第91話・伝説との邂逅

 超弩級機動要塞ラグナレク。


 巨大な竜の姿を模した存在だということは分かった。

 その手には、ひとつ隣の空間から伸びた爪状のアンカーで固定された惑星アマノムラクモ改め『機動要塞スターゲイザー』が握られている。

 

 そのラグナレクからの招待状が届いたので、俺は機動戦艦アマノムラクモでラグナレクへと向かった。

 次元潮流の中に飛び込み、指定された座標軸から浮上する。

 

 するとそこは、巨大な格納庫の中であった。


「……うむ、理解の領域を超えたのだが」

『ピッ……船体がDアンカーで固定されました』

「マイロード、護衛につきます」

「頼むわ、流石に俺でもビビってきたわ」

『ピッ……迎えがきたようです』


 オクタ・ワンがモニターを映し出し、そこに車両がやってきたのを説明してくれる。

 黒塗りのリムジンで、タイヤはなく浮かんでいる。

 近未来がやってきました。


「それじゃあ、行きますか」

『ピッ……ヒルデガルドさん、しっかりとミサキさまの手綱を握ってください』

「おいおいオクタ・ワン、まるで俺が暴走するみたいじゃないか」

『ピッ……そう言っているのです』

「行ってくるわ」


 くっそ、俺の性格をよく知っているわ。

 エレベーターで格納庫内に降りると、リムジンもエレベーター前までやってくる。

 そして音もなくドアが開くが、誰も乗っている形跡はない。

 運転手さえ見当たらないので、これは無人で操作しているものだと理解する。


「さて、鬼が出るか蛇がでるか」

「どちらも瞬殺できますので、ご安心ください」

「まあ、その時はな。まずは招待されたんだから、のんびりと行きますよ」


 リムジンは格納庫をでて、大型エレベーターに乗る。

 ただし、エレベーター内部に魔法陣が組み込まれており、それで目的の場所まで転送されるようになっている。


──シュンッ

 一瞬で広い部屋に出る。

 巨大なリビングという感じの部屋であり、絵画や彫刻などさまざまな調度品にあふれている。

 そして正面のソファーでは、一人の老人と二十代ほどの女性がのんびりとお茶を楽しんでいた。


「ようこそラグナレクへ。私は、この機動要塞ラグナレクの魔導頭脳。そして彼女が、このラグナレクの管理人である」

「はじめまして、ミサキ・テンドウ。私が管理人のラプラスです」


 眼鏡をかけたエリート女史。

 どこかの秘書か何かと間違えそうな、キリッとした顔立ち。

 うんぁ、この手の女性は怖いんだよ。


「はじめまして。機動戦艦アマノムラクモのマスターのミサキ・テンドウです」

「まあ、あまり緊張しないでください。今日ここにきてもらったのは、そんなに面倒なことを話すわけではありませんので」

「それなら良いのですけどね。ちなみに、ラグナレクは、いつから惑星アマノムラクモを掴もうとしていたのですか?」


 よくよく考えてみても、俺たちが初めてスターゲイザーに辿り着いた時、あのオクタ・ワンがそんな重要なことを見逃すはずがない。

 つまり、ここ最近になって現れて、スターゲイザーを捕縛したと認識している。


「つい二週間前と言えば、あなたたちの世界の時間で理解できますか?」

「14日か。ひょっとして、アヤノコージの所持していた剣に関与することですか?」

「ええ、その通りです。今、とある世界では宇宙大戦争が勃発しています。宇宙を支配しようと企む帝国と、それを阻止するために活動する自由惑星連合、その中間で商売を続ける共和国。三つの勢力がぶつかり合っています」


 アヤノコージの所持していた剣などの情報と照らし合わせても、そのあたりの情報に差異は感じない。


「それで、帝国は機動要塞を欲して戦争を始めたのですよね?」

「ええ。そのためにも、アヤノコージ王家の鍵が必要なのです。すでに帝国軍は、彼が乗っていた移民船を捕獲して情報を得ています」

「奴がワープドライブ中に放逐されたこともか」

「はい……帝国軍はすぐにワープドライブで脱出ポットを捜索し始めていますので、スターゲイザーに辿り着くのは時間の問題でしょう」


 意外と早いね、さすが帝国。

 名前だけでも怖すぎるわ。

 

「彼らは、機動要塞を手に入れるためには手段を選びません。スターゲイザーが移民船のような末路を辿る前に、何かしら手を打つ必要があります」

「ちょっと待て、移民船のような末路って言ったか? それってまさかだろ?」


 思わず叫びそうになったが、ラプラスは俺の目を見ながら頷くだけである。

 冗談じゃない、そんな化け物あいてにまたドンパチやらなきゃならないのかよ。

 急いでスターゲイザーを移動させるわ、どうにかしてあいつをコントロールするわ。


「それで!まさかとは思うけどさ、俺に帝国をどうにかしろとか言わないだろうな。そんな強大な敵相手に」

「伏してお願いしたい。帝国は、禁忌を犯しました。彼らの世界のワープドライブで、次元潮流に乗り込んできたのですから」

「え? ワープドライブの空間は、次元潮流とは異なる存在なのか?」

「ええ。ワープドライブの時に通過する空間は『ワープフィールド』といい、その世界の法則に従って存在します。ですが次元潮流は神の領域、彼らは神の一端に触れたのですから」


 ええっと。

 機動戦艦アマノムラクモは、そこに自在に出入りしているんですが、それってアウト?


