第14話・他国を圧倒する戦力?
アンダーセン空軍基地は、いつもよりも緊張感に包まれている。
国連本部から送り出されてきた視察団を乗せたチャーター機が、次々と滑走路に降り立つ。
この後、視察団はグアムで一泊し、明日の朝、アマノムラクモへと小型機に分乗して移動する。
各国からやってきた代表達に失礼がないよう、細心の注意を払わなくてはならない。
明日のアマノムラクモ視察の本番を前に、前哨戦はここで行われている。
各国の代表同士の牽制、どこの国がアマノムラクモと有利な交渉に持っていけるのか。
………
……
…
翌日、旅の疲れが癒やされた視察団は、無事にグアムを旅立った。
視察日程が終了すると、再び、このグアムから大型機に乗り換えて、アメリカへと戻ることになる。
そののち、安全保障理事会においての報告会が行われ、再び『アマノムラクモを国家として容認するか』の決議開始までが、この視察団派遣の流れとなっている。
この一連の流れの中で、問題となるのが視察団のメンバー。
アメリカ、ロシア、中国は当然として、イギリス、フランスの常任理事国は当然、参加。
さらに非常任理事国であるチェコ、バハマ、メキシコ、アイルランド、ノルウェー、ケニア、ニジェール、チュニジア、韓国、ベトナムも参加。
アマノムラクモからは、査察団の人数は20名までといわれていたので、ここにドイツとオーストラリア、インド、ブラジル、日本も加えられることとなる。
食も文化も異なる国を相手に、この短期間で、アマノムラクモがどれほどの手腕を見せてくれるのか、視察団は明日の訪天を楽しみに待っていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
あと一時間で、国連安全保障理事会の査察団が到着する。
おもてなしの準備はOK、宿泊施設も問題ない。
俺が普段使っている温泉施設を、そのまま使うことになった。
まあ、査察団が滞在している間は、俺は別階層のスーパー銭湯に通うことになるけどね。
それで、オクタ・ワンとの協議の結果、アマノムラクモの武力を誇示するためにということで、このような準備が出来上がっているのだが。
「なぁ、俺、こういうの映画で見たことあるんだけどさ。ここまでやる必要があるのか?」
「オクタ・ワンの説明では、この光景だけで、大抵の反乱分子は牙を抜かれるということですが」
ヒルデガルドの補足を聞きつつ、目の前の光景を眺めている。
ここは、アマノムラクモ最上部カタパルトデッキ。
外部装甲が展開し、剥き出しになった1500mのカタパルト。
ここに、左右にマーギア・リッターが等間隔で立ち並んでいる。
それぞれ、左手にはお揃いの盾を構え、右手には巨大なランスだったりハルバードだったり大剣だったり、様々な武器を構えていた。
そして、マーギア・リッターの前には、お揃いのパイロットスーツをきたサポートゴーレムの皆さんが並んでいる。
側から見ると、実に壮観。
そして、中央格納庫前に立つ俺の機体。
両手剣を鞘ごとカタパルトに突き立て、右腕で柄をにぎって立っている。
「マスターの機体は、我がアマノムラクモの象徴です。このように、一番正面で査察団の皆様をお迎えしてもらいます」
「俺、外に出ても問題ないのか? いきなり査察団の乗った飛行機から、特殊部隊が飛び出してきて包囲されない?」
「まさか。この世界の特殊部隊ていどでは、マスターを取り押さえることなんてできませんよ?」
笑いながら説明してくれるけど、俺自身、自分の力がどれほどのものか知らないんだけど?
「はぁ……それじゃあ、俺も着替えてきますか。スーツの用意はしてあったよね? 街の紳士服店で作った奴、あったよね?」
「はい、こちらにご用意してあります。お着替え、お手伝いします……」
それじゃあ着替えてきますか。
これも自動換装リングに、後で登録するとしよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
グアム島を飛び立った小型機は、眼前に広がる巨大な浮遊物を前に、速度を下げていく。
やがてアマノムラクモ領海を包む、薄い虹のような結界が目の前に近づいてきたが、その一部がゆっくりと開き、誘導灯のようなものが点灯を始めた。
領海表示ブイによって張り巡らされた『悪意あるものを拒む結界』があっては、最悪、国連から派遣された査察団全員が入ることができなくなる。
そのため、誘導灯によって四角く囲まれた部分の結界は解除され、そこを通る事で査察団を受け入れるようにしたのである。
『こちら、アマノムラクモ・コントロールセンター。着陸地点の誘導を開始する。フロートポイントの指示に従ってください』
「了解。指示に従います」
アマノムラクモからの連絡の直後、機動戦艦上部装甲がゆっくりと展開した。
そして、巨大な滑走路と、そこに誘導するための誘導灯が輝き始める。
『こちらアマノムラクモ・コントロールセンター。ILSを始動しましたので、そちらの指示に従ってください。コードナンバーは……』
「了解。コード確認した。タッチダウンを開始します」
『OK。滑走路左右には、エア・アブソーバーが待機していますので、ご安心を……』
コントロールセンターが放った誘導用電波を受け、セミオートでの着陸に切り替える。
