第13話・まもなく査察団が来るそうで、どう対処する?
機動国家アマノムラクモ。
本日は晴天、波も平穏。
艦橋には大量のモニターが展開してあり、アマノムラクモの領海内外を監視している。
監視をしているのは、サポートゴーレムの『武田』さんと『長宗我部』さん。
一度に大量のモニターを監視しなくてはならないため、『配列思考コア』と『多重監視コア』を錬金術で作成して組み込んである。
しかし、名前に合わせて外見も弄ったのだが、髭達磨武将のような武田さんと、眉目秀麗な長宗我部さんのイメージって、俺の記憶からきているんだよなぁ。
ロボ信玄とロボ元親か。
戦国武将ファンが見たら、飛び上がって殴られそうだよなぁ。まあ、いいか。
「マスター、アマノムラクモ領海外に、あちこちの国の艦隊が集まり始めていますが、どうしますか?」
「放置していいよ。領海を越えたら警告して。まあ、結界を越えるのは無理だから、そこまで気にしなくてもいいけどさ」
「マスター、アマノムラクモ直下で漁をしている船はどうしますか?」
え? なにそれ?
結界を越えてきたの? 一体、どうやって?
「ちょっと待って、それってどこの国?」
「小型の船舶ですね。やってきた方角から察するに、マーシャル諸島あたりかと思われますが。どうしますか?」
「オクタ・ワン、領海侵入は、お前が許可したのか?」
『ピッ……昔から、この辺りで漁をしていたそうですので、許可しました。マーシャル諸島の船ではなく、日本の遠洋漁業だそうです。特に害意はなく、武装もされていないので問題ないかと』
そうか。
領海侵犯だと騒ぐほどでもないけど、例外として認めると、後が面倒な……。
『ピッ……アマノムラクモ領海での漁ですので、しっかりと代価は貰ってあります。現在、街の寿司屋で『神田川さん』が寿司を握るための準備をしていますが、どうしますか?』
「よし、その船に対して、アマノムラクモ領海内での漁業許可証を出せ‼︎ 代価は新鮮な魚でいいと」
『ピッ……了解です。領海の漁なだけに』
「オクタ・ワン、絶対に中に人が入っているだろ?」
『否。私はスーパー魔導頭脳。中に人が入っていたら、死んでしまいます』
なんで死ぬのか、意味がわからん。
それでも、久しぶりの寿司だよ。
社畜時代には食べたことがあったけど、回らない寿司は久しぶりだよ、本当に何年ぶりだろうか。
「マスター、領海表示ブイの近くで、ロシア艦艇が調査を開始してますが」
「マイクを使って警告して。領海表示ブイを調査するなって。敵対行為として攻撃するぞ」
「了解です。領海なだけに?」
「長宗我部さん、それ、もういいから」
ほら、移った。
この手の一発ギャグは伝播するんだよ?
とりあえずは、朝のチェックはこれで終わり、寿司屋は夕方から開店するらしいから、それまではのんびりと過ごすことにしよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
アメリカ合衆国、ニューヨーク州。
国連本部では、国連安全保障理事会が開催されていた。
議題は、アマノムラクモの存在について。
今後、アマノムラクモをどう扱うのか、その一点に話は集中している。
つい数日前、アマノムラクモは国連ジュネーブ事務局で、国家樹立宣言を行なった。
国際法と照らし合わせても、ほとんど隙がない宣言であり、事務総長が受け取った親書にも、細かい条例文についての申し書まで添えられていた。
現行の法案なら、アマノムラクモの国家樹立は問題ない。
アマノムラクモは、主権を持っていると宣言しているのである。
この時点で、国連としての方向性は決まっている。
『新たに誕生した国家が国際法上の国家として認められるかどうかは、承認する側が決めることではなく、新国家が国家としての要件を満たしているかどうかで客観的に決められるべきものである』
この要文が示す通り、国連はアマノムラクモを国家として容認した。
これに反対するのが、今回、安全保障理事会に参加している常任理事国。
ただし、表立って国家容認を反対しているのはロシア連邦と中華人民共和国の二国のみであり、アメリカ合衆国は賛成。
フランスとイギリスは無回答であり、まだ結論を出すには早すぎるという意見である。
