第81話・再生・何処までできるのか勝負

 海底のアマノムラクモを確認してから、三日。


 俺はロシア所属空母、アドミラル・クズネツフォの甲板上にいる。

 カリバーンを再生するにも、場所がない。

 いきなり何処かの国の土地を借りるにしても、唐突すぎるのと警戒される可能性もあるからね。

 そういう事で、空母艦長のセルゲイ少将に甲板を使わせてもらいたい旨を説明し、快く引き受けてくれた。


「……そういえば、ロシアとアメリカの様子は?」


 現在、アメリカやロシアなどの『アマノムラクモ観測艦隊』は、アマノムラクモ海域で一時的に協力体制をとっている。

 どの国も、本土との連絡がつかなくなっているのである。


「通信衛星などが、全て破壊されていますから。連絡の取りようがありません」

「同じく。我がロシアも同じです。ここに集まっている各国の艦隊も、本土に連絡が取れないのでしょう」

「そうなるかぁ。衛星を巻き込んだのは、痛いよなぁ」


 ちなみに、通信衛星破壊の件については、実は俺のせいでもある。

 大型機動戦艦の爆発時、その破片が分散していった中、運の悪い衛星は全て巻き込まれ爆発したり吹き飛んだり、軌道から大きくされて外宇宙へと飛んで行ったり。

 国際宇宙ステーションが裏側にあったのは、本当に奇跡だろう。


「衛星程度で助かったのだから、結果オーライです」

「そうだよなぁ。それじゃあ離れてくれ」


 肩をぐるぐると回しつつ、カリバーンのコクピットポットに近寄る。

 その周りに、回収した騎士型マーギア・リッターの残骸(塵芥になっちまったけど、ないよりはマシ)と、天使型マーギア・リッター一騎をぶち撒けると、ゆっくりと手を当てて術式を唱え始める。


