第73話・伝説を求めて・越えよう、空間を
俺の考え……。
空間を超える手段を、どうやって見つけるか。
いや、自分で道を開く必要は、ないんじゃね?
元々空いていた道があるなら、それを使えばいいんだよ。
「そうか、湿地帯底に、空間を超える道がある可能性があったじゃないか? っていうか、あるだろ?」
あの柱が答えだよ。
ひょっとしたら、つい最近も開いたんじゃないか?
その時に柱が倒れたか刺さったかして、空間が閉じた時に切断された。
これだよ、答えはあったよ‼︎
「アトランティス大陸は大西洋にあり、そこに向かうためには、専用のゲートを通らなくてはならない。船で向かうことはできず、結界が何かで島全体は守られている……そう考えると、色々と辻褄が合うと思うんだがなぁ」
所詮は仮説。
仮説である限り、正しい答えであるとは言い切れない。
それでも、現代世界において、様々な研究分野は仮説から始まるんじゃないか?
一発で新発見をしたとしても、それが正当性を持っているのかを調べるには、さまざまな仮説を組み込むものだと俺は理解している。
それなら、この仮説だって調べりゃいいんだよ。
………
……
…
「オクタ・ワン、カリバーンに水中探査用ユニットをセットしておいてくれるか?」
『ピッ……カリバーン用の水中探索ユニットでは、あの湿地帯では効果が見込めませんが』
「違う違う。向かう先はジブラルタル海峡外、アトランティスが存在したと伝えられている二つ目の場所だよ」
『ピッ……三十分で支度します』
「意外と早いか。それじゃあジークルーネ、君のマーギア・リッターと護衛の二機も水中探索ユニットを装備しておいてくれ。俺は買い物に行ってくる」
「了解です」
「マイロード、買い物に同行します。どちらに向かうのですか?」
「せっかくだから、完成したばかりのカタリーナモールだね。長期間の調査になりそうだから、色々と買い込んでおかないとさ」
今回ばかりは、時間がかかるだろうと予測している。調査範囲が大きすぎるのと、巧妙に隠されている可能性が高いから。
「私も同行したいのですが」
「留守を任せられるのは、ヒルデガルドとオクタ・ワンたちだけだから。よろしくる頼むよ」
「は、はいっ‼︎」
突然、ヒルデガルドが元気になる。
うん、笑顔が一番だよね。
ということで、のんびりと買い物をしてジークルーネたちの装備の換装が終わるまでの時間を稼ぐと、いよいよ出発。
「ヒルデガルド、スペイン外務省に連絡しておいて。アマノムラクモが沖合の海底を調査しているけど、軍事的行為じゃないって」
『かしこまりました。アトランティスの調査と伝えてもよろしいですか?』
「むしろ、そっちの方がいいか。ファン・カルロス国王からは、スペイン領内でのアトランティス調査を許可するって一筆もらっているからなぁ」
『了解です。それでは、お気をつけていってきてください』
──ヒュゥィィィィィィン
カタパルトデッキに移動して、発艦許可を待つ。
モニター上のシグナルが赤から青に切り替わると、俺はカリバーンを大空に飛び放った‼︎
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
スペイン下院議事堂は、混乱の極みにあった。
ミサキからの報告を受け、科学アカデミーがアトランティスの遺産である柱やカケラの調査を開始。
これとミサキからの報告書により、アトランティスが|実在していた(・・・・)ことが証明された。
ただし、今はそれらは残っておらず、回収したものが全てであること、国立公園を破壊してまで調査するほどのものではない事まで、事細かに記されている。
「だから、アマノムラクモのレポートでは不十分だと言っているのです。そもそも、テンドウ氏はスペインの事を知らない。アトランティスがあった可能性があるのなら、すぐにでも調査を行うべきです」
「ダメだな。ここまで細かい報告書があるのなら、今は迂闊なことはせずに科学アカデミーの報告を待った方がいい。それからでも遅くはないだろう」
