第10話・平和の定義と、アマノムラクモの存在
では、これより錬金術を行う。
と、その前に、腹ごなしをしてから、温泉タイム‼︎
やっぱり、色々と疲れるとお風呂に入りたくなるよね。
そしてお風呂に入っていると、この数日のことが色々と思い浮かぶのよ。
交通事故で死んで、機動戦艦を貰って。
そして新しい体で蘇生。
これって自分の体じゃないから、転生なのかなぁ。
「転生? そうか、お約束だよ‼︎」
温泉の中で、真っ裸の女性の俺。
やっぱり、やるよね、異世界転生のお約束。
「ステータス、オープン」
──シーン
何も起こらない。
「そうか、呼び方が違うのか……」
『ピッ……この世界には、ステータスという概念はありません。そのように拗らせられても、こちらとしても対応に困ります』
「ないのかよ‼︎ 普通はさ、異世界転生っていったら、アイテムが無限に入るアイテムボックスとか、ステータス表示とかあるだろう?」
『ピッ……ですから、ステータスって何ですか? 人間の所有する個別の能力を数値化したものですか? スキルとかも含めてのステータスですと、その人の人生そのものを表示しなくてはなりません』
「え? そこまでシビアなの?」
『ピッ……はい。ですから、ステータスを表示するという概念はありません』
マジかぁ。
そうか、そうだよなぁ。
そんなに簡単に、便利なスキルなんて貰えるはずないよなぁ。
「って、ちょっと待て、俺、異世界転生するときに、神様から加護もらったぞ、あれってどうやって確認するのですか?」
『ピッ……理解不能。貰ったものなら、自分でちゃんと管理してください。いつもいつも出しっぱなしにするから無くすのですよ』
「オカンかよ‼︎」
思わず突っ込んだわ。
オクタ・ワンとトラス・ワンは、俺がどこにいても反応してくれるらしいから、敢えて温泉に浸かりながらつっこんでやるわ。
この16歳の瑞々しい体で、思いっきり突っ込んでやるわ。
「はぁ。思い出せ俺。あの時、ダーツでもらったものはなんだった?」
両こめかみに指を当てて、グリグリと回しながら思い出す。
ええっと、確か、こんな感じだったよな?
【初期異世界セット】
【所持金ボーナス】
【能力値ボーナス】
【基礎魔力】
【鑑定眼】
【錬金術】
【錬金術】
【錬金術】
【機動戦艦】
まあ、錬金術が三つもダブったけど、お陰で訳がわからんぐらいの錬金術の知識が身に付いている。
これは理解した。
機動戦艦は見てわかるから、これもよし。
鑑定眼?
「ええっと、鑑定眼ねぇ……」
とりあえず、風呂桶を持ち上げて見てみる。
『ピッ、ヒノキの風呂桶。トレント網ヒノキ目ヒノキ科の木材で作られた風呂桶。肌に優しいお湯を生み出す』
「あ、そういうことな。言葉にする必要もないのか。これは便利だからよし。使い所が限られるけどな」
基礎魔力とか、能力値ボーナスについては、自分の体なので、なんとなく理解できる。
できるけど、試してみよう。
「俺の能力値を鑑定してみてくれ」
『ピッ。ミサキ・テンドウの能力値は異常です。人外です。神に近いとも言えます』
──グハァ
やっぱり数値化してくれないし、スキルも一覧みたいのがない。
ま、まあ、それはいい、よしとする。
そこで最後のテスト。
「初期異世界セット。これだよ、多分、これに色々あるんだよ。現に、自動翻訳はできていたからね。アイテムBOX‼︎」
右手を目の前にかざして叫ぶ。
──シーン
ほら、まただよ。
そんなの存在しないんだよな。
『ピッ……
「先に教えてくれよ。
思わず叫んだけど、目の前には何もない。
そりゃそうだ、
そこには、着替えやら保存食やら松明やら、よくあるファンタジーゲームの最初の装備が入っていたよ。
しかも、何の変哲もない、普通のアイテムが。
「……ワンセットというので理解した。よし、風呂から上がって錬金術師でも始めるか。自分の装備を作りたいからなぁ」
ワルキューレと違って、俺は生身の人間だからさ。
地球の兵器で傷つくし、死ぬんだよ。
『ピッ……新しい肉体は、能力値ボーナスを得た時点で人間ではありません』
「人でなし……ほっとけ。それじゃあ、俺は人間ではないのだな?」
『ピッ……人間とはなんですか? あなたが自分を人間と思うなら、あなたは人間です。体とは、魂の器でしかなく、その本質、つまり魂が人間だというのなら、人間です』
「……あのな、ステータスとかでみたら、種族に人間とか表示されるだろ? そういうのが見られるなら、それはそれで安心できるんだよ?」
『ピッ……人間の証明ですね。遺伝子レベルの話でしたら、ミサキさんの遺伝子は地球人とは異なります。でも。魂はあなた自身です』
ん?
