第92話・奇襲と、決断と
さて。
ラグナレクから戻り、惑星アマノムラクモ改め惑星スターゲイザーに着陸して。
まずやらないとならないことがある。
「オクタ・ワン、スターゲイザーの内部に向かうためのエレベーターは確認できているのか?」
『ピッ……以前は完全にカモフラージュされていましたが、現在は確認可能です』
「オクタ・ワンのセンサーシステムを完全に誤魔化していたとは、すごいな。それで、わかったのか?」
『ピッ……海底からです。転送システムを使用しなくてはなりませんが、ミサキさまの開発したあれで、座標軸に飛ぶことができます』
おおっと、開発しておいてよかったわ。
それじゃあ、行ってくるしかないじゃないか。
「それなら行ってくるわ」
「マイロード、一人、護衛をつけるのをお勧めします」
ワクワクしながらヒルデガルドが告げてくれるけど、今の状況ではいつ帝国がここに向かってくるかわからないからなぁ。
「ヒルデガルドは待機、ラプラスとの話し合いでいつ帝国が来るかわからないからな。その時の対応を頼む」
「了解いたしました」
「殲滅は必要ないけど、つど柔軟な対応で。あとはわかるな?」
「お任せください」
「そんじゃ……ロスヴァイゼ、ついて来てくれ」
「あいあいさー‼︎」
ここは、いつも雑用担当のロスヴァイゼにも花を持たせてあげるとしますか。
ロスヴァイゼの魔力波長と俺の波長をリンクさせて、あとは手を繋いでオクタ・ワンの指示にある座標に転送開始!
………
……
…
──ブゥン
一瞬でアマノムラクモ艦橋から、スターゲイザー中心部に転送完了。
巨大なドーム状の空間で、中心には椅子が一つあるだけ。
『ビビッ……ようこそ、マイマスター・ミサキ・テンドウ。私は、このスターゲイザーの管理魔導頭脳です』
「はじめまして、今後ともよろしく。さてと、ラプラスから話は聞いているんだよな?」
『ビビッ……登録の切り替えのみ完了です。あとはマイマスターのバイタルデータの登録、魂の書き換え、支配用コントロールシステムの刷り込みなどがあります』
「俺に実害は?」
『ビビッ……椅子に座って、眠っているだけで問題はありません』
「それなら、いいか……」
怖いけど、ラプラスがしっかりと確認してくれていると思う。
俺に害があるようなら、先に細かい調整もしてくれている……筈。
そのまま不安そうなロスヴァイゼを傍らに、俺は椅子に座る。
──プシュゥゥゥゥゥ
椅子がリクライニングして、周囲を泡のようなものに包まれた。
「ミサキさま‼︎」
「あ、大丈夫。そのまま待機してくれ」
「了解です」
『ビビッ……では、はじめます』
耳元で何かが聞こえてくる。
恐らくは、俺をリラックスするために音楽がかかっているのだろうけれど。
うん、意識が沈んでいく。
麻酔にかかったような、ぐぅ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ふむ、今日はなかなかいい魚が入っているではないか。このアジモドキを四本頼む。腹は裂いて、二つは焼き物用に、あとは肉団子に加工するからおろしてくれ」
「毎度あり‼︎」
オタルの鮮魚店で、アヤノコージは買い物をしていた。
金が使えるのなら、無理に畑を耕す必要はない。
金が尽きたら、また考えればいいだけだ。
そんなことを考えつつ、魚屋を出てから饅頭屋で焼きまんじゅうを購入。
三つ買って二つは持ち帰り、一つを口に咥えて歩いていると。
──グオングオン‼︎
空からゆっくりと、機動戦艦アマノムラクモが降りてくる。
その光景を、アヤノコージは真正面で見てしまった。
「な、な、なんだあれは‼︎ 帝国の戦艦でも、あそこまで大きくはないぞ‼︎」
「へ? マロは初めて見るのですか?」
「マロではない、マーロゥだ。それよりもあれはなんだ‼︎」
「なんだって、ミサキさまの居城ですよ。移動国家、機動国家といろんな呼び方がありますけど、あれがミサキ様の船、機動戦艦アマノムラクモですよ」
「機動戦艦? まさか‼︎」
慌てて腰から王家の剣を引き抜く。
刀身はないものの、鍵としての効果は残っている筈。
