第67話・伝説は、想像するから楽しいのです
韓国は熱気にあふれていた。
新大統領、
正義韓国党が満を持して送り出した朴建夏、対外政策と国内需要の拡大、そして母国の歴史を世界に伝える伝道師としての立場を表明し、圧倒的勝利を収めた。
「まず、私がなすべきことは国内の不満を解消することである。それはなにか、ひとえに我々を世界が周知していないところから始まります……」
壇上に立ち、拳を掲げて演説する朴建夏。
その光景を、テレビ、インターネットなどで大々的に中継。新しく生まれ変わる韓国を、世界に向かって声高らかに叫んでいた‼︎
………
……
…
世界は、固唾を飲んでみていた。
朴建夏が、最初にどこの国の代表に電話会談を行うのか。
アメリカでは通例である『大統領就任後の電話会談』、これは外交政策の一つでもあり、『外交は儀典であり、儀典は順序だ』という格言もある。
まあ、イギリスの格言と紅茶の大好きな女性首相あたりが飛びつきそうな話でもあるが、この儀典こそが重要なのである。
電話の順番=外交優先順位
国同士の利害関係がはっきりとわかる一瞬であり、世界的にも『韓国がどこの国を見ているのか』がはっきりとする。
「……ふぅ。緊張するな……歴代大統領も、私と同じ心境であったのかと思うと」
「同感です」
朴建夏は、傍で待つ秘書官を見ながら、ゆっくりと電話を取る。果たして、最初に電話会談を行うのは、どの国なのであろう。
「……よし、最初はアマノムラクモに電話会談を申し込む」
──チン
その朴の言葉を聞いて、有能秘書官は速攻で大統領から受話器を取り上げると、電話に戻した。
「何をするのかね?」
「いえいえ、なぜ、アマノムラクモなのですか? 中国ではないのですか?」
「ああ。まず最初は、世界の注目を浴びているアマノムラクモからだ。外交というのは先制攻撃、まずはこちらから切り込んで、相手の出方を見るのが常套手段ではないかな?」
キリッとした顔で、朴建夏は秘書官に告げる。
だが、秘書官は頭を振る。
それは悪手であると。
「今の言葉は聞かなかったことにします。何故、いきなり悪手から始まるのですか? 相手は我が国と一度も国交も条約も交わしたことのない国です。そこにいきなり斬り込むのは、愚策以外の何物でもありません」
「だからこそ、韓国主導の条約や国交を結ぶチャンスではないか? 私が電話をすれば、あのミサキ・テンドウも涙を流して歓喜するであろう? ああ、韓国は私たちを選んでくれたと……」
「大統領。寝言は寝てからにしてください。隣国は、大統領からの電話が最初に来ると信じていますよ。そこを飛ばしてアマノムラクモなど‼︎」
必死に大統領を諌める。
「いいかな、世界は新たなる大統領に興味が集まっているのだよ? ここでアマノムラクモと親密であることをアピールすれば、今後の外交問題も解決の道が見えるのではないかな? 韓国のバックにはアマノムラクモあり……とね」
「中国は、黙っていませんよ? それでよろしいのですか?」
「
「今は、アマノムラクモ容認国家の一つです。安保理の常任理事国で、反アマノムラクモを表明しているのはイギリスとフランスのみであるのを、知らないのですか?」
そう秘書官に諭されるのだが、朴は今ひとつな反応である。
「それならそれで、我が国は中国と共にアマノムラクモとも手を取り合うと公言すれば良いのではないか」
「そのためにもお膳立ては必要。まずは中国にしてください‼︎」
「う〜む。まあ、外交については専門家に任せるべきか。それでもいいか」
ようやく朴建夏は折れた。
正義韓国党の党員で、前検事総長。
その実、国内情勢については事細かく理解しており、国民の求心力も高い。
ただ、国際的な部分については、かなり自分勝手に妄想とも取れるレベルで自己主張が激しい。
この一点を除けば、韓国は当面は安泰であろう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
俺が国連本部から戻ってきた翌日。
朝イチでオクタ・ワンから艦橋に来てほしいという連絡があった。
急いで艦橋に戻り、キャプテンシートに飛び乗って正面モニターを凝視すると、月の槍を回収しているインターセプト隊の映像が流れている。
「状況を教えてくれ」
『ピッ……インターセプト隊が、月の槍に接近。フォースフィールドにより捕獲に成功しました。送られてきたデータによると、月の槍は軟化したまま漂っていたとのこと』
モニターに映し出された映像では、表面がかなり陥没した月の槍の姿が映っている。
「酷いな。隕石か?」
「はい。月の槍を送り出した先で、隕石群と接触した模様です。軌道上、隕石群が地球圏まで到達することはないようです」
