第7話・暴走するなら力で対抗するよ?

 機動戦艦アマノムラクモの日本上陸。


 この事実には、各国も驚きを禁じ得なかった。

 彼らの知る限り、現代世界のどの国でも、かのような巨大な質量を持つ金属製の巨大戦艦を飛行させるような技術はない。

 しかも、それがホバリングのように空中に停止しているなど、どの分野の研究者に尋ねても答えは出てこなかった。

 それが、その未知なる存在が、よりにもよって日本と外交交渉を始めたというのが、彼らには許し難い真実である。


………

……


 アメリカ、太平洋艦隊。

 第7艦隊旗艦のロナルド・レーガン艦長、オスマン・ヘイワード海軍中将は頭を抱えていた。

 パワード大統領の命令で急遽日本の石狩沖に向かう途中、その進路を東京湾へと取り直すことになったのである。

 同時に、太平洋艦隊は日本の領海ギリギリに集結し、指示があるまで待機との命令も発令している。


「……認めたくない。あの巨大な物体はなんだ? あの機動兵器はなんだ? 我が国が勧めている『機動兵器計画ロボトロニクス』でさえ、あのような巨大な人型兵器を制御することなど、不可能なのだぞ?」

「お言葉ですが。現在の地球で、我が国のロボット兵器計画を超えるのは、日本だけです。ですが、日本があのようなものを実稼働したという報告は受けていません」

副官の報告に、オスマンは提出された資料を確認している。


 現在のロナルド・レーガンは、横須賀米軍基地に駐留している。

 その艦橋部からも、機動戦艦アマノムラクモの姿はしっかりと見えている。

 そして、日本のニュースで流れている人型機動兵器。

 これには、両手を上げて降参するしかない。


「本国からは、様子を見るようにとの話だったな」

「はい。今頃は、大統領が日本の浅生総理に連絡を行っているかと思われますが」

「すでに、我が国はあの機動戦艦に対して敵対行為をしているからな。どうにかして、その事実をなかったことにしたいのだろうが。あまりにも悪手が続きすぎているか」


 アマノムラクモの責任者が交渉のテーブルに立ったのは、日本ただ一国のみ。

 どうにかして、そこに立ちたいというのが、大統領の本音であろう。


「監視を続けるように。日本の防衛省にも連絡を。協力可能な部分については、我々アメリカも助力を惜しまないと」


 いまは、相手の動きが知りたい。

 じっと、待つ作戦しかないのだろうか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 アマノムラクモ、上部第一格納庫では。

 

「こ、これが機動兵器……」


 オクタ・ワンとトラス・ワンに監視を強化してもらい、俺はヒルデと一緒に機動兵器の格納庫に来ました。

 まあ、目的といってもさ、ブリッジのモニターから機動兵器の出撃を見せられたら、自分でも動かしたくなるのが男心ってものでしょう?


「まず。この汎用人型機動兵器の名称ですが、開発チームは『マーギア・リッター』と呼んでいます。魔導を扱う騎士、という意味だそうです」

「へぇ、これって、俺が乗っても動かせるの?」

「はい。可能です。ちなみにこのような巨大な兵器が歩行などの行動を行うと、その衝撃がパイロットに伝達してとんでもないことになる、と一般的には思われていますが、この機体については、そのようなことはありません」


 なんだと?

 ネットでよく見る『人型機動兵器はありえない』理論をいきなり否定するのかよ。


「まず、パイロットはこの専用スーツを着用します。これはドラゴンスパイダーの吐き出す繊維から作られていまして、これは人体にかかる衝撃などの負荷を軽減もしくはゼロにまで抑え込むことができます」

「それって、脳が揺れるとかも?」

「ええ。そもそもの大前提なのですが、早い話がですね『衝撃なんてなかった、いいね?』っていう魔力コーティングが施されていると思っていただけたらと」

「……それ以上、聞くのをやめていい? もしくは、簡単に説明して?」

「これを着てれば、大丈夫‼︎」


 ありがとう。

 本当に意味がわからないけど、考えるのはやめるわ。そもそも現代人の思考に、魔法だの魔導だのと言われてもさ、俺の頭の中にはそれらしい知識はあるけど、ぶつかるんだよ、現実と魔法の理論が。

 だから、深いところは考えない。

 やったらできる、それでいい。


 では、早速着込んでみるけど、見た感じは光沢処理のあるF-1ドライバースーツ。肩とか首とか胸とかの部分は生地が分厚いんだけど、だからといって体の動きが阻害されることはない。

 これって、売り出したら高く売れるんじゃないか?