「調査を行うというのなら、国家事業として正式に軍を動かした方がいいだろう」
「国防の要である軍部を動かす必要はありません。民間に委託して、調査を行えばいい」
|喧喧囂囂(けんけんごうごう)と、話はまとまらない。
すると、同席していたファン・カルロス3世が手を挙げて立ち上がる。
「ドニャーナ国立公園の、アトランティスに関する調査は全て中止するように」
「陛下、これはスペインの未来がかかっているのですよ?」
あちこちの企業と癒着している議員たちは、それでも食い下がる。
すでに企業側では、最初にオリハルコンが発見されたという報告を受けた時点で湿地帯の開発用機材の発注が終わっている。
ここで手を引くということは、議員たちの信用問題だけでは済まされないのである。
「先程、アマノムラクモから連絡があってな。国立公園の件ではお力になれなくて申し訳ないと。そして、ジブラルタル沖合の海底調査もアマノムラクモ主導で始めてくれるそうだ」
この報告は、議員たちも初めて聞く。
「そ、そうでしたか。さすがはアマノムラクモ、先見の明がありますな」
「では、我がスペインも、アマノムラクモのバックアップを行うとしましょう」
「いや、それも必要ないらしい。マーギア・リッターで海底まで向かい、調査を行うと連絡があったからな。我々では、何もできないからな」
この話は、これで終わる。
そのあともいくつかの議題があったのだが、アトランティス絡みの話ではないので、開発推進議員たちは静かに話を聞いているだけであった。
………
……
…
ロシア・モスクワ。
ヘルムヴィーケはロシアとの通商条約を終えて、のんびりと調査を行なっている。
ここ数日、何者かに見られている感覚がある。
ヘルムヴィーケは外交特化ワルキューレであるが、戦闘力ならば他のワルキューレとも互角に渡り合える。
そのヘルムヴィーケのセンサーを持っても、彼女を見ている存在を見つけ出すことができない。
「今も監視されている……何処から?」
街の中を散策し、人気の少ないところに移動しても、時折、視線を感じる。
カメラやセンサーが近くにあるわけでもない。
望遠レンズや盗聴器による追跡調査を受けているはずもない。
けれど、時折、『正面から』見られている。
「わからない……私の感覚器官全てを持ってしても、何者かわからない……こんな事は、初めてです」
これ以上、ロシアにいることは危険と判断し、ヘルムヴィーケは急ぎアマノムラクモへと戻ることにした。
そしてロシア領土から離れた時、先ほどまであった監視の目がスッと消えたような気がする。
「報告して、私の体の調査もお願いしなくてはなりませんね。なんらかのハッキングを受けたのか、あるいは洗脳の可能性も十分に考えられます」
すぐさまオクタ・ワンに連絡を入れると、ヘルムヴィーケはアマノムラクモ帰還後すぐに、フルメンテナンスを受けることになった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ジブラルタル海峡沖合。
ここから、俺たちは海底へと潜航する。
目的は、アトランティス大陸の痕跡を探すこと、そして空間を超える門を探し出すこと。
「ジュール・ベルヌの海底二万マイルにも、海底に沈んだアトランティスの記述があるんだよなぁ」
ふと、アトランティスにまつわるものを色々と思い出してみると、面白いことに気がついた。
「スペイン人がアトランティス人の子孫説も、あながち間違いじゃないか……なかなかのこじつけかもしれないけど」
『そうなのですか?』
「まあ、説話とか逸話とか、いろんなものが混ざり合っているんだけどね。スペインには、かつて『タルテッソス』っていう古代国家があってね。金属精錬技術が、当時としてはすごく発展していたんだよ」
その金属精錬技術も、アトランティスからもたらされたものであると考えると、非常に興味深い。
「まあ、そんな話もあるっていうこと。何処にヒントがあるか分からないからね……そろそろ海底だな」
──ガァン