「ゴニョゴニョ……物質修復レストレーション‼︎」


──プシュゥゥゥゥゥ

 すると、コクピットポットを中心に、巨大な魔法陣が展開し、天使型を静かに分解し始める。

 塵芥も凝縮して魔結晶に変化したので、これは都合がいい。


「……オゥ。テンドウ氏の魔法は、未だ健在ですか」

「これは、ものを直す魔法?」

「そういうこと。材料さえあれば、修復可能だからなぁ。だからと言って、国土とか壊れた建物を直すのは引き受けないからな」


 予め念を押しておくけれど、そもそも各国の状況もわかっていないのだから、何もしようがない。

 そして、仮組みが始まったカリバーンの前では、アメリカ海軍のオスマン中将が問いかけてきた。


「あの神を名乗る悪魔は、またやって来ますか?」

「いやぁ、あれでも神なんで、悪魔呼ばわりはしないほうがいいよ。来るか来ないかもいうと、こないんじゃないかなぁって思うんだよね」


 オクタ・ワンの報告が正しければ、神々はこれ以上の攻撃を行ってこない。

 進化の可能性があると認められたら、そこから先は手出ししないらしい。

 まあ、そうでなかった場合でも、次の一手を切り出すにもコマが足りない。


「……二日ってところか。セルゲイ艦長、申し訳ないが、二日ほど此処を貸してもらえるか?」

「構わないよ。元々、本国からは『アマノムラクモが協力を求めてきたら、可能な限り手を貸してやれ』って指示があるからな」

「助かります」


 セルゲイ艦長は、笑いながら説明してくれる。

 それなら、しばらくはお世話になるとするか。


「ゴホン……我がアメリカも、アマノムラクモに助力することについてはやぶさかではありませんので」

「ええ。ミハイル艦長にも、何かお願いすることがあるかもしれませんので、その時はよろしくお願いします」

「待て待て、我が中国もだ。そもそも、アマノムラクモの国民の四割は、我が中国の民であったのをお忘れなく」

「八人しかいない人間の三人だけだろうが?」

「比率では高いぞ。アマノムラクモ民一人、日本人四人、中国人三人だ‼︎」

「ミサキ殿、ロシアからも亡命者を受け入れてくれ、いや、俺がこの空母を持って亡命すればいいのか?」


 なんだか、物騒な話にまで発展していくなぁ。

 元日本人としては、ここに海上自衛隊がいないのが残念だよ。

 まあ……遠洋漁業の龍神丸御一行さまも合流しているから、それほど寂しくはないけどさ。


 アマノムラクモ領海を囲むように配置してある『領海識別ブイ』は、全て独立稼働している。

 そのため、このような状況になっても、しっかりと海上に固定されている。

 アマノムラクモからの指示が飛んでこないので、結界を張り巡らせることはできないのだけどさ。


「しかし。あの化け物が降りてきた時は、流石に覚悟を決めたがな」

「ああ。観測艦隊の火力では、到底勝つことなどできなかったろうからなぁ」


 セルゲイ艦長とミハイル艦長が、戦闘時を思い出しながら呟いている。


「本当に、逃げ場のない海上で、よく無事でしたね?」

「ミサキ殿はご存知なかったのか? てっきりミサキ殿の指示かと思ったのだが」

「アマノムラクモから連絡が来たのだよ。領海内に避難しろと。そのあとすぐに、例の結界が張り巡らされて、アマノムラクモは上昇したのだよ?」

「うちにも連絡が来た。一時的でしかないが、必ず好機が来る。それまでは、ここで防衛してくれと」

「……そっか」


 オクタ・ワン、そしてサーバントのみんな。

 修復が終わったら、まとめてご褒美だな。


「まあ、結界はもう稼働しないから、守りだけは自力になると思う。本国からの連絡が来るまでは、のんびりとしていて構わないと思うよ」

「ええ。戦闘中の通信を聴いている限りでは、あまり良い結果ではないようですがね」


 俺も、世界がどうなっているのか知らない。

 世界各国に散った諜報型サーバントは、おそらく状況確認のために動いていると思う。

 だが、情報を集めることのできるアマノムラクモが存在しない以上、彼らも自己防衛を行いつつ活動を続けるしかないだろう。


 いずれにしても、全てのケリを付けないとならないのは、理解しているよ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 神の機動戦艦の侵攻を食い止めて半年。

 その間、俺は毎日のように、修復が終わったカリバーンでアマノムラクモの修復を続けていた。


 最初に修復したのはオクタ・ワンのいる区画。

 そこにつながる魔導ジェネレーターの再生。

 海水の詰まった区画から水を全て抜き、オクタ・ワンに物質修復レストレーションを行う。

 同じく修復の終わった魔導ジェネレーターに、俺の魔力を注ぎ込んで再起動。


『ピッ……これはミサキさま。たった今、走馬灯の上映が終わったところです』

「馬鹿だろ、おまえは」

『ピッ……私の目的は、ミサキさまのために行動すること。あの場合、我が身を呈して地球を庇う事が最善です。私は、ミサキさまに修復して貰えますから』

 

 私は、か。


「そうだよなぁ……」

『ピッ……トラス・ワンのデータベースは、全てわたしが保持しています。アマノムラクモが無くなったのは残念ですが、いつかまた、トラス・ワンも修復をお願いします』

「そうだな。それでオクタ・ワン、神の機動戦艦の残骸があるんだが、アマノムラクモを再建するには何が必要だ?」

『ピッ……やりますなぁ。では、この海底に残骸をぶちまけてください。そこから自己修復モジュールを探しますので、そこからお願いします』

「おっけ。それいけ」


──グワラグワラ

 大量の残骸。

 それを海底にぶちまけると、オクタ・ワンのテンションがあがった。


『ピッ……これはなかなかの残骸。修復作業が捗りますなぁ』

「そうだな。それで、何処からだ?」


 そうして、俺はオクタ・ワンと『新機動戦艦アマノムラクモ』の再建を開始した。

 海底から回収し修復したサーバントたちにも作業に参加してもらい、修復速度はさらに上がっていく。

 途中途中でワルキューレの残りのメンバーを探したが、艦内に残ってアマノムラクモを制御していたゲルヒルデ、ジークルーネ、オルトリンデ、シュヴェルトライデは艦橋部分で発見、すぐに修復した。

