最終話


 「……俺の夏休みもあと数時間」

 「もー! そういうこと言わないの!」


 まだギリギリ午前と呼べる時間に起き、リビングに入ると深愛姉は既に着替えを済ませたのか、オフショルダー型のワンピースにジーパン姿でソファに座ってテレビを見ていた。


 「明日から新学期が始まりますが、宿題は済ませましたか? 僕の子供は終わっていないようで泣き泣き宿題やってますよ」


 テレビでは報道番組が始まり、冒頭から俺が聴きたくなかったワードがひっきりなしに飛び交っていた。


 「……着替えてくるか、ここにいたら生きるのが嫌になりそうだ」





 着替えを終えて、朝食兼昼食を摂るために再びリビングに戻る。

 ちなみに今日はどこも出かける気はないのでTシャツにジーパン姿。

 そもそも着替える必要もあるのかと思ったが、洗濯物が終わらないと深愛姉に以前怒られたことがあるので、着替えることにしている。


 「悠弥、お腹空いたでしょ? 冷蔵庫にヨーグルトがあるから食べちゃってー!」

 「何でヨーグルト……」 


 そう言いながらも冷蔵庫を開けて真ん中に堂々と陣取っているカップ型のヨーグルトを取り出す。蓋をみると賞味期限が今日だったことに気づく。


 「……ってこれ、前に深愛姉が買ってきたやつだろ?」


 それを聞いた深愛姉はバツが悪そうな顔で俺から顔を逸らす。

 ちなみにキッチンテーブルには『黒胡麻&生クリームたっぷりプリン』と書かれたカップが置かれていた。


 俺はいつもの場所に座り、勢いよく蓋をとってヨーグルトを食べていった。


 

 ヨーグルトを完食すると、すぐに自分の部屋に戻っていった。

 深愛姉はどうやら撮り溜めていたドラマを今日中に見なければと意気込んでいた。当分の間2階に上がってくることはないだろう。


 部屋に入るとヘッドフォンをつけてPCを立ち上げてゲームにログインをする。

 夏休み最終日ということもあってか、ログインしているフレンドは少なかった。いつもなら理人が確実にいるが、宿題に追われていてゲームどころではないようだ。

 ちなみにそれは昨日の夜中にLIMEで連絡がきていた。

 一言『がんばれ』とだけ返して以降何も送っていない。


 日課であるデイリーミッションを済ませて、何をしようか悩んでいるとゲームのログにスライドしたことに気づく。そちらに目をやると


 『ユーイさんがログインしました』


と表示されていた。


 「……唯香さん、まだプレイしていたのか」


 あれ以降、ログインをしていなかったので、てっきりやめたと思っていた。

 

 Yu-i

 『あ、ゆうねるくんお久しぶり』


 俺がログインしていることに気づいてDMで話しかけてきた。


 『お久しぶりです』


 すぐに返信をする。

 ……以前なら無視をするかすぐにログアウトをしていたなと思わず笑ってしまう。


 Yu-i

 『よかったら、素材集め手伝って欲しいんだけど時間ある?』


 やることもなかったので暇つぶしにはちょうどいいかと思い

 『いいですよ』と返そうとしたが……


 Yu-i

 『あ、ごめん! 1つ課題提出忘れてたから落ちるね!』


 そう返ってくると同時に唯香さんのステータスがログオフに切り替わった。


 「……まあいいか」


 その後はやることもなく誰もログインしてこなかったので、ログアウトして、ヘッドフォンを外すと椅子の背もたれに全体重を乗せる。


 スマホを見ると、時刻は夕方になろうとしていた。

 

 「今日もあと僅か……」


 ため息をつくと、机に置いたスマホがガタガタと震え出していた。

 手にとって画面を見ると、予約していた漫画が入荷したという本屋からのメールだった。


 「……そういや今日だったか、忙しすぎて忘れてたな」


 最近は深愛姉に色々と車で付き合わされたりでこうやって家でゆっくりするのも久々な感じがしていた。


 今日は夏休み最後だし、疲れも溜まっているから家でゆっくりしようと思っていた。


 「……受け取りに行くか」


 明日の学校帰りでもいいかと思いながらも、やっぱり集めている漫画でずっと続きが気になるので、受け取ってすぐに帰ってこよう。

そう決めて、財布とスマホを持って、部屋から出ていく。


 階段を降りると、リビングから人気俳優の叫ぶ声が漏れていた。

 話の感じから話のクライマックスのようだ。

 そのまま玄関に向かって外にでていく。


 「……微妙な雲だな」


 外に出て空を見上げるとどんよりとした雲が空を覆い尽くしていた。


 「すぐには降らないだろ……」

 

 そのまま、ショッピングモールに向かって歩き出していく。

 

 いつも乗っているバイクは車検が近いこともあり、来週でも問題はなかったが、明日は外にでることもないだろうと思って、昨日のうちに車検にだしていた。


 ショッピングモールに行く途中であるカフェの看板に目が行く。

 

 ——以前、市川大地と話をしたカフェだった。

 看板には『夏休みラストスパート! 宿題応援パックやってます』と書かれている。

 窓から店内を見ると、同じ年代の生徒たちが長いタンブラー片手にテーブルにおかれた本やプリントを睨んでいた。


 ちなみに市川大地だが、夏休みに一度だけ深愛姉に再アタックをしてきていた。

 何故かその様子を俺は琴葉と遠くで見ていたが、相変わらずのヘタレっぷりと深愛姉の壊滅的な鈍さが変な感じに絡み合った結果、大地の惨敗に終わったのである。

 