「アマノムラクモを国家と認める前に、まず、あの機動戦艦が国家たりうるかどうかを調べる必要がある。国連から視察団を派遣し、その結果をもって、また考えるというのはいかがなものか?」
中華人民共和国の国連大使が提案したこの意見は、実に前向きなものであった。
付け加えるなら、報道関係者も交えての視察ということにしてはどうかというロシアの意見もあり、この二国が何かを含んでいるのは明白であった。
それでも、『視察団を受け入れることができない=やましいところがある』と判断される恐れもあるだろうから、この意見は受け入れられると信じていた。
………
……
…
安全保障理事会ののち。
国連から、アマノムラクモにたいして正式に『国家容認のための視察団の派遣』を受け入れてもらうように要請されることになった。
あとは、本国に連絡し、急ぎ視察団に参加するための『適切な人材』を国連本部に送って貰わなくてはならない。
各国の国連大使は急いで本国に連絡した。
いつ、アマノムラクモから許可が下りるかわからない。とにかく、いまは時間が惜しい。
そんな中、ロシア大使と中国大使は、別室で極秘裏に打ち合わせを行っている。
「視察団として送られてくるメンバーには、内部調査を行うように手配しよう。アマノムラクモは、その内部に都市があると宣言したのだ、ならば、それを記録して技術の一角だけでも手に入れるのが得策だな」
「視察団には各国の精鋭による警備もつけるのだろう? まあ、細かい打ち合わせは当然行うがな。いわば、臨時の国連軍のようなものだよ、可能ならば、それでアマノムラクモを制圧できればいい。可能ならばの話だがね?」
ロシア大使と中国大使は、アマノムラクモの存在を否定する。
国際レベルでメンツを潰されたニ国がアマノムラクモを容認することは、いわば国家の敗北に等しいと、大使たちは考えている。
「アメリカとイギリス、フランスはこの案には乗らないだろうが、それも想定済みだ。自国の親善大使を守るのが仕事であり、我々の行動を阻害することはない」
「相手が日本なら、適当な人質でも取って脅せば、最終的には情報公開なり駐留なり、いくらでも交渉材料はあるのだがな。しかし、アマノムラクモの責任者のミサキ・テンドウ、日本人の女のような気がするが」
「日本政府からは、全く関係ないという連絡は受けている。そこは、うまくやることにしよう」
「そうだな。我が、ロシア連邦の繁栄のために」
「我らが
──チン
ワイングラスを軽く当て、小さく乾杯する二人。
この視察団が成功するかどうか、この結果によっては、今後の対応が大きく変化するのだから。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
アマノムラクモ、艦橋にて。
午後になると、領海表示ブイの周りを調査していたロシア艦艇は、作業を終えて離れていった。
そして入れ替わりに、今度は中国の艦艇が近づいてきて、同じように調査を始めている。
武田さん曰く、アマノムラクモの周囲にあるブイには、何処かしらの国の艦艇が張り付いて調査しているらしく、一つが終わると次のブイへ向かう、という感じにぐるぐると回っているらしい。
まあ、その結果、何がわかるのかは知らないけどさ。
「……艦長、国連本部から連絡が入っていますが、繋ぎますか?」
「あ、シートに座るから待ってて」
急ぎキャプテンシートに座る。
最近は公務として、国連や他国との話があるので、一応は艦橋に来る時は制服を着るようにしている。
オクタ・ワン曰く、今の体は女性なので、女としての武器を使った方がいいらしい。
だからといって、艦橋に来るたびに着替えていたのでは埒が開かないため、用意しましたよ、衣服を一瞬で着るための魔導具を。
『自動換装リング』
これは指輪型の
その代わり、あらかじめセットした衣服などを、一瞬で装着することができる。
とっても便利だけどさ、汚れたりしたらクリーニングに出さないとならないんだよ。
よくある魔法で、
「回線、開きます」
『こちらは国際連合本部、安全保障理事会代表のマクシミリアン・クラフトです。アマノムラクモ代表のテンドウさまに、国連安全保障理事会から視察団を派遣したいと思い、連絡しました』
「ご苦労。アマノムラクモ代表のテンドウだ。こちらとしては視察団を受け入れる準備はできている。後ほど、外交担当官と打ち合わせをお願いしたい」
