第25話・巡る陰謀、世界思惑、でも日本はなんとなく平和です

 三日間のグアム滞在も終わり、俺は無事、何事もなくアマノムラクモへと帰還した。

 帰還途中までは、アメリカ海軍の戦闘機がどうしても引率させてほしいといいうので了承したんだけどさ。移動中の絵面を見ると、とんでもない状況になっていたよ。

 マーギア・リッターの周囲を飛ぶ、『FA-18Eスーパーホーネット』。マニア垂涎の光景である。

 しかし、スーパーホーネットって、ロナルド・レーガン艦載機だったのか、知らんかったわ。


 アマノムラクモまでは、マーギア・リッターをオートパイロットに切り替えておいて、俺はコクピットから外の景色を満喫中。

 まあ、海しかないんだけどさ、あちらこちらにポツン、ポツンと艦隊がいるのよ。

 それも東京湾攻防戦のように一国三艦じゃなく、本気の艦隊が。


「ふぅ。今日からは、あまりのんびりできないか。やりすぎないように気をつけないとなぁ」

『ピッ……帰還後、艦橋にて報告がいくつかございますので』

「了解。すぐに向かうから」


 さて、オクタ・ワンの報告を聞くのが、マジで怖いわ。途中で聞いたフランス艦隊の話なんだろうなぁ。

 そんなこんなで、アマノムラクモの姿が見えてくると、スーパーホーネットはグアムに向かって転換した。

 ありがとう、スーパーホーネット。

 俺も、戦闘機を作ってみたくなったよ。


………

……


 やがてアマノムラクモへの着地態勢に入る。

 いつものように上部中央デッキが展開し、滑走路へ着陸する。

 そのまま機体のチェックはサーバントにお願いしておいて、俺は普段着に換装して艦橋へと向かう。

 

──シュパーッ

 ゲートが開いて艦橋に入ると、ワルキューレの全員がほっとした顔を見せてくれた。

 あれ? 武田さんと長宗我部用の監視区画がしっかりと追加されているぞ、急拵えの椅子とモニターだけじゃなくなったのか。


「お帰りなさいマスター。ご無事で何よりです」

「ただいま。さて、ヒルデガルド、オクタ・ワン。俺の留守中に起こったことを報告してくれるか?」

『ピッ……フランス艦隊と交戦しました』

「海洋観測船を拿捕しました」

「アマノムラクモ直下の海底と海上を結ぶ基盤を設置し、海上プラットフォームを建造しました」

『ピッ……フランスからの抗議が届きましたが、状況を全て説明し、事実確認するように促しました』


 淡々と説明するので、一つずつ確認していこう。


「……つまり、海洋観測船プルクワ・パのみが攻撃行動を行なったと?」

「はい。以前から、領海表示ブイに対してちょっかいを仕掛けていましたし、こちらの警告を無視して調査を行っていましたから、サーバントを向かわせました」

『ピッ……その結果、ブイ周辺で交戦状態となり、プルクワ・パからの発砲が確認されたので、拿捕しました』

「プルクワ・パの乗組員は? 全員船から出て行ったんだろ?」

「それが……」


 ヒルデガルドの表情が曇る。

 なるほど、何があったか理解できたわ。


「オクタ・ワン、領海表示ブイの結界強度を下げてくれ。普段は素通りできるようにして構わないが、領海侵犯を犯そうとした対象に警告、のち侵入航路面にのみ結界を展開するように」

