第83話・再生・オペレーション『俺を殺すな』
──ビビビビビビビビッ
「うぉあっ‼︎」
やっべ、寝過ごした。
急がないと、今日は天気が悪いからやばい。
今から家を出て、中山峠経由で倶知安町まで向かう。
そこから長万部に向かわないとならないのに、なんでわざわざ中山峠経由しないとならないんだよ。
何が『途中で、京極の美味しい水を汲んできてくれ』だよ……。
「しっかし、お見合いかぁ……もう、どれだけ仲人をするのが大好きなんだよ」
お見合いをセッティングして仲人を務めるのが、おばさんのもっぱらの趣味。
全く、それに付き合わされる俺の身にもなってくれや。
今日の休みを取るために、どれだけの残業をしたと思っているんだよ。
納期三日前に仕様変更した挙句、締め切りは変わらずって笑っていた営業部長。どうにか間に合わせたものの、他の営業の奴らもギリギリのスケジュールで間に合うと思って仕様変更を受け入れてくるし、無理だって話したら営業部長にチクリやがった挙句、査定に響くだなどと脅してきやがった。
社長に直談判しても、営業部長とかは上手く誤魔化して俺の勤務態度に問題があるだの、他のシステムエンジニアは普通に仕事をしているだのと。
まあいい、この休暇が終わったら、あんな仕事辞めてやるわ。
同じようなことを言って辞めていった奴らが、別会社を設立するって言っていたから、俺もそっちに移るわ。
全く、俺は、もっとのんびりと生きたいんだよ。
こんな余裕のない毎日を送るなんて、もうたくさんだ‼︎
「ふぅ。中山峠は本降りかよ」
天気予報は雪から吹雪に変わる。
中山峠の吹雪って、洒落ならないぞ?
急いで登り切ったほうがいいよな。
段々と視界が悪くなってきた時、ようやく山頂付近にある峠の茶屋まで辿り着いた。
「このまま降った方がいいか。今は晴れているからなぁ」
山の天候は変わりやすい。
少し山頂にある道の駅で休んでいてもいいのだけど、晴れている今がチャンスかもしれないからなぁ。
「よし、コーヒー買ってからラストスパートしますか」
降って仕舞えば、あとはそれほど怖くない。
そう思っていたんだけど。
駐車場で、古いアルファロメオの前で困っている女性がいるじゃないか。
困っている女性は助けろ、これはお約束な。
見た感じ外国の人だろう、金髪の女性がオロオロしている。
「あの、どうかしましたか?」
「道が酷くて、スパイクをつけたいのですが、付け方が分からなくて」
「あ〜。なるほどなぁ、お一人ですか?」
「はい。この付け方、わかりますか?」
そう言われまうと、見るしかない。
後付けの滑り止めベルトか。
これは女性じゃ無理だわ。
ジャッキアップのいらないやつだけど、少し時間が掛かるなぁ。
「あ〜。分かるけど、急がないのでしたらJAF呼んで付けてもらうと良いですよ」
「どうしましょう……」
うん、美女がオロオロしている。
見捨てるという選択肢はないなぁ。
「それじゃあ、俺が付けますから、任せてください」
「本当ですか、助かります」
ガシッと手を掴まれたよ、俺、この子となら結婚してもいいかなぁ。
………
……
…
ミサキさまの連絡通り、中山峠の道の駅に天童幸一郎氏が到着しました。
この後、缶コーヒーを買って下り道を走っている途中、異世界トラックに突っ込まれて命を失うそうです。
ですから、私は、ここで天童氏を引き留めなくてはなりません。
運命の時間は、あと21分。
その間、ここで引き止められたら、運命は変わります。
あとは、ミサキさまが異世界トラックを始末してくれるのを待つだけですから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
オペレーション『異世界トラック阻止計画』。
ファーストミッションは、変装したヒルデガルドによる、俺の引き留め。
急ぎ魔導自動車を改造したアルファロメオを作り出し、ヒルデガルドに中山峠頂上で待機させる。
しっかりと装着に面倒な滑り止めも用意したし、これで30分以上は停めていられる。
そしてセカンドミッション。
異世界トラックが事故を起こす場所は分かっている、そこに他の車が巻き込まれないように張り付き、ステルス化したマーギア・リッター二機でトラックを捕獲する。
オクタ・ワンからの報告では、異世界トラックは平時はその世界の運送業の資格を持っているので、普通に街中を走っているらしい。
そしてめぼしい人材を見つけるとマーキングを施し、本部で追跡するんだとさ。
あとは神様からの依頼を受けて、ターゲットをトラックで跳ね飛ばしたら仕事完了。
ふざけているよなぁ。
「ミサキさま、あと五分で異世界トラックが通ります」
「了解だ。ジークルーネ、ステルスのまま待機、異世界トラックが接近したら、フォースフィールドで捕縛。この場所で居眠り運転で追突するから、逃すなよ」
「イエス・サー」
「まあ、魂はサーだから、とりあえずよし」
事故現場上空で、俺とジークルーネは待機している。
ヒルデガルドの方は、どうやら問題なく足止めしてくれているらしい。
あの滑り止めは、一人で装着するのは面倒くさいんだよ。
──ファン……
やがて、時間通りに異世界トラックがやって来た。
「ミサキさま、フラフラとしています。対向車線からは……自家用車が一台、走ってきてますが?」
「マジか? 俺の代わりに追突する可能性がある、急いでトラックを止めるぞ‼︎」
「了解です」
すぐさまトラック上空まで移動し、そーっとフォースフィールドで包み込む。
この時点でステルスの効果はトラックまで及ぶので、あとは気にせず一気に引き上げる‼︎
──キィィィィィン
『うぉ、なんだなんだ! 何が起こっているんだ?』
異世界トラックの運転手が窓から顔を乗り出すがもう遅い。
「通信波長、ラジオの……異世界トラックのラジオを受信機にするか。ハローエブリワン」
『うあぁ、なんだあんたは、何処にいるんだ?』
「異世界トラックの運転手さん、お仕事ご苦労様です。あと15分後には下ろしますので、それまでお待ち下さい」
『ど、どういうことだよ、説明しろよ』
「簡単に説明しますが、あんたが居眠り運転して俺が巻き込まれて死んだんだよ。それで、未来が滅んだので、お前を助けにきたんだよ」
『ま、待て待て、話がわからんが……本来なら、あんたを轢き殺したのか?』
「そうだよ。お前のリストの名前は誰だ?」
そう問いかけると、運転手はリストを確認しているらしく、バインダーをペラペラと巡り始めた。
いや、そんなに対象者がいるのかよ、異世界トラックも忙しいんだなぁ。
『この後は、真っ直ぐに札幌市まで降りて、高校生を一人、跳ね飛ばす予定なんだが……天草翔太郎って名前だな』
「そうだろ? この場所で、俺が追突されてよ。そのまま良いかって誤魔化されたんだよ、あとでばれて、お前は社内規則でダイオウグソクムシに転生させられるところだったんだぞ?」
『お、おおう……そこまで知っているってことは、本当なんだな』
「まあな、だから、少し待て」
そんな話をして時間を潰す。
まだ俺は来ないのだが、その間はズーッとドライバーの愚痴を聞かされていたよ。
ノルマが厳しいだの、転生させる事故方法まで最近は細かく指定されるらしい。
航空機事故の最後の生き残りで頼むとか、ラリーの事故に巻き込まれた観客で頼むとか、神様は、俺たちの世界に厳しすぎるわ。
──ブゥゥゥゥウン
そんな話をしていると、眼下を俺が走っていく。
下り坂を安全運転、ちょうどホワイトアウトもなくなったようだから、これで無事に辿り着くだろうさ。
──ス〜ッ
そして、俺の体がゆっくりと光り始める。
うん、ここから先の運命が塗り替えられた。
正確には、元の歴史に戻ったんだな。
俺の体も、だんだんと透き通っていく。
あ、トラックを降ろさないと、まずいよな。
急いでトラックをおろしたとき、俺の意識は消えていった……。
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