第84話・機動戦艦から始まる、やっぱり俺は錬金術師

 はぁ。

 あの美人さん、可愛かったよなぁ。

 札幌方面に向かうって話ししていたから、お見合いなんてほったらかして、一緒に着いていきたい案件だったよ。


 まあ、とりあえずはエネルギー補給も終わったし、それじゃあ峠を降りるとしますか。


………

……


 ん? 

 気のせいか?

 今のカーブ、何かに触れたような気がしたんだけど。車内に虫でもいたのか?

 それに、気のせいか体が身軽になった感じもするんだが。

 え?

 俺、いきなり痩せた?

 そんなわけないよなぁ……疲れているのか?


「やれやれ。本格的に、休暇を取る必要があるよなぁ。退職届を出して、一ヶ月ぐらい有給休暇とってから辞めるとするか」


 このまま、お見合いが成立してもさ。

 仕事を辞めるんだから、お断りの話もできるよなぁ。

 まだ、身を固めるには早すぎるんだよ。


「……ん?」


 気のせいか?

 誰かに見られていた気もするんだが。

 まあ、今は運転に集中しよう。

 居眠り運転のトラックにでも突っ込まれたら、洒落にならないからな。


「異世界トラックに追突されて、異世界転生ってか。それも悪くはないが……あれ、必ず主人公は幸せになるとは限らないからなぁ」


 クラフト系スキルを持って生まれ変わって、のんびりと暮らしたいものだよ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



『ピッ……ピッ……ピッ……』


 なんの音だ?

 電子音だよな。

 スマホのアラームか?

 もしそうだとすると、今までの話は、全て夢だよ。

 そっか。

 まあ、夢でも楽しかったわ。

 って、このやり取りも2回目だわ、騙されるものか。


「あ〜。なんで、俺は消滅していないんだ? まさか、歴史の改竄に、失敗したのかあ?あ」


 目が覚めたのは、よく知っている艦橋のキャプテンシート。ガバッと立ち上がって周りを見渡すけど、間違いはない。


「くっそ、失敗だったのかぁ」

『ピッ……オクタ・ワンよりミサキさまへ。オペレーションは成功です。ミサキさまが消滅しない作戦コードを発令し、無事に成功しました』

「どういうこと?」


 そこから先は、オクタ・ワンからの説明。

 俺が消滅する間際に、アマノムラクモは次元潜航を開始。

 本来存在しないはずの魂が二つあったので、俺が排除される予定であったのだが、アマノムラクモが次元潮流に移動したので、あっちの世界の俺の魂はひとつだけ。

 結果として、俺は無事、帰還したらしい。


 そして機動戦艦アマノムラクモだけど、元々が神の加護なので消滅するはずもなく、さらには俺の肉体も神様が新しく作ってくれたものなので、消滅の定理から除外されたそうだ。

