第76話・神々との争い・対抗策と切り札と
俺の存在が、世界の破滅を加速させる。
突然、そんなことを言われても、それがラ・ムーの戯言かもしれないという可能性もある。
まあ、ここは一旦、落ち着こう。
一晩、宿でゆっくりと体を休め、今日はアトランティスの街並みをのんびりと散策する。
「……源内、オクタ・ワンに情報は送ってあるのか?」
昨日の謁見以後、源内も言葉を失ったかのように、沈黙を続けている。
「はい。すでに送信済みです。アマノムラクモでは、緊急対策についての協議が行われています」
「そっか。ラ・ムーの話だが、どこまで事実だと思う? 俺には、あれが全て事実とは思えないのだけど」
「私程度の意見で恐縮ですが……ほぼ真実ではないかと思われます」
ほぼ真実、かぁ。
どこが真実じゃないかは置いておくとして、真実の部分だけでも知り得たいところなんだよなぁ。
「カリバーンに戻る。そこからオクタ・ワンと話をする」
「了解です」
こうなると、あとはオクタ・ワンから情報を聞き出すしかないか。
仮にも、神が作りし機動戦艦の管理魔導頭脳だからなぁ。
………
……
…
内湾に行き無限収納からカリバーンを出して、すぐさま源内を通じてアマノムラクモに連絡を入れる。
源内だけでも問題はないんだけど、外に会話が漏れるのを防ぎたがったからね。
『ピッ……おつかれさまです』
「全くだよ。源内から話は聞いているか?」
『ピッ……確認済みです。私のデータベースとも擦り合わせは完了しています』
「それはいい。本題に入ろうか……この世界は、滅ぶのか?」
『ピッ……世界の崩壊確率、98.453%です。ラ・ムーの告げた天使の像は、階層破壊兵器です。それが地球ではなく次元潜航しているアトランティスに存在している時点で、創造された世界の破壊は不可能でしょうが、崩壊を導いた文明の殲滅はあります』
さらに説明を聞くならば、階層破壊兵器が本来の能力を起動したならば、次元潜航しようがなにしようが、全て吹き飛び光になるらしい。
だが、神は、アトランティスがそれを次元の向こうに持ち込んだ時点で、恩赦を与えた可能性があると。
本来ならば、あの天使像は一つずつ起動して、世界を破壊するために動き出す。
それが起動せずに、シグナルのように世界の破滅を告げる役割になっている時点で、恩赦としか考えられないらしい。
「全てのラッパが黒くなり、世界の破壊が始まる場合……何が起こる?」
『ピッ……我が魔導頭脳にも組み込まれている世界破壊プログラムが稼働します。あ、語弊を招くので付け加えますが、私のプログラムは起動しませんよ? 例として説明するだけです』
「まだ、そんなシステムが残っているのかよ」
『ピッ……ミサキさま。私の使命は、元々は神々が作りし世界の失敗作を破壊する事です。つまり、私と同型艦の『機動戦艦』が飛来し、攻撃を開始します』
「……最悪だな」
これが、黙示録のように天使が現れたり黙示録の四騎士が現れたりするのなら、まだ話はわかる。
しかし、よりにもよって機動戦艦が来るだと?
どう見ても、アマノムラクモの関係だってバレるだろうさ、世論はアマノムラクモをフルボッコだろうさ。
その時点で、地球圏の人々はこう考えるだろう。
アマノムラクモに巻き込まれた。
『……最悪です。そして、この時点で分かったことがあります』
「トラス・ワン、教えてくれるか?」
『……ロシアでヘルムヴィーケを見ていた存在、おそらくは、神もしくはその眷属かと。最後の監視、いえ、もっと早い時期から、我々は神に監視されていたのかもしれません』
「それで、世界の状況を見ていたということか。人類の進化を、文明の進化を見て、最後の判決を下すためにか?」
『ピッ……補足します。神の眷属は、常に数体、人間には分からない階層から監視しています。たまたまヘルムヴィーケは、それに気付いたのでしょう』
「タイミングが最悪だっただけか。それで、この後の展開はどうなる?」
そこが知りたい。
『ピッ……運命を受け入れるか、抗うか。二つに一つです。受け入れるならば、すぐにでもアマノムラクモは次元潜航を行い、世界の崩壊から目を背けるのが無難かと』
「それは無いな。抗うとなると?」
『ピッ……機動戦艦同士の戦争です。この場合の、アマノムラクモの勝率は0%に限りなく近いかと』
「同型艦でも、勝てないのか?」
『……ミサキさま。アマノムラクモは、世界を滅する兵装を外し、そこにミサキさまの住まう空間を作り上げています。完全装備の機動戦艦相手では、勝率は限りなく0%です』
「マジかぁ……」
世界の破滅を見逃すか、死ぬか。
この二択しか存在しないっていうのは、厳しすぎないか?
