第72話・伝説を求めて・では、アトランティスに行こうか
スペイン・マドリード郊外。
魔導機関車の実験施設では、源内が帰り支度を始めている。
ミサキのスペイン外遊はおしまい、ここからはアマノムラクモに戻ってからの作業となる。
「テレジアさん、あとはお願いします。間違っても、アマノムラクモの技術を軍事的利用されないように」
「了解です。それはミサキさまが、最も嫌がることですからね。まあ、私と魔導機関車を自由に扱うことができる存在があるとしたら、それはミサキさま、もしくは神様ぐらいでしょうから」
創造物であるサーバントシリーズにとって、神とはミサキでもある。
ゆえに、彼女たちは、安心して任務を築くことができる。
「それでは……とは言いましたが、まだミサキさまが戻ってきていませんので、もうしばらくはここでのんびりとさせてもらいますか」
「それがよろしいかと」
のんびりと、実験施設に運び込まれた大量の車両を見る。
すべて魔導機関車に接続するために持ち込まれたものであり、これから電装設備を魔導機関車と接続するための『変換器』を設置しなくてはならない。
それに、スペイン国内を走るためにも、運行管理システムを搭載する必要がある。
それらはすべて三両目に設置され、二両目のサロン車内部を通して機関部に接続される。
管理するのは、スペイン鉄道の職員とテレジアによって行われ、当初は観光用特別車として運用されることになった。
「テレジアさん、このケーブルが運行管理システムの出力です。こちらの設置をお願いします」
「了解です……では、源内さんもお元気で」
ニッコリと笑って、テレジアは作業を開始する。
そして源内も付近に着地しているマーギア・リッターの足元まで戻ると、のんびりとミサキの到着を待つことにした。
………
……
…
オリエンテ宮殿内の会議室にて、ミサキとジークルーネは、ファン・カルロス3世に、アトランティスに関する『本物の報告書』を提出した。
それを受け取って、ゆっくりと内容を確認するファン・カルロス3世だが、最後のページを見て、ゆっくりと天を仰ぎ見る。
「あの湿地帯下にある遺跡群は、アトランティスなのですか」
「はい。古代ローマ様式の遺跡群に見えますが、間違いなくアトランティスです。なぜ、あの場所に残っているのかは理解できませんが、あの場所はアトランティスが移動する際に残された『半島部分』の一部かと思われます」
これまでの主張を全て覆すミサキ。
アトランティスは、この場所に存在し、移動した。
その移動方法は、『空間潜行』によるものであると結論を出したのである。
「報告によると、この空間に沈んでいったアトランティスの存在を裏付ける『柱』があり、スペイン科学アカデミーで研究が行われているというのだが」
「ええ。可能性は残しておきます。あの柱と大量のカケラ。カケラには、オリハルコンがほんのごく僅かですが含まれて….い、ま、お???」
説明をしていると、ふと、ファン・カルロス3世の傍らに置かれている杖に目がいってしまう。
オリエンテ宮殿を訪れる際には、必ず所持している杖。
「どうなされましたか?」
「失礼を承知で……|鑑定(アプレイズ)……はぁ」
ため息一つ。
目の前の杖は、オリハルコンで作られている。
「ファン国王。今からお話しするのは、ここだけの話です……その杖は、オリハルコンです」
「……やはりか」
国王も、そんな気がしてはいた。
歴代スペイン国王のみが所持を許された杖と王冠。
長い年月の中でも、輝きを失わない秘宝。
それがオリハルコンであったというのなら、納得はいくものである。
「ま、まあ、それについてはしっかりと管理してください。話は戻しますが、先ほどの説明の通り、スペインは、アトランティスの民による国家です。長い年月で血が薄くなったかもしれませんし、純血種はもう存在しないかもしれませんが」
「なるほど。ここまで知ってしまうと、科学アカデミーからの報告を気長に待っていよう。あの湿地帯の開発についての議題も上がっているのだが、全て白紙に戻すことにしよう」
自然は、そのまま。
伝説が存在するかもしれない。
でも、夢は夢のままでいい。
ファン・カルロス3世は、それだけを告げてミサキに頭を下げた。
「感謝します。伝説を、もう一度、甦らせてくれたことに……この報告書は、後ほど厳重に管理します。人目のつかないところに」
「それがよろしいかと。せっかくの自然です、開発なんてしたら勿体無いですからね」
最後にそう告げて、ミサキは席を立つ。
一礼して部屋から出ていくと、アマノムラクモへと戻ることにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ふう。
楽しかった外遊。
ようやくアマノムラクモに戻ってきたのはいいのだけれど、この報告書の山はなんじゃらほい?
