第8話・日本のため、自分のために
日本政府からの連絡があったということで、急ぎブリッジへと戻ってきた。
着替える暇もないのでパイロットスーツのままキャプテンシートに座り込むと、すぐさま、日本政府との通信回線を開いてもらう。
──ピッ
「アマノムラクモのミサキ・テンドウだ。いきなり呼びつけるとは、何かあったのか?」
『そこは、何事だ、の方がよろしいかと』
「まあまあ、……ここは、俺に任せろって」
今回はアンチョコなし、俺の判断でいかせてもらう。そして日本政府の返事を待つのだが。
『誠に申し訳ございません。テンドウさまにはご理解いただけるかわかりませんが、数日中に、この東京都は戦場になります』
「……ほほう。確か、この世界にある国際連合とやらが関与したのか? 確か、国連平和維持軍とやらがあったよな?」
『そ、その通りで……誠に申し訳ないのですが、至急、日本国領から退去をお願いしたいのですが。東京は日本の首都ですので、ここが戦場になるのは好ましくありませんので』
日本が機動戦艦との条約を取り決めるまでは、まだしばらくは時間がかかる。だが、それを待っているうちに国連平和維持軍が日本にやってきて、機動戦艦を攻撃し始めるという寸法か。
大方、そんな話を国連に振ったのは、アメリカかロシアだろうなぁ。
大国だから何してもいいって思っていたら、大間違いだぞ?
はてさて、日本が戦場になるのは忍びないが。懇願されて、はいそうですかって移動しようものなら、今後も甘くみられるよなぁ。
「分かった。日本国にとっては、我がアマノムラクモは疫病神とやらでしかないということだな。では、条約云々についてはすべて白紙にもどす。今一度、自分たちの選択が間違いかどうか、考えてみることだな」
『ま、待ってください‼︎』
「切れ‼︎」
──プツン
通信カット。
これで、今回の機動戦艦の撤退については、『日本政府との交渉が決裂した』『アマノムラクモが一方的に交渉を取りやめた』いう筋書きになる。
つまり、ここから先は、日本政府としては機動戦艦についてはすべて知らぬ存ぜぬと宣言しても問題はない。
さすがに、故郷が戦場になるのは、いくら転生しても見たくないからなぁ。
「Dアンカー回収。進路転針、目標座標、北緯15度、東経150度で、微速前進‼︎」
「了解。機動戦艦アマノムラクモ、目標座標に向けて航行開始します‼︎」
──ゴゥゥゥゥゥゥ
ゆっくりとアマノムラクモの艦首が廻り始める。
同時に、地上で待機していた五機のマーギア・リッターも上昇開始、格納庫へと戻ってくる。
『ピッ……いっそ、日本に味方して他国を蹂躙するという選択肢もありましたが?』
「いやだよ、おっかない。アマノムラクモ一機で世界征服できる代物なんだよ? 怖くてできませんわ」
なんで、俺に世界征服させようとするかなぁ。
俺は、この機動戦艦でのんびり楽しく過ごしたいんだよ?
「目標座標に到着したら、高度200mにDアンカー打ち込んで固定して。その場で待機、俺は用事があるので少し休む」
「了解しました‼︎ オクタ・ワンさん、指示の通りにお願いします」
『是。フォースシールドの強度も上げておきます』
「よろしく‼︎」
さて、もう晩御飯の時間なんだよ、腹減ったんだよ。
今日は温泉旅館でゆっくりして、温泉のフルコースを堪能するとしましょうか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
同時刻、東京湾沖合の各国艦隊。
突然、人型機動兵器が帰還していったかと思うと、機動戦艦は進路を変更して、海に向かって進み始めた。
ちょうど直線上に展開していたロシア艦隊は、すぐさま左舷に艦隊を移動、その右舷あたりでは中国艦隊が展開を開始、見方によってはアマノムラクモを挟み撃ちにするような包囲陣をひいていた。
「日本国政府は、どうやらアマノムラクモとの交渉に失敗したようです。その証拠に、あの機動戦艦の航行方向は、日本国領海から離れているように見えますな」
「そうだな。問題はここからだ、我々の目の前には何がいる?
