81話


 「悠弥、寝ちゃった……?」


 深愛姉の話が終わった後、俺は黙っていた。

っていうよりも下手なことを口にするのはどうかなと考えてしまっていた。


 「……起きてるよ、ちょっと色々考えてた」

 「……何を?」

 「深愛姉のこと……かな」

 「……今どきのドラマでもそんなセリフでてこないよ」


 深愛姉はつぶやくような小さな声でふふっと笑っていた。

 

 側から聞いてれば何を言っているんだと思うかもしれないが

実際に深愛姉のことを考えていた。

 いつも楽しそうに過ごしている深愛姉からは想像を絶するほどの壮絶な人生を送っていたなんて……


 そして、話を聞いている分には深愛姉が栄一さんのことを嫌う気持ちはわからなくもない。

 だからって、深愛姉のやろうとしていることに賛同することはできなかった。


 「深愛姉……」

 「なに……?」


 深愛姉は俺の顔をじっと見ていた。


 「……深愛姉が栄一さんを嫌う気持ちはわかるよ」

 「……うん、ありがとう」

 「——それでも、やっぱり栄一さんを助けてあげてほしいんだ……」


 俺の言葉を聞いた深愛姉は体を震わせながら腕を掴む力を強めていた。


 「なんで……?」

 

 深愛姉は声を震わせる。


 「あの男は苦しんでいる大翔を見捨てたし、私やママ、大翔よりも自分の母親を選んだんだよ……!」


 深愛姉の体がさっきよりも震えが大きくなっていた。


 「それなのに、なんで私が助けなきゃいけないの……!」


 俺の顔を睨むように見る深愛姉。

 また泣き出したせいか、目は真っ赤になり目尻には大量の涙がたまっていた。


 「ねえ、悠弥……! 答えてよ……!」


 目尻に溜まっていた涙が頬を伝って流れだしていた。

深愛姉はそれを拭うことなく俺の体を揺すってくる。


 「深愛姉……!」


 俺は深愛姉の方を掴み、自分の正面を向かせる。

 急なことで深愛姉は驚いた顔をしていた。


 「深愛姉がしていることは、大翔さんを対して何もしなかった栄一さんと同じことをしようとしてるからだよ……」


 声を強めて答えるとそのまま深愛姉の体を抱きしめる。


「俺は深愛姉に人の命を見捨てるような人になってほしくないんだ……!」


 どう伝えようか悩み、言うことはできなかったがいつかそのことで後悔するんじゃないかと思ってはいた。


 俺の言葉に反応して深愛姉は息を詰まらせながら泣いていた。


「だって……! あの男は……大翔を……私の大好きな弟を……!」


 深愛姉の顔を見ると、涙でくしゃくしゃになっていた。

 俺は抱き締める力を弱め、深愛姉の体を再度、正面にだしてコツンと自分と深愛姉の額をあわせる。


 ――まさか自分がこれをする日がくるなんて

 

 「……深愛姉には俺がいる」


 そして静かに目をとじて深愛姉に言い聞かせるように呟く

 ……ドクドクと心臓が激しく脈打たせながら。


 「俺は大翔さんにはなれないし、ましてや血のつながりなんてない」


 俺と深愛姉は義理の姉弟だ、つい最近まで単なる赤の他人だった。

 ……ましてや俺は彼女のことを疎ましく思っていた。それは事実であり今更否定するきなどない。


 でも、一緒に暮らしていくうちに、自分でも笑ってしまうぐらい

深愛姉と一緒にいたいと思うようになっていた。

 ……理由はなんだろうな、単なる寂しさから? 唯香さんの件で助けてもらったから? もしかしたら深愛姉のことを……


 ——いや、選ぶ必要なんてない。


 「……そんなのは関係ない……『佐倉』深愛は俺の姉であり俺、佐倉悠弥は深愛姉の弟だ」


 ——理由はこれで充分。


 「俺は深愛姉の弟として……姉が救える命を見捨てて平然としている姉になってもらいたくないんだ……」


 そう伝えると俺は額を放す。


 「ゆう……や……」


 深愛姉は目を開けると同時に彼女の目尻にはまた、大量の涙が溜まっていた。


 「あり……がと……うわあああああああ……!!!」


 深愛姉は俺の胸に顔を埋めて大きな声を上げて泣いていた。

俺は何も言わず深愛姉の頭を撫でていた。


 



 「……悠弥」


 しばらく泣き続けていた深愛姉だが、泣き疲れたのか、泣きっぱなしで涙が枯れたか、知る由もないがゆっくりと顔を上げて俺の顔をみていた。

 なんかさっきより表情が明るくなったようにも見えた。


 「ありがとう。 おまじない効いたよ」


 顔はクシャクシャになっているが深愛姉はいつもの笑顔になっていた。

俺はその表情をみて安堵する。


 「それはよかったな」

 「もしかして照れてる?」

 「……いつも通りだろ?」

 「ふふっ……そうだね」


 ふふっと笑うと深愛姉は俺から離れると立ち上がる。


 「それにしても、悠弥があのおまじないを使うなんて思いもしなかったよ」

 

 それは俺も同感だ。

 あの時は深愛姉にされて、色々と整理することができたが、まさか深愛姉にするとは考えもしなかった。


 「勢いで私にチューしてもよかったんだよ?」


 深愛姉は人差し指を唇にあてながらニヤニヤとした表情で俺を見ていた。

 ……まったく、さっきまで泣いてたとは思えないぐらいの豹変っぷりだな。


 「姉にそんなことする弟がいるか……」


 俺はため息混じりに返す。

深愛姉も落ち着いたし、ふとスマホを見るともうすぐ日が昇りそうな時間だった。

窓の方をみると空がうっすらと明るくなっていた。

明日が休みだからよかった。平日だったら確実に休む。


 「そろそろ寝ないとな……」


 そう思い、立ちあがろうとした瞬間、自分の唇に柔らかいものが触れる感触があった。


 「ん……!?」


 俺の目の前には目を瞑った深愛姉の顔が……

 つまり俺の唇には深愛姉の——


 俺は驚きのあまり体が後ろに倒れてしまう。


 「ふふっ、驚いた?」


 ベッドで大の字になって倒れている俺を見下ろすように見る深愛姉


 「驚くもなにも……!」 


 何をするんだ! 

 と、言いたかったが驚きのあまり何を言っていいのか脳がうまく働かず、その結果俺は口をパクパクと金魚のように動かしていた。


 「おまじないのお礼だよ」


 深愛姉は動じることなくいつも通りに振る舞っていたが、よく見ると深愛姉の頬や耳が真っ赤になっていた。

 つまり、やった本人も相当照れているようだ。


 「……照れるならやらなきゃいいだろ」

 「もう! 悠弥はデリカシーがなさすぎだよ!」


 小動物の様に頬を膨らませた深愛姉はじっと俺の顔を睨んでいた。

 ……顔が赤いのはそのままで。


 「……ねえ悠弥」

 「なに? もう変なサプライズはいらないからな」

 「茶化さないの!」


 俺の返答に深愛姉はムッとするが、すぐに真剣な表情で俺の顔を見る。


 「明日、病院に行こうと思うの……」 

 「そっか……」

 「だから、病院まで送ってくれないかな?」

 

 俺は体を起こして、深愛姉の顔を見ながらこう答えた


 「わかったよ」


 俺は返事と同時に親指をサムズアップさせていた。


==================================


【あとがき】


お読みいただき誠にありがとうございます。


次回は7/20(水)に投稿予定です


お楽しみに!


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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