84話
「183……! 表示されたよ!!」
夏真っ盛り、夏本番の8月の第1週のある日のこと。
『183』と書かれた小さな紙を持っていた深愛姉は電光掲示板に表示された同じ番号を見つけると、大声を上げて喜んでいた。
「よかったな……って苦しいから俺に抱きついたまま飛び跳ねるな!」
「嬉しいんだからいいでしょ!」
深愛姉の理不尽というべきか、毎度のように発せられる返答に俺はため息をつく。
大勢が賑わう試験場でため息をつくのは試験で落ちた人間と俺ぐらいだろう。
「じゃーん! 見てみて私の免許証!」
合格者の発表後、気が遠くなるほどの手続きを終え、免許証を持った深愛姉は戻ってくるなり、俺に免許証を見せてきた。
「おめでとう、一発で受かって良かったな」
「うん、もう当分の間、参考書はみたくないよ!」
「……それは同感だな」
俺は中型バイクで免許を持っているので車の免許を取る時は教習所の卒業だけで大丈夫だったはず。
……っていうか学科をもう一度やれと言われたら一発で受かる気がしない。
「それにしても……」
「どうしたの?」
「……やっぱ変な顔になってるな」
免許証の顔写真の部分に目を向けていた。
写真の深愛姉は何かに驚いたような顔をしていた。
「ママとカズさんに言われたから、絶対に可愛く撮ってもらおうと思ってポーズ決めたのに怒られたよ。早くしろって」
深愛姉は残念そうな表情をしていた。
ちなみに俺は何かを睨み付けるような顔をしている。
理人にみせたら犯罪者がここにいると指差して笑い転げていたな
……思い出したら腹がたってきた。
「終わったし、家に帰ろうよ、お腹も空いたし!」
「そういや俺も食ってなかったな……」
本来であれば今日は家にいるつもりだったが、深愛姉が寝坊したためバイクで送る羽目になってしまっていた。
おかげで朝から何も食べていないのである。
試験場のバイク置き場で深愛姉にヘルメットを渡して、後部座席に乗ったことを確認してからバイクのエンジンをかけて発進した。
……そういえば最近、深愛姉のが当たることに何も抵抗がなくなってきたことに気づく。慣れって恐ろしいな。
試験場から家まではそれなりに距離があり、帰る頃にはお昼を過ぎていた。
夜になって父親と深月さんが帰宅し、深愛姉が嬉しそうに免許を取ったことを伝えていた。
「おお! よかったじゃないか深愛ちゃん!」
「カズさん、ありがとう!」
「お願いだから事故を起こさないでね」
「もう! 何でママはそういうネガティブなこと言うの!」
夕飯の登板の俺は3人の会話を聞きながら適当に鍋に入れた肉や野菜を強火で炒めていた。
「練習がてら明日早速乗ってみるかい?」
「いいの?」
「せっかく取ったのに運転しないのはもったいないからね」
「嬉しいけど、カズさんもママも明日仕事だよね?」
「そうだね、俺と深月さんは無理だけど……」
父親の会話が止まった直後、刺さるような視線を感じる。
「悠弥はどうせ暇だと思うし、付き合ってもらったらどうだい?」
……いや、何を言っているのか理解しかねるんだけど?
「そうだね! 悠弥も免許持ってるし!」
「俺が持ってるのは車のじゃなくて中型バイクだ!」
ちょうど炒め終わったので、火を消すと同時に叫んでいた。
「えー! 免許には変わりはないでしょ?」
「……全然違うだろ、何かあった時何もできないぞ」
「助手席で横を見てくれるだけでも助かるよ!」
「……助けること前提かよ」
炒めたものを皿に装いずつ、反論を続けていく。
今回は絶対に負けないぞと思っていたが、思わぬところで父親が深愛姉の味方になったことでいつものように完敗することに。
「……父さん」
「どうした?」
「事故にあって俺が帰らぬ人になったら毎日枕元に立ってやるから覚悟しとけよ」
ごはん山盛りにした茶碗を父親の目の前に置きながら俺は低い声でそう告げる。
「シートベルトはしてるね、それじゃ出発するよー!」
次の日の朝、毎度のように朝早くから深愛姉に叩き起こされ練習という名のドライブに付き合わされることになった。
「……それでどこに行くんだ?」
シートベルトをしっかり締め、ナビで目的地を設定をしていた。
「悠弥と最初にバイクで走ったところかな? カズさんがあそこなら車の練習にはもってこいって言ってたよ」
「……バイクならいいけど車はキツいと思うけどな」
かと言って他に練習になりそうなところを知っているわけではなかったので、俺のバイクでのツーリングコースを行くことになった。
「……無事に帰って来れるよな」
「もー! そういうこと言わないの! お姉ちゃんの腕を信じるの!」
「……まだ免許とって2日目の人に言われても説得力ないんだけど」
車は順調に市街を抜け、何事もなく走っていき、ビルや店舗だらけの風景はいつの間にか山や田畑が並ぶ田園風景へと変わっていった。
深愛姉の運転は想像していた以上に安定しており、最初は窓の上にあるグリップをがっちりと掴んでいたが、いつの間にかグリップから手を離してスマホを見ていられる余裕までできていた。
「どう? 運転上手でしょ?」
休憩のために立ち寄ったコンビニのイートインコーナーでペットボトルのお茶を飲みながら深愛姉が自信たっぷりな表情で俺の顔をみていた。
「言っておくが、ここまでは道が広いから問題ないと思うけど、この先は急に道が狭くなるから覚悟しておけよ」
俺の返答に対して深愛姉は「私に任せなさい」と言わんばかりな自信たっぷりな表情をしていた。
——って思っていたのも束の間。
先ほどのコンビニに車では法定速度を守ったスピードで走っていたが、徐々に道が狭くなき、すぐとなりは崖という教習所では走ることのない道を走っていったためか、スピードは法定速度以下で走っていた。
「ちょっと! 道が狭いのに対向車が来ちゃった!」
「左側余裕あるから左側に車を寄せて、相手を先に行かせる!」
時には俺が車から降りて、誘導したりと様々なトラブルに遭遇しながらも車や俺らの体に損傷を負うような事態は起きることなく、次の休憩場所である道の駅に到着した。
「……相変わらず人がいるな」
駐車場に車を停めてから降り、辺りを見るとライダースーツに身を包んだライダーや、親子連れ、アウトドアに必要な炭や食べ物を買う人で溢れかえっていた。
「つかれたぁ……」
運転席から出てきた深愛姉は少し疲れた顔をしていた。
スマホで時間をみると、お昼を少し過ぎていたのでお腹が空いたのかもしれないが
「あ! みたらしパフェだって!」
道の駅の案内に載っていたメニューをみた深愛姉は疲れで曇っていた顔が一瞬で今日の空のように晴れ渡った表情になっていた。
「お腹も空いたし、あの店で休憩しようよ!」
「わかったから服を引っ張るな……!」
俺は深愛姉に半ば引っ張られるように店の中へと入っていった。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
次回は7/30(土)に投稿予定です
お楽しみに!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
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