管制官の連絡を受けて、アメリカ第7艦隊旗艦のロナルド・レーガン艦長、オスマン・ヘイワード海軍中将は上機嫌である。
「中国艦隊ですね。あの艦艇は、確か055型ミサイル駆逐艦ですか? ああ、『南昌』ですな」
「この事態に、何故、ミサイル駆逐艦なのか。本来ならば、もっと機動性のある艦艇か、高火力のものを用意するはずだ。だが、中国艦隊の三隻のうち二隻がミサイル駆逐艦、残りは空母だが、あれは型番が古い」
「捨て駒……でしょうか。少なくとも、『南昌型』ならば、火力としては申し分ないかと思われます」
「その上で、攻撃を誘発して責任追及を求めるか? 中国としては、自分たちに有利な作戦に誘導するだろうけど、それは、あの機動戦艦に対しては悪手だと思うがな」
オスマンに言わせると、今、もっとも効率の良い作戦は『静観』でしかない。
こちらの攻撃が全く効果がないことなど、アメリカは先制攻撃を行なっているのでどの国よりも熟知している。
アメリカ最新鋭イージス駆逐艦「ダニエル・イノウエ」(DDG118)をもってしても、恐らくは傷一つつくことはないだろう。
そんな相手が、こちらを攻撃してきたらどうなる?
守りは硬く鉄壁を越える。
ならば、その保有攻撃力は?
あの人型機動兵器が、最低でも五機、確認されている。
そのようなものを相手に、どこまで戦えるのか?
「……艦長、南昌が動きました」
「中国艦隊の射角から離れろ。間違って攻撃でもされたら敵わんからな」
「了解です」
第7艦隊の三隻は、すぐさま船速を上げて、中国艦隊の射角から逃れるように軌道を変える。
それと同時に、中国艦隊からは、次々と戦闘機が上がっていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「……左舷が中国艦隊で、右舷がアメリカかぁ。その間を抜けるっていうのも、どうよ?」
「艦長、キャプテン、この場合はどちらでお呼びすれば?」
「ゲルヒルデさん、そこ、こだわる? お好きにどうぞ」
「では艦長。このまま真っ直ぐに中央突破を推奨します。圧倒的な防御力を見せつけて、己が軍隊の無力な様を、思い知らせてあげるのが優しさかと」
「相手の心をへし折るどころか、煽り以外の何者でもないけどなぁ……そんじゃ、中央突破で」
航路はこのまま、微速前進。
すると、第7艦隊は大きく旋回を開始、中国艦隊から離れる航路を進み始めた。
それと同時に、中国艦隊の背後にはロシア艦隊が近寄っている。
「……なんだろう、この、巨大な盤面で遊んでいるシミュレーションゲームみたいな感覚は。この布陣だと、第三次世界大戦ってタイトルつけても間違いじゃないよなぁ」
『ピッ……昔、日本にはシミュレーションゲームのメーカーがあったようです。それによりますと、そのようなゲームもあったようですが、今の布陣を見るに、伝説巨神イデ『スト〜ップ‼︎』おん? 失礼』
「その話はやめろ、俺は、イデサイドで全滅した経験がある。俺には死亡フラグだ」
『ピッ……メモしておきます』
なんで、ここで俺の古傷抉るかなぁ。
まあ、このままフォースシールド全開で進んでいたら、どうせ攻撃が始まるのが目に見えているからなぁ。
──ドッゴォォォォォォン
ほら来た。
分割されたモニターには、あちこちで爆炎が上がっていたり爆撃機が爆弾を投下し始めている映像が映し出されている。
「中国艦隊の攻撃を確認。続いて、空母から戦闘機が発艦しています‼︎」
「レーダーに感あり。ロシア艦隊からの対艦ミサイルかと‼︎」
「中国艦隊、アマノムラクモ上空に展開、爆撃を開始したようです」
「対艦ミサイル来ます……」
──ドッゴォォォォォォン
うん。
揺れもしないしびくともしない。
「……あの、オクタ・ワン、何も感じないんだけどさ。どうなってるの?」
『ピッ……あの程度の攻撃で、フォースシールドを破壊するなど無駄無駄です。反撃を開始したいと思いますが』
「ダメだからね、人死にでるから、それはダメだからね。反撃するなら、なんとか人は殺さないようにして、無力化してくれる?」
『了解です。オクタ・ワンからトラス・ワンに、戦闘モードの移行を推奨します』
『ピッ……トラス・ワン、了解です。敵艦隊の無力化を開始します』
あ〜。
魔導戦闘頭脳トラス・ワンが、不思議と生き生きとしているように感じるのは何故?
「トラス・ワン、あのですね? このアマノムラクモに搭載している装備で、無力化できるものがありますか?」
『ピッ……ございます。すでにスタンバイしてありますので、ミサキ艦長のゴーサインがあれば、すぐにでも可能ですか』
「それじゃあ、それでよろしく」
『ピッ……了解です』
うん。
モニターの一つに、上部格納庫が映りましたが。
そしてアマノムラクモ中央上部が開き、カタパルトが展開したのですが。
ええ、その機体は、確か昨日、国会議事堂に向かったヘルムヴィーケが載っていた奴だよな?