そして、高度が下がり着陸する体制を整えた時、パイロットは滑走路の左右を見て、驚愕した。
「ジーザス。我々は夢を見ているのか? これは映画の中の物語なのか?」
「現実だ。お客様にも、ご説明して差し上げろ。滑走路の左右で、アマノムラクモのお出迎えが見守っていると」
左右に並ぶマーギア・リッター。
小型機が着陸すると、それを見るようにマーギア・リッターは滑走路の中を見るように体勢を変えていく。
その光景を、小型機から中で見ていた視察団の一行は、興味津々、かつ、恐怖に心震わせていた。
『……3……2……1、アプローチ。お疲れ様です。タラップを接続しますので、お待ちください』
格納庫の一部が開き、小型機がその内部へと誘導される。
そして小型機専用のハンガーエリアまで移動すると、タラップが伸びて小型機の機体ハッチに接続した。
──ガチャン‼︎
ロックが開く音と同時に、扉が開く。
そして護衛を伴った視察団の面々が降りてくると、真正面に立っていた巨大マーギア・リッターが跪き、右腕が、ゆっくりと降りてくる。
「はじめまして。私はこの機動戦艦・アマノムラクモの責任者であり、アマノムラクモ国の国王を務めるミサキ・テンドウです。ニューヨークからの長旅、お疲れさまでした」
着物とも和服ともつかない民族衣装を身に纏ったミサキが、降ろされた腕から出てきた。
そして小型機の前に立っている視察団を見ると、堂々と挨拶を始める。
当初の予定では、ミサキ・テンドウとの会談はないと聞いていた視察団も、まさかのサプライズに驚くしかない。
それでも、その場の全員が頭を下げたのを確認して、ミサキは再び口を開く。
「これで私の出番は終わりです。このあとは、評議会の外交官であるヘルムヴィーケと、その補佐のロスヴァイゼが、皆様をご案内します。どうぞ、ごゆっくりと」
──ウィーン
恭しく一礼してから、マーギア・リッターの腕が上がっていく。
そしてコクピットハッチが開いて中に搭乗すると、巨大マーギア・リッターは別の倉庫区画へと歩いて行った。
………
……
…
視察団の警護を行なっている、各国の特殊部隊代表は、目の前で起こったことを今一度、考え直していた。
本国からの特秘作戦コードには、現場の判断でミサキ・テンドウの身柄の拘束または暗殺が含まれている国もある。
だが、着陸時に左右で待ち受けていた巨大機動兵器と、それよりも一回り大きな機動兵器に圧倒されていた。
小型機から降りた時は、データを持ち帰るために必死にカメラを回していたのだが、まさか、ミサキ本人が機動兵器から降りてきて、挨拶をするとは思っていなかった。
しかも、ミサキ・テンドウが公式の場に姿を表したのは初めての事である。
暗殺、拉致というマイナス面よりも、記録保持を最優先してしまったのは仕方がないだろう。
そして我に帰り、改めてミサキに対してアプローチしようと考えた時は、すでにその姿はなかったのである。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ミサキ専用格納庫では、専用機から降りて、服を普段着に換装したミサキの姿があった。
「さて、ここからは、俺はノータッチで良いのか?」
「はい。全てヘルムヴィーケとロスヴァイゼにお任せください。マスターは、いつも通りにのんびりとしていて結構です」
『ピッ……我々は、常にミサキさまの安全が第一です。そのためにミサキさまの希望は叶え、そのために周辺環境を整えるのが使命であると思いください』
「まあ、それなら良いんだけど。それって、最初からプログラムされていたのか? 俺が、アマノムラクモを貰った時から、その思考パターンは存在したのか?」
『ピッ……初期設定は、偉大なる神が行いました。【ミサキ・テンドウのためにあれ】。それが、全てです。ミサキさまの作りしワルキューレとサポートゴーレムにも、これは初期設定で登録してあります』
それなら合点がいく。
俺の行動を常に先回りできるのも、そういう事なのか。
それじゃあ、俺は食堂で腹ごしらえでもしてきますか。今日の昼飯は、北海道産帆立のバター炒め定食だな。
確か、視察団のスケジュールだと、先に宿に行ってから昼食会を街のレストランで行うはずだよな。
街の中を案内するついでにって話だし、今朝方、日本の遠洋漁業船『龍神丸』から買い取った新鮮な魚介類を使うって話だったからな。
………
……
…
そんな感じで昼飯を食べてから、俺の今後のスケジュールを確認してみる。
「マスターのスケジュールは存在しませんが、視察団の方の中からは、是非ともミサキさまに謁見したいという申し込みがあります」
「へぇ。それって、俺が直接会っていいの? 危険でないなら受けて構わないけど?」
「原則的には、視察団が国王と直接交渉など、あってはなりません。そのために私たち評議員が存在し、判断を下すための賢人がいるのです。アマノムラクモにおいては、ミサキさまと直接会いたいならば国家指導者レベルを『連れてこい』と言いたいところですが」
『ピッ……代表と共にやってきた護衛は、すでに戦意を喪失しています。装備解除を条件に、お会いになっても構わないのでは?』
おや、オクタ・ワンが優しい反応を示したぞ。
でもこれって、裏があるよね?
