第80話・神々の戦い・勝利者など存在しない
全て終わったのか?
神の機動戦艦は、もう存在しないのか?
いや、念には念を入れないとならないよな。
「あれ、俺、泣いていたのか……」
頬を伝っていた涙が乾き始めている。
とにかく、このコクピットポットだけでは、地球までの通信など不可能。
そろそろヒルデガルドも、稼働できるはずだよな?
「ヒルデガルド、聞こえるか?」
『はい、私はミサキさまのおそばに存在します』
「ポットごと回収してくれるか? それと神の機動戦艦の残骸のある場所まで移動してくれ」
『イエス・マイロード。たしかにあれは危険です。まだ地球人類には過ぎた叡智となりますから』
「そこな。多少は時間が掛かるけど、目に見える残骸だけでも回収するぞ」
『かしこまりました』
分かっている。
こんなことは、後回しにしても構わないってことぐらいは。
それよりも、早く地球に降りないとならないことぐらいも。
アマノムラクモの被害状況の確認、地球の様子。
それらを全て、調べないとダメなことは。
けれど。
怖い
本当はどうなっているのか、全てが、本当に終わったのか。
だから、敵機動戦艦の残骸を全て回収する。
敵だったゴミ屑を、全て集める。
まとめて
一つ一つ、ゆっくりとでも構わない。
安心が欲しいから。
………
……
…
全ての残骸や回収が終わったのは、二日後。
ずっと、ただ黙々と、回収を行なっていた。
そして最後の残骸、天使型マーギア・リッターのパーツを
『マイロード。これで大方の作業は終了です。爆発の衝撃で高速で飛散した対象については回収は不可能です』
「そうだなぁ。それじゃあ……地球に帰るか」
『了解です。目標座標は何処に設定しますか?』
「北緯30度東経15度、アマノムラクモに帰還する」
『……イエス、マイロード……』
カリバーンのコクピットポットを抱えて、ヒルデガルドのマーギア・リッターがゆっくりと降下を始める。
大気圏突入時に燃え尽きないように、スラスターを全開にしてゆっくりと。
灰色の雲を貫くように降りると、そこは海原。
右も左も何も見えない。
そのまま、アマノムラクモが存在していた場所に降りていくと、海上にいくつかの船が見えている。
「ヒルデガルド、ズームできるか? カメラにリンクするから、画像をこっちに……いや、コクピットを開けてくれ、俺がそっちに移る」
『了解です』
──ガゴン
ヒルデガルド機のコクピットハッチが開き、中に入る。
そして、思わず息を呑む。
コクピットの後部が端曲がり潰れ、ささくれた内部フレームがヒルデガルドの胴体を切断している。
上半身のみでマーギア・リッターにアクセスし、ここまで動かしていたのだろう。
「マイロード、お見苦しいものを……」
「うっさいわ! ダメージを受けていたのなら、先に言え‼︎
──シュゥゥゥゥ
コクピット内部にヒルデガルドのパーツが落ちていたのは、実に助かった。
すぐさま修復魔法でヒルデガルドを治すと、その頭にガツンと拳を落とす。
「俺の命令を最優先、それはわかる。けれど、俺の気持ちも理解しろ……」
「も、申し訳ございません」
「まあ、無事だったからいい。さて、何処の船だ」
──カチカチカチッ
カメラをズームにして、船体を確認する。
『アマノムラクモ所属、海上救命船ツクヨミ』
『ロシア海軍空母・アドミラル・クズネツフォ』
『アメリカ海軍空母・ロナルド・レーガン』
これ以外にも、俗に言うアマノムラクモ観測艦隊があちこちに見える。
そしてツクヨミの甲板では、ヒルデガルド機を確認したのだろう及川たち五名の国民の姿、負傷したサーバントたちの姿も見える。
「ふぅ……無事だったか」
「ツクヨミのロスヴァイゼより入電。ホムンクルスたちもツクヨミに搭載されています。オクタ・ワンが、ギリギリなんとか移動させて逃したそうです」