「グリムゲルデに質問。画面に映っている黒い機体ってヘルムの専用機? 名前あるの?」
「はい。機体名は特にありません。マーギア・リッターNo.06というのが機体コードです。名前はありませんが、必要ならば付けていただけると宜しいかと」
「そっか。ヘルムヴィーケの黒い機体。ヘルムノアールということで」
『ピッ……センスありません』
「うっせえ、それじゃあオクタ・ワンは、どんな名前がいいんだよ?」
『ピッ……趣を持たせて、『甲子式機動兵器・富士碌號』というのは』
「「「「却下‼︎」」」
俺もグリムゲルデも、ついでにヒルデガルドも、オクタ・ワンの意見に反対。ダサい。
『チッ……ヘルムノアールで登録します』
「いま、ピッ、じゃなく舌打ちしただろ?』
『ピッ……気のせいです。それよりも、ヘルムヴィーケの出撃です』
慌ててモニターを見直すと、カタパルト上にヘルムノアールが固定されていた。
うん、よく見るアニメのやつだな、出撃シーンだよな。いつか、俺もあんな感じに出撃したいわぁ。
『コントロールセンター。こちらヘルムヴィーケ。マーギア・リッターNo.6、出撃します』
「こちらコントロールセンターのグリムゲルデ。機体名はヘルムノアールで登録されました、やり直しを要求します」
『え? あ、了解です』
カタパルトから降りて、格納庫に向かうヘルムヴィーケ。まてまて、そこからやり直すのかよ、カタパルトの名乗りからでいいんだよ。
「カタパルトからのやり直しだそうです」
『了解。コントロールセンター、こちらヘルムヴィーケ。ヘルムノアール、出撃します』
「了解、健闘を祈ります、アウト」
──キィィィィィン
両肩及び背中に装備されている巨大なスラスターが、魔力素を吹き出した。
そして脚部の載せられているフットガードがリニアモーターのように雷撃を放ちつつ、一気に加速を開始。そのままヘルムノアールは、大空高く舞い上がった。
「うわぁ……格好いいじゃないか、次、俺が行きたいんだけど」
「安全マージンを考えるとお勧めできません。ですが、私たちは、艦長のやりたいことを止めることもできません」
『非。私は止めます。艦長は、しっかりとアマノムラクモのブリッジで腰を据えてください』
「……了解。それと、ここの場所の名前も統一しない? ブリッジって呼んだり艦橋って呼んだりさ、さっきなんて、ここはコントロールセンターだったよ?」
『ピッ……今は合ってますから、各員に任せるということで』
「マジか。まあ、それじゃあ、各自でわかりやすいものに」
そんな話をしていると、上空で待機しているヘルムノアールに向かって、戦闘機が一斉に攻撃を開始した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「ダメです‼︎ 我が軍の火力では、あの艦体表面のバリアーのようなものを破壊することができません‼︎」
「黙れ、この戦闘は
「了解……状況変化、敵、機動戦艦から人型兵器が出撃しました」
「着地地点の算出、そこに向かって攻撃しろ、あの手の機動兵器はな、足元や関節が弱いのが道理だ」
中国艦隊指揮官である翠行海は、この戦いに命をかけていた。
在日中国大使からの連絡を受けて、翠はすぐに艦隊を移動させた。
そして中国艦隊司令官からも、鉄屑となっても構わないから、攻撃を開始せよとの命令が下っている。
中国政府としても、
だが、日本が交渉を始めたという事実があるのなら、話は別。
日本の狡賢い政治家たちは、口八丁手八丁で話を有利に進めるに決まっている。
その前に、なんとかして機動戦艦を手に入れたいと考えていた時、突如、機動戦艦が移動を開始した。
表に出ていない、当初の目的であった『東京攻撃』が開始される前に失敗となった今、機動戦艦を破壊してでも、そのテクノロジーは欲しい。
そのためなら、全兵力を注ぎたいところだが、日本の領海に侵入することが認められているのは三隻まで。
このまま、攻撃を続けつつ、日本の領海外まで逃げてくれれば、そこには中国艦隊百二十五隻が待機している。
「……アマノムラクモから飛び出した機動兵器は、上空で停止しています。着地する様子もありません」
「なんだと‼︎ いったいどうやって、あのような巨大な質量を空中に浮かせ続けられるというのだ?」
「わかりません……どうしますか?」
「攻撃を続けろ、サンプルは一つでも多い方がいいに決まっているだろうが!!」
翠指揮官の怒声が響く。
そして、中国艦隊にとって最大の悲劇と、のちの歴史に語られる事件が発生するまで、あと少し。
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