第66話・宇宙の次はなんですか? はい、伝説です
静かな艦内。
って、最初のうちは、アマノムラクモも静かだったんだよなぁ。
住人はサーバントだけだったし、人間は俺一人だけだったし……。
寂しくないと言えば嘘だったけどさ。
今は逆に賑やかで、毎日がお祭りのようだよ。
ロシアからやってくる軍艦一隻、それが今回の洗脳治療を受けるために、アマノムラクモの洋上プラットフォームに接岸している。
ここ最近の洋上プラットフォームの改築増築は目を見張るものがあり、中規模ほどの町が形成されつつある。
巨大滑走路を挟むようにして東西二つの街並みが形成され、さらに全周を囲むように港も併設。
各国の艦隊がいつやってきてもいいように、接舷ドッグまで準備している徹底ぶりである。
「ミサキさま。洋上プラットフォームの建設は良好です。すでにアマノムラクモ領土といっても、過言ではありません」
「……あっれ? なんでここまで発展したの? 確か洋上プラットフォームは、大型航空機の離発着と緊急時の接岸場所として作ったと思ったんだけど」
うん、確かにそれで間違いはない。
でも、モニターを見ていると、本当に長崎の出島を大きくしたレベルの街並みが広がっている。
「手が空いているサーバント達が、自発的に街を作りはじめました。オクタ・ワンとも協議して、計画的につくる方向で話を進めています。確か、オクタ・ワンが報告すると申してましたが?」
「報告……」
『ピッ……ミサキさま、洋上プラットフォームの今後の使用について提案がございます。あの場所を、アマノムラクモ領土となるように計画的に都市を建造してみては』
「おっそいから‼︎ おまえ、忘れていただろう‼︎」
思わず、全力で突っ込んだよ。
なんで魔導頭脳が、そんな大切なことを忘れているかなぁ。
しかも、俺が許可を出しそうなことばかり……って、あれ?
「オクタ・ワン、わざと報告していなかったな?」
『ピッ……テヘペロと申しておきます』
「言い訳ぐらい、考えておかないとな。フルツッコミするぞ」
『ピッ……実は、ミサキさまが寝言で許可を』
「ないわ、絶対ないわ‼︎ それで、なんで洋上プラットフォームから洋上都市までレベルアップしたんだ?」
『ピッ……目標は洋上国家です。行政区も設置し、サーバントに統治を任せたかったのですが』
「なんでまた?」
そう問いかけると、オクタ・ワンは簡潔に説明してくれる。
第三帝国、月の槍など、未知の存在からの攻撃が起こった場合は、最悪、機動戦艦アマノムラクモが出撃する可能性がある。
その場合、国民や観光客が艦内にいた場合、思い切った行動をすることができなくなる。
また、アマノムラクモが狙われた場合の艦内の人々の安全を守れるかどうかの話にも関わってくる。
そうなった時のために、アマノムラクモは洋上国家としての基盤を作り出すことが必要であり、機動戦艦は軍事力として独立稼動できるようにした方がいいということらしい。
「……ん〜、説得力しかない。けど、洋上都市が攻撃されたら?」
『……すでに、アマノムラクモ領土内を守るフォースシールドシステムは設置済みです』
「台風や高波対策は?」
『……それらも全て、フォースシールドで。また、Dアンカーを外すことで、一ヶ月後には、洋上都市も上空に避難することが可能です』
「うわぁ……また、なんてものを作っているんだよ」
『ピッ……洋上都市は、最終的にはアマノムラクモ本艦と接続できる『国家艦』となる予定です。そこで、月の槍の資材の使用許可、および、外宇宙に向けて放出した月の槍の残りを回収したいのですが』
あ〜。
そういえば、流したよなぁ。
まあ、資材としては必要だというのなら、構わないか。
あれは資源ではなく、遺産、いいね?
