第77話・神々との戦い・機動戦艦の邂逅

 アマノムラクモが消息を経って三日。


 世界は、アマノムラクモがどこに消えたのか、なぜ消えたのかで様々な噂が流れている。

 魔導機関の暴走による転移現象説、新たな世界へ旅立った説、宇宙に旅立った説など、さまざまな話がインターネット上に流れ始めている。

 中でもアメリカやロシアは、アマノムラクモの消息を知るものは速やかに連絡をして欲しいとホームページでも訴えており、どこで何をしているのかという推測だけが、一人走りしている。


 まぁ三日、まだ三日、もう三日と、大勢の人々は論議を続けているのは、アマノムラクモが三日以上も姿を消したという記録がないから。

 まあ、突然現れたので、突然消えてもおかしくはないと笑う人たちも多いのだが、魔導機関の解析については、アマノムラクモの助力なくてはなし得ない。

 結果として、各国研究機関からの要請により、国が動くことになった。


………

……


「テレジアさん。アマノムラクモは、どこに行ったのですか?」

「さぁ? 私が命じられているのは、魔導機関車の運営と管理だけですから。ミサキさまからの追加指令は届いていませんので、わかりかねます」


 スペイン・マドリードでは。

 魔導機関車のテスト運行をしているテレジアにも、議員たちが詰め寄っている。

 当然ながら、テレジアはアマノムラクモがどこで、何をしているのかを理解している。

 その上で、話をはぐらかすようにしている。

 次元潜航して、対神兵器を開発しているだなんて、口が裂けても言えるはずがない。


「アトランティス関係の研究が、遅々として進まないのですよ。テンドウ氏の助力をなんとか取り付けて欲しいのです」

「お断りします。私の仕事は魔導機関車に関することのみであり、それ以外のことでミサキさまのお手を煩わせるようなことはできません」

「ですが……スペイン政府としても、アトランティスについての調査を行いたいのです」

「はぁ……ファン・カルロス3世王の許可は得ているのですか? そもそも、アトランティスに関する調査は凍結されているのでは?」


 ため息を吐きながら、テレジアが集まっている議員たちに呟く。

 彼らは、未だ利権関係があるので、アトランティスから手を引くことはできない。

 すでに先行投資を行っていたので、後戻りもできないのである。


「それ、それなんですけど……ジブラルタル沖で、あのマーギア・リッターで調査をしていましたよね? あそこから何か出たんじゃないですか?」

「さぁ? 私どもは存じ上げませんので。そもそも、私はずっとここにいたのですよ?」

「ま、まあ、そうなんですけれど……」

「ほら、そろそろ出発時刻です。関係者以外は、離れてください」


 議員たちを後ろに戻し、テレジアは機関室に潜り込む。

 そして、運行表を確認しながら、機関車にタイムスケジュールを組み込み始めた。


………

……


 ロシアでは。


「……まあ、この治療は長くなりますからねぇ」


 治療用サーバント・野口率いる治療班は、モスクワ郊外にある施設を借り受けて、洗脳治療を行なっている。

 まだ始まって半月にもならないタイミングでの移動とあって、治療スケジュールの大きな見直しはそれほどない。

 ただ、アマノムラクモとは違い、外界との接触がそれほど難しくないため、思ったよりも時間がかかると推測される。


「問題がありましたら、いつでも連絡をいただけると」

「そうですね。毎日、五人から十人ほどの患者が脱走して、街に飲みに行くのを止めていただけたら。アルコールは治療の妨げになるのですが、それを無視して飲みに行く人が後を絶えません」

「善処する。そこまで酷いとはなあ」


 野口の報告を受けて、セルゲイ少将も苦笑する。

 その後ろにいた副官が踵を返して部屋から出て行ったので、彼が担当として動くのだろう。


「アメリカの治療時は、どこにも行きようがありませんでしたからね。ですが今は、その気になればどこにでも行けますから」

「全くだ。ちなみに治療時間が伸びた場合、どうなるのですか?」

「追加請求が、クレムリンに届くだけですよ?」

「急ぎ、対応する。俺が呼び出される案件じゃないか」


 そんな話をしながらも、セルゲイ少将はアマノムラクモの動向が知りたい。


「アマノムラクモは、今はどこにいるのですか?」

「さぁ? 私たちはミサキさまの指示でここにいます。アマノムラクモがどこかに行ったとしても、私たちを置いていくことはあり得ませんので、すぐに戻って来るかと思いますよ」