 

 残りのヴァルトラウデ、ヘルムヴィーケ、グリムゲルデは機体ごと蒸発したらしく、再生不能。

 バックアップデータはオクタ・ワンが保持しているので、アマノムラクモが再起動したら、すぐに作り直してあげよう。


………

……


「……酷いな」


 アマノムラクモの修復の合間を縫って、俺はヒルデガルドと共に世界中を回った。

 上空から見た光景は酷いもので、人類の生息域が書き換えられているようなものである。

 最大の被害地域は、偶然、神の機動戦艦直下にあった欧州から東の一帯。

 アジアも含むかなりの区画が消滅し、巨大なクレーターがいくつもできていた。

 日本の被害については、俺は呆然とするしかない。


 北海道が、消滅していた。

 大雪山系を含む山脈と、その周辺はかろうじて『島』のように残っていたものの、北海道だった痕跡は直接攻撃を受けていなかった『函館付近』と、道東の帯広より東。

 それ以外は、幾つものクレーターが連なる湖のようになっている。


「……ヒルデガルド……ここまでの被害を総計してくれるか?」

『はい。死者だけでも30億以上。国として機能していない国家よりも、国として稼働できる国を挙げた方が早い状況です』

「……どのあたりが、被害が少ない?」

『神の機動戦艦の侵攻時、地球の裏だった南米は、殆ど被害がありません。ですが、ヨーロッパ経由大西洋へ進路をとった敵マーギア・リッターにより、アメリカ東海岸方面は壊滅状態……かろうじて中央アメリカ、西海岸方面には被害が広がっていません』


 そういう事か。

 つまり、アメリカは機能していないのか。


『パワード大統領は最後まで、国民に向かって叫んでいたそうです。『アマノムラクモがいる、地球は、アマノムラクモが守る』と……』

「そっか。守るかぁ……守りきれていないんだよなあ……悔しいよなぁ」

『マイロード。あれは無理です……天災と思うしかありません』

「天災……本当にそれだよ。信じていた神に『死ね』って言われたようなものだからなぁ……復興かぁ」


 一つ一つの国を回って。

 被害の大きかった国では、少しだけど食料を分けている。

 それでも、俺の無限収納クラインの収納スペースに収められているものでは、限りがある。


 そんな中、オクタ・ワンから通信が届く。


『ピッ……アマノムラクモ、完全修復完了です。サラスヴァティ型ツイン魔導ジェネレーターの再稼働を確認』

「了解だ。すぐに戻るから待っていろ」

『ピッ……了解です』


 ちょうどアジアを回っていたところだから、加速して太平洋まで出る。

 アマノムラクモの沈んでいる場所の上空まで戻ると、オクタ・ワンに指示を飛ばした。


「よし、アマノムラクモ浮上!」

『ピッ……浮上、開始します』


 ゆっくりと、アマノムラクモが海底から上がってくる。

 神の機動戦艦も取り込んだため、最終的な全長は4000mを超えた。

 厚さもかなり分厚くなり、ついでに神滅波動砲とかもかっぱらって増設している。

 新造戦艦アマノムラクモが、海上に姿を表すと、高度500mで停止した。


──パパパパパッ

 第一カタパルトの誘導灯が光ると、俺はカリバーンをカタパルトに着地させる。

 うん、見たことのある光景。

 カリバーンから降りて、急ぎ艦橋へと走る。

 廊下のあちこちで?サーバントたちが頭を下げているけど、今は艦橋まで急ぐ。


──ブワシュゥゥゥゥ

 艦橋のハッチを開き、中に走り込む。

 すでにゲルトリンデたちは待機していたので、俺は軽く手を上げた。


「遅くなった。そして、ただいま‼︎」

「「「「「おかえりなさい、マイロード」」」」」


 笑顔で迎えてくれる一同。

 とりあえず、アマノムラクモはこれで丸く収まった。

 あとは残りのメンバーを再建して、今後のことを考えよう。

 まあ、やることはもう決まってあるんだけどさ。

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