「よし、許可。インターセプト隊を出して、回収に向かわせてくれ」
「了解です。では、そのように……」
「そっちの指示はヒルデガルドに任せるよ。それで、オクタ・ワンのいう『国家艦』って、どんな感じなんだ?」
ここが気になる。
すると、オクタ・ワンがモニターに図面を見せてくれた。
『ピッ……こちらになります。サイズはアマノムラクモの五倍、全長最大全長は12500m。最大幅は7500m。アマノムラクモと同じ鋭角型艦艇となります』
うん、こいつは訳のわからないものを作ろうとしていないか?
艦体の最大厚は2500m、その後方に、突き出た艦橋のようなものがあり、そこにアマノムラクモ本艦が接続する。
つまり、アマノムラクモを艦橋とする、超巨大戦艦を建造する気満々らしい。
「……なあ、オクタ・ワン。お前は、なにと戦う気なんだ?」
『ピッ……国家艦艇部分は、生活居住区および行政区として存在します。戦うのではなく、逃げるため、国民を守るための艦艇です』
「それを、ここに浮かべて国家とするのか……まあ、可能なんだろうなぁ」
『ピッ……現在、海底鉱脈より資源の採掘を行っています。それらと月の槍のインゴット、仮称『ムーンメタル』を合金化すれば、ミスリル並みの強度は得られます』
その船体に、魔導ジェネレーターから送られる魔力を浸透させてオリハルコンレベルに強化すると。
はぁ。
これまた、とんでもないことを。
「ちなみにだが、今から開発を始めて何年掛かる? 俺抜きで答えろ」
『ピッ……入れ物だけでしたら、一年ほどで。内部システムおよび駆動部、フォースフィールド発生装置、生命維持システム、パールヴァディ型魔導ジェネレーターなどの開発も同時並行ですが、こちらだけは基部にミサキさまのお力が必要です。トータル三年』
「馬鹿だろ、一国の都市を一つ構築するのと同じような労力を、三年で終わらせる気かよ?」
そう問いかけると、開発プロジェクトの進行表のようなものまで用意していやがった。
そこを確認して、もう一度、突っ込んでやるさ。
「……ここの部分は……ああ、こっちと連動で、あ〜、確かにこの辺りのサーバントは回せるよなぁ。それで、制御管理用の魔導頭脳として、トラス・ワンに権限を分与……いや、でも……あ、なるほどなぁ」
やべえ、見れば見るほど完璧なスケジュール。
これはつまりあれか?
本格的な建造は俺のゴーサインを待っているのか?
『ピッ……ミサキさまが、こんなものは必要ないと言われましたら、この計画は破棄されます』
「……分かったよ、ゴーだ。計画を開始してくれ。本当に、なにと戦うことやら」
『ピッ……国家艦艇が完成すれば、アマノムラクモは独立した活動が行えます。前回の月の槍事件の時、アマノムラクモで直接月に行くことで、事態の鎮静化は早まったかもしれません』
「そこに帰結するのか。まあ、確かにそうだよなぁ。今の現状では、アマノムラクモは作戦行動を行うのは難しいよなぁ」
ということで、ついに始まったアマノムラクモ強化プロジェクト。
いや、ゴーサイン出したけど、明らかにおかしいよなぁ。
『ピッ……国家艦艇に名前をお願いします』
「はぁ? まだ完成していないんだから、構わないだろう?」
『ピッ……作業するサーバントの士気にも影響します。名前があるだけで、人はやる気スイッチが増えるのです。ちなみにやる気スイッチは、全部で7つ存在します』
「知るか‼︎ まあ、名前だよな……」
考える。
俺の国家の中枢がアマノムラクモなら、今から建造するのは国土。
国土か。
日本風にすると、また色々とうるさいからなぁ。
「……ネリヤカナヤ。アマノムラクモ母艦、ネリヤカナヤでどうだ? 国家艦艇なんて重い名前は必要ない。母なる大地じゃなく母なる艦艇」
『ピッ……その単語の意味は不明です』
「まあ、そうだろうな。親父の故郷の島でしか使われていない言葉だからな」
遥か遠い、東の海の彼方にある理想郷。
それが、ネリヤカナヤ。