『ピッ……マジです。まあ、この階層世界の破壊を決定した神にもよりますが、まあ、大抵は光になります』
「神にもよる? それってどういう事?」
『ピッ……世界の破壊は、世界を管理している『統合管理神』の決定です。その更に上の、創造神クラスの神々は、自らの手で階層世界を破壊しません。判断したのは部下の神なので……交渉する余地があるかどうか』
「よっしゃ、その神との交渉はどうやるんだ?」
『ピッ……神との交信は不可能。よって、こちらから叫んで、意思を送り出していれば、まあ、気が向いたら耳を貸してくれるでしょうが……』
「だからと言って、こっちの話を聞いてくれるとは限らないってか」
『ピッ……寧ろ、無視される確率が100%です。神の気まぐれどころじゃなく、決定事項だから覆さないが正解でしょう』
つまり、どう足掻いても無理か。
「……アマノムラクモが次元潜航を行い、現世界との干渉を全て断ち切ったとしたら、どうなる?」
『ピッ……破滅を止めることはできません…。破滅までの猶予時間が伸びるだけです。源内から送られてきた天使像、あの黒く染まった時間を一日計測した結果……あと七日で、全てが黒く染まります』
「一週間だって? そんなに早いのかよ」
『……それ以前の速度がどれほどであったのかは、我々は知りませんから。ただ、まあ、月面の異星人の遺跡によって地球侵攻されて滅ぶか、神の手によって滅ぶかの違いと考えたら』
「……どのみち、滅亡は避けられなかったってか。そんな言葉で、納得する俺だと思うか?」
腹を括る。
やらずに指を加えて見ているだけよりも、やるだけやって後悔しない方がいい。
『ピッ……ミサキさま、ご命令を』
『……私たちは、ミサキさまと共にあります』
「マイロード。私たちワルキューレ、そして全てのサーバントは、ミサキさまに全てを捧げます」
俺の意思を汲んだのか、皆が俺の言葉を待っている。
それならやるしか無い。
「機動戦艦アマノムラクモ搭乗員全てに通達。アマノムラクモは……世界を破壊する存在と交戦状態に突入する……ヒルデガルド、艦内のアマノムラクモ搭乗員以外の民間人および軍人に通達、非常警戒体制に突入するので、二十四時間以内にアマノムラクモから離れるように」
「了解です」
「オクタ・ワン及びトラス・ワン。生活区画を随時遮断、失われた兵装の再生を始めたい。どうせ図面とかは残っているんだろう?」
『ピッ……階層破壊兵器『パニッシャー』及び『神滅波動砲』、惑星破壊兵装『神の鉄槌』、全て図面だけは残っています』
「フル稼働で組み上げろ、足りない部品は生活区画をバラしても構わない」
『……了解です。ムーンメタルの使用許可をお願いします』
「ムーンメタルか……」
リビングテクト、異星の使役者であり観測者たち。
ラ・ムーは、渡したムーンメタルはまだ生きているって話をしていた。
それなら、使うわけにはいかない。
「いや、ムーンメタルは使わない。可能な限り、艦内の資源で賄い、足りないものは魔導転送システムで引っ張れ」
『ピッ……了解です』
「ミサキさま、子供たちはどうしますか?」
子供たち……アドミラル・グラーフ・シュペーに搭載されていた魔導ジェネレーターから助けた、脳だけだった存在。
すでに肉体構成は終わり、いまは眠ったまま、オクタ・ワンが知識を与えている。
「子供たちは……オクタ・ワン、目覚めるのはいつになる?」
『ピッ……高速細胞増殖装置から外に出すまでに、環境に順応させるのに一週間です』
「戦争中の可能性があるか……いや、装置のある区画をフォースフィールドで包んで、ダメージが入らないように守ってくれるか」
『ピッ……すぐに処理します』
「ロシア及びアメリカから、今回の退艦についての説明を求められていますが」
「艦内のシステムにミスがあったとでも伝えておけ。爆発する可能性はないが、艦内全てを再チェックするので、最低でも一週間は来訪許可は出せないともな」
「かしこまりました」
これで、今の所の指示はオッケー。
そして、ふと目の前のモニターを見ると、カリバーンの前に、昨日俺たちを案内してくれた老人が立っている。
「お帰りのようですので、門は開きました。バミューダ諸島の指定空域に飛び出すようにしてあります」
そう老人の声が聞こえて来ると、俺は軽く頷く。
「ありがとうございます。俺たちは、俺たちにしかできないことをやりますので。それでは失礼します」
「神の加護の、あらんことを」
その神が、今回の敵なんだけどね。
そんなことを考えつつも、老人に頭を下げて、俺と源内は内湾から外に開いているゲートに向かって突入した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
突然、アマノムラクモからの退艦連絡が届く。
その理由は、艦内のシステムに異常が見られたため、万が一のために艦内全てをチェックすると。
「まだ治療は終わっていないのだろう?」
「ええ。ですので、私を含めた治療用サーバントチームは、アドミラル・クズネツォフに同行します。治療用設備も持ち出しできるように準備しておりますので」
ロシアのセルゲイ少将が、ホスピタル区画の責任者の一人である野口と話をしているところである。
流石に治療行為を止めるのは得策では無いということで、ミサキの許可を貰い六人のサーバントがロシアに同行することになった。
しかも、ミサキからは『精神汚染治療』以外の治療も行っていいように許可を貰ったので、事情を知ったロシア政府はこっそりと諸手をあげて喜んだものである。
かたやアメリカはというと、突然の観光客及び在天アメリカ大使館職員も一斉退艦となり、その対応に追われている。
観光に訪れた人々には、アマノムラクモからの補償として『アルミ製』の入国許可証が発行され、今回の退去にかかる費用は全てアマノムラクモが受け持つことを通達。
折角の観光であったが、システムチェックが終わった暁には再び来ることができるということもあり、それほど大きな混乱はない。
突然の出来事に各国が情報収集を始めた翌日の正午には、アマノムラクモは洋上都市部分とともに、ゆっくりと次元潜航を開始。
そのまま姿を消してしまった……。
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