『ありがとうございます。では、細かい日時などは、担当の方と打ち合わせることとします。この度は、誠にありがとうございます』
「構わない。私は、世界を混乱に陥れる気は無いのでな。では、代わる」
──ピッ
あとは外交担当にお願い。
オクタ・ワンがいうには、国の代表は自分で交渉するものでは無いと。
雑事その他は、評議会や賢人に任せて構わないらしい。
まあ、国家の代表同士の話し合いとかになると、俺の出番らしいんだけどね。
『ピッ……現在、ヘルムヴィーケが打ち合わせを行っています。こちらとしては、受け入れには視察団二十名、護衛二十名までは容認したいと思います』
「大所帯だけど、そんなものなの?」
『各国からの代表が二十人前後、その護衛が合わせて20前後で計算しています。本来ならば護衛など不要なのですが、向こうとしても、思うところはあるかと思いますので』
「へぇ。ヒルデはどう思う?」
俺の近くに立っているヒルデガルドにも話を振ってみる。
「アマノムラクモをよく思わないメンバーが含まれていた場合は、最悪のケースとして内部潜入から、システム掌握、ミサキ様の暗殺までは想定できます」
「まさかだろ? 国連の視察団だよ?」
「安全保障理事会代表からの連絡です。つまりは、そういうことなのです」
国連事務局からの問い合わせではなく、安全保障理事会からの問い合わせ。
つまりは、アマノムラクモの対応について安全保障理事会が動いたということになる。
視察団を派遣するということは、内部調査およびこちらの動向を伺うため。
なんらかの決議を求めたが、全会一致の原則があるので否決し、その対案としてアマノムラクモを視察するという筋書きかもしれないと、ヒルデは予測しているらしい。
これにはオクタ・ワンも同意。
あえてアマノムラクモ内部に迎え入れ、その技術力を見せつけてやることにするらしい。
「しかし、俺を狙ってくると分かっている奴らを、客人として迎え入れるのはどうよ?」
「あっはっは。マスターが出迎える必要はありませんよ。こちらは私とヒルデガルド、ロスヴァイゼの三名で十分ですから」
「それじゃあ礼儀に反しないか?」
「マスターは、そろそろ自分自身をしっかりと自覚してください。相手に遜る必要はないのです、常にどの国に対しても上から目線で構いません。アマノムラクモとは、そういう存在であることを見せつけるチャンスでは?」
いや、待って。
俺はこの世界の頂点に立つ気はないんだよ?
なんでオクタ・ワンもヒルデもやる気満々なんだよ。俺は、平穏に生きたいだけなのに。
「いや、それ、必要? オクタ・ワンはどう思う?」
『ピッ……本来ならば、無人島の一つでも主砲一斉掃射で消滅したいところですね。その上で、世界中に問いかけます。『服従か、死か』と。まあ、問いかけは冗談としても、相手より上であることを見せつける必要はあるかと?』
「はぁ……トラス・ワンには聞かないからな」
『ピッ……無人島など生ぬるい。衛星軌道上から、全大陸に向けて惑星破壊ミサイルを撃ち込むぐらいの気概は必要です』
「そんな物騒な装備も積んでいるのかよ?」
『ピッ……ありませんが、ミサキさまなら、作れるのでは?』
待て、俺の錬金術って、そんなものも作れるのか?
術式はなんとなくわかるし、魔力素の爆縮による破壊エネルギーだろ?
つまり、理論は……。
「あ、作れるわ。でも作らないからな?」
『ピッ……賢明な判断です。ヘルムヴィーケの相合わせも終わったようです。結果を悶々と待つよりも、退屈しませんでしたよね?』
「はぁ……お気遣いありがとう。ヘルムヴィーケ、それで相談はどうなった?」
一週間後、アメリカ・ニューヨーク州の国連本部から専用機が出る。
アマノムラクモが搭載している滑走路の最大距離は1500m、ボーイングタイプだと着陸不可能。
そのため、グアムにあるアンダーセン空軍基地で小型機数機に乗り換えてから、アマノムラクモへとやってくることで話し合いは完了したらしい。
さて、アマノムラクモ初めての、俺以外の人間の搭乗だ。盛大に迎えたいところではある。
なにかこう、いい出迎え方法がないか、賢人と評議会で話し合ってみよう。
今から、楽しみである。
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