四機のマーギア・リッターが、静かに海底に降下を終える。
「源内、エジソン、高感度センサーで周辺を調査。俺は魔力波を放出して、エコー調査を始める。ジークルーネは周辺警戒を頼む」
『了解です』
『了解ました』
『かしこまりました』
なにぶん、調査区域は果てしなく広い。
調査初日からいきなり当たりを引くことはないと思っていたのだが、これは予想外に時間がかかる。
「まあ、焦ることはないな。日が暮れる頃には浮上して、機体をDアンカーで固定して明日、また調査を始めようか」
『我々は疲れを知りません。命じていただけるなら、夜通しの調査も可能です』
『ご命令を』
いや、それだとブラックなんだけどなぁ。
やる気十分な顔をしているから、断るのもなんだかなぁ。
「六時間おきに交代で、源内とエジソンは調査を続けてくれるか?」
『『了解です』』
まず最初は源内が調査を開始。
深夜0時を起点に、エジソンと交代して調査を続行。
俺は明日九時から夕方五時まで、必要に応じて休憩を挟みつつ、ジブラルタルから離れアメリカに向かう気持ちでゆっくりと進んでいった。
初日、二日目は何も反応がなかったのだが、三日目には重力波動の歪みを感知。
海底からさらに深度1250mの位置からの反応ゆえ、海底を掘り起こす必要がある。
「マーギア・リッターが通れるほどの縦穴を採掘か。これはまた、骨が折れる作業だなぁ」
『ミサキさま、カリバーンの『悪魔の右手』により海底を分解し、掘り出したものを全て|無限収納(クライン)に収納することをお勧めします』
『その際、トンネルが崩落しないように、我々が|変形(トランス)で壁を強化しますので、ご安心ください』
「あ〜、なるほどなぁ。アマノムラクモの洋上都市の基部も、その方法でやったのか」
問いかけてみたけど、『神の左手悪魔の右手』は、俺にしか使えない。
だから、別の方法で行ったらしい。
凄いよなぁ。
「まあ、ジークルーネの案が、一番近道か。それじゃあ始めるから、サポートをよろしく‼︎」
『『『はいっ‼︎』』』
方角と角度を調整しつつ、ゆっくりと作業を開始する。
途中で海底ケーブルなどが存在しないが、なんらかの人工物がないかなどを調べつつも、重力波動をチェックして進んでいった。
破壊と回収、二つの作業の同時並行なので、流石に魔力が枯渇してくる。
それゆえ、作業は昼まで、午後は洋上に上がって魔力回復に勤めている。
海底採掘を開始して二日目。
──ブゥゥゥゥウン
マーギア・リッターから、のんびりと釣竿を伸ばしていると、ゆっくりと近づいてくる船がある。
「なんだありゃ?」
「船名から察するに、スペイン国籍の観測船でしょう。何かあったのでしょうか?」
俺の後ろで釣竿を伸ばすジークルーネが、頭を傾けつつ返事を返してくる。
すぐに戦闘モードに入らないところを見ると、敵対意思や軍関係者ではないようだ。
「アマノムラクモのミサキ・テンドウさまですか? 私はスペイン代議院のホセと申します」
船首で頭を下げながら、自己紹介を始めるホセ議員。はて? 知り合いではないよな。
「たしかにテンドウだが。このあたりの海底発掘調査については、ファン・カルロス3世から許可を貰っている。なんのようだ?」
「私たちは、テンドウさまのお手伝いをするためにやってきました」
いや、確か、そういうのは断ったはずなんだけど?
なんでここにきたんだ?
危険だから、万が一にも巻き込んだら危険だと国王にも話は通してあるんだよ?
「必要ない。繊細な作業ゆえ、横で何かされると邪魔でしかない。早急に立ち去るがいい」
「わ、わたしは、代議院の許可を得てやってきました‼︎ 何もせずに戻ると、私の面子が傷つきます」
「国王には、危険なので付近には誰も近づけるなと話をしてある。同時に、そのように対応するとも返答をもらった。貴君は、国王の命令を無視するのか‼︎」
そう高らかに宣言すると、突然狼狽を始める。
冷や汗を流しつつ、視線もキョドキョドとあちこちを彷徨っている。
うん、こいつ、口からでまかせを言ったのか?
