、ワルキューレ隊が艦内に突入』
まるで映画のワンシーンのように、敵宇宙船が囚われ、外部ハッチからサーバントやワルキューレが潜入していく。
いや、その様子だとこちらに被害はないんだよな?
『ビビッ……敵兵士を捕縛し、旧オタル市街地に設営したテントに放り込んでいます』
「マジか。って、旧オタル?」
「はい。敵戦闘機によりオタルは全滅でした」
映像が切り替わる。
敵戦闘機が街の住民に向かって機関砲を連射、次々と住民たちが吹き飛ばされては、起き上がって中指を立てて文句を言っている。
その中には、一連の光景を呆然と見ているアヤノコージの姿もある。
「うわぁ、うちの連中は丈夫だなぁ。被害は?」
「街の建物が破壊されましたので、鹵獲した敵兵士を使って復興作業を行います」
『ビビッ……オクタ・ワンが開発した『隷属の首輪』を全ての帝国兵士に装着完了。もう、逆らうことはできません』
「いやいや、どっちが悪役なんだかわからなくなるわ……エルフたちとアレキサンダーは無事なのか?」
「アレキサンダーさんは、エルフの村で匿ってもらいました。グランドリーフ大森林は、四機のマーギア・リッターによるフォースプロダクションで守り切っています」
そのまま被害報告が流れる。
流石に建物の被害は仕方がないが、エルフたちも含めての村人全員が無事なのはよかった。
「なお、敵アヴェンジャーについては、ミサキさまが直接、データを回収するかもしれないので、美味しいところはとってあります」
「そういう気遣いは必要ないんだがなぁ。そのアヴェンジャーは、どこに置いてあるんだ?」
「アマノムラクモ直下、高度200mにDアンカーで固定してあります」
「用意がいいことで。ヴァン・ティアン、アマノムラクモに戻りたいんだが」
──プシューッ
俺の問いかけと同時に、正面のハッチが開く。
すると、此処に来る時に乗ってきたリムジンが静かに走ってくる。
「まあ、そうなるよね。流石に転送システムは使えないか」
『ビビッ……まだ不安定ですので、リムジンをお使いください』
「そうするよ。それじゃあ、よろしく頼むよ」
しっかし、俺が眠っている間とはいえ、よくもまあ帝国軍を、退けたものだよ。
………
……
…
アマノムラクモは、すでに上空で待機している。
その真下に250mほどの宇宙船が浮かんでいるんだけどさ、なんというか、形状は潜水艦だよなぁ。
スペースデブリや隕石から船体を守るための形状なのだろうが、潜水艦が浮いているっていうのも、滑稽でしかない。
スターゲイザー内で待機していたリムジンでアマノムラクモに戻ると、真っ直ぐに艦橋へと戻る。
『ピッ……お疲れ様です。無礼者は捕獲して、今から罰を与えるところです』
「いや、罰ってなんだよ? 細かい状況を説明してくれるか?」
さっきも聞いたけど、アマノムラクモからの報告も聞いて擦り合わせたいからね。
「マイロード、それでは私から。あの無礼者たちは、突然、次元潜航をカットしてアマノムラクモ上空に姿を表しました。そして有無を言わさずに戦闘機を飛ばしてオタルを攻撃すると、アマノムラクモにもプラズマ魚雷による攻撃を開始したのです」
「それって、凄い兵器なのか?」
「小さな島程度でしたら、一発で蒸発しますわ。まあ、その程度でしたら、かすり傷ひとつつきませんけれど」
「ふぅん。それで?」
「はい、なんだかんだありまして、鹵獲しました」
「省略しすぎ‼︎」
なんだかんだってなんだよ?
そこ、かなり重要じゃないのか?
『ピッ……補足します。マーギア・リッターによる敵格納庫に対しての突入、サーバント隊およびワルキューレによるインドアアタックによりコントロールセンターを掌握。ジークルーネが敵電脳システムをハッキングしてトラス・ワンと接続、敵システムを完全掌握。以上です』
「わかりやすいわ。ちなみに敵司令官は?」
「オタルで、ご覧のように」
──ピッ
モニターに映ったのは、手枷足枷をつけられて、一心不乱に『手動式回転炉』を回している帝国兵士の姿が、映し出されていた。
しかも、その中心部分の高台では、サーバントが一人、鞭を持って構えている。
いつの時代のシステムだよ‼︎
「うわぁ……ちなみにあれは、なんのために回しているんだ?」
「意味はありません。何も繋がっていませんわ。それと、反抗的な兵士には、穴を掘らせています」
『ピッ……深さ三メートルまで掘ったら、埋めさせています。そしてまた別の場所を掘らせて、埋めさせていますが』
「お前らは鬼か‼︎ そこまでして心を折りにいくのか」
「はい。彼らは罪を犯しました。オタル襲撃の際、エルフの村人がもしもいたら、人的被害が出ています。それより何より、アマノムラクモに剣を向けましたから」
なるほどなぁ。
それならまあ、しかたがないか。
「オタルの復興については、そのまま帝国兵士にやらせろ。敵司令官はどこにいるんだ?」
「はい、市街地の道を均すために、あれを引かせています」
「あれってなんだ?」
「ええっと、正式名称は知らないのですが、重いコンダラです」
「なんだそりゃ?」
重いコンダラ?