沖縄などではニライカナイって呼んでいるんだけど、親父の故郷ではネリヤカナヤ。
まあ、日本から見たら南東だからいいよな。
『ピッ……名称登録。アマノムラクモ母艦ネリヤカナヤ。建造プロジェクトを開始します』
「……なんだろう、うまく乗せられたような気がするんだが」
『ピッ……ご安心ください。ドッキリ大成功ではありません』
「……まあ、いいか。うん、あとは任せるよ」
不安はあるけど、まあ、オクタ・ワンたちが俺の不利益となる意見を出すとは思えない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
洋上都市・東方接舷区画。
そこに、ゆっくりとロシアの艦艇がやってくる。
アメリカのパワード大統領からの親書を受け取ったフーディンが、対第三帝国作戦時に捕獲されたミサイル駆逐艦の乗組員および怪しい挙動をしていた議員達をひとまとめにして、治療を受けるためにやってきたのである。
「……セルゲイ海軍少将、まもなく接岸します」
「ああ、迎えは来ているのか? 連絡ではアマノムラクモの外交官が来てくれる予定になっているのだが」
原子力空母アドミラル・クズネツォフ。
ロシアの誇る大型空母が、大量の乗組員と議員を乗せて、やってきた。
セルゲイが本国に帰還するように命じられた2日後、今度はアマノムラクモ監視艦隊旗艦ではなく、直接アマノムラクモに乗り込んでの調査を命じられた。
期間は二ヶ月間、乗組員の治療が終わるまでに、アマノムラクモを可能な限り調べるようにと厳命されてきたのである。
「艦長、接舷完了です」
「アマノムラクモより入電。Dアンカーなるもので空母を固定するとのこと。乗組員は全員、降りるようにと」
「機関部乗組員は、空母の保全の為に残りたいと伝えてくれ」
「了解……機関部乗組員の滞在も許可されました。洋上都市の宿泊施設などを提供してくれるそうです。なお、洗脳の疑いはあるので、先に交代で診察を受けるようにと」
徹底したやり取り。
前回のアメリカとのやり取りにより、アマノムラクモも経験を積んでいる。
「了解だ。それでは、移動するとしよう」
すぐさまセルゲイら乗組員は上陸して隊列を整えると、迎えにきたバスに乗り込んでいく。
そしてセルゲイと副官のウラジミールは、迎えにきた外交官たちと挨拶。
「ロシア海軍、原子力空母アドミラル・クズネツォフ艦長を務めるセルゲイ・アンドレーエヴィチ・ベーレンスです。二ヶ月間、よろしくお願いします」
「同じく、副官を務めています、ウラジミール・ベルクです」
「アマノムラクモ外交統括のヒルデガルドです」
「アマノムラクモ代表のミサキ・テンドウだ。貴艦の到着を楽しみにしていました。二ヶ月間、ゆっくりしていってください」
握手をして離れるミサキだが、セルゲイとウラジミールは、その場で硬直した。
「は、あ、え、テンドウ代表自ら出迎えとは恐縮です。非礼をお詫びします」
「公式の場ですので、それは受けます。まあ、艦内に入ってもらったら気楽にして構いませんので」
「了解です」
そう返事を返すと、ミサキはアドミラル・クズネツォフを眺める。
「艦橋から見ていたときは、まだ重航空巡洋艦でしたよね? いつのまにか原子力空母になってますね」
「最新鋭です。先代の名前を受け継いでいますから」
「ああ、なるほど。先代はもう、退任ですか?」
「いえ、別名を与えられて、今は大西洋です。それ以上はお許しください」
「作戦でしたか、これは失礼。では、参りましょうか」
この間、ウラジミールは固まったまま。
セルゲイに脇を小突かれて、ようやく我を取り戻したのである。
「こ、これは何かの作戦では?」
「……あれはおそらく、テンドウ代表の地だと思う。お前から巻き上げたウオッカを二本賭ける」
「では、情報収集に……我が家に代々伝わるピロシキのレシピを賭けましょう」
そんなことを話しながら、二人は最後に大型エレベーターに乗ってアマノムラクモ本艦へと入って行った。