『ピッ……即時対応。遺品は倉庫にて保管してありますが』

「丁重に扱ってくれ。すぐにフランスに送り届けるように手配を頼む」

『ピッ……ロスヴァイゼを向かわせます。マーギア・リッターの使用許可をお願いします』

「それしかないからなぁ。ロスヴァイゼに使用許可をだす。あと、俺がいない場合には、オクタ・ワンとヒルデガルドが代行だから、二人で判断して構わないからな」


 ついに犠牲者がでたか。

 俺の指示でおこなった結果だから、真摯に受け止める。

 昔の俺じゃあ、多分、動揺して頭の中が真っ白になっただろうさ。俺の指示で、人が死んだんだから。

 けど、国の代表、責任者としてここにいる以上は、俺が全ての責務を負う。

 死者に対する冒涜だと怒り狂う人もいるかもしれないが、悪い意味で教訓になったわ。


『ピッ……ミサキさま、バイタルが異常値を示しています。脳波、感情波形に異常が見られますが』

「死者が出たからなぁ……落ち着いて、冷静なフリをしていても、オクタ・ワンたちにはバレるよなぁ」

「マスター。私が、もっとマスターの真意を理解していれば、このようなことにはならなかったのです」

「ヒルデガルドは悪くない。俺の指示ミスだ……よし、別の報告を頼む」


 気分をすぐに切り替えることなんてできない。

 けど、今は俺にとっての執務中。

 仕事は仕事と切り替える。


「フランスとのやりとりにより、アマノムラクモ用の洋上プラットフォームの建設を開始しました。こちらがデータとなります」


 正面巨大モニターに映像が浮かび上がる。

 そこに映し出されたのは、アマノムラクモ直下に建造された、百メートル四方の広さを持つ洋上プラットフォーム。

 海面からの高さは20mであり、中央には二階建ての建物が設置されている。

 一体、どうやってこの短期間に建物まで設置したのかと突っ込んでみたが、なんのことはなく、都市部の建物を分離して持ってきただけとのこと。

 また建物の屋上には一本の白い旗がなびいており、これがアマノムラクモの国旗に当たるらしい。


「あ〜国旗のデザインかぁ。まだ、デザインがないんだよなぁ。早めに考えないとならないか……」

「マスターのご自由なアイデアでよろしいかと。この中央区画にある建物は行政府でもあり、アマノムラクモの本土となります。地面に接しているので、立派な国土であり領土です」

「そこは了解だけど、白旗は下ろしておいてくれな。降伏したことになるからさ」

「了解です」


 シーランド公国型の独立国家か。

 これの洋上プラットホームは、アマノムラクモの艦首直下と後部左右の安全灯真下にも追加で設置し、全てを幅20mの通路で繋ぐらしい。

 二等辺三角形の頂点に設置する洋上プラットホームと、その中心にある行政区画をさらに通路で繋ぐことで、機動戦艦アマノムラクモが海に浮かんでいるのと同じ大きさになるらしい。

 このサイズがアマノムラクモ本土の大きさであり、やがて正式な国土になる。

 今はまだ、行政区画のある中心部分だけだが、随時広げる計画であるらしい。

 最終的には機動戦艦アマノムラクモと全く同じ土地が完成し、都市部をいくつか移設する形になるらしい。

 全く、壮大なスケールを、まるでレゴブロックで作るような説明をされると、正直いって引きそうになるんだが。

 オーバーテクノロジーもいいところだよ、海底と海上を繋ぐ基部を、二日で完成させるんじゃないよ。


「フランスからの追加抗議はまだないのか?」

「はい。向こうも何かと忙しそうですし。追加が来ないのでしたら、それはそれで構わないかと」

「来たら対応。こっちは国家として宣言はした、国連憲章や国際法的には国家だ。それを対外的に認める国があるかないか、フランスのように認めない、公海上のゴミだって言われても、それは向こうの主張でしかない」


 この手のやりとりは、双方の認識と主張の違いでしかない。お互いに譲れないのなら、すれ違いを続けるだけ。

 でも、その周りを固めていけば、いつかは折れる日もあるだろうさ。


「了解です。連絡が来るまでは静観します」

『ピッ……大きな動きはこの程度です。小さい方ですが、艦内都市部の各層の警備システムの見直しを行いました。必要な機材は艦内にて随時開発中です』

「そこもよろしく」

『ピッ……ミサキさま、一つお伺いしてよろしいですか?』

「ん? 構わないけど?」

『ピッ……機動戦艦アマノムラクモが完全戦闘型で、本来は居住区が存在しなかったことには、いつ気が付きましたか?』

「あ〜、そこかぁ。確信したのはつい最近だよ。違和感はあったんだ。俺が貰ったのは『大型移民艦』じゃなく『機動戦艦』だったのを思い出してね」


 そんなことでと思うかもしれないけど、そういう小さなところから、綻びは生じるものだよ。

 若手が在庫チェックをミスって、消耗品を過剰発注して倉庫に隠しても、請求書が届いたらバレるのと同じことだよ。


「あ、都市部の三層に名前つけるから。最上層は高級住宅地なので『ハイロード』、中層は商業区画だから『アキンド』、下層は観光区画だから『カントリーロード』ってね」

『ピッ……センスが古すぎます。住宅区画は『ジュノー』、商業区画は『カラミティ』、観光区画は『ボォス』とするのがよろしいかと‼︎』

「それで、ここはアマノムラクモじゃなく『ザ・ウィル』って喧しいわ、なんで五つの星の物語なんだよどこで覚えたその知識は」 

『ピッ……書店で取寄せました』

「意味がわかんねーわ。俺の案で不満なら、みんなも代案を考えておくように。夕方、話し合って決めるからさ」

「イエス、マイロード……因みにどちらへ?」

「温泉‼︎ グアムのリゾートも楽しかったけど、やっぱりここが一番落ち着くからな」


 まだ、アマノムラクモに住んで半月程度なのに、妙に落ち着いているのは不思議だなぁ。

 まるで実家にいる気分だわ。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 フランスでは。

 海洋観測船プルクワ・パ艦長の自殺が波紋を呼んでいる。

 

 死亡原因は頭部破損、拳銃による自殺を判明したのだが、いくつも不審な点が見らている。

 ミストラル型強襲揚陸艦ドゴールにて武装解除されて監禁されていた艦長が、何故、拳銃で自殺を図ったのか? その拳銃を渡したのは誰なのか?