んん?
んんん?
うまく誤魔化されたけど、言いたいことはなんとなく理解できる。
今の俺は俺であって、人間だ何だとこだわる必要はないってことだよな?
誤魔化されるかよ‼︎
「まあ、いいわ。それじゃあ、魔導具作るから、スイスに到着したら教えてくれよ」
『ピッ……了解です。何かありましたら、秘書のヒルデガルドさんか、赤城さんにお申し付けください』
「赤城さんって、だれ?」
『ピッ……先日、ミサキさまがお作りした、量産型サポートゴーレムです。全部で48体ですので、ナンバリングするよりも名前をつけたほうが良いとか思いました』
「ああ、そういうことな。それで、なんで赤城さんなの?」
『ピッ……アイウエオ順に、名字をつけたのです。赤城さん、岩井さん、上村さん、遠藤さん、太田さん……という感じに』
「それは面白い。ヒルデ、あとで名簿作っておいてくれる? あと、住居も割り振って、街に住んでもらうことにしよう。仕事は街から出勤する感じで」
「イエス、マイロード」
「そこはわかりました、艦長じゃないの?」
「ワルキューレの中でも、それぞれ個性を身につけようと思いまして。ご迷惑ですか?」
まさか。
俺が作ったゴーレムだけど、こうやって自我を持って自己主張してくれるのは大変喜ばしいよ。
また、サポートゴーレムとかをつくって、もっと住人を増やすのもありだよなぁ。
まあ、脱線するのはそろそろやめて、本格的に魔導具を開発するとしますか。
『ピッ……ミサキさま、アメリカから連絡が入っていますが、要件だけ確認しますか?』
「ん? まだ作業は始めていないけど、何かあったの?」
『ピッ……アマノムラクモの目的地は、国連本部ですよね? それで、我々は航路を北に取り、スイスへと向かっています』
「そうだよ? 国連本部はスイスのジュネーブだよ? なにか問題でもあったか?」
『ピッ……国連本部はアメリカのニューヨーク州です。スイスにあるのは、国連事務局です。そのため、目的地の再確認という事で、連絡が入ったようですが』
え?
スイスじゃないの?
アメリカが本部なの? マジ?
だってさ、モンドセレクションとかはスイスじゃないか。そしてスイスは永世中立国だよ?
国連本部があってもおかしくないよね?