「お、オッケー。とりあえずはヨシ。一旦、ツクヨミに移る。マーギア・リッターは俺の
それだけを告げて、俺はマーギア・リッターを降下させた。
ようやく、戻ってきたけれど、やらないとならないことが山のようにあるなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
謎の存在、神を名乗る声。
それの出現と同時に、世界は滅亡の危機を迎えていた。
それを救ったのは、アマノムラクモ。
機動兵器マーギア・リッターにより地球全域に結界を施し、神を名乗る存在の攻撃を防いでいた。
神の第一波は防ぎ切ったものの、疲弊し切ったアマノムラクモでは、第二波を防ぎ切るだけの力はなかった。
多角形球状結界の点、フォースプロテクションを繋ぐマーギア・リッターが敵機に狙われる。
結界発生装置を搭載していた機体が破壊され、結界に綻びができると、その僅かな隙間から敵マーギア・リッターが結界内に侵入。
この時点で、アマノムラクモおよび地球の命運は、悉く尽きた。
それでもアマノムラクモのマーギア・リッター遊撃部隊により、結界装置を搭載した機体を狙う敵機の攻撃を防いでいたのだが、突然、敵は二手に分かれる。
結界装置を狙う敵。
そして、地球の各国を狙う敵。
それは、翼を広げて各国へと神速とも呼べる速度で飛来すると、無慈悲な攻撃を繰り返す。
ある国の首都は一撃の元に蒸発し、またある国は、海岸線がごっそりと削り取られた。
泣き騒ぎ、祈る人々を嘲笑うかのように、敵機は、破壊の限りを尽くし、蹂躙を続ける。
信じられないのは、これが、わずか数十分で起きたということ。
敵機動戦艦が出現して、僅か一時間で、世界は機能を停止した。
だが、突然敵機が機能を停止すると、まるで燃料が尽きたかのように次々と墜落していく。
事態は好転したかのように見えた。
世界各地で、墜落したマーギア・リッターを回収し、分析したいところではあるものの、それよりも未曾有の危機からの復興が第一条件。
そのようなものは後回しとし、今は国を立て直すのが、世界各国の急務でもあった。
死亡者数 :消滅した国家計算で、30億人以上
消滅した国家:確認可能な国家だけでも19以上
死傷者数 :不明
無傷の国家 :不明
ニューヨークの国連本部がすでに消滅しているため、一時的にスイス・ジュネーブの国連事務局が統括代行となり、世界各地からの被害報告をまとめている。
………
……
…
「……了解。今の所の被害はわかった」
ツクヨミの艦橋で、ミサキは及川たちからの報告を受けている。
「ミサキさま、アマノムラクモはどうなるのですか?」
「俺たちにできることはありますか?」
「なんでもやるから、命令してくれ」
波多野や王、劉もアマノムラクモ国民として、できることを探している。
けど、ミサキは腕を組んで、考えていた。
やらなければならないこと、やったほうがいいこと、やらなくていいこと。
「世界を再生する……けど、今は、ツクヨミで待機だなぁ。釣りでもなんでもいいから、食料を調達してくれるか?」
──ドサドサッ
アメリカとロシアのショッピングマーケットを建物ごと
それに頼りまくるよりも、身体を動かしていた方が、まだ気が紛れるからなぁ。
「とりあえず、食べ物の確保。衣食住を用意する必要があるんだが、まずはそこから。衣は、俺の
食もどうにかできるが、自分たちで確保できる分は確保してもらう。
そして住。
これは、俺が用意するさ。
「わかりました」
「食料については任せてください」
「美味しい中華料理も、ラーメンも作れますから」
「そこは頼りにするよ。俺は、少し出かけてくるから……」
先に、損傷したサーバントの修復を行う。
ワルキューレで残ったのはヒルデガルドとロスヴァイゼの二人だけ、アマノムラクモの制御担当だった子たちは、アマノムラクモと共に海底に沈んだらしい。
