第82話・再生・何処から直すのか、それは決定している
アマノムラクモの再起動。
これは、世界中に、通信可能な範囲内で情報が伝えられた。
まだ長距離通信網は、どの国も修復が終わっていないため、世界の情勢を知るのは困難である。
それ故に、ミサキは最初にスイスの国連事務局に連絡を入れた。
『アマノムラクモが再起動した』
これだけで十分。
大空を飛ぶ機動戦艦の存在は、敵であったなら敵うことのない脅威であったのだが、こと味方であるのなら、これ程頼もしいことはない。
人々に希望を与えられたなら、それでいい。
そうミサキは考え、そして最後の賭けに向かう決断をした。
………
……
…
アマノムラクモ艦橋。
ミサキは一人、キャプテンシートに座って考えていた。
『ピッ……ミサキさま、何を思案していますか?』
「ん? このあとの復興計画。手っ取り早く、全てを丸く収める方法は選んだけど……まあ、そろそろいいか」
俺の最後の賭け。
これからのオクタ・ワンとの協議の結果、それを行うかどうか、決めなくてはならない。
『ピッ……どんなことでも、お答えしますが』
「そうだな。オクタ・ワン、アマノムラクモは、過去に飛べるよな?」
『ピッ……是。以前もお話しした通りですが、お勧めできません。ミサキさまは、時間を戻して敵機動戦艦を殲滅する気なのですね?』
「……まっさか。それが可能なら、俺がカリバーンで出撃していた時点で、もう一機のアマノムラクモが存在しているはずじゃないか」
俺がそう考え、実行した時点で過去から現在の歴史は塗り替えられているはず。
だが、それが起こっていないということは、この歴史は塗り替える事ができないのか、あるいは塗り替えられた未来が別に存在する。
この辺りが曖昧なので、オクタ・ワンに確認したかった。
「なあ、パラレルワールドって存在するのか?」
『ピッ……否。似て異なる世界が存在しますが、それはパラレルワールドではありません。一つの世界が、二つに分かれたという時系列は登録されていません』
「つまり、時間軸を遡って、過去に干渉する事で世界が大きく変化するけど、変化前の世界と変化後の世界に分かれることはないんだな?」
『ピッ……データベースに存在する、時間と空間を管理する統合管理神ア・バオア・ゲーの能力を全て把握しているわけではありませんが、記録によればそのようです』
「同一時間軸に、同じ存在がいた場合は?」
『ピッ……双方ともに相手の存在を確認した場合、世界に矛盾が発生し、対消滅を発生する場合があります。過去に向かう場合、この部分をクリアしない限り、作戦は失敗します』
歴史改変により世界が分岐するのではなく、速やかに塗り替えられる。
よし、これでなんとかできる。
「時間の逆行に必要なエネルギーは?」
『ピッ……アマノムラクモ内の魔力タンク全てが満タンになるぐらいは必要かと』
「それはどれぐらい?」
『ピッ……二日です。二日後に、総戦闘を開始するのですか?』
「まっさか。それじゃあ駄目だよ……万が一に失敗しても、またやり直しが可能になるだろう? そこまで歴史を改竄することを、神は許さないと思うが?」
セーブしたデータを再ロードして、失敗したらやり直し。
そんな都合のいい戦法を、時間と空間の神が許すはずがない。
恐らく、許されて一度だけ。
それさえも危険な賭けなんだけどさ。
「おっけ。腹を括った。二日後に過去に戻る。申し訳ないけど、国民全てに退避命令よろしく。万が一のために、ホムンクルスたちのカプセルもツクヨミに避難させておいてくれるか?」
『ピッ……了解です。流石に戦闘に巻き込むことは危険ですし、歴史の改竄について、同行させるのはキツイかと思いますので』
まあ、こっちに置いておいたとしても、歴史が改竄されたなら、神の世界修復機能によってうまく折り合いをつけてくれると思うからさ。
それがないと、歴史の改竄はあちこちに矛盾が発生するからね。
まあ、俺としても、残りの二日間を、楽しむことにするよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……アマノムラクモに救援要請を行う。これには異存はないだろうが」
「いえ、これは日本国内の問題です‼︎ アマノムラクモに頼るなんて言語道断。それよりも、今回の件、北海道が消滅し、甚大なる被害が出ています。速やかに調査船を派遣し、生き残った人々を救出すべきです」
「それについては、もう自衛隊が向かっている。東北方面も二次災害でかなりの被害が出ているので、一時的にだが東京および関東圏の各県に協力を求めているところだ」
日本国では。
未曾有とも呼べる天災に対して、速やかに緊急国会が開催、被害地域に対する救護、支援に対する法案がスムーズに可決。
自衛隊は違憲だなどど未だに叫ぶ野党を無視して、可能な限りの自衛隊による救護作戦が展開している。
これは日本だけではなく、世界各国でも、自国の再建に全力を尽くすために国民一丸となって取り組んでいる。
だが、その影では、やはり不穏な噂も広まりつつある。
突然現れた機動戦艦、そして後から姿を表した機動戦艦。アマノムラクモと同じ姿のそれが、地球を攻撃したという事実。
あれって、アマノムラクモを破壊するために来たんじゃね?
アマノムラクモ同士の戦争に巻き込まれた?