よくわからないから、モニターに映してもらう。
あ、整地ローラーか。
よく野球部がグランドを均すのに使うやつな。
「あ〜、だから【重いコンダラ】か。わかるかーい‼︎」
「とりあえずはミサキさまのお戻りを待っていました。このあとは取調べなり、拷問なりご自由にどうぞ」
「はぁ。そのまま続けさせて。心をへし折ってからでいいわ。ヒルデガルド、アヴェンジャーの内部調査を始めるから、手伝ってくれるか? あと解析チームのサーバントも送り込んでくれ」
「イエス、マイロード」
兎にも角にも、報告を聞いた限りでは、生身の人間がいたのなら全滅していた可能性もあるんだよな。
だったら、優しくする気はない。
地球にいたときは、人の命が掛かっていると躊躇していたけどさ、今は守るものがあるのだから、多少は鬼になるよ。
「そういえば、アヤノコージは?」
「オタルから脱出ポット邸まで戻るのは確認しました。そのあとは、見かけていません」
「ふぅん。まあ、敵兵士を攻撃しそうになったら捉えて。それとこれとは別問題だからさ……」
アヤノコージが乗っていた移民船も破壊されたなんて知ったら、あいつ逆上して皆殺しとかやらかしそうだからなぁ。
あいつの両親も、きっと帝国に捕虜としてつかまったか、最悪はあいつを逃す時に殺されたかもしれないからなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
うん。
アヴェンジャー内部は、アマノムラクモのような未来装備に包まれていたよ。
よく見た映画に出てくる宇宙船のような雰囲気でさ、ビームセイバー持って走りたくなったんだよね。
システムその他の掌握は終わっているので、これからは解析班に内部データや作戦コード、あとは帝国が存在する星系の空間座標軸を抽出してもらうんだけど。
「ここが、帝国が解析した『機動戦艦シリーズのエンジンの複製』があるドライブルームです」
「いや、アドミラル・グラーフ・シュペーのようなショッキングさが無ければいいよ」
「心中、お察しします。その点では安全ですので」
──グォングォン
巨大な両開き扉が開き、目の前に多型魔導ジェネレーターが姿を表す。
「これは……【ガネーシャ式魔導機関】か。随分と旧型だけど、よくもまあ、再現したものだよ」
ガネーシャ式魔導機関は、物理的爆発を伴う内燃機関。ただし、燃やすものは重油やガソリンではなく、液化マナ。
空気中に存在するマナを凝縮して液化し、それを気化したマナミストを燃やすことにより、爆発的な出力を生み出す。
「はい。そしてこちらが、船体表面にフォースフィールドを展開するためのシステムです。こちらは次元潜航用のフィールドジェネレーター。よくもまあ、ここまでコピーすることができたものですよ」
「まったくだよ。ガネーシャ式はエンジン区画の強度が弱いと爆発するからね」
だが、含有量が少ないため、このジェネレーターシステムにしか使えていないらしい。
しっかし、どこで採掘してきたんだか。
まあ、その辺りもデータベースを全て浚って、調べてもらうことにしよう。
「ここの魔導頭脳は、すでに掌握しているんだよな?」
「はい。うちのオクタ・ワンやトラス・ワン、ヴァン・ティアンに比べると三世代前ぐらいです」
「具体的には?」
「自律思考できない、ただの大型演算システム。まあ、地球のテクノロジーよりもはるかに上ではありますが、最終決定は艦長もしくはそれに付随するものになります」
「はぁ。うちはいきなりギャグをかましてくるレベルだからなぁ」
「オクタ・ワン、トラス・ワン、共に、遠隔操作できるマスタースレイブ・サーバントが欲しいそうです」
ふむ。
それは考えていなかったなぁ。
そもそも、作る気になれば、自分で作れるんじゃないのか?
「なんだ、てっきり作ってあると思っていたよ」
「マイロード、流石に私たちは、許可なく『自律思考可能なゴーレム』を勝手に作ることはできません」
「え? でも、サーバントシリーズは作ったよね?」
「マイロードの許可を貰ってあります。必要に応じて、サーバントは使って良いと」
「そういえばそっか。それじゃあ、戻ったら許可するか」
ここも解析班に任せるとして。
全てのチェックが終わったら、どうするかなぁ。
また解体して、使えるパーツだけ貰っておくか。
いや、面倒だから、緊急時用にこのまま
とりあえずは、アヴェンジャーの解析全終了と、オタルの再開発が終わるまでは様子を見るか。
帝国兵の今後の対応も、考えないとならないからなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます