第86話・分解、解体、あとは交渉。税金なんていらんわ

 エルフ族から天鳥船を貰ってしまった。


 彼らがこの星にやってきてから、既に二ヶ月、天鳥船で眠っていた人々の解術と、目覚めなかった同志たちの葬送の儀式も終わった。

 必要最低限の荷物を持ち、エルフたちは森へと向かった。


「まあ、彼らにとっては、天鳥船は未知の存在であったからなぁ。科学とか説明しても理解できなかったんだろうなぁ」


 彼らの住んでいた星は、科学文明が未発達のまま、魔法文明に置き換えられたらしい。

 星が丸い、大気とは、空気や人体理論などはある程度は理解していたのだが、それを証明する術が魔法依存であったのが、科学の衰退であったのだろう。

 特にエルフは精霊信仰、そして世界樹が神のような存在。


「世界樹かぁ……」


 ふと思い出すと、そういえば、エルフの一人が木の苗を持っていなかったか?

 あれって世界樹とか言わないよな?

 まあ、たかが木が一本増えたところで、何も変わりはしないだろうけどさ。


「……あ、ミサキさま、これを見てください。亜空間航行用デバイスですよ」

「こちらは小型転送システムですね。転移術式を用いた、少人数用の転送装置ですよ」

「機動兵器? 内燃機関のタイプのようですが、大きすぎて効率が悪いかと思われます」

「ミサキさま、見てください。大型輸送機ですよ‼︎」


 まあ、そんなこんなで天鳥船はデータ収集も兼ねての解体作業中。

 全長1800mの船体の中に、どうやってこれだけのものが詰め込まれていたのかと、不思議でならない。

 先端部は潰れてしまい、搭載されていたらしい計器類は全て使い物にならないので、スクラップとして回収。

 これがまた、アマノムラクモ内の【魔導転送システム】で買取査定してもらえるので、ちょっとした小遣い程度の稼ぎはある。

 

 俺の住んでいた世界との繋がりは完全に断ち切られてしまったけれど、魔導転送システムで他の世界からの買い物はできるらしい。

 これは助かったよ。

 なにせ、文明世界からこんな辺境にやってきて、何もかもが1から揃えなさいなんて言われた日には、俺、死んでしまいますがな。


「……マイロード、この機関部はどうやら、『魔導頭脳』のようです」

「へぇ、読み取りできる?」

「試してみます……」


 ジークルーネが天鳥船の魔導頭脳とアクセスする。

 右手を添えて、内部に魔力を送り出して電気信号のように解読していくらしいんだけど、どうも俺には理屈がわからん。

 理屈で補えないからこその魔導だそうで、俺の解析アナライズのほうがとんでも無くすごいって説明された時も、ふぅんって思うしかなかったよ。


「……大規模移民船……浮遊大陸シリーズ。この船は、未知の空間から生まれた大陸を削り取り、船として作り替えたようです」

「へぇ、未知の空間ってなんじゃろな?」

「……それが。夢の世界、神々の終焉、約束の地、幻夢境……捉え所がなく、座標も存在しません」

「うん、データの回収をたのむよ。あとでオクタ・ワンに解析してもらうからさ」


 わからないことは、分からないままにしておくとあとで後悔する。

 だから、こういう気になった部分は、オクタ・ワンに任せることにしている。

 何よりも、この星では、戦争なんてないからね。

 俺以外の知的生命体は、確かいなかった……はず。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ブロロロロロロロロ

 天鳥船の解体も、ようやく後方100m部分を終わらせた。

 エンジン区画、バリアシステムなどは使い物にならないからデータを取って買取査定。

 そのかわり植物の苗や種を大量に購入したので、エルフの村にお裾分けに向かう途中である。

 乗っているのは、天鳥船から回収した四駆自動車。

 後部には荷台もあるトラック型で、動力部には魔力機関を使っている。


「ミサキさま、かなり揺れますが。マーギア・リッターで移動した方がよろしくなかったですか?」

「いやいや、この揺れこそが四駆の醍醐味。まあ、後ろに荷物を乗せるよりも、俺の無限収納クラインに収めたほうが荷崩れもなく安心なんだけどね」

「どれだけ大きな積載量があっても、ミサキさまがいると無駄なスペースになります」

「あっはっは。まあ、そうなるよなぁ……と、見えてきたか」


 深い森を切り拓いた道の先。

 ぽっかりと開けた場所に出る。

 そこには、エルフ族が伐採した丸太で組んだ家が立ち並んでいた。

 理路整然と都市開発されたかのように、綺麗な街並みが広がっている。


 俺たちが街に入っても、誰も驚くことはない。

 いや、乗っているトラックに驚いてはいるけど、窓から手を振るとドライバーが俺だってわかってもらえたからヨシ。

 そのまま村の真ん中近くにある、大きな建物の前に車を停めると、建物から村長がやってきた。


「これはミサキ殿。本日はどうなされたのですか?」

「やあデービット。今日は、植物の苗を持ってきたんだけどさ」


 無限収納クラインから苗の入ったポットが並ぶ箱を取り出す。

 地球産の野菜や果物、そして米の苗。

 これとは別に、袋入りの種も持ってきた。

 ちなみにデービットはエルフ族の取りまとめ役、つまり村長。

 最年長らしくて、誰がエルフ族を纏めるかって話し合いをしてもらった時も、揉めることなく決定したツワモノである。


「ほほう、植物の苗ですか。鑑定しても?」

「どうぞどうぞ」

「それでは……インスペクト……」


 魔力を込めた右手を翳し、一つ一つ確認するデービット。

 いつの間にか俺たちの周りには、大勢のエルフが集まっていた。


「ふむ、食用のものばかりですな。中にはみたことも聞いたこともないものまでありますが、できる限り育ててみましょう」

「よろしくお願いします。この村の特産品として育てて貰えたら、うちの船と取引できますよね?」

「と、取引だなんて勿体ない言葉を。収穫物は、全て税として納めますよ」


 待て待て、なんで税金が発生している?

 俺は、住むのは許可したけどさ、別にエルフ族を支配する気はないんだよ?

 

「ちょっと待った‼︎ 税金を取る気はないし、俺は、あんたらから天鳥船を貰ったじゃないか?」

「それは、我々を受け入れてもらうための貢物です。土地を頂いた以上は、税金は納めるのが当然」

「いやあ、ちょっとタイムな」


 両手でTの字を作って見せると、後ろでジークルーネと相談タイム。


「なあジークルーネ!!俺としては税金なんて必要ないんだが」

「彼らの気持ちを汲んであげてください。謎の飛行船で、故郷から逃げてきた人々です。安住の地を求めるのは当然であり、この惑星アマノムラクモはミサキさまの星です」

「星の王になったつもりはないんだがなぁ」

「でも、ミサキさまだって、ノリノリで挨拶したじゃないですか。ようこそ惑星アマノムラクモへって。あの時点で主従関係が成立していますよ」


 あ、俺、やらかした。

 それならそれで、考えてみるか。


「タイム終了。デービット、税金の事なんだが、収穫物の一割だけ納めてくれればいい」

「何をおっしゃいますか。我々が故郷に住んでいた時代は、最低でも四割は納めていました」

「なあデービット。その納められたものを食べるのは、俺一人だけなんだからな。俺の無限収納クラインだって容量に限りはある、だから一割だけで良い」

「そ、そうでしたか……」


 無限収納クラインの収納量は、その名の通り無限なんだけどさ。

 こうでも話しないと、大量に持ってこられてしまうから。 

 この後も、エルフ族からの税の話や野菜以外の動物的な収穫物の扱い、その他の資源についても協議した。

 結果として、税として納めるのはすべての収穫物からの一割に決められ、希少なものや一定数以下の収穫量のものは収めなくて良いことにした。

 そうでも説明しないと、何でもかんでも収めようとするからさ。


 その後は、金属製品が足りないという事で、天鳥船から採取? した装甲材で鍋やフライパンなどの金属製品を作り、皆にプレゼントもしたよ。


「こ、これだけのインゴットがあれば、あとは自分たちで努力します」

「あの山は、鉱物資源が取れるかと思いますので。我々としてもやることが多すぎて大変ですわ」

「ミサキさま、たまにでも良いので村に来てください。世界樹も根を張り始めましたので!!」

「ああ、楽しみにしているよ」


 最後は軽く手を振って、アマノムラクモへと戻る。

 トラックで一時間の距離なので、悪路も考慮すると大体50km程の距離か。

 道中、食べられる果物があるとジークルーネに説明されて、結局、船まで戻ったのは三時間後になったことは言うまでもない。


 野生のパイナップルも、ゲットしたし。

 俺、パイナップル好きなんだよなぁ。

 


 

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