「いえ、アマノムラクモは神の作りし神威の塊。いわば神の分身とも言えます。また、亜神であるミサキ・テンドウの行動ならばと、大いなる神は笑っています」

「はぁ……でも、一つだけ教えてくれるかな? その帝国の存在する世界の神は、帝国を止めることができなかったの?」

「それは禁則事項なのです。神は、自らの支配する世界のすべての生物に対して、直接的干渉を行ってはいけないのですから(一部、例外はありますが)」

「だから、外部者である俺に、どうにかしてほしいということかぁ。難しいよなぁ」


 相手は一つの世界の、巨大な存在。

 そこに喧嘩を売ってこいって、洒落にもならないわ。

 しっかし、今の話から察するに、アヤノコージは脱出ポットでワープドライブの空間から、次元潮流に乗り込んできたってことか。

 え? 

 それって、あの王家の剣の力が干渉したとか?


──コクコク

 うぁぁぁぁ。

 俺の心の中を読み込んで、ラプラスが頷いているよ。

 

「全てが予定調和という事ではありません。ですが、これもまた、定められた未来の一つであります」

「俺はね、のんびりと生きたいんだよ? 俺が干渉したおかげで、一つの世界が滅びかかったんだ。もう、そんなことは起こさないようにって、神々の干渉力のないここに辿り着いたのにか? また巻き込むのか‼︎」

「はい。巻き込みます。貴方が何もしなければ、帝国の尖兵たちはスターゲイザーに到着し、アヤノコージを捕獲。そのままスターゲイザーは破壊されます」


 ふざけるなよ。

 それってなにか?

 関係のないエルフたちまで巻き込むってことじゃないか。

 冗談じゃない、彼らだって故郷が滅ぼされて、俺たちの星に逃げて……。


「まさかとは思うが。エルフたちの世界を、星を滅ぼした悪神バ・カードって」

「帝国皇帝ヴァンガード。悪神でもなんでもありません。帝国の侵攻ライン上に、たまたま彼らの住む『レガシアム』という星があったに過ぎません。彼らの故郷もまた、帝国によって滅ぼされた星のひとつなのです」

「全てが繋がるのかよ、だから、あんたがここにきた。俺の星スターゲイザーを人質にとって、俺にいうことを聞かせるために!」


 流石にキレた。

 これはキレていい案件。


「違います。今のスターゲイザーは、ラグナレクの力で、帝国から見つからないように姿を消しています。それと同時に、機動要塞スターゲイザーの所有者の書き換えを行なっているところです」

「書き換え?」

「はい。これが終われば、スターゲイザーの所有者はミサキ・テンドウになります。そうすれば、帝国のサーチ能力からも逃げることができます」


 増えた。

 また増えた。

 機動戦艦アマノムラクモから、大型機動戦艦アマノムラクモになって、今度は母艦『スターゲイザー』までやってきたよ。


「……それなら、俺はずっと逃げ続けるが、いいのか?」

「いくらスターゲイザーが隠密性に優れていても、いつまでも『位相空間』に引きこもることはできません。あの空間は閉鎖空間でありますから、生命が生き続けるには厳しいのです」

「だから、元凶を叩けと?」

「いえ、私達の望みは、貴方が『機動要塞アクシア』を発見し、破壊すること。もしくはあなたがアクシアの主人となり、スターゲイザーに収納すること」


 元凶を貰えと。

 それで構わないのなら、そうするが。


「でもよ、俺って他の世界に干渉していいのか?」

「そこです。いくら貴方が人外、亜神であっても、他の神々の領域に踏み込んだ時点で『世界の敵』として認定されます。ですから」


──キィィィィィン

 ラプラスが俺に向かって右手を伸ばす。

 全く身動きが取れなくなった瞬間、俺の中の何かが書き換えられていく。


「……はい、これで問題はありません。ただの亜神でしたら、侵略イコール消滅なのですが、貴方は今から『運命の女神ラプラス』の眷属となりました」

「うわぁぁぁぁ、なんてことしやがった‼︎」

「ご安心を。私の眷属である以上、全ての世界を行き来することが許され、何をしてもその世界に干渉しなくなります」


 正確には、俺が何をしても『そうなる運命』として書き換えるんだってさ。

 ディスティニークラッシャー。

 もうね、そんなチート能力はたくさんだと思ったよ。

 でも、『何をしても干渉として扱われない』ということは、元の世界に戻って、アマノムラクモを次元潮流のあるアトランティスに駐留しておけば、別に世界を散歩しても問題はないと?

 え? 俺、また故郷に帰れるの?


「まあ、帰るかどうかは知りませんが、やることは先に終わらせてください」

「……ここまでまくると、拒否権は?」

「ありませんね。ほら、そんなに面倒な事ではなくなったでしょう?」

「十分面倒くさい。それで、具体的には何をどうすればいいんだ?」

「スターゲイザーはこのまま、ここでのんびりとしていてください。貴方は、機動戦艦アマノムラクモで『ファビリオン神界』に赴き、アクシアを探すだけです」

「探すのが一番面倒くさいわ。それってアヤノコージも連れて行けって事だろ?」

「それはなりません。彼があの力を手にすると、星間戦争はさらに加速します。王家の剣のコピーをお渡ししますので、それを使ってください」


 データベースだけもらいました。

 まあ、結局は俺がアマノムラクモで、その世界に行って諜報活動を行わないとならないと。

 それでいて、極力世界に干渉しないで、アクシアを回収しろと。


 うわぉ、面倒くさいわ。

 

「それでは、書き換えが終わったので、後はよろしくお願いします。三日後にはラグナレクもこの座標から離れますから、それまでに準備をお願いします」

「はぁ……神様からのミッションって、こんなの誰も信じないわ」


 あとは帰るだけ。

 もう、色んなことが起こり過ぎて、頭がパンクしそうだよ。

 

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