「ミサキさま、よくお似合いです。では、それをミサキ様用にオンリーワン処理をしましょう。胸元にある制御装置に手を当てて、魔力を込めてください」

「ええっと、このカラータイマーというか、レンズマンのレンズというか、これ?」

「後者が近いですね、どうぞ」


 ではでは。

 右手を当てて魔力を体内から放出する。

 すると、制御装置のレンズ部分が青く光ったよ。

  

──プシュッ、プシュッ

 体の各部から魔力が吐き出す感じがする。

 スーツ全体が伸縮し、リアルタイムでサイズ調整されている感じだよ。


「はい、それでオッケーです。では、機体に案内します。量産機と専用機、あとはキャプテン用の三種類がございますが」

「俺専用でよろしく」

「では、キャプテン用ですね、こちらです」


 そのまま奥の格納庫に案内される。

 まあ、巨大なハンガーに勇者ロボが立っているという認識でいいと思うよ、この外見だと。

 

 全高25mのごっついマーギア・リッター。

 胸部にコクピットがあり、ハンガー横の搭乗用デッキから移動して乗ることができるらしい。

 そのままヒルデに手を引かれてコクピットに移動したら、胸部ハッチが自動的に展開した。


「へぇ。中身は普通のロボアニメのようなコクピットなのか。操縦はどうやって?」

「まず、シートに座ってください」


 ふむふむ。

 ヒルデの説明通りにやってみますか。

 シートに座ったら、まずは初期システムの稼働か。

 俺の保有魔力波長をマーギア・リッターに登録すると、シートが一瞬、浮かんだように感じた。


「コクピットシステムは、機体胸部内部に浮かんでいます。コクピットハッチが開いているときは外部装甲と接続していますが、ハッチを閉じると、水の入った水晶球の中心に浮かんでいるような感じに独立浮遊します」


 へえ。

 そして、操縦方法はというと、左右のレバーを握ると、そこから俺の魔力が機体の魔導神経節と接続するらしい。

 その時点で、俺の体も機体と同化するので、俺が普段、体を動かすように念じれば動く。

 というか、体を動かす感覚で機体も動く。

 頭を左右に振れば機体の頭が左右に動く。

 完全同化してますなぁ。


「……絶句しますね。こんなに簡単に動かせるとは、予想外です」

「装備は?」

「基本装備は、ありません。魔法の発動により、この機体は魔法兵器を操ります。具体的には、ウェポンラックというコマンドで武装一覧が表示されますので、あとは使うイメージです」


 ひやぁぁぁぁ。

 ここで、俺の魔法が火を吹くぜ‼︎

 ウェポンラックを見ると、『ブラストナックル』とか、『ツイン・ファイヤーボールキャノン』とか、『魔導剣ソーマカイザー』なんてものもある。

 あるんだけどさ。


「あの、ヒルデさんや。装備の横に『マスターは使えません』って表示されているのはなんで?」

「ま、誠に申し訳ありません。マスターは魔法使いではなく錬金術師ですので、魔法兵装は使えないようです」


──ゲッ‼︎ ガーン‼︎

「な、なんてこった……俺の武器はないのか」

『ピッ……登録兵装をコンバートします』


 あ、なんか聞こえたと思ったら、機体のあちこちから音がするんだけど。

 そして5分ほどで、音が止んだわ。


『ピッ……コンバート完了。装備の統合により、マスターの使える新装備『神の左手、悪魔の右手』が形成されました』


 あ〜、ヘルアンドヘブンか。


『ピッ……違います。危険だから、その呼称は使わないでください。マスターの持つ錬金術式を、そのまま機体が増幅し顕現化するのが『神の左手、悪魔の右手』です』

「ふむふむ。そういうことなら」


 試しに機体とリンクする。

 そして右手を前に差し出し、指先から魔力を放出して『分解』の術式を空中に書き込む。


──シャルルルルッ

 すると、空中に光る魔術式が浮かび上がった。


『ピッ。右腕に魔力を注ぐことで、右腕は『分解術式』を、左腕は『融合術式』を使用することができます。また、今のように外部放出することで、対象に向けて飛ばすこともできます』

「なるほどなぁ……勇者シリーズのように地面から巨大な剣を生み出すことはできないけど、これはこれで面白いぞ」


 なんだかワクワクが止まらないのだが、足元でヒルデが何かを叫んでいるのに気がついた。


「音を拾う……耳か。まだ調整してないからなぁ……」


 意識をそちらに向けると、ヒルデが俺を呼んでいるのに気がついた。


「日本政府からの連絡です、至急、ブリッジに来てくださいとのことです」

「了解。すぐにいくわ」


 コクピットから外に出て、さて、急いでブリッジに戻るとしましょうか。

 今が午後八時だから、何か進展でもあったのかな?



