85話
「悠弥、あーんして!」
道の駅についてオリジナルデザートに釣られて入ったカフェにて深愛姉は注文したみたらしパフェの抹茶アイスの部分を専用スプーンで掬うと俺の方に差し出してくるが……
「もうちょい後にしてくれ……」
「後でもいいけど、なくなっちゃうよ?」
目の前の姉は残念そうな顔をするが、むしろ今の俺にとっては好都合である。
……さすがに山菜うどんと食べながら甘ったるいパフェを食べるのは舌と胃腸がとんでもないことになりそうだからだ。
それとだ、深愛姉の声が大きいせいか、周りの人たちがチラチラと俺たちの方を見ていた。中には爆破で吹っ飛ぶのを望んでいるような声も聞こえる。
「俺の方はいいから、深愛姉は自分の方を食べきってくれ」
そう言って俺はうどんを啜っていった。
「美味しかったね!」
会計を済ませて外に出る俺と深愛姉。
「……そうだな」
深愛姉の話に俺はお腹を押さえながら答える。
山菜うどんを食べ終わったまではよかった。なかなかのコシのあるうどんで食べ応えもバッチリと言えるものだった。
——満足していた俺をみたらし団子の山が待ち構えていた。
いつも通りだが、深愛姉が食べきれなくなったものを食べることになり、毎度の如く、胃の許容量を超えるギリギリになってしまっていた。
……深月さんに「悠弥くんふっくらしたわね」と言われたことを思い出す。そろそろ本格的に運動しなければマズいかもしれない。
「ねえねえ悠弥、あっちにハイキングコースがあるんだって」
俺が脇腹を掴みながら考えていると、深愛姉はお店の裏手の方を指さしていた。
指していたのは『ハイキングコースの道のり』と書かれた立て看板。
裏手にある山を登っていくコースになり、頂上では絶景をみながら足湯に浸かることができるようだ。
「せっかくだから行ってみようよ!」
看板をみた深愛姉は待ちきれないといった顔をしていたが……
俺はスマホの画面を深愛姉にみせる。
「今から行ったら帰るのが夜遅くになるぞ」
スマホの画面ではもうすぐおやつの時間を迎えそうな時刻が表示されていた。
看板には片道90分ほどと書かれており、今から行ってすぐ戻ってくるだけでも夕方になる時刻になる。
……それに深愛姉のことだ絶景を目の当たりにしたら撮影タイムが始まるに違いない。軽く計算してもプラス2時間はかかるだろう。
さすがに乗りたてで夜遅く、しかも山道を運転するのはさすがに危険すぎる。
「そうだね、まだ夏休みもあるしまた今度にしようか!」
「そうだな、来る時は琴葉さんと——」
「——もちろん悠弥も一緒にね」
……どうやら俺に引き篭もる権利はないようだ。
帰りは行きよりも車通りが少なかったためか、大きなハプニングもなく帰宅することができた。
リビングに行くと、父親と深月さんが帰ってきており、特に父親は俺たちが無事に帰ってくるか心配で夕飯しか食べれないとくだらない冗談を話していた。俺と深月さんは盛大に呆れていたのは言うまでもない。
夕飯と風呂を済ませた俺は自分の部屋に戻り、ゲームを——
——することもなくそのままベッドに飛び込んで寝てしまっていた。
気づいていないところで、どうやら気が張っていたらしい。
それから数日後。
「深愛っち、どうして君はそういう格好をするんだね?」
「せっかく欲しかった水着買ったんだし着ないと損でしょ?」
俺は海水浴場にいた。
もちろん、自分が好んで来たわけではない。
深愛姉の車の練習というのを誇示づけて遊びに来ていた。
ちなみに琴葉と習志野は深愛姉が呼び、理人は俺が声をかけた。
理由としては5人いれば今、俺がいる海の家の一区画を格安で長時間使うことができるからという人数合わせのため。
「香取泳げないってマジうけるんだけどー!」
「うるせー胸もないくせに泳げるだけでマウントとってんじゃねーよ!」
「うっわ、泳げないくせに星人とか救いようなくね!?」
俺の目の前では深愛姉と琴葉、理人と習志野がそれぞれペアになって海水浴を楽しんでいた。
「……何でみんなこの暑い中いられるんだよ」
照りつける太陽の熱視線と蒸し暑さに耐えることができなかった俺は海の家で涼んでいた。
昔から皮膚が弱いのか日焼けすると体中真っ赤になり、元に戻るまで泣き叫ぶような苦しみしかないので、海水浴など数えるほどしか行ったことがなかった。
……バイクの免許を取ってからは海岸線を走ることはあるが。