「運が悪かった、それだけか……まあ、可能な限り回収して帰還、それでいいよ」
『ピッ……了解です』
これで、問題の一つは解決した。
「マイロードが国連本部に向かった日に、韓国大統領選挙が終わりました」
「へぇ。新大統領は誰?」
「朴建夏となっています。正義韓国党の党員で、前検事総長です」
「という事は、保守派野党の勝利かぁ。政権交代待ったなしじゃないか」
モニターには、朴建夏のデータが並ぶ。
ふむ、うちには関係ないレベルの政策がずらりと並んでいる。
「アマノムラクモについての言及は無し。つまり、どうでもいいって事だよな?」
「対外政策の一つとして盛り込まれております。共に歩み、技術を教え合う知人であると申しております」
「歩む……向こうの出方次第だよな」
『ピッ……新政権樹立後には、外交官を派遣してほしいと以前に連絡がありました。諜報員の話では、こちらが『送りましょうか?』と連絡するのを待っているようです』
「うん、無視していいよ」
『ピッ……了解です。送り出せる人材が、いませんからね』
今、ワルキューレでフットワークの軽いのは、秘書であるヒルデガルドと外交官のヘルムヴィーケ、万能雑用のロスヴァイゼの三名。
残りは操舵手やら通信員やら、機関オペレーターなので動かせない。
そのヘルムヴィーケがロシアに向かったし、ヒルデガルドは俺の留守を預けることもあるので長期出張は無理。
「ミサキさま、私が空いてまふ‼︎」
「まふって……いや、ロスヴァイゼには、また日本に行ってきてほしいからさ」
「かしこまりました、行ってきます‼︎」
「待て待て、何しに向かうのかわかっている?」
「買い物です‼︎」
「ちっがうから。日本に対する牽制、こっちが動くのを見越して待っているって話だったろ? いつまでも調印しにこないのなら、全て白紙にするって伝えてきて。あと買い物も」
ロスヴァイゼに買い物メモを渡して、あとはヒルデガルドにバトンタッチ。
外交手腕については、ロスヴァイゼもかなり学んできたので不安要素はない。
アマノムラクモ主導であり、他国の下につく事はないと徹底しているので、かなり強気な外交を行なっているのだけど。
「さてと。これで一通りの面倒ごとは解決したよなぁ……」
「韓国大統領と中国国家首席の電話会談が行われたそうです」
「最初は中国かぁ。まあ、隣国だからというのもあるよなぁ……いきなりこっちに来るなんていう悪手をかます大統領じゃなくてよかったよ」
『ピッ……悪手ですか?』
「ああ。現時点でのアマノムラクモと手を組むっていうのは、かなり危険だよ。少なくとも欧州方面および中東諸国は、いい顔しないだろうからさ」
まあ、その辺りの外交については、いずれやっていくことにする。
今は、興味津々な出来事があるのだからね。
「オクタ・ワン、資料を開いてくれるか?」
『ピッ……こちらです』
──ブゥン
艦橋一杯に広がるモニター。
そこには世界各国の様々な言語で、アトランティスに纏わる文献や資料が広がっている。
何故かって?
理由は簡単。
俺が、アトランティスを探すためだよ。
「しっかし……言語万能スキルって、ガチでチートなんだなーって改めて思うわ。どの国の言葉も、全部理解できる」
「そうですね。私たちはミサキさまからの加護により、言語などは知識として刷り込まれていますので理解できます」
『ピッ……私は、そもそも神により作られた存在ゆえ。言語などは全て解読可能です』
「ヴィオニッチ手稿もか?」
『ピッ……あれは、その……』
「まて、なんで言い切れない? まさか理解できないのか?」
『ピッ……そもそもデータがないので、理解できません』
「そういうことか。今度、用意してくるわ。それで話は戻るが、アトランティスのあるだろう場所についてだ」
いよいよ本題。
アトランティスが何処にあるのか。
「古い文献ですと、ジブラルタル海峡のすぐ外側となっていますね」
「スペインとアメリカの中間に存在するという説もあります」
「地中海説も考えられますね」
「実はアメリカがアトランティスであり、アメリカ人はアトランティス人の末裔であるというのも」
「違います、アトランティスは南米で、チリ説も」
「カナリア諸島が、実はアトランティスの残された島というのも」
『ピッ……アフリカ内陸部説を主張します』
『……アトランティス月面理論はいかがですか?』
うわぁ。
さすがアトランティス。
とんでも説の雨霰なんだけど、ふと気がつく。
地中海説と大西洋説の二つが多いのは、なんでだろうか。
プラトンの説を読み解いてみると、どう考えても地中海西、ジブラルタル海峡外にあった大陸説が濃厚。
だけど、そんなところは散々、潜水艦や艦隊が出入りしていたから海底にそれらしい遺跡がないのは周知の事実。
それなら大西洋説はどうか?