「……アメリカ及び国連に向かう各国に通達。会談の場所をスイスのジュネーブに変更すると。国連本部の場所はアメリカであり、アマノムラクモはアメリカ軍から攻撃を受けている。そのような場所は、今後の対応を考えるべき交渉の場所として相応しくないと」
『ピッ……屁理屈と申しますか、言い訳と申しますか。まあ、その案を採用しましょう。では、すぐに通達します』
「よろしくお願いします。俺は、風呂に入りなおしてくるから」
『ピッ……場所を間違えたから、恥ずかしいのですね?』
その通りだよ、風呂にはいって落ち着くよ。
まあ、言い訳はいくらでも考えられるけど、突っ込まれるまでは無視することにしよう。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
スイス、ジュネーブ。
国際連合ジュネーブ事務局があるこの場所には、かつてないほど大勢の人たちが集まっていた。
当初の目的地である国連本部があるのは、アメリカのニューヨーク州。
そしてミサキが向かうと宣言したのはスイス。
そう、彼女は、国連本部と国連事務局を間違って覚えていたのである。
結果として、途中でアメリカから『国連本部に向かうのなら、方角が違うのでは?』という問い合わせを受けて、急遽、国連本部ではなく『永世中立国であるスイス・ジュネーブ』に場所を変更。
本来ならば国連本部のあるアメリカに向かうのが一番なのだが、アメリカはアマノムラクモに対して『先制攻撃』を行なってきた国。
わざわざ、敵の懐に飛び込む必要はない。
今後の対応を考えると、永世中立国であるスイスで会議を行うのが、一番平和的であると宣言して、ジュネーブにやって来た。
『ミサキが国連本部とジュネーブ事務局を間違えて覚えていた』という事実は、半ば強引に揉み消されたのである。
そのような理由により、数日前に東京湾を出発した機動戦艦アマノムラクモは、時速100kmでのんびりとスイスにやってきた。
実に四日の旅時であり、各国から代表団をスイスに『派遣し直す』には、十分な時間であった。
各国からの代表は、すでにパレ・デ・ナシオに作られた、特設会議場に集まっており、いつ、アマノムラクモの責任者であるミサキ・テンドウが姿を表すのか、緊張しながら待っていた。
特にアメリカと中国とロシア、この三カ国にとっては、この場所は死刑台ともいえる。
アマノムラクモに対しての先制攻撃、東京湾での全面攻撃、そしてロシア艦の自爆攻撃、国際法に照らし合わしても、アマノムラクモから宣戦布告を受けてもおかしくはない。
そんな中。
突然、会議場正面の袖から、二人の人物が姿を表した。
「はじめまして。私はヒルデガルドと申します。我らが主人、ミサキさまにかわり、皆さんのお相手を務めさせていただきます」
「同じく、補佐官のグリムゲルデです。よろしくお願いします」
スーツ姿の二人の美女の登場。
つまり、機動戦艦アマノムラクモは、このジュネーブに到着しているのである。
しかし、外で待機していた各代表の護衛たちからは、アマノムラクモらしきものが飛来してきたという報告はない。
「一つ教えてください。アマノムラクモは、いつ、この国に到着するのですか?」
「すでに、このパレ・デ・ナシオ上空に存在していますわ。まあ、この三次空間ではなく、位相空間に駐留していますので、みなさんの目には見えないでしょうけれど」
にこやかに告げるヒルデガルド。
「では、これより話し合いを行いたいと思いますわ。日本国でも同じことをしましたけど、おそらく、ここにいる皆さんからは、もっと突っ込んだ質問が出るでしょうからね」
「それでは、順番に質問を許します」
すぐさま代表たちは、自分の机に据え付けられているボタンを押す。
発言を求めるという意味で置かれているボタンであり、それぞれにナンバーがふってある。
これで、どの国の代表が発言権が速かったかを確認することができるので、司会進行も楽である。
「まず、我々は、この場にアマノムラクモの責任者であるミサキ・テンドウが来ると思っていました。彼女と直接話がしたかったのですが、なぜ、彼女はここにこないのですか?」
「簡単です。皆さんは、国から全権を委任されてきた代表ですよね? ですから、私たちもミサキさまから、交渉その他についての全権を委任されてきました。お互い同じ立場です、ここに何か問題でも?」
言葉を失うとは、このことである。
ヒルデガルドの言葉の裏を考えるならば、『アマノムラクモの責任者と話がしたいなら、国家元首を呼んでこい』といっているのである。
これには、代表全てが言葉を失った。
「いえ、ありがとうございました」
「では、次は26番、サウジアラビアですね、お願いします」
「ありがとうございます。私が知りたいのは、あなたたちの船であるアマノムラクモのスペックです。どのようなシステムで、あの船は空を飛んでいるのですか?」
ぶっ込んだ質問。
