ふたつめの物語

第85話・いつか、どこかへ? 早かったわぁ。

 俺たちが惑星アマノムラクモに到達して、10年。


 環境改善用魔導具オベリスクを開発して惑星改造し、ようやく外に出歩くことができるようになった。

 マーギア・リッターでの調査も行ったのだが、人類にあたる種族が存在していたという証拠も痕跡も何もない。

 ただ、広大な大陸が広がっているだけであった。


「はぁ。これはまた、寂しい世界だよなぁ」

『ピッ……地球型惑星、バクテリアなどの細菌をはじめ、脊椎動物、無脊椎動物、哺乳類らしき生命体などは存在します』

「おおう、この星で、動物王国でも作れってか?」

『ピッ……観光客が居ないので、無理かと思われますが』

『……観光客が来ました』

「は?」


──ブゥン

 正面巨大モニターに、空から落下してくる物体を確認。

 全長1600mの、葉巻型の宇宙船。

 それが、船首から惑星アマノムラクモに突っ込んできた。


「ありゃ、吹っ飛ぶな……マーギア・リッターを緊急出撃、フォースフィールドで捕縛して不時着させてくれ」

「イエス、マイロード」


 ヒルデガルドの返事とほぼ同時に、艦首カタパルトからインターセプト隊が飛び出した。

 次元潮流から姿を表した時点で、すぐに出撃準備はできていたんだってさ。

 モニターの向こうでは、インターセプト隊六機がかりて宇宙船を減速させたものの、止めることはできなかった。

 そのまま機動戦艦沖合1500mの海上に突き刺さると、海底の砂地にゆっくりとめり込んでいった。

 

「……いくらなんでも、艦首は潰れただろう? 不味くないか?」

『こちら夏侯惇。対象宇宙船艦首に、高エネルギーフィールドを確認。宇宙空間において飛来するデブリ対策のものかと推測されます』

「それで、突き刺さって固定したのかよ。怖いわ」

『ピッ……Dアンカーで固定することを推奨します』

「そうだな。夏侯惇、Dアンカーで固定してくれ。安全が確認できたら、ゆっくりと倒すからさ」

『了解です』


 指示通りの作業を始め、船体の周りにDアンカーを射出する。

 合計二十本もの次元の鎖に固定された宇宙船の周りを、インターセプト隊が遠巻きに取り囲んで警戒している。


「生命体の反応は?」

『ピッ……さすがに、内部までの透過確認は不可能』

「ですよね〜。引き続き警戒よろしく。あれが神の機動戦艦の可能性もあるからさ」

『ピッ……それはありません。あの船からは、神威を感じませんので』

「あ、そうなの?」

『……船体後部、水面より上の部分が開いたようです』

「ズームしてくれるか?」


──ピッ

 画面では、ゴムボートのようなものに乗った人型生命体が四人、陸地に向かって移動を始めている。

 時折頭上を見上げているところから、マーギア・リッターを警戒しているのだろう。


「ヒルデガルド、俺はカリバーンででる。同行を頼む」

「イエス、マイロード」


 すぐさまカリバーンでボートの上陸地点まで移動すると、巨大マーギア・リッターを見た人型生命体は、右手を天に掲げ、左手を横水平に伸ばした。


「ん? L字ポーズ?」

『おそらくは、降参の意思を示しているのかと』

「万歳じゃないのか。いや、文明がちがうから、そういう仕草なんだろうなぁ」


 コクピットから見た映像は、四人が全員、悲痛な面持ちでL字ポーズをしている所である。


──プシュゥゥ

 コクピットを開きカリバーンの右手に乗ると、俺はゆっくりと地面に着地する。

 あ、ひょっとしたら、あのポーズが使えるかもな。

 俺は右手を軽く挙げて、指を器用に開く。


「繁栄と調和を」


 おっと。

 四人とも仰天しているぞ。

 だからヒルデガルドさんや、俺の横でエネルギーセイバーを構えようとするのはおやめなさい。 

 それ、いつの間に作ったの?