剣を構えるようにアマノムラクモに照準を合わせると、アヤノコージは高らかに宣言した。
「我が名はアヤノコージ・マーロゥ。貴様が伝説の『超銀河兵器』ならば、我が名に従え‼︎」
──シーン。
周りに集まったサーバントたちは、その滑稽な寸劇にプッと吹き出す。
「マロさん、そりゃあ無理だ。あれのマスターはミサキさまで、ミサキさま以外には従いませんよ」
「そもそも、あれは超銀河兵器なんていう弱った遺物とは違いますがな」
「あれが何かは教えられませんが、いやぁ、楽しませてもらいましたよ」
やいのやいのと騒ぎながら、サーバントたちは仕事に戻る。
だが、アヤノコージは、海岸まで走っていってから、じっとアマノムラクモノを観察しはじめた。
「親父たちの仇を打つためには、超銀河兵器は絶対必要だ。それを探すためには、あのアマノムラクモが絶対に必要だ」
グッと拳を握りしめ、アヤノコージは日が暮れるまでアマノムラクモを観察した。
何か、誰かが出てくるかもしれない。
その時は、出て来たものに命じて、アマノムラクモまで案内させる。
あとはミサキを従えれば、あれは俺のものになる。
全くぶれないわがままモードではあるが、日が暮れると住居である脱出ポットに戻っていった。
空腹と睡魔には、まだ抗えるだけの精神力を持ち合わせていなかった。
………
……
…
ミサキが眠りについてから二日。
その間、ロスヴァイゼはスターゲイザーの魔導制御頭脳と話をしていた。
「まだ掛かりますか?」
『ビビッ……はい。ミサキさまの思考ルーティンでスターゲイザーを動かせるようにするには、あと二日ほどの調整が必要です』
「ミサキさま、お腹減りませんか?」
『ビビッ……泡の中には培養液が流れています。生命維持に必要なエネルギーは送り出されています』
「この調整が終わると、ミサキさまはどうなりますか?」
『ビビッ……最強になります』
「最強かぁ」
『ビビッ……人間としては、もうミサキさまに勝てるのは……そこそこしかいません』
「そこそこはいるんだ。最強なのに?」
『ビビッ……ミサキさまはクラフターとしては最強の一角にあるのは、間違いありません。しかし、世界は広いので……アラート‼︎ 自己防衛システムを作動させます』
突然、ドームの中が真っ赤に染まる。
警戒信号が鳴り響き、ミサキの周りの泡状物質の周りにも魔力装甲が展開した。
「アラート? 敵は何者ですか?」
『ビビッ……神域に干渉するタイプの戦艦。鹵獲された超兵器の搭載艦です。防衛システムを稼働、スターゲイザー中心核をガード。地表装甲を剥がし、次元潜航を開始します』
「それはダメです‼︎ 地表にはエルフの人たちやアホボンボンが残っています‼︎ それはミサキさまが許しません‼︎」
『ビビッ……了承。迎撃をアマノムラクモに移譲します』
………
……
…
少しまえ。
長閑な昼下がり、アヤノコージは昨日のように海岸線までやって来ては、アマノムラクモを眺めていた。
「あれにミサキが乗っている……しかし、ここ数日は、オタルの人たちもエルフも、彼女の姿を見ていない……どういうことだ?」
毎日のようにオタルに遊びに来ていたミサキが、ここ数日は姿を現していない。
アヤノコージにとっては不思議なことであるが、サーバントたちはミサキの状況については逐次、連絡を受けている。
アヤノコージの質問にはボカしているだけであり、エルフたちには『所用が忙しくて』と説明をしている。
まだアヤノコージは。この国には受け入れられていない。
そのため、ミサキのことを教える必要はないと判断されているのである。
──グォングォン‼︎
何か音がする。
ふと空を見上げると、雲間から全長250メートル級の、宇宙船が降下してくる。
そして、アヤノコージは、あれを知っている。
「て、帝国のデストロイヤー級駆逐艦……アヴェンジャーが、なんでここまで来たんだ‼︎」
慌てて立ち上がるが、アヴェンジャーと呼ばれた宇宙船の船体各部が開き、一斉にアマノムラクモ目掛けてミサイル攻撃を開始した‼︎
──ドドドドドッ‼︎
爆音が果てしなく広がる。
そして艦首後方から次々と航空機が飛び出すと、アヤノコージの立っている方向に向かって飛んできた‼︎