いきなり空を飛ぶ秘密を教えろと、サウジの代表は話しているのである。
そんな質問に答えてくれるはずがない、そう思っている他国の代表達であるが。
「主動力炉はサラスヴァティ型魔導ジェネレーター。主動力炉四基、サブ動力炉八基、空間潜航ジェネレーター四基により、アマノムラクモの動力システムは構成されています。これでよろしいですか?」
「え、あ、はい、それらがどのようなものかは、教えてもらえないのですか?」
「国家の機密事項ですので。では、次の方」
そのように、ある時は塩対応、またある時は懇切丁寧に、質問に答えている。
アマノムラクモの根幹部分についての質問は、全て機密事項であるが、装甲材の名前などの単語については、普通に話をしていた。
「アメリカです。船のエネルギーはなんですか?」
「主要エネルギーは、太陽光ですね。オリハルコン装甲材は太陽パネルの役割もしています。同時に、大気中に存在する魔力を吸収する働きがあります。なお、全く光の届かないところでも、アマノムラクモは魔力をエネルギーとして使用しますので、100年程度でしたら通常運航が可能ですので」
自然に優しいクリーンエネルギー。
どの国も喉から手が出るほど欲しいものであり、同時に中東諸国にとっては、厄介の種でしかない。
「ロシアです。アマノムラクモと同じものを作ることはできますか?」
「我が主人でしたら可能です。皆さんに簡単に説明しますと、我らが主人は錬金術師ですので」
──ザワザワ
その場がざわつき始める。
御伽噺では聞くことができる錬金術師、それが彼女達の代表であるという。
それこそ御伽噺じゃないのかと突っ込みたくなるものもいるが、余計なことは話さないほうがいいと、その場のだれもが思った。
「錬金術師ということは、金を作り出したりできるとでも?」
「そうですわね。我が主人でしたら、海水から金どころか、レアメタルまで生み出すことができますわよ。炭はダイヤモンドにも。そして、不老不死の薬さえも、生み出すことは可能です」
材料さえあれば、ですけどね。
そのことについては説明しない。
「まるで、あなたの主人は伝説の魔法使いじゃないですか? あの機動戦艦も魔法で動いているとでもいうのですか?」
「その通りです‼︎ 我らが主人は、偉大な錬金術師です。あの機動戦艦アマノムラクモも、主人一人で制御できますわ‼︎」
半ば興奮気味に返答するヒルデガルド。
こと、ミサキの話になると、抑えが効かなくなる。
「ミサキ・テンドウさんは、これからどうするのですか? あのようなオーバーテクノロジーを我々に披露して、まさか世界を支配するとかいうのではないですよね?」
「さぁ? 私どもでは、主人の御心の深いところまで察することはできません。ですが、ひとつだけ、主人から言付かっていることはあります」
勿体ぶって話をするヒルデガルド。
懐から二通の書状を取り出すと、一通はその場に居あわせた国際連合事務総長『マーティン・ヘンダーソン』に手渡した。
「これは?」
「我が主人からの親書です。それでは、我が機動戦艦アマノムラクモは、今日、この場で、国家として樹立することを宣言します。場所は太平洋上、国家承認に必要な条件は、全て満たしております」
突然の国家樹立宣言。
これには各国代表達も、動揺の色を隠せない。
もしもここで国家として成立されたなら、あの機動戦艦を手に入れる方法が限りなくゼロに近くなる。
それだけは避けなくてはならないのだが、ここにいるのは外交使節であって、国家の代表ではない。
「さて、この場の皆さんは驚くでしょうが、我が機動戦艦アマノムラクモは、この世界にある『モンテビデオ条約』における国家としての要件は、全て満たしています。我が領土は機動戦艦アマノムラクモ、固定座標は東経150度、北緯15度。アマノムラクモ内には都市があり、住民も存在します」
淡々と説明するヒルデガルド。
これには、代表達も静かに聴いているしかない。
「アマノムラクモはそれ自体が政府であり、ミサキさまを主人とした君主制、その配下に二人の賢人と九人の議会員が存在します。そして、国家として樹立するならば、我が国は、他国とのさまざまな条約を取り結ぶことも考えています、以上です‼︎」
沈黙。
そして一つ、また一つと拍手が上がる。
東京湾でのアマノムラクモの戦いを知るものは、敵に回してはいけない存在であるとして、アマノムラクモの国家樹立を容認する。
そして、あくまでもアマノムラクモの技術を手に入れたい国家は、依然として中立もしくは敵対意思を示している。
「では、続いて質問を受け付けます。ですが、ここから先の質問については、よくお考えの上でお願いします。アマノムラクモは、国家として建国することを宣言しましたので」
ヒルデガルドの言葉に、代表者たちは萎縮する。
そして、その後は当たり障りのない質問で時間を濁していった。
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