たしかに大量の説話が存在するが、どれも眉唾で信憑性に欠ける。
まあ、伝説に信憑性を求めるなって怒られそうだけどね。
「そして、世界のアトランティス研究者のイチオシ説が、ここか」
──ピッ
モニターに拡大されたのは、スペインの地図。
内陸部にあるドニャーナ国立公園が、アトランティスの文明を表していると伝えられている。
事実、プラトンによるとアトランティスには、ポセイドン像が見守る巨大な港がある。
それを示す円状に広がる寺院の名残もあるのと、とどめとなるのが『ドニャーナは内湾であった』ということ。
「アトランティスを表現するものが、あの場所には大量に残っている。そうなると大西洋説も信憑性が高い……」
「ミサキさまは、どこかアトランティスであるとお考えですか?」
ヒルデガルドが問いかけるけど、これだけ様々な文献が存在し、そのどれもが確証はないものの現代まで語り継がれているというのなら、それらを全て証明できる存在しかないよなぁ。
良いのかなぁ、これ言うと、世界中の研究者が文句を言うに決まっているよ。
「アトランティスは浮遊大陸である。まあ、端的にわかりやすく説明すると、『機動戦艦アトランティス』説。これなら、どこにいても問題ないよね?」
「「「「「「それです‼︎」」」」」」
『ピッ……ロマンのかけらもありませんね』
『……月面はダメですか』
「伝説は、伝説であるからロマンがある。月面説も、アマノムラクモタイプの存在だとしたらあり得るだろう?」
これもまた、俺の説なので確証なんかない。
そもそも、島の形をしたオープンフィールドタイプの機動戦艦なんて、存在するのかと考えるよね。
そんな過去に、一体だれが、なんのために?
「あの、ミサキさま。アトランティスが機動戦艦シリーズであった場合は、オクタ・ワンのデータベースにそれらしいものがあるのではないでしょうか?」
「ほう、ナイスだグリムゲルデ。そこんとこは、どうなんだ?」
思わず問いかけたよ。
そうしたら、答えが出てきたんだけどさ。
『ピッ……データベース上では、モーガン・ムインファウルという閉鎖型浮遊大陸は存在しています。これは禁則事項なのでミサキさまにもお伝えできません。ですが、モーガン・ムインファウルはすでに再生し、登録者も存在します』
「……それがアトランティスの可能性は、それもダメか?」
『ピッ……ゼロパーセント。アトランティスではありません』
その一言で、俺はホッとした。
もしも可能性があったとしたら、俺の伝説を求める旅は歩き出す前に終わりを告げるのだから。
「さて、ここで俺の仕事としては、スペインに行ってドニャーナ国立公園を散策したいと思うんだが。変装して、観光客を装って」
「護衛を付けることを、お勧めします」
「そこは問題無し。といっても、ワルキューレの誰か一人は連れて行かないとならないだろうからなぁ」
「それでしたら、秘書官の私が参ります」
「ヒルデ姉様は留守番ではないですか‼︎ 姉様にはミサキさま代行という大切な仕事があります。ここは私が」
「ゲルヒルデがいないと、アマノムラクモは動かないですわよ?」
始まった。
こうなると、誰も引く事はない。
そして始まるじゃんけん大会かぁ。
──ブゥン‼︎
次々と高速で繰り出される手。
相手の手の動きを読んで、すぐさま手を変える。
それが六人同時に行われると、すぐには決着がつかない。
と言う事ならば、俺は錬金術でおみくじを作り出す。
「はい、大吉を引いた人が、俺の護衛な」
「こ、これは……わかりました」
「ミサキさま、先に籤を全て見せてもらって構いませんか?」
シュヴェルトライデが手を挙げてお願いする。
まあ、公平を期すために、みる程度なら構わないよな。
「ほら、これが大吉でこっちが中吉な。これが……」
一つ一つ見せてから箱に入れる。
箱の中から出ている棒は全部で六本、文句なしの一発勝負。
「それじゃあ、順番に棒を引き抜いて、俺の合図で公開な!!」
「「「「「「はいっ‼︎」」」」」」
みんな真剣に選んでいる。
特にジークルーネは、一つ選んでは違うなぁって、別のを選び直していたよ。
まあ、中は見えないから構わないけどね。
そして全員が選び終わってクジを引くと、一斉に棒の先に彫り込んである文字を公開した‼︎
「よしっ! ミサキさまの護衛をゲット‼︎」
「反則です、ジークルーネ、あなたは反則をしましたね?」
「絶対に何かあるよね、さっきは大吉を選んだのでしょう?」
「ふふん。当然。最初に見せて貰った時に、データは頭の中に叩き込んだからね。彫りの深さから質量計算まで全て。あとは重さで判断しただけだよ‼︎」
怖っ‼︎
そこまでの分析能力を保有していたのかよ。
「そ、その手がありましたか」
「しまったぁぁぁ、それもアリかぁ」
「同じ作戦だったのに、先を越されたぁぁぁ」
三人ほど膝から崩れ落ち、二人はまだ理解しきれていない。
それでも、勝負に負けたと言う事で、渋々ながらジークルーネの護衛が認められた。
「それじゃあ、出発は明日。移動方法は……」
人目につかず、隠密行動。
うちの諜報員のとったステルス移動を駆使してマーギア・リッターで接近、そのまま離れた場所に着陸してからの街に移動。
これで行くしかないよなぁ。
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