「あ、いたいた!」
スマホを見ながら時間を潰していると紺色のフリルがついた水着姿の深愛姉がバスタオルで髪の毛を拭きながら戻ってきていた。
「せっかく海にきたのに何で泳がないの?」
「めんどくさいからいい」
「えー、せっかく海に来たのにもったいないよー」
俺は仕方なく深愛姉に過去の事例を話すことにした。
聞いた深愛姉は「そうなんだ」と口にしていた。いつもなら無理矢理でも連れて行くのに珍しいこともあるものだ。
「そういや琴葉さんは? さっきまで一緒にいた気がしたけど」
「あそこでナギちゃんと理人くんと一緒にいるよ」
そう言って深愛姉が3人がいるほうを指さす。
琴葉と習志野の2人が理人を海の中へ引き摺り込もうとしていた。
「ちょっと待って! これ以上は無理ですから!」
「怖がっていたら何も始まらないぞ友達クン、お姉さんを信じるんだ」
「うっわ、香取何その情けない顔、写メとるしかないじゃん!」
「ふざけんな! ってかクラスメイトを助けろよ!」
……距離が離れているので何を話しているのか定かではないが、理人が女性と遊べて喜んでいるのは理解できた。そっとしておいてやろう。
「ねえ、悠弥……」
水着の上から白いパーカーを着た深愛姉は俺の前の席に座る。
「どうしたんだ?」
深愛姉は真剣な表情で俺の顔を見ていた。
「ありがとう」
「え……あ、うん」
突然のことで俺は何を言えばいいのかわからなくなり、変な返事をしてしまう。
「な、何だよ突然……」
「ずっと悠弥に言おうと思ってたことなんだけどね」
深愛姉は少し顔を赤くしながら話を続ける。
「7月のあの件とか免許とか、悠弥がいなかったらできなかったと思うの」
「……そうか?」
俺は喉の渇きを感じて目の前のアイスコーヒーを口につける。
……なんか急に喉が渇いた。急に。
「それにね、私は悠弥がいたからもう一度『姉』になることもできたんだし!」
深愛姉は下を向いてぶつぶつとつぶやいていた。
「ほ、ホントはもっと早く言おうと思ったんだけどね」
手をうちわのようにパタパタと顔の付近を仰ぐ深愛姉。
「な、何て言うのかな! こう! 海のように開放的にならないと言えなかったの!」
そう言って深愛姉は目の前にあった俺のアイスコーヒーをとり、一気に飲み干してしまった。
「俺のアイスコーヒー!?」
「あー! 苦いよー! 何でお砂糖いれてないのー!」
「コーヒー豆挽き立ての味が好きなんだからいいだろ!」
……っていうか単なる甘いコーヒーが苦手なだけだ。
「……こんなお姉ちゃんだけど、大丈夫かな?」
リンゴのように顔を真っ赤にしながら小さな声で話す深愛姉
「大丈夫もなにも、それが深愛姉だろ……?」
「もー! 絶対にバカにしてるでしょー!」
食料を口の中に溜め込む小動物のように頬を膨らませて睨む深愛姉
すぐにふふっと笑い出していた。
「ってかさ、喉渇いたよね、何か頼もうよ!」
「俺は誰かが勝手に飲んだアイスコーヒー」
深愛姉はメニューを開くと同時に、手を上げてスタッフを呼んでいた。
「アイスコーヒーと塩キャラメルプリンください!」
「喉渇いたんじゃないのかよ……」
深愛姉の返答に対してため息をつく俺。
ただ、呆れるといった気持ちは一切ないのはたしかだ。
「……深愛姉」
「どうしたの?」
「……こんな弟でよければこれからもよろしくな」
「うん!」
迷いがない笑顔で深愛姉は大きな声で返事をしていた。
「あー! 深愛さんいたっス!」
「何だ弟クン、邪魔しちゃったかな?」
「ゆうやー! 頼むからかわってくれよー!」
しばらくして、遠くではしゃいでいた3人が海の家にやってきていた。
「それじゃもう一回海で遊ぶよー!」
「いってらっしゃーい」
「って悠弥もだよ!?」
そう言って深愛姉は俺の腕を掴んでいった。
……俺に拒否する権利はどうやらないようだ。
——風呂の時は覚悟決めるか。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回は8/3(水)に投稿予定です
お楽しみに!
P.S
次回ついに感動(?)のフィナーレ!?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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