 「……さすがの私でもこれは市川氏に同情したくなるな」

 

 俺の横で見ていた琴葉もさすがに大地に同情したくなるほど非情な終わり方だった。

 ただ俺は、これでよかったと安心していた。



 

 モールの中に入り、他の店舗に目もくれずに本屋へ直行をした。

 レジで予約番号を店員に告げて、目的の漫画を手に入れて帰ろうと思っていたが……


 ——外に出たら無情にも大量の雨が落ち始めていた。


 「……絶対に今日の俺の運勢、最下位だろ」


 モールの入り口でため息をつきながら、頭を抱えていた。

 傘を買うにしてもモール内で販売している傘はコンビニのビニール傘のようなお手軽価格ではない、ついでにいうとコンビニは距離が離れており行ったとしてもずぶ濡れになるのは確実だった。


 ……しばらく悩んでいたが解決策が見つかるはずもなく、しかも雨はだんだんと強くなっていた。


 「仕方ない覚悟を決めるか……」


 戦場に飛び込む映画の主人公のようにゆっくりと外に出ようとした時

ポケットに押し込んでいたスマホが震え出していた。

 取り出して、画面を見ると……


 Mio Sakura

 『そこの君、暇だよね? よかったら私と一緒に遊ばない?』


 どこかで聞いたような内容のLIMEが送られていた。


 「……何を言っているんだ」


 ため息混じりに返そうとした時、すぐに深愛姉が送ってきた。


 Mio Sakura

 『モールの1階入り口に車止めたよー』


 その文面を見た時に、内心『神かよ』とLIMEに送りそうになっていた


 『わかった、今すぐ行く』


 もちろん、恥ずかしくて送ることができなかったので、いつも通りのテキストを送って深愛姉がいる場所に向かって走っていった。


 


 「もー! 家にいなくてびっくりしたよ、何で声かけてくれなかったの!」


 車に乗るなり、深愛姉は小動物の如く、頬を膨らませながら怒っていた。


 「だって溜め込んでたドラマを見るって言ってたし、邪魔しちゃ悪いだろうと思ったんだよ」


 シートベルトをホルダーに入れる。


 「……でもありがとう、助かったよ」

 

 小さな声でそう告げると深愛姉はニコッとした表情になり

 車を発進させていく。


 「それにしてもよくここだとわかったな」

 「だって、今日でしょ? 悠弥が好きな漫画の発売日」

 「……そうだけど、話したっけ?」

 「この前のLIMEのアプデでメールとカレンダーと同期したんだって」


 つまりは、メールを使って予約をしたことにより自動的にカレンダーに登録されていたようで、最近のLIMEのアプデでカレンダーのデータを読み込むようになって、家族内で使ってるLIMEのルームに表示されるようになったとか……。


 LIMEを開き、ログを追っていると『ドラグーンスフィア15巻発売日!』と書かれていた。


 マジかよと思いながらも、そのおかげでずぶ濡れにならなくて済んだのだから良しとしよう……。


 「そうそう、この足でカズさんとママも迎えに行っちゃうから! 2人とも傘忘れてたんだって」

 

 いつもの俺なら何をやっているんだよと言いたいが今日に限っては仕方ないよな……と思うことしかできなかった。


 「ついでに夕飯も外で食べちゃおうって!」

 「お、いいね」

 「なので、今から向かうってLIME送っておいてー」 

 「わかった」


 俺は深愛姉の指示に従い、LIMEを送る。




 「ねえ、悠弥……」

 

 目の前の信号が赤になったので車を止めると深愛姉が話しかけてきた


 「どうした……?」

 

 俺は運転席に座る深愛姉の方をみる。


 「……明日から新学期だね」

 「そうだな?」

 

 車内にある時計を見るともうすぐ夕方が終わりを迎えようとする時刻だった。


 「悠弥は2学期の目標とかあるの?」

 「……特に考えてないな」


 中には大学受験のことを考えるのもいるようだけど、それは行きたい大学があるからだと思うが、俺は現状において、行きたいと思う大学があるわけではない。

 一応大学への進学をするつもりではあるが……


 「そういう深愛姉はどうなんだ?」

 「私?」

  

 俺が反対に問いかけると深愛姉はすぐに笑顔で俺の方を向く。


 「私はこれからも琴葉、ナギちゃんと一緒に遊ぶのが目標かな」

 

 思ったよりもわかりやすい答えが返ってきた。


 「もちろん悠弥とも……だからね!」

 

 そう告げると同時に信号が青に変わったので車を発進させる。


 「はいはい、俺の場合は強制的にだろ?」

 「もー! いつまで経っても悠弥は捻くれ者なんだから!」

 

 狭い車の中で深愛姉の叫び声が響きわたる。

 それを俺は微笑ましくみていた。


 ——俺もずっと一緒にいたいと思いながら


Fin.


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


半年近くにわたり、お応援いただきましてありがとうございました!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

最後になりますが読者の皆様に作者から大切なお願いです。


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「続きが気になる」

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などと少しでも思っていただけましたら、


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次回作については未定ですが、できるだけ早くお知らせできればと思っていますので、長い目で見てもらえると助かります!


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