 これは真実。

 まあ、 野口たちも連絡は受けているので、ミサキたちが次元潜航中に武器開発を行なってあることぐらいは熟知している。


「それならば良いのですか。色々な噂が流れていますからねぇ」

「セルゲイ少将、私はアマノムラクモが戻る方にワインセラーに収納しているワインを全て賭けますが」

「ヤコブビッチ大佐、それでは勝負にならない。私もアマノムラクモに全ベッドする気だからな」

「こういう話をしているときは、ウラジミール大佐が乗って来るのに……残念です」

「ああ……全くだな」


 セルゲイ少将もヤコブビッチ大佐が、ウラジミールを懐かしんでいる。

 

「あの……まさかとは思いますが、ウラジミール大佐は……」

「腰痛が酷いらしくて、今はモスクワで治療を受けている。なんでも休暇をとって、新しく倉庫を作ろうとして、腰を痛めたらしい」

「……病院を教えてください。うちから一人送って、治療しますので」


 まさか休暇で腰を痛めていたとは、野口も予想をしていない。

 まあ、彼らの賭け事については、アマノムラクモは一切知らないことなので、それもやむを得ないところであろう。


「まあ、そうしてくれると助かる。しかし、アマノムラクモがいないというのは、寂しくもあるものだ」


 アマノムラクモが姿を表してからの騒動を懐かしむように、セルゲイ少将は笑っていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「ふぅ。これでカリバーンの改造も完了だ。オクタ・ワン、システムのアップデートを頼む」

『ピッ……了解です』


 あと三日。

 俺たちが地球上を離れて次元潜航を行ってから、俺たちはただひたすらに、アマノムラクモの改造を続けていた。


 大量にあったアメリカとロシアの倉庫の中身も、アマノムラクモが全て買い取り俺の無限収納クラインに収めてある。

 正確には、二つのショッピングセンターを丸ごと無限収納クラインにぶち込んである。

 もしも被弾して中身が使い物にならなくなったら、勿体無いことこの上ないからね。

 空いた区画は全て組み換え、元々あった兵装を構築している。

 

 お陰で俺は、魔力が幾度も尽きていった。

 運がいいことに、魔導転送システムで異世界の果実を手に入れたことにより、俺の体内保有魔力量も大幅に増加した。


『ピッ……ミサキさまが食べた果実は【マルムの実】というものです。神々の果実、魔力量と経験値が大幅に増えるというものです』

「買い占めろ、全て買い占めだ‼︎」

『ピッ……私が確認したときは三つ在庫がありました。物は試しでひとつだけ購入したのが、先程ミサキさまが食べたものです。今確認すると、すでに売り切れていました』

「くっそぉぉぉぉ、俺の果実を返せ‼︎」

『ピッ……この魔導転送システムについては、創造神さまの管轄ですので。私たちでは、どうしようもありません』


 そういうことかよ。

 しかし、創造神ってフットワークが軽いなぁ。


「そういえば、俺たちがこの多次元空間に潜航しているのは、神様も知っているんだろ? どうして手を出してこないんだ?」


 アトランティスの話では、ここにいれば安全らしい。

 でも、作り出した世界を一つ、丸々破壊するのなら、ここもぶっ壊れるんじゃないか?


『ピッ……多次元の正式な名称は【次元潮流】といいます。これは、全ての世界の全ての神々が使うものであり、これをたどることにより、他の創造神の作り出した世界に向かうこともできます』

「あ〜。神様の共有スペースってところか?」

『ピッ……そうご理解ください。次元潮流の管理は⚪︎✖️△◾️によるものですので、破壊不可能です』

「んんん? 名前が聞こえないんだが」

『ピッ……干渉不可能対象です。ミサキさまは神族ではないので』

「オッケーオッケー。危ない橋を渡るのはごめんだから、触れないでおく」

『ピッ……賢明です』

『……カリバーンのシステムチェック完了。オールグリーンです』


 お、トラス・ワンがチェックしたのか。

 助かるわぁ。

 これで残りは、対神用にパワーアップしたフォースシールドシステムが仕上がるのを待つばかり。

 装備については、『神滅波動砲』は無理だったけど、『神の鉄槌』は装備が完了した。


 残りの階層破壊兵器パニッシャーについては、使用条件が厳しいらしく、敵の機動戦艦でも使うのは最後らしい。

 しかも、アマノムラクモでは、装備しても使えない。ということで、それならば『パニッシャー』を相殺する兵装を開発中。

 理論だけで、実践に使えるかどうかなんて知らん。

 知らんけど、確率はゼロでないから作る。

 ゼロならば、いくら合わせてもゼロのままだけど。


 『限りなくゼロ』だったら、積み重ねていけば一にも十にもなる。

 