「わ、わかりました。それでは、今から確認を取りますので、しばしお時間を頂けますか?」
「ああ、必要ない。私の方から、直接ファン国王に連絡を取る。ジークルーネ、宮殿まで繋げてくれるか?」
「了解しました」
すぐさまカリバーンのコクピットハッチを開くと、ジークルーネが中に潜り込んで連絡を取ってくれるのだが。
「ち、ちょっとお待ちください‼︎ これには深いわけがあるのです‼︎」
突然、ホセ議員が頭を下げて話しかける。
まあ、深いわけなんて、俺には関係ないから無視。
「我々、スペイン進民党としては、今のスペインの現状には満足していないのです。スペインは、決して豊かな国ではない。それは欧州連合のすべての国が、そう考えているからです……ですが、それは過去の話であり、これからは豊かな国な作り変える必要があるのです」
「知らん。そういう話は、自国の議会で叫べばいい。アマノムラクモには、一切関係のない話だ」
「違います。アマノムラクモは、スペインに希望を与えてくれました。アトランティスが、スペインに存在する。そう教えてくれたのです」
「くどい‼︎ 私は説明したはずだ。スペインには、アトランティスは存在しない。過去に遺物が持ち込まれたかも知れないが、今のスペインには、アトランティスの遺跡はない‼︎」
キッパリと言い切ってやる。
このまま放っておくと、こっちの調査の邪魔どころか、勝手に付いてきかねない。
だが、ホセ議員は引かない。
「そこです‼︎ その言葉は真意ではない、スペインの自然を守るためだと宣言してください‼︎」
うわぁ、こいつはダメだ。
他国の代表に、堂々と嘘をつけと言い始めたぞ。
よく見ると目がおかしい。
これは、狂信者とかあっちの目だ。
自分の信じるもの以外は、決して信じないぞっていう奴らだ。
「今の言葉、貴様は何を言ったのか分かっておるのか?」
「はい。恥を覚悟でお願いしています‼︎ 私どもは……え? 国王から通信?」
そう呟きながら、レシーバーを受け取って話を始めている。
「ミサキさま、こちらは完了です。すぐに海軍が動くそうです」
「そのレベルだよなぁ。これってさ、国王の許可を貰った他国の代表に直訴かましているんだからなぁ。他国に知れたら、嘲笑どころじゃないわ」
国際問題にも発展する。
アマノムラクモだから良かったねで終わるレベルじゃない。
この後は、ホセ議員は軍に捕まって、然るべき処分を受けるのだろう。
「申し訳ない、急用ゆえ失礼します」
真っ青な顔でそう叫ぶと、ホセ議員の乗っている船が引き返していく。
まあ、急いで離れないと、海軍に捕まるからなぁ。
「……源内、どう思う?」
「おそらくですが、第三帝国の『針』とかいう洗脳の効果でしょう。指示を出す存在がなくなり、感情が不安定もしくは制御しきれなくなっています」
この辺りの『針』の効果や副作用などは、アメリカ駆逐艦の搭乗員の治療によりデータは集められている。
それらの症状の一つに該当すると、源内が説明してくれた。
「はぁ。世界規模での侵食だよなぁ。これは、完全に治療し終わるまで、かなりの時間が必要だぞ」
「ごもっともです」
まあ、変なのがやってきたけど、ここは気持ちを引き締めて、釣りの続きといこうじゃないか。
翌日からも発掘は続けられ、三日後の夕方、ついに重力波動の発生源の空間に到達した。
そこは、直径50mほどの空洞。
海水は入っておらず、結界のようなものに包まれている。
その中心に、大理石の門が浮かんでいた。
高さ20m、幅10mの門。
扉などはなく、門の内部は銀色に輝いている。
「……ビンゴか。この門を越えると、アトランティスに行ける」
確証はない。
けど、そんな気がする。
ここまでくると、あとは調べるしかない。
幸いなことに、エジソンのマーギア・リッターには空間波長を追跡する装置も搭載されている。
万が一、俺が『安全に向かえる方法』を見つけた場合、カリバーンの波長を追跡できるようにとオクタ・ワンが搭載したのである。
まあ、可能なら一度、戻ってきて調査班を送り出したいとも話していたが。
『ミサキさま、まず先に源内を向かわせましょう。そして安全が確認できれば、カリバーンでの侵入を』
「そうなるよね。それじゃあ、源内、頼むわ」
『了解です』
そう返答してから、源内のマーギア・リッターが空間に突入、門の近くまで移動すると、ゆっくりと銀色の結界のようなものに沈んでいった……。
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