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 機動戦艦アマノムラクモに日本政府からの連絡が入る二時間前。


 国会議事堂には、外交ナンバーをつけた大型車が次々と集まっていた。

 アメリカ、ロシア、中国、韓国、イギリスetc。

 まるで外車の博覧会ともいえないこともないような状況ではあるが、車から出てきた各国の大使は真剣な面持ちで国会議事堂に歩んでいく。


 そして、急遽用意された委員室に案内されると、各国大使は先について待っていた。

 各国の大使たちが、日本がなぜ単独で機動戦艦と接触し話し合いの場を設けたのか、その理由を説明してもらうために集まったのである。

 日本政府としても、後日改めて連絡をという日本式スタイルで誤魔化そうとしたのであるが、各国が協力してその意見をつっぱね、今日、すぐに話をしろと外務省に詰め寄ったのである。

 結果、これ以上の時間の引き伸ばしは不可能だとき判断した日本政府が、夕方六時に会見と質問の場を持つからということで騒動は収まり、今、このような状態である。


………

……


 六時。

 外務省の政務官の一人が壇上に立つと、軽く一礼をして話を始める。


「皆さま、このような状況でお集まりいただき誠に申し訳ございません。では、こちらの現状をご報告します」


 隠し事をするほどではないという政府の判断から、政務官は与えられた報告書をもとに説明を開始する。

 それは、今日の話し合いの全てが網羅されており、日本政府もこれ以上の情報がないことを改めて説明した。


「なるほど。では、日本政府としては、あの未確認機動戦艦との条約を結ぶということなのですか?」

「そのように検討しています」

「我が国も、その条約については興味があります。日本が交渉権を持っているのではなく、たまたま、日本政府が最初に連絡が取れただけですよね?」

「……そうです。今回の件では、すべての国が等しく交渉権を持っているとは思います。日本政府としても、今後の対応について現在も協議中です」


 話すことは話し終えた、あとは『現在、協議中です』という言葉を返していればいい。

 現時点では、あの機動戦艦は日本の領土内にあるので、他国といえども軍事的侵攻は行うことはできない。

 

「現在、国連の安全保障理事会で、この機動戦艦の対応について協議しています。現時点では、彼らの持つ技術力は脅威以外なにものでもないため、軍事的排除を行う可能性がありますが」


 在日中国大使が笑顔で宣言する。

 それに同調するように、在日米大使や在日ロシア大使も腕を組んで頷いていた。


「それはつまり、日本を攻撃すると?」

「まさか。我々のターゲットは機動戦艦だけです。そのための国連平和維持軍の派遣を行うかどうか、その話し合いが行われているだけですよ」


 つまり、日本に国連軍を派遣する。

 そういうことだから、この話は納得しろよ。

 常任理事国は、そう揺さぶりをかけてきたのである。


「そ、そんなバカな話が成立すると?」

「成立しますよ。一両日中には、国連軍の派遣は決まるでしょう。その後については.まあ、東京都から国民を避難させた方が宜しいかと思いますが?」


 中国大使が手を叩きながら話をする。 

 これには、アメリカやロシアなど、他の常任理事国大使は何も言わない。

 中国以外は、機動戦艦さえどうにかなればいい、せめて残骸でも回収できれば程度の考えであるが、中国は違う。

 このタイミングで、正当性を訴えながら、ついでに日本を堂々と攻撃できる。

 そんなことを大使が判断して、この場で宣言している時点で危険である。

 中国本国からの命令では、できる限りの譲渡案を引っ張ってこいとしか指示されていない。

 完全に、大使の暴走による宣戦布告のようなものである。


(あの中国大使……終わったな)

(帰国したら粛清されるのがオチだろうが)

(功を焦ったのか、はたまた国家に忠誠を尽くしているのか……どの道、無策としかいえないか)

(国連平和維持軍は、国を攻撃するために来るんじゃない。あの大使は根幹から間違っている)


 哀れみの目を向けられている中国大使。

 だが、本人はそんなことに気づく様子もなく、やり遂げた感満載の笑みを浮かべて、椅子に座って踏ん反り返っていた。

 そして、説明会も終わり、各国の大使たちが帰路につく。

 遠目に、機動戦艦を眺めつつ。



 

 

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