『ピッ……世界各国からの、ミサキさまへの招待状です。パスポートを所持しなくても、特別待遇で入国を許可すると』
「魔導機関車目当てなのが、よくわかるわ……ちなみにアメリカは?」
「ありませんわ。すでに国交が樹立していますので、パワード大統領も、胡麻をする必要はないとお考えのようで」
「……そうか。中国とロシアもないなぁ」
『ピッ……そちらは、現在、通商条約締結のために動いていますから。今、目の前に来るかもしれない魔導機関車よりも、後ほど手に入るテクノロジーを取ったのでしょう』
ふむふむ。
流石に賢いやり方をしているなぁと感心するよ。
そしてイギリスとフランスは、相変わらず何も言ってこない。
でも、この招待状の中には、欧州連合加盟国があちこちにあるのは、なんでだろうなぁ。
「それと、こちらは『可能ならば、協力してほしい』という連絡です。ロシア外務省からですが」
「協力? なんでまた?」
受け取った親書には、事故に巻き込まれたと思われる『重航空巡洋艦アドミラル・ジューコフ』の捜索依頼が記されている。
「んんん? 確か、この船って、アドミラル・クズネツォフだよね? 名前が変わってどっかいったんじゃなかったか? 今滞在中のセルゲイ少将が、そんなことを話していたような気がするんだが」
『ピッ……なんらかの作戦行動により、大西洋に向かったという話です』
「連絡が途絶えた海域が、この辺りです」
──ブゥン
モニターに浮かぶ地図。
バミューダ諸島南西部の海域が表示されている。
いやぁ、よりにもよって、バミューダトライアングルかよ。
北緯27度、西経73度。
まさにドンピシャだよ。
「なるほどなぁ。アドミラル・ジューコフはバミューダトライアングルに吸い込まれていった可能性があるのかよ。オクタ・ワン、この辺りの空間の歪みって観測できるか?」
『ピッ……その海域においてですが、過去に発生した重力波長の観測時にも確認できていません。もしあったとしても、危険度が低いものとして認識しておりません』
「ふぅむ。今は?」
『ピッ……サテライト1からの重力波長測定を開始します……指摘座標域において、小さな歪みを確認』
マジだったかぁ。
つまり、アドミラル・ジューコフは、その場所からバミューダトライアングルに飲み込まれて、次元を超えた可能性があるのか。
しっかし、実にオカルトな……。
って、あれ?
大西洋で、時空の歪み?
飲み込まれた?
まさか、アトランティスへの入り口とか?
いやいや、そんなバカな……。
『ピッ……ミサキさま、何か企んでいる顔をしておられます』
「マイロード。カリバーンでバミューダトライアングルに突入するのは危険です」
「いや、なんで俺が突っ込むこと確定なの?」
「過去のミサキさまの動向から判断しますと、アドミラル・ジューコフを助けるために時空の歪みに突入する可能性が出てきたと判断しますが」
「ちょっと待ってくれ。まず、バミューダトライアングルに突っ込むという発想は、まだなかったわ。アドミラル・ジューコフがそこに吸い込まれていった可能性が高いと思って、ふと、思い出しただけなんだよ」
アトランティスは大西洋に存在した。
ジブラルタル海峡外にあった島説も、スペイン内陸にあった説も、大西洋の近くで間違いはない。
それなら、こんな仮説はどうだ?
ジブラルタル海峡外にあった島も、スペイン内陸部の湿地帯底にあった遺跡群も、アトランティスへ向かうための『空間を越えるための入り口』が設置されていたとしたら。
あの切断された柱は、資材として運び込んだときに、空間が元に戻って切断された可能性でもある。
そう考えたら、アトランティスは今でも存在し、大西洋状の位相空間にある。
それなら、アマノムラクモの次元潜航システムで潜って調査に向かえば……。
「って、駄目だぁぁ。観光客もロシアからの治療部隊も受け入れているから、アマノムラクモを動かせないのかよ」
『ピッ……アマノムラクモでアドミラル・ジューコフを探しにいくことについては、問題はありません。ただ、観光客もロシア艦の人々もいるため、危険性を考えるとお勧めできません』
「それに、いつ戻るかも分からない状況では、他国に対しての説明も難しくなります」
「そうなると……ヒルデガルドの話していた『カリバーン』で突入が、最も可能性があるか」
「おやめください、危険すぎます」
そこなんだよ。
カリバーンには、次元潜航システムは搭載されていない。つまり、マーギア・リッター単独での次元潜航は難しくなるんだよ。
「まあ、ロシアには報告しておいて。『アドミラル・ジューコフは、バミューダトライアングルに吸い込まれた可能性がある。アマノムラクモで調査するには、難しい』って」
『ピッ……了解しました』
「しかし、マーギア・リッターでの次元潜航は、難しいとして……なんらかの方法を探す必要があるか」
考えてみても、すぐには何も名案が思いつかない。
それならば、別の方向のアプローチを考えることにしよう。
「たとえば。アマノムラクモの次元潜航システムではない方法で、空間を越えるとしたら?」
『ピッ……|転移門(ゲート)です。指定対象空域に転移するための、魔法による空間越境門を作り出すというのがあります』
「それを、俺が使えるか?」
『ピッ……データベースによりますと、賢者のみ使用可能。もしくは、時間と空間を管理する女神『ア・バオア・ゲー』に交信することにより、門を開いてもらうことが可能かと』
ふむふむ。
全く知らない言葉が出てきましたぞよ?
俺は錬金術師なので、|転移門(ゲート)は不可能。
そのなんちゃらっていう女神に交信するのも、神職じゃないから無理、詰んだ。
「どっちも無理だよなぁ。他に方法は……待て待て、何か、ヒントがあったはずだぞ?」
考えろ、俺。
確か、なんか自分で答えの一つを思いついていなかったか?
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