………
……
…
ロシアの空母が、アマノムラクモにやってきた数日後。
ミサキは護衛を伴って、ニューヨークの国連本部へとやってきた。
目的はいくつかあるが、最も重要なのは『魔導ジェネレーターの図面と小型模型』を渡すことと、『領土拡大についての連絡』である。
すぐさま国連事務総長のマーティン・ヘンダーソンと会談の許可を貰い、事務局へと案内された。
「ようこそマスター・テンドウ。今日はどうなされたのですか?」
「ご無沙汰しています。今日は、こちらをお持ちしました」
護衛でついてきているヘルムヴィーケが、魔導ジェネレーターの図面と小型模型を一式、机の上に並べる。
それを見て、ヘンダーソンは目を丸くするのだが、すぐにこれを持ち込んだ理由が理解できた。
「まあ、今の西欧諸国と中東は、アマノムラクモの存在自体を批判的に見る国もあるのでね。逆にアジア方面、ロシア、アメリカなどがアマノムラクモを認めているので、それほど大きな問題にはなっていない」
「でしょうね。私は西欧諸国の注文で、このクリーンエネルギーシステムである魔導ジェネレーターのノウハウをお持ちしただけです。実現は無理でしょうけどね?」
ミサキは臆すことなく、堂々と告げる。
そして、ヘンダーソンもまだ付き合い的には短いものの、ミサキの本質をなんとなく理解している。
「揉めるのは、中東と西欧だけですね。OPECでも、魔導ジェネレーターについては、さまざまな論議が繰り返されている。まあ、安全性が証明できないのなら使うなと言っているがね」
「使うな以前に、作れませんよ。これを作るのには錬金術が必要ですからね」
「では、この模型も図面も偽物で?」
「まさか、本物ですよ。この文字を解析できれば、そして魔法の|理(ことわり)を理解し、膨大な魔力があるのなら、開発は可能でしょうね」
そこまで説明して、ミサキはのんびりとコーヒーを楽しむ。
その間に、ヘンダーソンも図面を眺めているのだが、そもそも上下が逆である。
書き込まれている文字は魔法言語、自国の言語の一つですよといって仕舞えばそれでおしまい。
「ヘンダーソンさん、上下が逆です」
「おおっと、そこからか。まあ、これであちら方面は静かになるでしょうな……」
「他にも五月蝿いのがいるのか?」
「アマノムラクモを妬むものなど、何処にでも存在します。一部の秘密結社など、アマノムラクモを占拠して自分たちが世界の覇権を取るとか騒いでいましたからな」
「ああ、そういうのもいたのか」
「それと、魔法協会。そういう組織がありましてですね、アマノムラクモに自分たちの故郷を取り戻す手伝いをしてほしいと騒いでいます」
魔法協会?
なんだ、そのファンタジーな団体は。
「何処の国の組織ですか」
「イギリスです。あの国は、政府はアマノムラクモを否定していますが、国民は概ね肯定的です。本国の失われた魔法技術を復活させて欲しいとか、エスカリバーを探して欲しい、しまいには聖杯だ聖櫃だと」
「伝説をこの手に……ですか。その、故郷を取り戻すとは? まさかアマノムラクモでアヴァロンを探して欲しいと?」
流石に無茶だなとミサキは思ったが、とんでもない返事が返ってきた。
「彼らは、アトランティスを甦らせて欲しいと」
「……はぁ? 実在するのですか?」
「そこからなのですよ。アマノムラクモのテクノロジーがあれば、伝説や伝承を紐解くことができるのではないかと」
「……暇潰しにはなりますが、イギリスには行けませんよ。嫌われていますから」
「ええ。ですので、心の片隅にでも留めておいてください。連絡が何らかの方法で向かうかもしれませんので」
全く、一難さってまた一難と、ミサキは苦笑する。
それでも、戦争やら宇宙やらで疲れたミサキにとっては、伝説の解読は非常に興味があった。
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