「こ、言葉がわかるのですか?」

「私たちの言葉と同じでは?」

「そのポーズは、途中で立ち寄った星の人類が示していました」

「そう、その星の人たちの娯楽の中にあったと伝えられていた」


 あ、娯楽のなかってことは、DVDとかで見たのか?

 つまり、俺の知っているあの国民的番組を、君たちは見たということかな?

 まあ、言葉については、俺の持つチートスキル『言語万能』があるので、普通に読み書き会話程度なら問題はない。

 このスキルを魔晶石にコピーして量産したものを、ワルキューレやサーバントにも組み込んだからね。

 それにしても、敵対意思は見えないようだから、ここは寛大な心で対応することにしよう。


「ようこそ、惑星アマノムラクモへ。みなさんは、どの世界からやって来たのですか?」


 そう問いかけると、長耳エルフ族の女性が一歩だけ前に出て、慎重に話を始めた。


「私たちの世界については、よくわかりません。伝承では『レガシアム』と呼ばれていました」

「ほうほう、レガシアムね……統合管理神とかはわかるかな?」

「統合管理神?」

「いや、簡単にいうと神様。その船で、レガシアムからやってきたんだろう?」

「これは、世界が滅亡するときに、遺跡にあったものを使っただけです。私たち自身も、これがなんであるのかなんて、よくわからないのですから」

「ミルファの話は本当です。悪神バ・カードが世界を蹂躙したとき、我々は天啓を受けて、遺跡の中に逃げたのです」

「その遺跡の中にあったのが、あの天鳥船でした」


 ははぁ、なるほど。

 つまりは悪神から逃れて、遺跡で逃げてきたと。


「あの船には、何人の人間が乗っている?」

「目覚めているのは私たちだけです。あとは皆、『氷の眠り』についています」

「氷の眠り? 魔法が何かで睡眠状態なのか」

「魔法がわかるのですか‼︎」

「まあ、知識程度には」

「氷の眠りについているのは500人です。長期睡眠のため、術式が解けても何割生き残っているかわかりませんが」 


 ふむ。

 予想外にハードモードだわ。


「この星には、どれだけの人が住んでいるのですか?」

「人は、俺たちだけ。正確には俺と、その家族だけだから……」

「マイロード。300人より少し多い程度です」

「だってさ」


 俺の言葉に驚いたらしく、全員の耳がパタパタと上下している。

 うわ、長耳エルフ族、面白え。


「我々は、この星に移住を希望します」

「俺に敵対しなければ、構わないよ。ちなみにあの船は、まだ動く?」

「いえ、もう限界でした……」

「ふぅん、それなら」


 右手を軽く振って、目の前に魔導モニターを呼び出した。

 これは魔導具で、オクタ・ワンの端末の一種だと思ってくれれば良い。

 これに周辺地図を映し出して、周囲を見渡す。


「この山の麓に大きな森があってね。湖もあるし森の恩恵も受けられると思うけど、そこに住む?」

「ありがとうございます。では、まずはそちらの調査を行ってみます」

「急がなくて良いよ。ちなみに、あの船はどうするの?」

「我々には未知の部分が多すぎますので、最終的にはそちらで処分してもらっても構いません」

「持ち込んだ食料も底をつき始めていましたので」


 そうか、それならそれで、錬金術師としての何かが疼くんだよ。

 解析しろってさ。

 その後も、少しだけ話し合いを行ってから、彼ら『レガシアムの民』、通称エルフ族は、森の調査に向かった。

 そして一週間後には、随時仲間達を眠りの術式から解放し、森へと移動を開始した。


 最終的に目覚められたのは、全部で百七十五人。

 残りのエルフ族は、彼らの儀式によって光になり、世界の一部になったらしい。

 なんとも幻想的で、そして切ない。

 俺は人間なので、死生観は人間より。

 だけど、彼らにとっては死は悲しみではあるものの、世界に溶け込む儀式の一つでもあるらしく、最後は笑って送り出していた。


 そして、俺の目の前には、投棄された葉巻型宇宙船が一台。

 なんとしても、これを解析する必要があるんだよ。

 さて、どこから手をつけたら良いものやら。

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