フォースシールド、神の鉄槌に加えて、アマノムラクモの外装甲にも魔力を循環して防御したらしい。
結果、全てのフィールドは吹き飛び、装甲が貫通。
魔導ジェネレーターが爆発して真っ二つになり、海底に沈んだ。
ただ、機動戦艦の主砲の火力を全て止められたわけではないらしく、どこまで被害が広がっているのか確認しなくてはならない。
──シュウン
アマノムラクモの最終沈没区域は、ここから北東であるため、海底調査も兼ねて、速やかに潜航して進んでいった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……」
言葉を失う。
海底に沈んでいるアマノムラクモ。
その周りには、機能停止したサーバントの姿も多数、確認できる。
「回収したいところだけど……もう少し、待っていてくれ」
──シュゥゥゥゥ
アマノムラクモに接近し、折れた場所から艦内に進む。
魔導頭脳がある区画に到着したが、トラス・ワンのあった場所は蒸発して残骸すら存在していない。
中央区画のオクタ・ワンは形こそ残っていたが、独立していた魔導ジェネレーターが半分ほど吹き飛んでいるので、修理しない限り稼働は不可能。
「サラスヴァティ型魔導ジェネレーターも、こうなるとオブジェでしかないか」
「そうですね。修復は可能ですか?」
「まあ、不可能かどうかと聞かれると、可能。ただ、ここじゃあ無理だよなぁ」
海底では、ミサキの息が続かない。
ヒルデガルド機では、ミサキの錬金術も外部に飛ばすことができない。
「様子はわかったから、先にカリバーンを作るしかないか」
「コクピットポットが残っていたのが幸いですね」
「まあな。ここを中心に
材料はある。
宇宙空間で回収した騎士型と天使型、これがあるから部品には困らない……筈。
カリバーンさえ戻れば、時間が掛かるもののアマノムラクモは再生する。
けど。
地球は再生しない。
アマノムラクモの残骸の横にある、直径50mほどの空洞。
真っ直ぐに地球中心に向かって伸びているかと思うトンネル。
もう少し火力があったら、アマノムラクモが軽減できなかったら、おそらくは地球中心核まで撃ち抜かれていた可能性がある。
それでなくても、この穴の深さが分からない。
確実に、悪影響を起こすのは目に見えている。
そして、死んだ人々は、帰ってこない。
消滅した国家、変形した国土。
それらは、どうあがいても戻すことはできない。
「……ミサキさまの所為ではありません。全ては、神が悪いのです」
「けどさ。俺が、アマノムラクモでやって来なければ、神の怒りが爆発するのはもっと先だったと思うよ……だから、俺のせいでもあると思う」
結果論や感情論じゃなく、純粋に状況を把握して弾き出した結論。
俺の、アマノムラクモの存在が起爆剤になったことは間違いはないから。
「ですが、死者は生き返りません。それこそ、神に対する冒涜ですと、人々は仰るでしょう」
「錬金術じゃ、死者の蘇生は無理。カリバーンの神の右手でも、魂の再生はできない。けど、いくつか、どうにかできるが可能性はある」
「それは?」
「まだ秘密。アマノムラクモが再生しない限りは、オクタ・ワンにも聞くことができないからね」
切り札というわけではなく、オクタ・ワンにもアドバイスを貰いたい。
「ヒルデガルド、周辺のサーバントたちを回収できる分だけ、回収してくれるか?」
「精密作業用マニュピレーターに換装する必要があります。パワーコントロールが難しいかと」
潰さないようにつまみ上げるのは、やっぱり無理か。
「うん、カリバーンを治すところから始めよう。オクタ・ワン、みんな、もう少しだけ待っていてくれな」
静かに黙祷を捧げてから、俺はツクヨミへと戻ることにした。
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