「ミサキさま。全てのサーバントの戦闘兵装への換装を完了しました」

「マーギア・リッター全機にフォースプロテクションを装備。防衛専用機に換装完了です」


 次々と飛んでくる報告の山々。

 それらを一つずつ確認して、最後の最後まで抗う。

 そして、あと一日、正確には十八時間で対パニッシャー用マナカノンが仕上がるっていう時に。


 神の機動戦艦が、姿を表した。


 

 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 地球圏、大気圏外、衛星軌道上。

 そこに突然、一隻の機動戦艦が姿を表した。


 大きさは全長250mと、アマノムラクモの1/10サイズしかなく、第二次世界大戦時に存在した日本の軍艦『大和』の船体を、喫水線から横真っ二つに切断した形。

 その切断面から下には、空母『赤城』の船体上部である甲板が接合しており、上半分は戦艦、下半分がひっくり返った空母という歪な形をしていた。


 この見たことのない戦艦に、世界中が驚きの声を上げる。

 アマノムラクモの関係者か?

 それともミサキ・テンドウがまた何かを作ったのか?

 さまざまな噂が流れる中、謎の機動戦艦は船体前部を大気圏に向ける。


──キュゥゥゥゥゥゥン

 計六門の魔導砲が地球圏に向けて照準を合わせると、世界中に声が聞こえた。



【この世界に住まう、愚かなる民に告げる……神は、貴様らの処分を決定した】


 通信でもない、言葉でもない。

 全てに等しく、頭の中に言葉が届く。

 

 何故、神が私たちを処分するのか?

 神は、我々を見捨てたのか?

 信心深きものは、その場に跪き祈りを捧げる。

 信じないものは、神を名乗る存在に向かって唾を吐く。

 そして各国の首脳は、ただ、天を仰いで声を聞いていた。


【人は、知識を得たがために争いを始める。欲が、人の身を焼き尽くす……幾度となく、我は、世界に救いを与えようとした……】


 涙して声を聞くもの、天に向かって中指を立てるもの、意味もなく車に飛び乗り、走り出すもの。

 三者三様の姿が、世界中に広がっていく。

 もしも神の言葉が本物なら、世界はどうなるのか?

 本当に滅びるのか?


【だが。もういい。この星に、我々の作った世界に、知的生命体は必要ない……もう一度作り直す……それ故に……】


 遠くから聞こえる音。

 機動兵器の周囲には、四体の巨大な人型兵器が姿を表す。

 巨大な盾とランスを構えた、四体の騎士。

 

【滅べ】


──ゴゥゥゥゥゥゥッ‼︎

 機動戦艦の主砲が全て放たれる。

 それは大気圏を一気に突破し、直下のヨーロッパ方面に飛んでいって……。


──バッギィィィン‼︎

 高度1500メートルで、結界にぶつかり消滅した。


「アマノムラクモ見参!」

「ここから先、この地球には手出し無用です‼︎」

「我らワルキューレは、ミサキさまの剣であり、盾である」

「我が主人の命により、神よ、貴様を討つ‼︎」


 アジア、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、北極、南極。世界中のさまざまな地域に、突然マーギア・リッターが出現した。

 そして全てのマーギア・リッターから放たれたフォースプロテクションが魔法陣のように連結し、高度1500メートル上空で、地球を包む巨大球形結界を作り出した。


 そして、太平洋上空に、ゆっくりとアマノムラクモが姿を表す。

 中央第一甲板状には、腕を組んで仁王立ちするフルアーマーカリバーン『カリバーン・フィーニス』が、天を見上げて睨みつけていた。


「悪いな。最後まで足掻かせてもらうよ、神様‼︎」

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