まだ付き合いはじめて一月も経ってないけれど、オクタ・ワンの優しさには、必ず裏があると思っている。
「その実、何を企んでいる?」
『ピッ……素手でまともにミサキさまをどうこうできるものなど、存在しません。もしも仕掛けてきても、全て我々が無力化します。加えて、その国がどこの国であるのかなど、情報を引き出すこともできますから』
「俺は囮か〜い」
──ビシッ
思わず裏拳で突っ込みたくなるけど、近くにいるのはヒルデガルドだけなんだよなぁ。
「なあヒルデ、俺の身体ステータスを調べたいから、ちょっと付き合ってくれるか?」
「マスターの仰せのままに」
ということで、やってきましたスポーツジム。
最新鋭の設備が整っており、その気になれば、ここに通い詰めてミスターオリンピアも目指せそう。
あ、ミスターじゃなくミスだな。
そこで、色々と調べてみたんだけどさ、普段の生活では理解できないぐらい、俺の体はおかしかったよ。
デッドリフト 850kg
握力 220kg
垂直跳び 15m
走り幅跳び 35m
100m走 5秒フラット
パンチ力 測定不能(マシン破壊)
キック力 測定不能(マシン破壊)
etc.....
途中で、調べるのをやめました、はい。
さらに付け加えると、俺の体の周囲には、常に魔力による薄い膜が形成されているらしい。
これがあるため、ある程度のダメージは軽減もしくは無効化されるとのこと。
ようは、意識しなくても、常に体の周りにフォースシールドが張り巡らされているんだとさ。
「ヒルデ。この、俺の周りにできているフォースシールドみたいなやつは、周囲に害はないのか?」
「ないですね。簡単に説明しますと、人間の体には、【オーラ】という生体エネルギーが常に循環しています。これは、魂と肉体の二つを覆うように存在していまして、意識しても触れることはできません」
このオーラが、俺の場合は【魔力】によって構築されているらしい。
普通の人の生体エネルギーが【オーラ】であり、俺の生体エネルギーは【魔力】ってことになっている。
そして、この体から放出している魔力が、フォースシールドのようなものを作り出して、俺の体を覆っている。
皮膚の上に一枚、柔軟でしなやかな、ミスリルの超装甲材が貼り付けられているようなものなんだってさ。
だから、人が触れてもわからないし、これによって何か阻害されるかというと、現実世界的には問題なしとのこと。
「つまりは?」
「たとえば、マスターが戦車の滑空砲によって撃たれたとしても、慣性は消せないので後ろに吹っ飛びますが、傷一つ、つきませんよ? 体表面の魔力はマスターの体の一部ですから、気合で強度を増したりすることも可能です」
「なるほどなぁ。そりゃあ凄いわ……これなら、特殊部隊の前に出ても、問題ないっていうのも頷けるわ」
よし、これで保険ができた。
これなら、堂々と人前に出ても暗殺されることはない。
ホッと胸の支えが取れたので、本来の目的を始めることにしようかな。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
滑走路に、移動用のバスがやってくる。
ここから視察団の一行は、視察期間中に滞在する宿へと移動することになる。
バスの運転手は人間を模して作られた『サポートゴーレム』。制服に身を包み手袋をつけていると、顔以外で人間と判別するのは難しい。
限りなく人間に近づけてはいるものの、顔にはいくつかのラインが入っており、瞳には瞳孔がなく白眼と黒目のみで構成されている。
「こちらは、皆さんが滞在している期間、移動用のバスの運転手を務めていただく『片山さん』です。サポートゴーレムですが、擬似魂も人格も持つ、我が国の住民の一人です」
ヘルムヴィーケが、運転席の片山さんの紹介をする。その紹介に合わせて、片山さんも帽子を取って一礼すると、運転席に戻っていった。
「あの、ヘルムヴィーケさん、今、国の住民と申していましたけれど、このアマノムラクモの住民は全てゴーレムなのですか?」
「まさか。人間もいますので、ご安心ください。ですが、皆さんが視察を行っている間は、人前には出ないと思われますので。このアマノムラクモの居住区画は、全部で四区画ありますが、皆さんの滞在する第一区画には、人間は生活していませんので」
アマノムラクモには、人間として【ミサキ・テンドウ】が存在する。
また、擬似魂を持つゴーレムは、マスター曰く『魂あるなら人間じゃね?』という理由で、アマノムラクモではサポートゴーレムは『人間』として扱われている。
「あのですね、私たちを接待するのも、全てゴーレムなのですか?」
「いえ、基本的には私と、二号車のロスヴァイゼが行います。サポートゴーレムさんたちには、あくまでもサポートについてもらうだけですが、ご希望でしたら、お客様のお相手も可能です」
「そうですか。では、ゴーレムに危険性はないのですね?」
「はい。魂を持つ人間として接していただけるなら、問題はありませんよ。敵対意思を見せたり、許容範囲を越える無理強いなどは、それなりの対応になるかと思いますが」
最後の言葉に、全てが要約されている。
そう、視察団の関係者は感じ取っていた。
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