そんな根も歯もない噂が、あちこちで発生した。
最初は冗談のつもりであったのだろうが、悪意を持つ者にとっては、格好の材料である。
それなら、アマノムラクモに責任を取らせろ
俺たちの街を、国を、家族を返せ
アマノムラクモは、地球から出て行け
アマノムラクモ非難が広がる中でも、アマノムラクモによって助けられたものたちも声を上げる。
被害地域にすぐにやってきたのは、アマノムラクモだけだ。
アマノムラクモが守ってくれたから、この程度で済んだ。
インターネットが接続しない地域が多い中で、悪意はゆっくりと世界に広まる。
不思議なことに、善意よりも悪意の方が、広まるのが早い。
しかし、この噂話は、ミサキの耳には届かない。
全て、オクタ・ワンがシャットアウトしていたのである。
………
……
…
二日後。
『ピッ……エネルギー充填120%』
「波動砲かよ。まあ、いいか。オクタ・ワン、及川さんたちは?」
『ピッ……すでにツクヨミに避難しています。名目は、宇宙空間への調査としてあります。留守を預けるように、ロスヴァイゼにはツクヨミに待機してもらっています』
「まあ、そうなるよな……それじゃあ、過去に向かうとしますか」
「マイロード。私たちワルキューレ一同、今度こそ守って見せます」
「いや、戦争に行くわけじゃないからさ。オクタ・ワン、次元潜航開始してくれ」
『ピッ……了解です』
アマノムラクモ、最後の次元潜航となるか。
いや、ここから先は、どうなるのか全く予測が付かない。
『ピッ……次元潜航完了。魔導ジェネレーターの稼働率を上昇、サラスヴァティ型ツイン魔導ジェネレーターの出力を最大にします。タイムトラベル可能……時間の指定を、お願いします』
「時間の指定ねぇ……今から三ヶ月前、20⚪︎⚪︎年 02月23日、時間は確か……」
俺の指示を聞きながら、オクタ・ワンがモニター上にタイムカウントを設定する。
『ピッ……タイムカウント設定完了……おや?』
「スタートだ‼︎」
力一杯叫ぶ。
『ピッ……了解です。スタートします』
──キィィィィィン
魔導ジェネレーターが唸り声をあげる。
時間航行なんて想定はしていないのだろう。
まあ、機動戦艦には元々あったシステムらしいけど、ここは踏ん張ってくれ。
「マイロード、何をお考えですか??」
「時間の逆行を終えたら、そのまま北海道に移動。中山峠だ」
『ピッ……否。お断りしたいです』
「でも、俺の命令。わかるよな?」
「オクタ・ワン、すぐに戻ってください‼︎ ミサキさま、お考えをあらためてください」
「……これしか思いつかないんだよ。全ての命の責任ってさ」
流石に30億以上の命、数多くの国家、それらを失ったらという事実から、俺は目を背けられなかったんだよ。
アトランティスのラ・ムーの話していた、世界破滅のカウントダウン。
少なくとも、その原因がアマノムラクモであり、俺の間合いない好奇心から始まったというのも理解できる。
だから、俺は俺なりに決着をつけることにするよ。
『ピッ……本気ですか?』
「ああ。俺は、俺の死による『神の加護の受け取り』を無かったことにする。ヒルデガルド、頼みがある」
「お、お断りします……」
俺が直接、手を下すことはできない。
生前の俺が、今の俺を見たところで認識するとは思えないけど、同じ魂が共鳴することにより、世界が崩壊する可能性がある。
だから、俺は手を下さない。
「俺はトラック事故に巻き込まれて、死ぬ。それが手違いだったことで、俺はアマノムラクモを手に入れた。おそらくは、その時点で世界の崩壊はスタートしていたんだと思う」
ラ・ムーの説明では、俺がアトランティスを探し始めたことにより、最後のトリガーを引いたことになっているけど、多分、嘘。
俺がアマノムラクモを持って、世界に現れた時点がスタートだと思う。
そんなことを告げられたら?
多分、俺はアトランティスから出て、すぐに今と同じことをやったと思う。
けれど、それはラ・ムーにとっても本意ではないのだろう。
「オクタ・ワン、俺たちが、有限会社・異世界トラックの事故を防いだ場合の未来予測解析、できるか?」
『ピッ……指定座標時間軸到達まで、百二十六時間。それまでには可能な限りのパターンを検出します』
「よろしく頼む。その中に、一つでも、俺たちが残る可能性があったら、そこに賭ける」
そんな都合の良い未来があるとは、到底思えないけれどね。
「そういうことなので、ヒルデガルドに勅命。事故に巻き込まれる俺を、助けてほしい」
「最後の命令が、それですか……残酷すぎます」
「分かっているけどさ。俺は、あの未来を見捨てたくないんだよ」
短時間だったけど、多くの人と出会えた。
社畜だった俺が、チート能力とチート兵器を手に入れて、国を起こした。
戦争にも巻き込まれたし、色々な人の思惑や思想に振り回されもした。
けれど、それは、俺が生きている時間の中で、最も楽しかった時間にもなった。
神の手違い、いや、本当に偶然の引き起こした運命の連鎖で、未来が変わった。
だから、感じる。
俺が、事故に巻き込まれていない未来こそ、【本当の未来】の姿じゃないかと。
だから、俺は、歴史を改竄するんじゃない。
歴史を、正しい流れに戻すだけなんだと。
残りのわずかな時間、俺は、艦内でのんびりとした。
温泉に浸かり、思いついた魔導具を作る。
ミサキ・テンドウとしての、最後の時間を、俺はワルキューレを始めとするサーバントたちと過ごすことにした。
………
……
…
『ピッ…… 天童幸一郎を救出し、且つ、ミサキ・テンドウが、この世界に存在できる可能性……0%』
ルーチンの変更。
別の可能性を付与。
『ピッ…… 天童幸一郎を救出し、ミサキ・テンドウがこの世界に存在できる可能性……0%』
ルーチンワーク及び、別のファクターを付与
『ピッ…… 天童幸一郎を救出し、ミサキ・テンドウがこの世界に存在できる可能性……0.0000000000000000000002542%』
さらに別のファクターを付与……
繰り返す、別のファクターを付与。
繰り返す、別のファクターを付与。
繰り返す……
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