 結果、俺は、あの世界にはもう二度と戻ることができなくなったのだが、無事に、アマノムラクモと一緒に存在し続けることが『許された』らしい。

 魂の分割再生が何たらかんたらって説明もあったけど、神の制限事項に引っ掛かるらしくて、オクタ・ワンでも説明不可能なんだとさ。


「……なるほどなぁ。それで、俺はこのまま次元潮流の中を、のんびりと旅すれば良いのか?」


 アトランティスが、同じようにこの次元潮流の中に固定されている。

 それなら、たまにそこに顔を出すのも良いかもしれないかなぁ。


『ピッ……不思議なことに、とある座標軸が転送されていました』

「はぁ? 一体何処の誰から?」

『ピッ……おそらくは、統合管理神でしょう。その座標軸の示す空間に向かえということでしょうか?』

「そうなんじゃね? まあ、行くだけ行ってみて、それから考えるとしますか。鬼が出るか、蛇が出るか。運命の分かれ道だよなぁ」

『……おかえりなさい、ミサキさま。ご無事で何よりです』

「トラス・ワンか‼︎ 良かったぁ……」


 うん、何もかも、元通りということではない。

 アマノムラクモの国民であった王や劉、及川たちは、俺と出会ったことになっていないから、ここにいるはずもない。

 そして、アマノムラクモが存在しないということで、アドルフによって巨大な飛行船は作られないし、魔導ジェネレーターも開発されない。

 つまり、ホムンクルスの体を持った彼らは、脳みそだけになることもないので、無事に人間のまま。

 ある意味では、ハッピーエンドなんだよなぁ。


「マイロード、懸念事項が一つ残っていますが」

「ん? ヒルデガルド、それはなんだ?」

「月面下の、ムーンテクト生命体の方々です。いずれ人類が月に到達し、開発を始めた場合。地球に侵攻する可能性がありますよね?」

「……月は、まあ、頑張ってもらいます。俺たちは、知らんわ」


 そこまで責任は持たん。

 そもそも、あの事件はアマノムラクモは無関係だ。

 俺たちは人助けのために力を貸したのであって、最初に襲われたのは中国の月探査チームだからな。


 そしてアドルフは……。


「あ、そっか、アドルフは俺の無限収納クラインの中だから、復活はしないのか。よし、全てクリアーということで」

「まあ、寂しくはなりましたけど。また、人口が増えると良いですよね?」

「迂闊なことはできないからなぁ……。今度は慎重に、のんびりと生きることにするよ」


 ほんの数ヶ月だけど、俺は様々なことを経験した。

 人との付き合い、戦争、神々の思惑。

 そんなものをいくつも経験して来たんだからさ、ひと回りぐらいは成長できていたら、いいよなぁ。

 希望的観測だけどね。


「マイロード。指示をお願いします」

「よし。機動戦艦アマノムラクモ、全速で移動開始。目標空間座標に向けて‼︎」

「「「「「「「イエス、マイロード‼︎」」」」」」」


〜FIN



































 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 どこかの世界、どこかの星。

 指定座標にアマノムラクモは、無事に到着した。

 次元潮流の中から、指定された座標軸に到達した時点で、自動的にアマノムラクモが停止。

 あとは手動で浮上を開始したんだよ。


「オクタ・ワン、観測を始めてくれるか? トラス・ワンは外敵がいるかどうかチェック、偵察用のマーギア・リッターを出撃させて、細かい調査を頼む」

『ピッ……了解です』

『……畏まりました』


 そのまま半年間の観察によりわかったこと。

 俺のたどり着いた惑星は、これ単体で次元潮流の外れに固定されている、単体の世界。

 一つの創造神の作る世界って、宇宙とかも含めて広大な世界らしくてさ、それこそ人が住んでいる惑星もいっぱいあるんだと。

 でも、俺たちのたどり着いた世界は、この惑星ひとつだけの世界で、宇宙にあたる部分が『次元潮流』になるらしい。


 星の規模は地球型の惑星、酸素濃度はギリギリ。

 そこで、惑星改造用の魔導具を作ったよ。

 形状は先の尖った四角柱で、生物の存在に必要な水と大気を生成する。

 名付けて『オベリスク』。

 モノリスじゃねーよ、なんか怖いから。


 このオベリスク型の環境改善用魔導具をいくつも配置し、地球型の星として、自分たちの新しい故郷として、俺たちは作り替えていった。


 そんなある日。

 

──ドッゴォォォォォォン

「……なんだ、ありゃ?」


 海岸沿いに停泊しているアマノムラクモのモニターに、巨大な宇宙船が降下してくる姿が映し出される。

 それは船首から海に向かって不時着し、そのまま海底に突き刺さるように停止した。


「ゲルヒルデ、サーバントたちと一緒に遠回りに確認してきてくれ。ロスヴァイゼは、あの船に向かってDアンカーを射出。倒れたら大惨事だからな」

「「「了解です」」」


 俺の指示を受けて、サーバントたちが走り出す。

 そして一時間後には、未確認の船から人が降りてくる姿が見えた。

 外見は、ほら、耳の尖ったエルフ。

 ヨーロッパ系じゃなくて、長耳族系のね。

 

『ピッ……敵対意思はないようです』

「了解だ、俺はカリバーンで行く」

『ピッ……ご武運を』


 さて、久しぶりのカリバーンで近くまで移動すると、そのまま付近で警戒体制を引いているゲルヒルデに合流する。

 ちょうど、エルフさん達も集まっていたので、俺は堂々と彼らの前に立って。


「繁栄と調和を‼︎」


 右手を差し出して、モーションを見せる。


「こ、言葉がわかるのですか?」

「私たちの言葉と同じでは?」

「そのポーズは、途中で立ち寄った星の人類が示していました」

「そう、その星の人たちの娯楽の中にあったと伝えられていた」


 おお?

 まさか、このネタが通用するとは思っていなかったよ。


 さて、それではやる事をやりますか。

 ここは、すべての神々から見放され、放逐された惑星。

 それ故、何をしても神の干渉を受けることはない。

 だから、この世界は俺が管理している。

 そして、ここに来られる人々は、何かしら面倒なことに巻き込まれた人たちばかりだろう。

 それでも、俺は全てを受け入れよう。

 だって、ここは俺の星で、俺が国王だからね。


「ようこそ、惑星アマノムラクモへ。みなさんは、どの世界からやって来たのですか?」


──いつか、どこかへ to be continue

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