 使用された銃はベレッタ・モデル92、フランス軍の一般装備であり、艦内の誰かが艦長に渡して自殺を促したとしか考えられない。

 発見された銃弾は9x19mmパラベラム弾が二発、壁の弾痕から弾丸も回収されている。


 あまりにも一般的で、それでいて当たり前すぎる。

 それゆえに、疑うことなく艦長の死体は袋に詰められ、フランスの地を踏むまでは、狭く冷たい霊安庫に眠ることとなった。


………

……


 日本では。

 アマノムラクモの存在について、現与党はいくつもの対策を考えている。

 内閣総辞職による解散総選挙となったものの、次の与党が新内閣を成立させるまでは、まだ現与党の仕事である。

 日夜、各国と連絡を密にしつつも、日本政府としての役割を考えているのであるが、現行野党は上の空。

 

 次こそは政権を取らんとばかりに、幾つもの現行野党は街頭演説を行なっていたり、与党の支持率を下げるためにさまざまな憶測からの『出まかせ』を広めていた。

 政策ではなく政争、現与党さえ潰すことができたなら、たとえ嘘を吐こうが適当な公約を告げようが構わない。

 自分たちに都合の悪いことは、マスコミが一切報道しないので、兎にも角にも適当三昧。

 挙げ句の果てには、このタイミングで他政党の候補者のスキャンダルを『でっち上げ』、時には街頭演説中に向かい側で演説中の他候補すら恫喝する始末。


『アマノムラクモと日本国政府で、安全保障条約を締結する』

『アマノムラクモと国交を樹立する』

『アマノムラクモのテクノロジーを解析し、クリーンなエネルギー政策を実現する』

『アマノムラクモの日本国駐留基地を設置し、アジアの脅威から守ってもらう』

『アマノムラクモの魔導力により、今までは治療は不可能であった病気を治療することができる』


 などなどと、取らぬ狸のなんとやら。


「次期衆議院選挙には、国憲民主党の蘭峯を、どうぞ宜しくお願いします」

「あの腐りきった自由国民党に国を任せるわけにはいきません、是非、選挙では私、大西を、大西をお願いします‼︎」

「すでにアマノムラクモと我々は、外交筋で、話し合いの場を設けることができるようになっています。我々こそが、日本を引っ張るリーダーとなる時なのです、選挙では梢野を、梢野をどうぞよろしくお願いします‼︎」


 街頭演説を行うものの、如何にもこうにも芳しくない。たまに立ち止まって聞いている聴衆もいるものの、大半は裏で雇ったサクラの集団、まともに支持しているものなどほんの一握りである。


………

……


「アマノムラクモからの連絡はまだ来ないの‼︎」


 とある議員が、選挙事務所で叫んでいる。

 キレ技と呼ばれ、国会審議でもわざとキレまくって恫喝している女性議員は、選挙事務所でイライラを募らせている。

 思ったよりも支持率が高くない。

 どれだけ裏で手を回そうとも、内閣総辞職の時点での政党支持率は3%ちょい。

 その数値を『民意が反映されていない』などと叫びまくっていては、支持率など集まるはずもない。


「来ませんね。寧ろ、来ると思っているのですか?」

「来るに決まっているわよ。いいこと、アマノムラクモの責任者のミサキ・テンドウは日本人に間違いがないわよ。そこに、私たちの送った親書が届いているのよ? 返事をよこさないっていう選択肢があるはずないじゃない」


 キッパリと言い切る女性議員だが、秘書官は頭を振ってため息をつく。

 そもそも、国の代表としての親書ならいざ知らず、一国の、たかが支持率低迷中の政党代表の親書である。それが、国の代表として国連安保理視察団に手渡されているとして、本当にテンドウ氏に渡されたのかなんて保証もない。

 そもそも、彼女が用意した親書など、与党が知らないはずがない。

 裏があって、泳がされていると、何故、この女性議員はわかっていないのだろうと、再びため息をついてしまう。


「まあ、返事が来ていないのは事実ですよ。それで、どうするのですか? 今の時点では、勝ち目なんて無いと思いますが?」

「弾をばら撒けばいのよ。次期選挙に合わせて郵便投票を導入させる気だったのに、何もかも計算が狂ったわよ……」 

「郵便投票でも、票は変わらないですよね? システムが変わったからといって、支持率が上がると思いませんが?」

「変わるわよ。それはもう、気持ちがいいくらいの逆転劇も演じて見せられるわよ……まあ、それは、次の私たちの時代に導入すればいいわ」


 堂々と、票を捏造する気満々である。

 こんな議員が国の代表となったら、日本の未来など真っ暗になるなぁと、秘書官は諦め顔で頷くしかなかった。


 そんなこととは知らず、アマノムラクモもまた、ある計画を発動しようとしている……。

 

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