「そうか、あいつらの狙いは俺の持つ王剣か‼︎」
帝国にとって、アマノムラクモなど眼中にない。
必要なのは、アヤノコージの持つ王剣のみ。
それを奪取できるなら、周りの被害など気にすることではない。
たとえアヤノコージが死んでも、用事があるのは鍵である剣のみだから。
『ピッ……キーシグナル確認、アヤノコージ本人に間違いはありません』
『回収しろ。我々は、アヤノコージに助力した謎の戦艦を破壊する』
『了解。逃げ道と協力者から潰します』
アヤノコージの心をへし折る。
逃げるという気力を奪う。
彼に味方するもの全てを殲滅する。
帝国にとって、敵は殲滅対象でしかない。
──ゴゥゥゥゥゥゥ
戦闘機が低空飛行を開始し、艦首機関砲が唸り音を響かせる。
オタルの街並みが破壊され、サーバントたちが機銃の攻撃を受けて弾き飛ばされる。
そのまま上空を通過して高度を上げると、さらに旋回して急降下からの爆撃を開始。
投下された爆弾は姿を消して待機していたマーギア・リッターがフォースフィールドで包み込み、空中で爆散する。
「や、やめろ、街の人は罪がない、どうしてこんなに酷いことをするんだ‼︎」
機関砲で吹き飛んだサーバントたちを見て、アヤノコージが叫ぶ。
それに呼応するように無傷のサーバントたちも立ち上がり、戦闘機に向かって文句を言い始めて‼︎
「そうだそうだ、俺たちの店を返しやがれ‼︎」
「ヘルムヴィーケさん、そんな雑魚、やっちまってください‼︎」
──ブゥン
ステルスモードを解除した、ヘルムヴィーケのマーギア・リッター。
そして右腕にライフルを構えると、次々と飛んでくる戦闘機を『クレー射撃』のように撃ち落としていく。
「え……い、いや、なんで死んでない?」
「ミサキさまに作られたサーバントが、あんな豆鉄砲程度に破壊されることなんてありませんぜ」
「俺たちは、常に体の表面にフォースバリアの膜をしてますからね」
「いやあ、建物も守っておくべきだったよ」
ピンピンしている街の人々に驚き、慌てて巨大人型兵器を見上げる。
帝国でも、このような兵器を見たことがない。
その理解不能な兵器が、アヤノコージの目の前で、楽しそうに射撃ゲームに勤しんでいる。
「そ、それじゃあ、あれもか?」
「あれは、ミサキさまの懐刀のヘルムヴィーケさまの機体だよ。相変わらず、凄いよなぁ」
まるで観劇を楽しんでいるかのように、サーバントたちはさも当たり前に話をしている。
「そうだ、アマノムラクモは、アヴェンジャーのプラズマ魚雷を受けたんだ、流石に無事では済まない……え?」
沖合上空に浮かぶアマノムラクモ。
先程の一斉攻撃で爆風と煙に塗れたものの、その程度の攻撃でフォースフィールドを貫くことなどできない。
………
……
…
「こちらはヒルデガルドだ。ロスヴァイゼ、ミサキさまは無事か‼︎」
『ダイジョーブイ‼︎ ミサキさまはスターゲイザーが守っています』
「了解、そのままミサキさまに付き従ってくれ。オクタ・ワン、わかるな」
『ピッ……原型を止めないほどの爆散、原型をある程度止めた破壊、内部に潜入して船体ごと鹵獲、どれでいきます?』
「あいつのデータが欲しい。帝国だと思うが、そもそも、重大なミスをしたことに気が付いていない……アマノムラクモに対して攻撃を仕掛けた、つまりはミサキさまを殺そうとした」
『ピッ……その判断でしたら、跡形もなく粉砕の一手ですが、データは必要。インターセプト隊全機出撃、敵艦に潜入して、船体を無傷で鹵獲してください』
そのオクタ・ワンの指示が飛ぶと同時に、艦橋のワルキューレが一斉に立ち上がる。
「アマノムラクモの制御をトラス・ワンに移行‼︎ ワルキューレ全員に次ぐ。敵艦を鹵獲する‼︎」
「「「「「「「了解」」」」」」」」
素早く走りだし、デッキから専用マーギア・リッターで出撃する一同。
この後、必死の抵抗を行っていたであろう敵デストロイヤー級駆逐艦『アヴェンジャー』は、無傷のまま船内に突入して来たワルキューレとサーバントたちによって鹵獲された。
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